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第35話 終業式そして……
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今日で2学期が終了。明日から冬休みが始まる。中学2年の僕は来年の高校受験の為休み明け実力テストに向けて休み中は毎日勉強することを決めていた。
―――終業式。
体育館に集められ全生徒の前で校長先生が今年あった出来事を語り始めた。生徒たちは全く校長先生の有難い話を聞いておらず欠伸する生徒さえいた。
僕は真ん中くらいの所で黙って前を向いて校長先生の話を聞いているフリをしていた。すると後ろから背中をつついて横からすっと手が…。何事かと思いその手を見ると後ろに居た男子から小さな折りたたまれた紙を渡された。
僕はその紙を受け取り先生たちにバレないようにそっと開いた。
『嶋君へ。今日終業式が終わったらご飯食べに行こうね。――亜子より』
亜子先輩……。全くこの人はどんだけ僕に付き纏う気なんだろうか。広げた紙を元の小さな状態に戻してポケットにしまってため息をついた。それを後ろで見ていた男子がクスクスと笑っていたのに腹が立った。
「え―、というわけでありまして、これから冬休みに入ります。皆さんくれぐれも粗相のないようにして過ごしてください。以上――」
校長先生の話が終わり僕たちはやっと体育館から解放された。教室に戻り休みの間に出される課題のプリントを貰いあっさりとホームルームも終わった。僕は隆と梓ちゃんと三人で下駄箱に向かった。
「嶋君。一緒に帰ろっ」
下駄箱で待っていた亜子先輩が僕に笑顔で声を掛けてきた。隆と梓ちゃんは何を勘違いしたのか二人が僕から離れようとした。
「じゃ、じゃぁな、真治。俺先行くわっ」
「真治君、また来年ねっ」
いそいそと僕から離れようとした二人を僕は呼び止めた。どうせこの後亜子先輩が僕と絡んでくるんならこいつら二人を巻き込んでやれ。そうすれば先輩も諦めるだろう。
「ちょっと待って、二人共。そんな邪見にするなよ。一緒に帰ろうぜ」
「嶋君…私と一緒に帰ろうよぉ~」
不満げな顔でそう言って僕の腕を掴む先輩に僕は静かな口調で言った。
「この二人と一緒なら、いいですよ。先輩…」
こうして僕と三人が一緒に帰ることになった。帰り道にどっかでご飯と食べようと言い出した先輩に僕たちは始め断ったが先輩の押しに負け仕方なくついていくことになった。先輩は美味しいと評判のたこ焼き屋の前で止まり数名が並んでいる所に並んだ。勿論僕たちも一緒に。
「ここのたこ焼きが美味しいんだよっ」
笑顔でそう言って僕に話しかける先輩。僕は苦笑いしていると、隆と梓ちゃんが話し始めた。
「俺もここのたこ焼き好きですよ! 結構ここらじゃ有名ですよね、先輩っ」
「私も、偶に買って帰ることありますよ。家の家族全員好きなんです、ここのたこ焼きっ」
そんなに有名なんだ。僕は初めて来たんだけれど…。
「嶋君は食べたこと無いの?」
先輩は僕にそう訊ねた。僕は食べたことがないどころかここに来たのが今日初めてだと伝えると、三人とも凄く驚いた表情で僕を見つめた。凄く珍しい生き物を目の当たりにした表情。僕は恥ずかしくなりみんなの視線からずらして適当に回りを見回しているとお姉ちゃんの姿が見えた。
「あれ? 何でここにお姉ちゃんが!?」
お姉ちゃんと美海さん、それに舞さんがこっちに向かって歩いている。三人とも楽しそうにおしゃべりをしながらだ。学校の帰りだろうか、僕の事にまだ気づいていないお姉ちゃん。僕はゆっくりと視線を戻し、たこ焼き屋を見つめた。他の三人もお姉ちゃんの姿を確認したのか俯いて並んでいるとお姉ちゃんが僕を呼ぶ声が…。
「あれ? 真ちゃん? どうしたのこんなところで」
やっぱり見つかったか……。
「あ、お姉ちゃん! どうしたのさ、お姉ちゃんこそ」
「うん、学校の帰りに皆でここでたこ焼き買いに来たんだよ。美海が凄く美味しいって言うからさ。私食べたことないって言ったら帰りに寄ろうってことになったの。真ちゃん達も?」
