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第十三章
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「なんだかアポロが居なくなると広く感じるッスね」
「そうね……」
近々、このアンダーハイトの国でライブがある。
なので、それまでここで泊まり込む事に決めていた。
昨日までは三人で泊まっていた部屋、二人になると急に広く感じる。
「ティニーはその、生まれたときからずっとアポロと一緒だったんだよね?」
「といっても、うちは下働きだったから、あんな事でもなければ遠くから見てるだけだったと思うッス」
「領主様もアポロの事を猫可愛がりしてたからね。まあ、その所為で、ちょっと人見知りになってたようだけど」
最初の頃、アポロはまったく喋らなかった。
今でこそ、多少はマシになったものの、ピクサスレーンに逃げてきた当時はほんとに苦労した。
愛想も無いし、無口だし、何考えてるかまったく分からない。
当時は二人とも困惑して、アポロを置いて逃げようかととも思っていたぐらいだ。
「ほんとにね、嫌われているのかとさえ思ってた。無茶ばっかりするし」
「でも、アポロはアポロでうちらを守ろうと必死だった訳ッスね」
ダンジョンで絶体絶命の危機に陥ったとき、魔法が使えるアポロだけなら逃げ出す事が出来た。
しかし、それをアポロは選択する事は無かった。
始めて聞いたアポロの叫び声……
「二人は私の部下だ! いや友達だ!! 決して見捨てはしない!」
必死になって迫り来るモンスター達に魔法を放つアポロ。
私達二人は、その背中を見ている事しか出来なかった。
サヤラの魔法銃は弾がつき、ティニーは剣が折れてまともに動けないほどの重傷を負っていた。
そして遂にアポロの魔力も尽きる。
最後にアポロは私達に覆い被さってくる。
その時思った。
ああ、この子は本物の貴族なんだな。
私達を守ろうとする、ノブレス・オブリージュはここにあるんだなと。
「良く頑張りました、あとは私に任せてください」
リーダーと知り合ったのはその時だった。
狼型のモンスターが、アポロの背中に圧し掛かって首に向かって噛み付こうとしたとき、その狼の体が吹き飛ばされる。
目の前には奇妙な耳を頭に生やした、一人の女性が立っていた。
「そういえばなぜ、アポロだけカードに入れたんスかね?」
「ん~、ヒットポイント? とか言うのが原因じゃないとすれば……好感度? クイーズさんに対する好感度が高かったから?」
「あっ、それなら納得ッス。うちもまあ、リーダーに対する好感度は高いと思うッスけど、アポロのクイーズさんに対するものに比べたら、月とスッポンッスしね」
じゃあ私ももしかしたら……と呟くサヤラ。
そしてティニーの方へ目を向ける。
「ねえティニー、あなたはクイーズさんの事をどう思っている? クイーズさんって、とってもかっこ良いと思わない。ティニーもほら、ちょっとは良いと思っているんでしょ」
「急にどうしたんスか? なんで謎のクイーズさん推し?」
「そりゃねえ、ティニーだけ仲間はずれはね……」
サヤラにそう言われてティニーの頭に?が浮かんでいる時だった。
コンコンと扉を叩く音がする。
ティニーが扉を開けると――――そこには、悲壮感漂うアポロが一人で佇んでいた。
「えっ、どうしたんスかアポロ?」
「………………私は要らないって」
「ええっ、クイーズさんに追い出されたの!?」
サヤラが急いで駆けて来る。
「…………24時間はついてなくていいって」
「「………………」」
まあ、そりゃそうッスよね。と呟くティニー。
良く考えればあたりまえの事。
カシュアだって、ずっとべったりという訳でもない。
冒険に出かけるときか、戦闘がありそうなときか。
日常的にずっとくっついている必要はどこにもありはしない。
「え、えと……ま、まあ、ほら、ずっとついてると見たくないものまで見なくちゃならないしね!」
「そ、そうッスよ! トイレとか風呂とか、さすがに無理ッショ!」
「……こうして実体化すれば背中だって流せるし、トイレだって魔法で水をかけて乾燥まで出来る!」
「いや、それはどうッスかね……」
決意を込めて握り拳をしているアポロに、ちょっとだけ引く二人。
(これぐらい愛情が濃くないと無理なんスかね?)
(さすがにこれは私でも無理かも……?)
