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第4話後半 もふもふセラピー ~実践編~
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ほふっ、はふっ、ぱくっぱくっ
目の前のケモノがお粥をふぅふぅしながら食べるのを朔也は見ていた。くまの出来た青白い顔、緩くパーマのかかった柔らかいくるくるの髪の毛は絡まっている。ただえさえ元々存在感の薄い胸元は更にどこかへ行ってしまった。すとーん、断崖絶壁。
はぁ……この後なにしろってんだ?『もふもふセラピー』って何だ? 俺は犬でも猫でもないし、獣人でもないけれど。
「さっくん、ご馳走さまでした。美味しかった。ありがとう」
目を見て笑顔で礼を言われるのは久しぶりだ。市販薬だが風邪薬を飲ませる。
「んで、本当はどこが痛いの? だるい? 頭痛? 吐き気? 喉は?」
全般的な症状に効く薬を飲ませたので、もし何かしら特化した症状があれば、病院受診も検討しなくてはいけない。
「んーっと、頭痛いのとだるいのとー、あとさっきも言ったけど心が痛いなぁ。ねぇ、さっくん」
ふざける元気はありそうだから、寝かせとけばいいか。
「んー、ああ、そう。じゃっ大人しく寝てな」
食べ終わった食器を流しに持って行き、洗い始める。ひまりは……じとーっとした目でこちらを見つめている。
「さっくぅーん。さっき『ご飯の後でな』って言ってたよね。『もふもふセラピー』は? さっくーん」
無視していても俺を呼ぶ声は止まらない。
物凄く元気そうだ。しつこく俺を求める甘ーい声。
「ひまり、うるさい。早く寝ろ。
やること終わったらそっち行ってやるから」
「えへへ、さっくん。好き~」
こういう時だけ『好き』の有効活用しないで欲しい。
ああ……でも、俺も好き。はぁ……。
○◎○◎○
「さっくん~用意しといたよ~」
はい、何の用意でしょうか?もう熱下がってない?君。
ベットの横に置いてあるのは、ひまりが俺にくれたもふもふの部屋着と、前にも使ったほこり掃除用のモップの先端。
これ?これなら前もやってただろ?嫌な予感は杞憂だったようだ。
着替えてひまりの方を向き直った俺は後悔した。やばい、逃げたい、これはやばい。
「さっくん、『けもプリ』のアラン王子して~」
ひまりが見せてきたのは、キッラキラの目でヒロインを見つめて、血反吐が出そうな程に甘い言葉を吐くけもの王子の漫画だった。
『けものプリンス★』
それは糖分マシマシの少女漫画。四つ足のもふもふけものになれるイケメン王子が、ヒロインを格好良く助けたり、もふられたり、激甘な言葉で口説いたりする、正にひまりの為の漫画。1度読むように言われたが、俺は5ページでギブアップした。
しかも、王子がけものから人間に替わるスイッチは『キス』だ。演技でキスしろって?あーいうのはしたいときにするもんだ。無理無理。
「ええっ……ちょっと……」
無理と言い掛けた、が――
「心からお慕いしています。サクヤ王子」
ヒロインのマロン役になりきったひまりがこちらに手を伸ばしてくる。俺を見つめるとろんとした瞳、ピンクの可愛い唇。
ちゅっ
ひまりからキスしてくれたの何ていつぶりだろう? 幸せに浸っていると、手に『もふもふ』したものを握らされ、スマホの画面を指差される。
ひまりは漫画を全巻持っているが、お気に入りのページをわざわざ写真で撮ったようだ。ひまりなだけにひま人だな。
期待してじっと見てくる瞳、俺を引き寄せてぎゅっと抱き締めてくる手、これから甘い言葉を言う予定の唇。
これは俺の黒歴史だ。誰にも知られたくない。本気で。マジで!
