269 / 279
第十七章
レベル269 第十七章完結
しおりを挟む
それから紆余曲折はあったが、暴れようとするカーティズをローゼマリアが押さえ付けて、聖皇国と新生ファンハート公国の同盟は成立した。
また、同時にファンハート帝国と新生ファンハート公国の不可侵条約も結ばれた。
どういう経緯かはともかく、カーティズはローゼマリアの言う事なら何でも聞く。
「大丈夫なのでしょうか? お兄様とローゼマリアが手を組んで、碌なことにならない気がするのですが……」
『いっそのこと、本当に死者の王国を作ってもらったらどうだぃ? あの御仁だけ抑えても、他にもいっぱい、どうしようもない奴はいるだろぉ』
「そんな事、認められる訳がないでしょう」
『どうしてだぁ? 全てが死者になった国。それは本当に不幸な事なのか良く想像してみろよぉ』
全てが死者しか居ない世界。
そこでは当然争いも起こらない。
誰もが不老不死を手に入れた世界。
『衣食足りて礼節を知る。人は色々足りてねぇから争いを起こす。だが、死者ならどうだぃ』
望むものは時間が解決してくれる。
寿命がないのだ、いくらでも待つことができる。
苦しみも、悲しみも、憎しみさえも、時が経てば薄れていく。
『ありえない世界じゃねぇ。モラルも、常識も、そうなってしまえば、当たり前になる』
「まるでその世界を知っているかのような口ぶりですね」
『さぁてな』
「しかしあなたは、随分と変わった価値観をお持ちですね」
『おめえさんのご主人様も似たようなもんだろぉ』
そう言ったネクロマンサーに探るような視線を向けるラピス。
このネクロマンサーの知識はどこからきているのか。
この人格は、どうやって作られたのか。
邪王剣ネクロマンサーは千年前、バルデスがエフィールを救うため、世界中から取り寄せた魔道具に紛れていたという。
「…………今更、あなたの素性を探っても仕方ありませんか。私の敵にさえならなければどうでもいい事です」
『あのお坊ちゃまの敵に回る気はねぇぜぇ。ローゼマリア並みにやっかいそうだからなぁ』
それを聞いてラピスが目を細める。
「まあいいでしょ、今は、ね」
『今は、ねぇ……』
◇◆◇◆◇◆◇◆
会議が終わり、帰路につくベルスティア。
『どうする気だぃ、今ならローゼマリアを筆頭として死者の王国を作れる。手さえ出さなきゃ、今まで通り墓場で運動会してるだけだぜぇ』
そのベルスティアに邪王剣ネクロマンサーが問いかける。
「あなたの言った、全ては時が経てば薄れていく。それは負の感情だけはないのでしょう」
時と共に薄れていくのは、喜びや愛しさも同じこと。
最後には何の感情も持たない化け物だけが残っていく。
「そして死者の世界には生まれてくるものもありません」
『減る事が無ぇんだ、増やす必要もあるまい』
「私は、そんな世界で生きていたくはありません。たとえそれが、常識となっても。ね」
『言うようになったねぇ……』
なにやら少し嬉しそうな雰囲気で答えるネクロマンサー。
『もう俺様の出番は、ここにはねぇのかもなぁ』
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、困りましたね。聖皇国と新生ファンハート公国の同盟、さらにファンハート帝国との不可侵条約。争いの種が、ことごとく消えてしまいました」
去っていくベルスティアを、大聖堂の屋上から見下ろしながら呟くラピス。
「いい事じゃねえか。世界が平和になって何が困るんだ?」
その隣にクイーズが立つ。
さすがに各国の重鎮が集まる場所。
特殊なスキル持ちも護衛としているだろう。
そう思い、今までコッソリと身を隠していたのだった。
「お坊ちゃまはこの世界を手にしたいと、本当に思わないのですか?」
隣に立つクイーズに流し目を向けながらラピスが問いかけてくる。
ピクサスレーンはエルメラダスとの婚姻を結べば、手にすることは容易いだろう。
ヘルクヘンセンはいつでもダンディが抑える事が可能だ。
聖皇国ですら、竜王ニースを従えたクイーズの意向には反対できまい。
その他の国、エンテッカルではフロワースが実権を握るのもそう遠くなく、海洋諸国はウィルマの造船がなければ今や成り立たない、アンダーハイトは忠誠すら誓っている。
そして今回、ファンハート帝国もローゼマリアの手に落ちた。
なんだったらカシュアを聖女に祭り上げて、新興宗教でも作ってもいい。
「止めろって。オレにとってそれは、エクサリーの小指の先ほどの価値もない。なんでそんなガラクタを抱え込まなきゃならないんだ?」
「私はお坊ちゃまの価値が、正当に評価されていないのが我慢ならないのですよ」
お坊ちゃまだって、エクサリーの歌が下手だと言われれば許せないでしょ。とラピスは言う。
クイーズは、うむう、と唸って考え込むそぶりを見せる。
「世界の支配者、なんていうアクセサリを身に纏えば、ちょっとは周りの見る目も変わると思うのですよ」
「そんな重たそうなアクセサリはいらねえ。せめてもっと軽いのにしてくれ」
苦笑してそう返すクイーズ。
軽いのならいいのですね。と言って微笑むラピス。
自分の失言に気づいて慌てて取り繕う。
「いや、重いか軽いかじゃなくて、変なものは寄越すなよ?」
「変じゃなければいいんですよね」
「くっ、まずい。何を言っても言質をとられそうだ」
