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6章 魔王の息子と最後の無双

150 証人のいない悪徳商人

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「オイラの大切な薬を奪おうと狙ってきたんだ。」

 僕に瓶を見せる。
 それには見覚えがあった。

「ペニシリンだね。
 そんな物をどこで手に入れたの?」

「えっ、知ってるの?
 これは・・・あるところで・・・分けてもらったんだ。」

 男の子がしどろもどろになりながら答える。

「という話なんだけど、そちらの見解は?」

 僕は電撃でしびれている四人組に尋ねる。
 麻痺で動けないだけで、気絶しているわけでは無い。

「そふぉがきぎゃぬふんだんだ。」

 男の一人が答える。

「盗んだのかい?」

 僕は聞いた。

「だっていっぱいあったから。
 少しぐらい持っていっても・・・。」

 男の子の声が小さくなる。

「商人ギルドから盗んだのかな?」

「違うよ。
 ペネッティっていう悪徳商人だ。
 商人ギルドなんてとっくに追い出されてるよ。」

「なるほど。
 となると横流し品か。」

 当然のごとくペニシリンは遺跡街で製造した物だ。
 そして帝国に医薬品を流通させる場合は、一度商人ギルドに卸すようにしている。
 そこから公平に必要な場所へ販売されるはずなのだ。
 商人ギルドを除名されているような所に大量にあるはずが無い。
 ギルドの中に不正を働く人間がいるのかもしれない。
 それは後で調べるとして、話を聞いておこう。

「僕の名前はオキス。
 君は?」

 僕は名前を尋ねた。

「アデルタっていうんだ。」

 男の子が答えた。

「アデルタ、そのペニシリンはどうするつもりなの?」

 子供が使い方を知っているとは思えない。
 僕も人のことを言えるような年齢じゃ無いけど。

「姉ちゃんを治すのに必要なんだ。
 姉ちゃんは心臓に悪い物があって、それを治さないと死んじゃうって。
 先生がペニシリンがあれば助かる確率が凄く上がるって。」

 外科手術でもするつもりなのだろうか?
 この世界は魔法で傷は治せても、ウイルス性の病気や内臓の病気、各種疾患は治せない。
 それほど医術が発達していないので、あとは薬草による内服薬程度だ。

「僕をペニシリンがあった場所に案内する時間はあるかな?」

「・・・大丈夫。」

「協力してくれたら盗んだ物じゃ無くて、きちんとした正規品を渡すよ。
 それ以外にも必要な薬があったら調達するから。」

 僕がそう言ったのは善意からでは無い。
 横流しの件を確認する以外にも別に理由がある。

「ほんとに?」

 アデルタが嬉しそうな顔をする。

「一応その薬の製造元の人間だからね。
 その前にこの四人を憲兵に突きだしておこう。」
 
 そして僕は四人を見回り中の憲兵に引き渡した。
 こっそり身分を耳打ちしたら、疑われもせず話が通った。

 こうして悪徳商人ペネッティの横流しを解決するクエストが始まった。
 






 悪徳無双か?
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