「……マロン姫、私も心から…あなたのことをおもっています。こ、この愛は海よりも深い。あなたは僕のて、天使だ……」
もふっ、もふ、もふ
「サクヤ王子。私の名前は『ヒマリ』ですわ。お間違えになるなんて私のこと好きではないのですね……?」
およよっと泣く真似をするヒマリ。おい、早速脱線してるが。これはちゃんと合わせないと次の演技にいけないらしい。
「ソレハモウシワケナカッタ。ヒマリヒメ。ボクハキミノコトヲアイシテイル」
さわっさわさわ、もふん、もふもふ
ロボット風に言えば何とか理性を保てた。これならいける。
「王子。そんな言葉では私の心には届きませんわ。やっぱり私の事なんて王子は好きではありませんのね……」
駄目だったらしい。少し濡れた瞳。仕方がない。これは俺じゃない俺じゃない俺じゃない。
「何を言ってるんだ、ヒマリ姫。僕の心は君の物だ。愛してる、誰よりも」
もふもふ、もふもふ
ちゅっ
どうやら合格を貰えたらしい。ヒマリが心底嬉しそうにキスしてきた。スマホの画面が次へ進む。
「ああ、ヒマリ姫。君は何て美しいんだ。君から目を離せないよ」
じぃー きらきら
もふ、もふ、もふん、もふもふ
ちゅっ
「生まれ変わってもまた君と一緒になりたい。大丈夫。僕は君のことを忘れたりしない。何処にいても見つけ出すよ」
もっふんもふもふ、さーわさわ、ぎゅっ
ちゅっ
「泣かないで僕の愛しい姫。君の涙なんて見たくない。ずっと僕の隣で笑っていて欲しい」
ぽろっ ぽろぽろ ぺろっ ぎゅっ
もふもふもふもふもふもふ……
「なーんで泣いてんだ?」
スマホを動かすひまりの手は止まっていて、彼女の目からは涙が出ていた。しょっぱいそれを舐めてみたけれど、それだけでは止まりそうにない。
「さっくん、えへへ。嬉し泣きしちゃった。『もふもふセラピー』してくれてありがと。だーいすきっ」
ちゅっ
彼女の最後のキスは少ししょっぱかったけど、一番甘かった。
どんなセリフよりも、彼女自身の言葉が一番甘くて胸焼けがする。
でも俺はこの気持ちを言葉では返さない。
もーふもふ、ちゅっ、ぎゅー
もふ・プリ★
【もふもふ判定】★5つが最大
◎もふもふ度:★★★
◎再現度:★★★★★(ひまり調べ)
※アラン王子/サクヤ
◎もふもふ欲求解消度:★★★★★
(もふもふ欲求…ていうより欲求全般かな?byひまり)
→もふもふランキング:暫定1位
●ひまりの感想
凄く嬉しかったです。さっくんがいつも言ってくれないこと言ってくれて。言葉はあれですけど、目は本気だった気がするんです!
でも、いっぱいキスしたから風邪移しちゃって申し訳ないですね。
●朔也の感想
喉痛いのは風邪じゃなくて、あんな言葉言わされたからだ。甘過ぎて喉が焼けた。
おいっ、この黒歴史は早く消せって言ってんだろ?聞いてんのか? 書き直せ!
目の前のケモノがお粥をふぅふぅしながら食べるのを朔也は見ていた。くまの出来た青白い顔、緩くパーマのかかった柔らかいくるくるの髪の毛は絡まっている。ただえさえ元々存在感の薄い胸元は更にどこかへ行ってしまった。すとーん、断崖絶壁。
はぁ……この後なにしろってんだ?『もふもふセラピー』って何だ? 俺は犬でも猫でもないし、獣人でもないけれど。
「さっくん、ご馳走さまでした。美味しかった。ありがとう」
目を見て笑顔で礼を言われるのは久しぶりだ。市販薬だが風邪薬を飲ませる。
「んで、本当はどこが痛いの? だるい? 頭痛? 吐き気? 喉は?」
全般的な症状に効く薬を飲ませたので、もし何かしら特化した症状があれば、病院受診も検討しなくてはいけない。
「んーっと、頭痛いのとだるいのとー、あとさっきも言ったけど心が痛いなぁ。ねぇ、さっくん」
ふざける元気はありそうだから、寝かせとけばいいか。
「んー、ああ、そう。じゃっ大人しく寝てな」
食べ終わった食器を流しに持って行き、洗い始める。ひまりは……じとーっとした目でこちらを見つめている。
「さっくぅーん。さっき『ご飯の後でな』って言ってたよね。『もふもふセラピー』は? さっくーん」
無視していても俺を呼ぶ声は止まらない。
物凄く元気そうだ。しつこく俺を求める甘ーい声。
「ひまり、うるさい。早く寝ろ。
やること終わったらそっち行ってやるから」
「えへへ、さっくん。好き~」
こういう時だけ『好き』の有効活用しないで欲しい。
ああ……でも、俺も好き。はぁ……。
○◎○◎○
「さっくん~用意しといたよ~」
はい、何の用意でしょうか?もう熱下がってない?君。
