残365日のこおり。

tonari0407

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第2章

人に良い事 5月17日②

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スマホをみて、わたわたするあいりの手から、水川はスマホを取って、あいりの鞄の中に入れた。

「あっ…」
じっと鞄をみつめるあいりに水川は言う。

「送ったものは戻らない。ミジンコくんがしたこともなくならない。
バイト三昧で潰れた俺のゲーム時間も戻らない。
たちばなさんの時間も戻らないんだから、その分ちゃんとお金は使いなよ?楽しく使っちゃえ!」

水川はお腹をぽんっと叩いていった。

「そして、腹へった。仕事終わりに美味しいもの食べよう!」

家に帰る道を少し逸れて、ファミレスへ方向転換した。



店内の隅の方の席を選び、2人は座った。
水川があいりの方をみると、困った顔でメニューとにらめっこしていた。

「食べたいの、ない?」

ファミレスだと大体のものはそろっているので、大丈夫かと思ったがそうでもないらしい。

「えっと、最近、固形物が喉通らなくて…」
たちばなさんはすまなそうにうつむいた。

「そっかー普段はなに食べてるの?」
水川は違う視点でメニューをペラペラめくった。

「最近は、ゼリー飲料とか…です。」

まだ10時手前なのでグランドメニューはやっていない。

「食べられないなら、無理に食べなくていいよ。
俺はごめんけど食べるから、お腹空いて食べたくなったら恵んであげる。
食べられそうなのは~今の時間はヨーグルトかスクランブルエッグかな?
10時半過ぎて、朝メニュー以外も頼めるようになったら、プリンとかパフェ頼んだらどうだろう?
食べきれなかったら俺食べるし。」

水川の言葉にあいりはヨーグルトを頼んだ。

「ありがとうございました」
あいりはメガネを外して、水川の前に置いた。

「もう大丈夫?」
たちばなさんはじっと俺の方を見ていた。

「水川さんはこわくないです。」

マスクも外して顔を見せたたちばなさんは、捨てられた子猫のような目をしていた。

濃すぎるくまに痩せてげっそりとした頬が痛々しかった。


たちばなさんはフルーツヨーグルトをゆっくり食べた。
俺はスクランブルエッグの朝食セットを食べた。
途中で「食う?」と聞いてみたが、たちばなさんは大丈夫ですと首を振った。


食べれるようにならないと、体力もつかないし、働けない。まずは食べられるようになることが大事だ。


水川はあいりの目の前にスマホを出した。

「これ、読んでみて」

じっと、覗きこんだあいりは不思議そうにした。

「しょくじ…です」

「そう、食事。これを分解して読むと人に良い事ってなる。
つまり~食べることは良い事!
食べられないのは辛いけど、食べれるようになるといいよな~
無理に食べろなんて絶対言わないから。」

「…はい。」
たちばなさんはうつむいた。

「あと、顔にくま住んでるけど、寝れてる?」

水川は頭に丸めた左右の手を当てて、くまの真似をした。

「あんまり…」
またしてもたちばなさんはうつむいた。

「まぁ、そういうときもあるから。
そして、そんなたちばなさんにお願いがあるんだよ~」

お願いと聞いてたちばなさんが俺の顔をみる。

「ゲーム攻略手伝って!」


予想外の言葉とにこにこ笑う俺の顔を見て、たちばなさんは驚いていた。

「いや~最近バイトが忙しくて、なかなかゲームする時間なくてさ。アイテム探しが滞ってるんだよね。難しくないから、やらない?」

「えっと…私ゲームはあまりやったことなくて。私でもできますか?」

バイトが忙しいという言葉が効いたのか、たちばなさんは乗り気だった。

「できるよ~むしろ、はまるかも?」
そのまま、たちばなさんのスマホにゲームアプリをインストールし、やり方を説明した。




「なるほど、まずは私はこのまたたびを50個集めればいいんですね。」

「そうそう。お願いね。
また、進捗状況とか次して欲しいこととか連絡するから」

「わかりました。頑張ります。」
たちばなさんはゲームなのに真面目にやろうとしていた。

「んで、このゲームは夜22時から朝7時まではやっちゃっだめってことで。」

「えっなんでですか?」
夜にやる気まんまんだったのか、たちばなさんは意外そうな顔をする。

「その時間は部屋暗くして、目を閉じて、みけにゃん頭の中で数えなよ。」

みけにゃんとは2人がやるスマホゲームの「ねこねこにゃんだふる」のキャラクターだ。

水川はみけにゃんがお気に入りだった。

「みけにゃんいっぱいで、もふもふな中で目を閉じたら最高だろ?」

言っていることは訳が分からなかったが、あいりは思わず笑ってしまった。



いつの間にか時計は10時半を過ぎていた。

水川はメニューを取り出し「俺、プリン食べる。」と言い出した。

「たちばなさんは?」
水川があまりに当たり前のように聞くので、あいりは「私も食べます」と答えた。


甘いプリンはあいりの喉をつるん、つるんとあっという間に落ちていった。

「美味しいです。」
とあいりが言うと、

「だろ?良い事だから」と水川は自分のプリンを食べながら言った。



食事の後、水川はあいりを家まで送った。


さて、これで、バイトもゲームも少しは俺にとって良い方向へ行く。寝られるっ!

自転車を漕ぐ水川の足は朝より軽かった。
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