残365日のこおり。

tonari0407

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第4章

ねこねこにゃんだふるというゲーム 7月15日

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 みゃー

 テレビの画面に小さな三毛猫が映っている。猫じゃらしのおもちゃを追っていくその姿は生命力に満ちていた。

「かわいーみけにゃん」

 水川はあいりと共にみけにゃんのムービーを見ていた。

 あいりの早朝バイトが終わる時間に合わせて、水川は彼女をコンビニまで迎えに行った。朝御飯を食べて、今は水川の家で2人でまったりしている。

 スマホからテレビにスクリーンミラーリングされて、みけにゃんはテレビから出てきそうだった。

 でももう水川の愛したみけにゃんはいない。

 水川は物寂しげに元気な姿の子猫のみけにゃんを眺めた。その横顔を見て、あいりは申し訳なさそうに声をかけた。

「ごめんなさい、かえって辛くなっちゃいますよね」

 みけにゃんの世界に入っていた水川は
「いや、大丈夫。向き合わないといけないから」
 と笑顔を見せた。

 水川が集めたみけにゃんのスペシャルムービーは恐らく運営側が用意したものの全てだった。彼はみけにゃんをコンプリートしていたし、寿命も長く生きた方がではなかろうか。

「みけにゃんの元のキャラ猫ちゃん、探しましょうか?」
 あいりが水川に声をかけた。

「いや、基本、元のねこちゃんは教えてもらえないし、その子は俺が世話してたみけにゃんじゃないから大丈夫だよ」

「そうですか」
 何か励ませることはないかと思い、提案したであろうあいりは考え込んでいた。

「ごめんな、折角言ってくれたのに。このゲームはこういうゲームだし、ちゃんとそのためにペットロスのアフターケアのサービスもあるからいいんだよ。そういう主旨のゲームなのわかってやってたし」

「そうなんですか?」
「誘ったのに、そういえば教えてなかったっけ?ねこねこにゃんだふるが作られた理由。このゲームは……」

 水川は自身がねこにゃんを始める前に調べたゲームの主旨をあいりに話し始めた。

 ◆

 ねこねこにゃんだふる

 制作会社は『わっふる・にゃっふる』
 この会社は動物愛護精神を持つ若いスタッフによって作られた。

 ゲームの製作目的は、『動物を責任を持って飼ってくれる人や世話をしてくれる人を増やすこと』

 ゲーム内には、予防接種や去勢手術、餌のこと等、猫に関する適切な情報が子どもにも分かりやすく理解できるように、ちりばめられている。

 適切に飼育しないと、もちろん死んでしまう。でも手間をかけたからといって、それが猫にとって良い訳ではなく、その猫の適正を見極めてほどよく関わることが、猫との新密度を上げるコツとなっている。

 また、猫だけを見ていれば良いわけでもなく、ちゃんと仕事をしないと、猫の餌は買えないし、自分のケアもしないと自分も死んでしまう。そうすると猫の世話をする人がいなくなる。

 自分で飼うのが難しいと感じるユーザーには、野良猫や保護猫カフェで好きな子を見つけるという楽しみ方もある。

 保護猫や、譲渡会の情報収集、飼い主同士の情報交換等もゲーム内で行える。

 子どもにこのゲームで飼育方法などを勉強させてから、ペットを迎えるかどうか聞くようにしている親もいるようだ。

 水川は最初にゲームを見つけたとき、会社のホームページを確認してこのことを知った。

 ◆

「そうなんですね。何かやたらリアルにシビアだったり、勉強になることちょいちょい書いてあるなと思ってました」

「言ってなくてごめんなー。忘れてた。こおりさんにも言っておいて。もしゲーム止めたくなっても俺は止めないから。お礼言っといてくれたら助かる」
 みけにゃんのために集めた人員だったので、伝えるのを忘れていた。知らなくても別に出来るし、楽しめるゲームではあるが。

「はい、伝えておきますね」
 あいりはにこっと笑った。もう、会ってないとは言わないんだなと水川は思った。

 一昨日、弱音を吐いてしまったこの子には言ってもいいかもしれない。ゲームの事を話していたら、そんな気になってきた。

「たちばなさん、俺、野良猫見つけたの、実はみけにゃんが最初じゃないんだ」

「そうなんですか?前に飼ってたんですか?」
 彼女は本当の俺を知らないから無邪気に聞いてきた。

「いや、飼ってはない」

 母親以外知らない。
 他には誰にも言っていないあの日の事を、水川はあいりに話し始めた。
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