などと内緒話をしている二人。
と、何やらアポロがキョロキョロと辺りを見渡している。
「どうかしたんスか?」
「……ん、どこからかリーダーの声が聞こえて来たような」
「あっ、それはアレじゃないですか。カード化された人達は念話みたいな事が出来るとか」
そうかも知れない。と言ったアポロは目を瞑って何かに集中している。
しばらくそうした後、アポロが目を開く。
そしてこう告げる。
「……エルメラダス姫様のグリフォンが20レベルに到達した」
「へえ、じゃあカードがもう一枚増えたってことですね」
「確か姫様は、自分でカード化したいモンスターを持ってくるって事だったスよね」
アポロは神妙な顔つきで頷く。
「……どうやら私達と同じ事を考えているらしい」
「「………………」」
もう一波乱起きそうッスね。と呟くティニーであった。
「そうね……」
近々、このアンダーハイトの国でライブがある。
なので、それまでここで泊まり込む事に決めていた。
昨日までは三人で泊まっていた部屋、二人になると急に広く感じる。
「ティニーはその、生まれたときからずっとアポロと一緒だったんだよね?」
「といっても、うちは下働きだったから、あんな事でもなければ遠くから見てるだけだったと思うッス」
「領主様もアポロの事を猫可愛がりしてたからね。まあ、その所為で、ちょっと人見知りになってたようだけど」
最初の頃、アポロはまったく喋らなかった。
今でこそ、多少はマシになったものの、ピクサスレーンに逃げてきた当時はほんとに苦労した。
愛想も無いし、無口だし、何考えてるかまったく分からない。
当時は二人とも困惑して、アポロを置いて逃げようかととも思っていたぐらいだ。
「ほんとにね、嫌われているのかとさえ思ってた。無茶ばっかりするし」
「でも、アポロはアポロでうちらを守ろうと必死だった訳ッスね」
ダンジョンで絶体絶命の危機に陥ったとき、魔法が使えるアポロだけなら逃げ出す事が出来た。
しかし、それをアポロは選択する事は無かった。
始めて聞いたアポロの叫び声……
「二人は私の部下だ! いや友達だ!! 決して見捨てはしない!」
必死になって迫り来るモンスター達に魔法を放つアポロ。
私達二人は、その背中を見ている事しか出来なかった。
サヤラの魔法銃は弾がつき、ティニーは剣が折れてまともに動けないほどの重傷を負っていた。
そして遂にアポロの魔力も尽きる。
最後にアポロは私達に覆い被さってくる。
その時思った。
ああ、この子は本物の貴族なんだな。
私達を守ろうとする、ノブレス・オブリージュはここにあるんだなと。
「良く頑張りました、あとは私に任せてください」
リーダーと知り合ったのはその時だった。
狼型のモンスターが、アポロの背中に圧し掛かって首に向かって噛み付こうとしたとき、その狼の体が吹き飛ばされる。
目の前には奇妙な耳を頭に生やした、一人の女性が立っていた。
「そういえばなぜ、アポロだけカードに入れたんスかね?」
「ん~、ヒットポイント? とか言うのが原因じゃないとすれば……好感度? クイーズさんに対する好感度が高かったから?」
「あっ、それなら納得ッス。うちもまあ、リーダーに対する好感度は高いと思うッスけど、アポロのクイーズさんに対するものに比べたら、月とスッポンッスしね」
じゃあ私ももしかしたら……と呟くサヤラ。
そしてティニーの方へ目を向ける。
「ねえティニー、あなたはクイーズさんの事をどう思っている? クイーズさんって、とってもかっこ良いと思わない。ティニーもほら、ちょっとは良いと思っているんでしょ」
「急にどうしたんスか? なんで謎のクイーズさん推し?」
「そりゃねえ、ティニーだけ仲間はずれはね……」
サヤラにそう言われてティニーの頭に?が浮かんでいる時だった。
コンコンと扉を叩く音がする。
ティニーが扉を開けると――――そこには、悲壮感漂うアポロが一人で佇んでいた。
「えっ、どうしたんスかアポロ?」
「………………私は要らないって」
「ええっ、クイーズさんに追い出されたの!?」
サヤラが急いで駆けて来る。
「…………24時間はついてなくていいって」
「「………………」」
まあ、そりゃそうッスよね。と呟くティニー。
良く考えればあたりまえの事。
カシュアだって、ずっとべったりという訳でもない。
冒険に出かけるときか、戦闘がありそうなときか。
日常的にずっとくっついている必要はどこにもありはしない。
「え、えと……ま、まあ、ほら、ずっとついてると見たくないものまで見なくちゃならないしね!」
「そ、そうッスよ! トイレとか風呂とか、さすがに無理ッショ!」
「……こうして実体化すれば背中だって流せるし、トイレだって魔法で水をかけて乾燥まで出来る!」
「いや、それはどうッスかね……」
決意を込めて握り拳をしているアポロに、ちょっとだけ引く二人。
(これぐらい愛情が濃くないと無理なんスかね?)
(さすがにこれは私でも無理かも……?)
などと内緒話をしている二人。
と、何やらアポロがキョロキョロと辺りを見渡している。
「どうかしたんスか?」
「……ん、どこからかリーダーの声が聞こえて来たような」
「あっ、それはアレじゃないですか。カード化された人達は念話みたいな事が出来るとか」
そうかも知れない。と言ったアポロは目を瞑って何かに集中している。
しばらくそうした後、アポロが目を開く。
そしてこう告げる。
「……エルメラダス姫様のグリフォンが20レベルに到達した」
「へえ、じゃあカードがもう一枚増えたってことですね」
「確か姫様は、自分でカード化したいモンスターを持ってくるって事だったスよね」
アポロは神妙な顔つきで頷く。
「……どうやら私達と同じ事を考えているらしい」
「「………………」」
もう一波乱起きそうッスね。と呟くティニーであった。
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