残365日のこおり。

tonari0407

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第6章

予想を超える 7月30日

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 何度名前を呼んでも彼女は止まらなかった。
 何でこうなった?

 こおりはここ2週間あまりのことを思い返していた。


 あいりが水川さんの家に行った後、こおりがまず調べたのは彼の家の情報だった。
 住所で調べると運良く空き部屋があったので、賃貸情報がネットにのっていた。駅から徒歩20分、1Kのそのアパートの家賃はとても安かった。彼が時折シフトを減らしたりしても問題のない固定支出金額なのだろう。しかし、この部屋は2人で暮らすには狭すぎる。シャワーしかついていないし、キッチンは一口のIHコンロ、部屋は布団かベットを置いたらほぼそれで埋まってしまうだろう。
 水川さんは自由な時間が好きと聞いている。あいりが彼の邪魔をすることは考えにくいが、この部屋で2人で暮らしたら意図せずともストレスは溜まるだろう。

 こおりは辛くなったときは自分の家に来たり、2人で転居を検討できるように徐々に種を撒いた。
 水川さんの家よりも広い自分の家に2人を招いたのも、自分の家のキッチンであいりに色々やらせたのもその一貫だ。
 彼らが交際宣言をしたときに渡した荷物には、自宅では使えないであろう入浴剤をわざと入れた。それは、あいりがお風呂が好きということを水川さんに伝えるためだ。また、あいりには家にお風呂に入りに来てもいいよというメッセージでもある。伝わるかはわからないが。
 水川さん宛の封筒には保証人の欄に記入済みの婚姻届と多すぎる結婚祝いを入れた。【使わないなら俺がもらう】と付箋を貼っておいた。お金は転居には十分な額だ。流石に文句を言われるかと思ったが、その後水川さんから連絡はない。

 今日、あいりに【水川さん自由にできなくてストレス溜めてないか?】といったメッセージを送った。自分の家に誘うのは、怪しまれるので、【夏場だから、家の水回りとかゴミとか一回ちゃんと確認しないと、虫がでてるかも】と言ったら、家に帰ると言い始めた。

 彼女が家にいるタイミングで訪問したら、チャイムを押しても出なくて、合鍵で入った。すると、窓は開いているものの物凄く暑い部屋であいりがぐったりしていた。これには介抱した後、思わず叱ってしまった。電気代が勿体ないと思ってエアコンをつけなかったらしい。しばらく住んでいなかったその家の冷蔵庫には、飲み物はなかった。自販機で飲み物を買ってきて飲ませて、「久々に話したいから、俺ん家行こう」と言ったらあいりは自身の暑い部屋が申し訳なかったのかついてきた。
 自分の家に着いて、エアコンの効いた快適空間で飲み物とご飯を与えて食べさせた。
「食べられる分だけでいいよ」と言ったら食事はほぼ残した。あいりは疲れている様子だった。

「急な仕事入っちゃったから少し仕事させて」と嘘を言いつつ、入浴剤にはまってて沢山あるからよかったら使ってほしいと見せた。「お仕事なら帰ろうかな」と言われたけど、「すぐ終わるし、いてくれるだけで嬉しいからゆっくりしてて」と、声をかけて入浴を促した。水分補給用の水もちゃんと渡した。

 お風呂に入った彼女の鼻唄が聞こえなくなって、浴室でぐったりしている彼女を見つけたときは血の気が引いた。
 長湯しないようにもっと声をかけておくべきだった。

 事前にあいりから水川さんのバイトがいつ終わるかは聞き出していた。バイトが終わって、家に帰った位のタイミングで水川さんに電話を掛けた。

『あいりは水川さんが好きすぎて緊張して疲れてダウンしたので、しばらく預かります。彼女の分のシフトお願いします。監禁してる訳じゃないし、好きに彼女に連絡してください。ただし、絶対に彼女を責めないこと、迎えにこないこと。あいりは水川さんが好きすぎてどきどきしちゃうんです。俺にはどきどきしないし、俺も絶対に手は出さないのでご安心を』

 水川さんは多少思い当たる節があったのか、了承した。

 これが第2計画。第1はたこパで交際開始させる。第2は2人に適度な距離で継続して交際していけるような息抜きを作ることと、水川さんの独占欲を煽って彼女により執着するように仕向けることが目的だ。

 そういう目的だった。多少予定外のことはあったがほぼ計画通りだった。ただ、今のこの状況はこおりの予想を超えた。

 あいりの唇は首から移動し今はこおりの胸元に吸い付いてた。そして、彼女の手がこおりの下半身にのびる。

このまま身を任せたらどうなるのだろうか。このまま、彼女と2人でこの家で暮らせたら。

「あいり、もう止めて」
 こおりは声色を変えて彼女に制止を促した。

「こおりくん」
 こおりを見上げたあいりの目は潤んでいた。
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