ベットの横に置いてあるのは、ひまりが俺にくれたもふもふの部屋着と、前にも使ったほこり掃除用のモップの先端。
これ?これなら前もやってただろ?嫌な予感は杞憂だったようだ。
着替えてひまりの方を向き直った俺は後悔した。やばい、逃げたい、これはやばい。
「さっくん、『けもプリ』のアラン王子して~」
ひまりが見せてきたのは、キッラキラの目でヒロインを見つめて、血反吐が出そうな程に甘い言葉を吐くけもの王子の漫画だった。
『けものプリンス★』
それは糖分マシマシの少女漫画。四つ足のもふもふけものになれるイケメン王子が、ヒロインを格好良く助けたり、もふられたり、激甘な言葉で口説いたりする、正にひまりの為の漫画。1度読むように言われたが、俺は5ページでギブアップした。
しかも、王子がけものから人間に替わるスイッチは『キス』だ。演技でキスしろって?あーいうのはしたいときにするもんだ。無理無理。
「ええっ……ちょっと……」
無理と言い掛けた、が――
「心からお慕いしています。サクヤ王子」
ヒロインのマロン役になりきったひまりがこちらに手を伸ばしてくる。俺を見つめるとろんとした瞳、ピンクの可愛い唇。
ちゅっ
ひまりからキスしてくれたの何ていつぶりだろう? 幸せに浸っていると、手に『もふもふ』したものを握らされ、スマホの画面を指差される。
ひまりは漫画を全巻持っているが、お気に入りのページをわざわざ写真で撮ったようだ。ひまりなだけにひま人だな。
期待してじっと見てくる瞳、俺を引き寄せてぎゅっと抱き締めてくる手、これから甘い言葉を言う予定の唇。
これは俺の黒歴史だ。誰にも知られたくない。本気で。マジで!
「……マロン姫、私も心から…あなたのことをおもっています。こ、この愛は海よりも深い。あなたは僕のて、天使だ……」
もふっ、もふ、もふ
「サクヤ王子。私の名前は『ヒマリ』ですわ。お間違えになるなんて私のこと好きではないのですね……?」
およよっと泣く真似をするヒマリ。おい、早速脱線してるが。これはちゃんと合わせないと次の演技にいけないらしい。
「ソレハモウシワケナカッタ。ヒマリヒメ。ボクハキミノコトヲアイシテイル」
さわっさわさわ、もふん、もふもふ
ロボット風に言えば何とか理性を保てた。これならいける。
「王子。そんな言葉では私の心には届きませんわ。やっぱり私の事なんて王子は好きではありませんのね……」
駄目だったらしい。少し濡れた瞳。仕方がない。これは俺じゃない俺じゃない俺じゃない。
「何を言ってるんだ、ヒマリ姫。僕の心は君の物だ。愛してる、誰よりも」
もふもふ、もふもふ
ちゅっ
どうやら合格を貰えたらしい。ヒマリが心底嬉しそうにキスしてきた。スマホの画面が次へ進む。
「ああ、ヒマリ姫。君は何て美しいんだ。君から目を離せないよ」
じぃー きらきら
もふ、もふ、もふん、もふもふ
ちゅっ
「生まれ変わってもまた君と一緒になりたい。大丈夫。僕は君のことを忘れたりしない。何処にいても見つけ出すよ」
もっふんもふもふ、さーわさわ、ぎゅっ
ちゅっ
「泣かないで僕の愛しい姫。君の涙なんて見たくない。ずっと僕の隣で笑っていて欲しい」
ぽろっ ぽろぽろ ぺろっ ぎゅっ
もふもふもふもふもふもふ……
「なーんで泣いてんだ?」
スマホを動かすひまりの手は止まっていて、彼女の目からは涙が出ていた。しょっぱいそれを舐めてみたけれど、それだけでは止まりそうにない。
「さっくん、えへへ。嬉し泣きしちゃった。『もふもふセラピー』してくれてありがと。だーいすきっ」
ちゅっ
彼女の最後のキスは少ししょっぱかったけど、一番甘かった。
どんなセリフよりも、彼女自身の言葉が一番甘くて胸焼けがする。
でも俺はこの気持ちを言葉では返さない。
もーふもふ、ちゅっ、ぎゅー
もふ・プリ★
【もふもふ判定】★5つが最大
◎もふもふ度:★★★
◎再現度:★★★★★(ひまり調べ)
※アラン王子/サクヤ
◎もふもふ欲求解消度:★★★★★
(もふもふ欲求…ていうより欲求全般かな?byひまり)
→もふもふランキング:暫定1位
●ひまりの感想
凄く嬉しかったです。さっくんがいつも言ってくれないこと言ってくれて。言葉はあれですけど、目は本気だった気がするんです!
でも、いっぱいキスしたから風邪移しちゃって申し訳ないですね。
●朔也の感想
喉痛いのは風邪じゃなくて、あんな言葉言わされたからだ。甘過ぎて喉が焼けた。
おいっ、この黒歴史は早く消せって言ってんだろ?聞いてんのか? 書き直せ!
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