俯いていた三人が恐る恐る顔を上げ苦笑いしながら頷いている。どんだけお姉ちゃんがお怖いんだ、この三人は。
「お姉さんたちもですか!? 私たちもなんですよぉ~」
亜子先輩はそう言って「どうぞ、どうぞ」と列に誘導した。お姉ちゃんは僕の腕を掴んで動こうとしない。隆と梓ちゃんも固まったまま動かない。そして美海さんと舞さんはそんな僕たちの姿を見て笑っていた。何だこの羞恥プレイは……。
「弟君たちにお願いして買って来て貰おうかな。私たちはあそこの席で待ってるから。佳乃、舞、行くよ」
美海さんはそう言って二人の腕を掴んで空いている席に向かった。お姉ちゃんは悲しそうな顔をしながら僕の顔を見つめていた。僕たちはため息をついて俯いた。
「折角嶋君と一緒に食べようと思ったのに…」
ちっと舌打ちする亜子先輩。いやいや、僕はそういうつもりはありませんでした。無理やり連れてきてそんなあからさまにがっかりしなくてもいいじゃないですか。
「とりあえず買ってこようか、真治と俺で買ってきます。先輩と梓はあっちに行っててください」
隆がそう言うと二人はお姉ちゃんたちが据わっている所に向かった。隆は黙ったまま俺の背中をたたきながら頷いている。慰めているつもりか。それとも馬鹿にしているのか。
たこ焼きを買ってみんなが居るところに行くと何やら言い争いっていた。お姉ちゃんと先輩だ。この二人は仲がいいのか悪いのかさっぱり分からない。僕は買ってきたたこ焼きのパックを机に置いてお姉ちゃんの腕を掴んで話しかけた。
「どうしたの、二人とも」
「どうしたじゃないよ。亜子ちゃんが酷いこと言うんだもんっ。私我慢出来なくて…」
「お姉さんはブラコン過ぎるって言っただけです。事実そうでしょ? ねぇ美海さん!」
「おっと、私に振るか。まぁ~確かに佳乃は弟君に構い過ぎだとは思うけどな」
美海さんは買ってきたたこ焼きのパックを開けて爪楊枝でたこ焼きを取り出し口に入れた。アツアツのたこ焼きを口に入れて熱さで苦しむ美海さんを見ながら舞さんが笑っていた。
折角だからと喧嘩を中断してたこ焼きを食べた。結構美味しい。並ぶだけの価値があるな、僕はそう思った。お姉ちゃんは暑すぎるたこ焼きを僕の目の前に突き出して「ふーふーして」とおねだり。僕はお姉ちゃんの言う通りにした。
「そういう所がブラコン過ぎるって言っているんです。それに嶋君もお姉さんを甘やかし過ぎっ! これじゃぁ、嶋君はシスコンだって言われてもしょうがないんだからねっ!」
そうだぞ、と美海さんと舞さんが後に続く。それを見ていた梓ちゃんが口を開いた。
「でも、この姉弟は仲がとってもいいんです。だから私はいいと思いますけど…」
「そうだな。真治は姉ちゃんいないと何にも出来んしな。まぁいいんじゃね?」
隆の適当な言葉が着火剤となり亜子先輩がむきになって話し始めた。
「でも、ベッタリし過ぎだと思う。それに二人を見てるとまるで恋人同士に見えるもん。それって姉弟の枠を超えてるわ」
「確かにな。佳乃はちょっと弟君と距離を置いてもいいんじゃないの?」
目を閉じて腕を組んでいた美海さんが静かに言葉を放つ。
「その間真治君は私が大切にしてあげるからっ」
舞さん、話がややこしくなるから止めてください。あまりにもお姉ちゃんに弟離れするような言動が出てきてしまいついにお姉ちゃんが泣き出してしまった。僕の胸に額を押し付けて顔を隠した。声を出して泣いているお姉ちゃんを見てお姉ちゃんの背中を擦りながら口を開いた。
「確かに僕もそう思います。でもいつかお互い違う方向に行くかもしれない。その時が来るまで僕はこのままのお姉ちゃんでいて欲しいと思ってます。僕の大切な姉を泣かせる人は僕が許しません……」
そう言って美海さんたちを睨みつけた。美海さんたちは苦笑いしながらお姉ちゃんに謝って何とか決着した。たこ焼きを食べ終わってそれぞれ家に向かった。お姉ちゃんはまださっきの事を気にしているのか俯いたまま歩いていた。