またぞろ、嫌な予感に身を震わすクイーズであった。
また、同時にファンハート帝国と新生ファンハート公国の不可侵条約も結ばれた。
どういう経緯かはともかく、カーティズはローゼマリアの言う事なら何でも聞く。
「大丈夫なのでしょうか? お兄様とローゼマリアが手を組んで、碌なことにならない気がするのですが……」
『いっそのこと、本当に死者の王国を作ってもらったらどうだぃ? あの御仁だけ抑えても、他にもいっぱい、どうしようもない奴はいるだろぉ』
「そんな事、認められる訳がないでしょう」
『どうしてだぁ? 全てが死者になった国。それは本当に不幸な事なのか良く想像してみろよぉ』
全てが死者しか居ない世界。
そこでは当然争いも起こらない。
誰もが不老不死を手に入れた世界。
『衣食足りて礼節を知る。人は色々足りてねぇから争いを起こす。だが、死者ならどうだぃ』
望むものは時間が解決してくれる。
寿命がないのだ、いくらでも待つことができる。
苦しみも、悲しみも、憎しみさえも、時が経てば薄れていく。
『ありえない世界じゃねぇ。モラルも、常識も、そうなってしまえば、当たり前になる』
「まるでその世界を知っているかのような口ぶりですね」
『さぁてな』
「しかしあなたは、随分と変わった価値観をお持ちですね」
『おめえさんのご主人様も似たようなもんだろぉ』
そう言ったネクロマンサーに探るような視線を向けるラピス。
このネクロマンサーの知識はどこからきているのか。
この人格は、どうやって作られたのか。
邪王剣ネクロマンサーは千年前、バルデスがエフィールを救うため、世界中から取り寄せた魔道具に紛れていたという。
「…………今更、あなたの素性を探っても仕方ありませんか。私の敵にさえならなければどうでもいい事です」
『あのお坊ちゃまの敵に回る気はねぇぜぇ。ローゼマリア並みにやっかいそうだからなぁ』
それを聞いてラピスが目を細める。
「まあいいでしょ、今は、ね」
『今は、ねぇ……』
◇◆◇◆◇◆◇◆
会議が終わり、帰路につくベルスティア。
『どうする気だぃ、今ならローゼマリアを筆頭として死者の王国を作れる。手さえ出さなきゃ、今まで通り墓場で運動会してるだけだぜぇ』
そのベルスティアに邪王剣ネクロマンサーが問いかける。
「あなたの言った、全ては時が経てば薄れていく。それは負の感情だけはないのでしょう」
時と共に薄れていくのは、喜びや愛しさも同じこと。
最後には何の感情も持たない化け物だけが残っていく。
「そして死者の世界には生まれてくるものもありません」
『減る事が無ぇんだ、増やす必要もあるまい』
「私は、そんな世界で生きていたくはありません。たとえそれが、常識となっても。ね」
『言うようになったねぇ……』
なにやら少し嬉しそうな雰囲気で答えるネクロマンサー。
『もう俺様の出番は、ここにはねぇのかもなぁ』
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、困りましたね。聖皇国と新生ファンハート公国の同盟、さらにファンハート帝国との不可侵条約。争いの種が、ことごとく消えてしまいました」
去っていくベルスティアを、大聖堂の屋上から見下ろしながら呟くラピス。
「いい事じゃねえか。世界が平和になって何が困るんだ?」
その隣にクイーズが立つ。
さすがに各国の重鎮が集まる場所。
特殊なスキル持ちも護衛としているだろう。
そう思い、今までコッソリと身を隠していたのだった。
「お坊ちゃまはこの世界を手にしたいと、本当に思わないのですか?」
隣に立つクイーズに流し目を向けながらラピスが問いかけてくる。
ピクサスレーンはエルメラダスとの婚姻を結べば、手にすることは容易いだろう。
ヘルクヘンセンはいつでもダンディが抑える事が可能だ。
聖皇国ですら、竜王ニースを従えたクイーズの意向には反対できまい。
その他の国、エンテッカルではフロワースが実権を握るのもそう遠くなく、海洋諸国はウィルマの造船がなければ今や成り立たない、アンダーハイトは忠誠すら誓っている。
そして今回、ファンハート帝国もローゼマリアの手に落ちた。
なんだったらカシュアを聖女に祭り上げて、新興宗教でも作ってもいい。
「止めろって。オレにとってそれは、エクサリーの小指の先ほどの価値もない。なんでそんなガラクタを抱え込まなきゃならないんだ?」
「私はお坊ちゃまの価値が、正当に評価されていないのが我慢ならないのですよ」
お坊ちゃまだって、エクサリーの歌が下手だと言われれば許せないでしょ。とラピスは言う。
クイーズは、うむう、と唸って考え込むそぶりを見せる。
「世界の支配者、なんていうアクセサリを身に纏えば、ちょっとは周りの見る目も変わると思うのですよ」
「そんな重たそうなアクセサリはいらねえ。せめてもっと軽いのにしてくれ」
苦笑してそう返すクイーズ。
軽いのならいいのですね。と言って微笑むラピス。
自分の失言に気づいて慌てて取り繕う。
「いや、重いか軽いかじゃなくて、変なものは寄越すなよ?」
「変じゃなければいいんですよね」
「くっ、まずい。何を言っても言質をとられそうだ」
またぞろ、嫌な予感に身を震わすクイーズであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる