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4章 神の雷光と裏切りの花

81 登場と退場

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 じりじりと数を減らしながら後退する冒険者の遊撃部隊。
 乱れる兵士達の包囲網。
 飛び交う怒号と断末魔の悲鳴。
 味方の陣は大混乱に陥っていた。

 ゾンビや骸骨剣士だけならなんとかなる。
 的確に頭部を潰していけば勝てない敵では無い。
 しかし完全武装のオークは簡単にはいかない。
 死霊系の魔物と違って知能があり、的確に弱点を突いてくる。
 そして強い。
 一対一なら冒険者達も負けてはいないが、死霊系の魔物も同時に押し寄せてくる中、圧倒的な物量で押されていく。
 さらにゴブリン達の射手の援護が効いている。

 善戦しているのはリプリアぐらいだ。
 僕は目立ちすぎたためか、ゴブリンの弓に狙い撃ちされてしまい身動きがとれない。
 さらにオークが僕に向かって追撃をかけてくる。
 魔力残量も半分を切った。
 さすがにマズい。

「オキス様、わたくしの魔力も残り少なくなってきました。
 撤退を進言します。」

 リプリアから悪い報告が入った。
 魔力消費を抑えて戦っていたリプリアだが、僕より魔力総量が劣るらしくそろそろガス欠らしい。
 僕達が抜けたら間違いなく負ける。
 いや、どちらにせよ時間の問題だろう。
 残念ながら撤退するしか無い。

 ところが、状況が一変する事態が訪れる。
 目の前に光り輝く巨大な鳥が現れたのだ。

「なんだあれは?」

 じり貧になっていた冒険者や兵士達がつぶやく。
 次の瞬間、なだれ込んできていた魔物達が風圧で吹き飛ばされていく。
 巨大な鳥が鳴く。

「ははは、どうだね神鳥フローリアの力は!」

 巨大な鳥の上に人の姿があった。
 二十代中盤の学者風の男だった。

「さあ、一気に魔物共を追い払うぞ。」

 学者風の男は杖を振るう。
 魔物達の中心で爆発が起こる。

「賢者の杖!」

 僕は叫んでいた。
 ついに賢者の杖を見つけたのだ。

 賢者の杖を持った男は、巨大な鳥を前に進める。
 鳥が大きく羽を広げると次の瞬間、再び暴風が吹き荒れる。
 乱される魔物達の隊列。
 好機とみた帝国兵は包囲陣を解いて一気に突入をかける。
 戦意を失いかけていた冒険者達も息を吹き返す。

 この状況を見て一目散に撤退を始めたのはゴブリン達だった。
 オークも攻撃を受けながら後退していく。
 ついに街の外まで押し返すことが出来た。

 学者風の男はさらに神鳥フローリアと呼んだ鳥を前に進めていく。

「造作も無い。
 私の方程式に狂いは無いのだよ。
 はははは、がっぁぁ。」

 神鳥フローリアが魔物達を追撃するため街の外に出た時それは起こった。
 学者風の男の頭に矢が刺さったのだ。

「え?」

 敵味方問わず、そこにいた者が同時にそう呟いた。
 ゴブリンの放った矢があっさりと命中したのだ。
 神鳥から転げ落ちる学者風の男。
 僕もあまりの出来事に言葉を失った。

 あの人、馬鹿ですか?
 無防備に矢面に立てば、そりゃ当たるよ。

 そして神鳥フローリアの暴走が始まった。






 神鳥無双に失敗したらしい。
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