「お姉ちゃん。僕はお姉ちゃんが好きだよ。何も悪い事はしてないよ。だから元気出して、ねっ」
気持ち悪い言葉だ。全くどの口が言ってんだか。正直お姉ちゃんにべったりされるのは好きじゃない。だけどこんな悲しい顔をして落ち込むお姉ちゃんを見るのはそれ以上に耐えられなかった。僕はそっとお姉ちゃんの手を取り優しく握りしめた。互いの指を交差して手を繋ぎ帰路を辿った。
家についても塞ぎ込んだままのお姉ちゃんを制服のままだったが僕の部屋に連れて行き、ベッドの上に座らせた。俯いたまま表情も変わらず。僕は隣に座ってお姉ちゃんの肩に手を置いてそっと抱き寄せた。頭を撫でてお姉ちゃんを励まそうとした。
「真ちゃん……私っておかしいのかな……」
元気のない掠(かす)れた声を放つお姉ちゃん。相当落ち込んでいる様子だった。僕はスーッと息を出してから話し出した。
「そんなことないよ。弟が好きな姉なんて沢山いるよ。ただ僕らの周りには居ないってだけだって」
「そう……? 真ちゃんは私のこと変じゃないって思う?」
「うん、変じゃない。お姉ちゃんは優しいお姉ちゃんだよ。だから大好きだよ、僕」
お姉ちゃんは顔を上げて僕の目をじーっと見つめてきた。僕はその視線を反らさずじっと耐えているとお姉ちゃんが僕の頬にそっとキスをした。それから微笑んで僕を抱きしめた。まるで小動物のように顔をスリスリして。
「うん、ほかの人はどうでもいいもんね。私と真ちゃんはこんなに仲良しだもんっ! 私も真ちゃんが大好きだよっ」
やっと機嫌が直ったか。それにしても気持ちが悪い、お姉ちゃんが好きとか……。まるで僕が『極度のシスコン』じゃないか……。
お姉ちゃんが僕に構い過ぎて、友達にブラコンを否定されたお姉ちゃんを宥める事で僕の失ってはいけない何かが失いそうになって困ってますっ!!
これじゃ僕がシスコンみたいに思われるじゃないですかっ。僕は断じてシスコンなどではありません。ただお姉ちゃんが寂しい顔を見るのが嫌なだけなのです。
え……? それが『シスコン』だって? そう、なのですか。僕は『シスコン』なのでしょうか。誰か教えて下さい。僕は今後どうすればいいのでしょう。軽く道を見失ってます……。
―――終業式。
体育館に集められ全生徒の前で校長先生が今年あった出来事を語り始めた。生徒たちは全く校長先生の有難い話を聞いておらず欠伸する生徒さえいた。
僕は真ん中くらいの所で黙って前を向いて校長先生の話を聞いているフリをしていた。すると後ろから背中をつついて横からすっと手が…。何事かと思いその手を見ると後ろに居た男子から小さな折りたたまれた紙を渡された。
僕はその紙を受け取り先生たちにバレないようにそっと開いた。
『嶋君へ。今日終業式が終わったらご飯食べに行こうね。――亜子より』
亜子先輩……。全くこの人はどんだけ僕に付き纏う気なんだろうか。広げた紙を元の小さな状態に戻してポケットにしまってため息をついた。それを後ろで見ていた男子がクスクスと笑っていたのに腹が立った。
「え―、というわけでありまして、これから冬休みに入ります。皆さんくれぐれも粗相のないようにして過ごしてください。以上――」
校長先生の話が終わり僕たちはやっと体育館から解放された。教室に戻り休みの間に出される課題のプリントを貰いあっさりとホームルームも終わった。僕は隆と梓ちゃんと三人で下駄箱に向かった。
「嶋君。一緒に帰ろっ」
下駄箱で待っていた亜子先輩が僕に笑顔で声を掛けてきた。隆と梓ちゃんは何を勘違いしたのか二人が僕から離れようとした。
「じゃ、じゃぁな、真治。俺先行くわっ」
「真治君、また来年ねっ」
いそいそと僕から離れようとした二人を僕は呼び止めた。どうせこの後亜子先輩が僕と絡んでくるんならこいつら二人を巻き込んでやれ。そうすれば先輩も諦めるだろう。
「ちょっと待って、二人共。そんな邪見にするなよ。一緒に帰ろうぜ」
「嶋君…私と一緒に帰ろうよぉ~」
不満げな顔でそう言って僕の腕を掴む先輩に僕は静かな口調で言った。
「この二人と一緒なら、いいですよ。先輩…」
こうして僕と三人が一緒に帰ることになった。帰り道にどっかでご飯と食べようと言い出した先輩に僕たちは始め断ったが先輩の押しに負け仕方なくついていくことになった。先輩は美味しいと評判のたこ焼き屋の前で止まり数名が並んでいる所に並んだ。勿論僕たちも一緒に。
「ここのたこ焼きが美味しいんだよっ」
笑顔でそう言って僕に話しかける先輩。僕は苦笑いしていると、隆と梓ちゃんが話し始めた。
「俺もここのたこ焼き好きですよ! 結構ここらじゃ有名ですよね、先輩っ」
「私も、偶に買って帰ることありますよ。家の家族全員好きなんです、ここのたこ焼きっ」
そんなに有名なんだ。僕は初めて来たんだけれど…。
「嶋君は食べたこと無いの?」
先輩は僕にそう訊ねた。僕は食べたことがないどころかここに来たのが今日初めてだと伝えると、三人とも凄く驚いた表情で僕を見つめた。凄く珍しい生き物を目の当たりにした表情。僕は恥ずかしくなりみんなの視線からずらして適当に回りを見回しているとお姉ちゃんの姿が見えた。
「あれ? 何でここにお姉ちゃんが!?」
お姉ちゃんと美海さん、それに舞さんがこっちに向かって歩いている。三人とも楽しそうにおしゃべりをしながらだ。学校の帰りだろうか、僕の事にまだ気づいていないお姉ちゃん。僕はゆっくりと視線を戻し、たこ焼き屋を見つめた。他の三人もお姉ちゃんの姿を確認したのか俯いて並んでいるとお姉ちゃんが僕を呼ぶ声が…。
「あれ? 真ちゃん? どうしたのこんなところで」
やっぱり見つかったか……。
「あ、お姉ちゃん! どうしたのさ、お姉ちゃんこそ」
「うん、学校の帰りに皆でここでたこ焼き買いに来たんだよ。美海が凄く美味しいって言うからさ。私食べたことないって言ったら帰りに寄ろうってことになったの。真ちゃん達も?」
俯いていた三人が恐る恐る顔を上げ苦笑いしながら頷いている。どんだけお姉ちゃんがお怖いんだ、この三人は。
「お姉さんたちもですか!? 私たちもなんですよぉ~」
亜子先輩はそう言って「どうぞ、どうぞ」と列に誘導した。お姉ちゃんは僕の腕を掴んで動こうとしない。隆と梓ちゃんも固まったまま動かない。そして美海さんと舞さんはそんな僕たちの姿を見て笑っていた。何だこの羞恥プレイは……。
「弟君たちにお願いして買って来て貰おうかな。私たちはあそこの席で待ってるから。佳乃、舞、行くよ」
美海さんはそう言って二人の腕を掴んで空いている席に向かった。お姉ちゃんは悲しそうな顔をしながら僕の顔を見つめていた。僕たちはため息をついて俯いた。
「折角嶋君と一緒に食べようと思ったのに…」
ちっと舌打ちする亜子先輩。いやいや、僕はそういうつもりはありませんでした。無理やり連れてきてそんなあからさまにがっかりしなくてもいいじゃないですか。
「とりあえず買ってこようか、真治と俺で買ってきます。先輩と梓はあっちに行っててください」
隆がそう言うと二人はお姉ちゃんたちが据わっている所に向かった。隆は黙ったまま俺の背中をたたきながら頷いている。慰めているつもりか。それとも馬鹿にしているのか。
たこ焼きを買ってみんなが居るところに行くと何やら言い争いっていた。お姉ちゃんと先輩だ。この二人は仲がいいのか悪いのかさっぱり分からない。僕は買ってきたたこ焼きのパックを机に置いてお姉ちゃんの腕を掴んで話しかけた。
「どうしたの、二人とも」
「どうしたじゃないよ。亜子ちゃんが酷いこと言うんだもんっ。私我慢出来なくて…」
「お姉さんはブラコン過ぎるって言っただけです。事実そうでしょ? ねぇ美海さん!」
「おっと、私に振るか。まぁ~確かに佳乃は弟君に構い過ぎだとは思うけどな」
美海さんは買ってきたたこ焼きのパックを開けて爪楊枝でたこ焼きを取り出し口に入れた。アツアツのたこ焼きを口に入れて熱さで苦しむ美海さんを見ながら舞さんが笑っていた。
折角だからと喧嘩を中断してたこ焼きを食べた。結構美味しい。並ぶだけの価値があるな、僕はそう思った。お姉ちゃんは暑すぎるたこ焼きを僕の目の前に突き出して「ふーふーして」とおねだり。僕はお姉ちゃんの言う通りにした。
「そういう所がブラコン過ぎるって言っているんです。それに嶋君もお姉さんを甘やかし過ぎっ! これじゃぁ、嶋君はシスコンだって言われてもしょうがないんだからねっ!」
そうだぞ、と美海さんと舞さんが後に続く。それを見ていた梓ちゃんが口を開いた。
「でも、この姉弟は仲がとってもいいんです。だから私はいいと思いますけど…」
「そうだな。真治は姉ちゃんいないと何にも出来んしな。まぁいいんじゃね?」
隆の適当な言葉が着火剤となり亜子先輩がむきになって話し始めた。
「でも、ベッタリし過ぎだと思う。それに二人を見てるとまるで恋人同士に見えるもん。それって姉弟の枠を超えてるわ」
「確かにな。佳乃はちょっと弟君と距離を置いてもいいんじゃないの?」
目を閉じて腕を組んでいた美海さんが静かに言葉を放つ。
「その間真治君は私が大切にしてあげるからっ」
舞さん、話がややこしくなるから止めてください。あまりにもお姉ちゃんに弟離れするような言動が出てきてしまいついにお姉ちゃんが泣き出してしまった。僕の胸に額を押し付けて顔を隠した。声を出して泣いているお姉ちゃんを見てお姉ちゃんの背中を擦りながら口を開いた。
「確かに僕もそう思います。でもいつかお互い違う方向に行くかもしれない。その時が来るまで僕はこのままのお姉ちゃんでいて欲しいと思ってます。僕の大切な姉を泣かせる人は僕が許しません……」
そう言って美海さんたちを睨みつけた。美海さんたちは苦笑いしながらお姉ちゃんに謝って何とか決着した。たこ焼きを食べ終わってそれぞれ家に向かった。お姉ちゃんはまださっきの事を気にしているのか俯いたまま歩いていた。
「お姉ちゃん。僕はお姉ちゃんが好きだよ。何も悪い事はしてないよ。だから元気出して、ねっ」
気持ち悪い言葉だ。全くどの口が言ってんだか。正直お姉ちゃんにべったりされるのは好きじゃない。だけどこんな悲しい顔をして落ち込むお姉ちゃんを見るのはそれ以上に耐えられなかった。僕はそっとお姉ちゃんの手を取り優しく握りしめた。互いの指を交差して手を繋ぎ帰路を辿った。
家についても塞ぎ込んだままのお姉ちゃんを制服のままだったが僕の部屋に連れて行き、ベッドの上に座らせた。俯いたまま表情も変わらず。僕は隣に座ってお姉ちゃんの肩に手を置いてそっと抱き寄せた。頭を撫でてお姉ちゃんを励まそうとした。
「真ちゃん……私っておかしいのかな……」
元気のない掠(かす)れた声を放つお姉ちゃん。相当落ち込んでいる様子だった。僕はスーッと息を出してから話し出した。
「そんなことないよ。弟が好きな姉なんて沢山いるよ。ただ僕らの周りには居ないってだけだって」
「そう……? 真ちゃんは私のこと変じゃないって思う?」
「うん、変じゃない。お姉ちゃんは優しいお姉ちゃんだよ。だから大好きだよ、僕」
お姉ちゃんは顔を上げて僕の目をじーっと見つめてきた。僕はその視線を反らさずじっと耐えているとお姉ちゃんが僕の頬にそっとキスをした。それから微笑んで僕を抱きしめた。まるで小動物のように顔をスリスリして。
「うん、ほかの人はどうでもいいもんね。私と真ちゃんはこんなに仲良しだもんっ! 私も真ちゃんが大好きだよっ」
やっと機嫌が直ったか。それにしても気持ちが悪い、お姉ちゃんが好きとか……。まるで僕が『極度のシスコン』じゃないか……。
お姉ちゃんが僕に構い過ぎて、友達にブラコンを否定されたお姉ちゃんを宥める事で僕の失ってはいけない何かが失いそうになって困ってますっ!!
これじゃ僕がシスコンみたいに思われるじゃないですかっ。僕は断じてシスコンなどではありません。ただお姉ちゃんが寂しい顔を見るのが嫌なだけなのです。
え……? それが『シスコン』だって? そう、なのですか。僕は『シスコン』なのでしょうか。誰か教えて下さい。僕は今後どうすればいいのでしょう。軽く道を見失ってます……。
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