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第37話 冬休み一日目から  ②

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 昼ご飯を食べ終わった僕たちは勉強の方を少し休憩するということでリビングのソファーに二人並んで座ってテレビを観ていた。コップには食後の紅茶をお姉ちゃんが淹れてくれたのだ。こういう時のお姉ちゃんは凄く優しくて僕が好きなお姉ちゃん。でもこのことは本人には勿論伝えていない。言ったら余計絡まれそうで怖いのだ。

「真ちゃん……そろそろ勉強する?」

 お姉ちゃんは僕の顔を見ながらそう訊ねた。なんだか眠たそうな顔だけど、大丈夫かな。

「お姉ちゃん、眠たいなら昼寝してもいいよ?」

「うん……ちょっとおこた借りていい?」

「いいけど……僕もそこで勉強するからね」

 うん、とお姉ちゃんは微笑み返す。僕はお姉ちゃんの笑顔でドキッとしてしまい視線を逸らしソファーから立ち上がって部屋に戻ろうとするとお姉ちゃんが僕の手を取って「一緒に行く」と甘えた声で言った。仕方ないなぁ……僕はお姉ちゃんと手を繋ぎ部屋に戻った。

 こたつの電源を入れるとお姉ちゃんはベッドの上に置いてあった僕の枕を持って速攻寝始めた。僕は何も言わず座ってさっきの続きを始めた。

 当然だが、僕は勉強が好きではない。来年の高校受験の為、そして推薦入学で合格する為に今頑張っている。中学を卒業すれば僕はお姉ちゃんと離れて暮らしたいと密かに思っているのだ。

『全寮制』これが僕とお姉ちゃんを引き離す最高の口実。それに向けて僕は必至に大好きな漫画やテレビ、それに友達との付き合い……と言ってもそんな友達いないのか、僕には……。

 悲しくなりそうになって来たので机の上に置いてあった蜜柑を手に取った。持ち方が悪かったのか僕の手から零れ落ちた蜜柑はなんとお姉ちゃんの顔の直ぐ傍へ。僕は立ち上がって向かい側に居るお姉ちゃんの所へ。寝息を立てながら寝ているお姉ちゃんの顔と落ちた蜜柑。交互に見ているとなんだか可笑しくなってきた。

「お姉ちゃんの顔ってホントに可愛いよなぁ~」

 ふと呟いた言葉。

「そう? 嬉しい」

 え……? お姉ちゃんはそのままの姿勢でゆっくりと目を開けて僕の方を見つめた。口元を緩めて僕に微笑みお姉ちゃん。やっぱり可愛い……っていかん!! 僕はシスコンじゃないんだから。ダメだ。早く蜜柑取らないと。僕はお姉ちゃんの顔に落ちた蜜柑を取ろうと手を伸ばした。

「真ちゃん……これが欲しいの?」

「え……?」

 お姉ちゃんが布団の中から手を出して僕の方に突き出した。何か握りしめているソレを見た僕はごくりと唾を呑み込んだ。

「お姉ちゃん……何ソレ?」

 恐る恐る訊ねる僕。お姉ちゃんは寝たまま微笑んでゆっくり手を広げた……。

「私のパンツ」

 な、な、何言ってんだ!! この人はぁ!! 

「要らないよっ! 僕は蜜柑を取ろうとしたの! んもぉ、何言ってんの。ちゃんとパンツ履いてよ!」

 僕は急いで蜜柑を拾い上げるとお姉ちゃんにそう言って席に戻った。お姉ちゃんは「むぅ~」とむくれた声を上げてごそごそと手にしたパンツを履いた。全く何考えてんだ、お姉ちゃんの頭の中は……。

 自分の弟が自分の履いてるパンツを欲しがったら変態じゃないか。お姉ちゃんは僕に変態さんになって貰いたいのか! 僕は心の中でそう叫びながらちらっとお姉ちゃんを見た。

 お姉ちゃんはゆっくり起き上がて欠伸をすると目を擦って机の上にあるテキストを広げた。シャーペンを握るとさっきの負抜けた顔とはまるで別人。真剣な顔つきでテキストに書き込み始めた。僕はお姉ちゃんの様子を見て、出来る人は違うなぁ、と心の中で呟いた。

 暫く2人は課題に取り組んでいた為沈黙が続いた。机の上に置いてある目覚まし時計が刻む音とペンの書く音が耳に入って来る。

「よし、これで終わりっと」

 お姉ちゃんはテキストをゆっくり閉じて小さな声で呟いた。数時間で課題をすべて終わらせてしまったお姉ちゃん。流石学年トップの秀才。どういう構造してんだろう…お姉ちゃんの頭の中って。お花畑と弟の事と学問の事がどうバランスを保っているのか本当に不思議だ。

「真ちゃん、終わった?」

 僕に訊ねるお姉ちゃん。愚問だよ、終わるわけないじゃないか。僕は凡人なのです。貴女とはまるで頭の構造が違うんですよ。ええ、そうです。僕は頭が良くないんですよ……。心の中で愚痴る僕。

「まだだよ…。お姉ちゃんはもう終わったの?」

 聞くまでもない質問をお姉ちゃんに訊ねる僕。

「うん。全部終わっちゃった。これで冬休みは真ちゃんと遊びまくるぞ!!」

「……僕は終わってないし、お姉ちゃんとも遊べないと思うけどな……」

 ぽろっと心の声が口から出てしまった。それを聞いたお姉ちゃんは僕の顔をじーっと見つめて子たつの中で僕の足を突いた。

「私が真ちゃんの勉強見てあげるから。そんな悲しい事言わないで……お願い……」

 汐らしく僕にそう言って今度は僕の足を絡め始めた。お姉ちゃんの足が僕の足を捉えて離れない。お互い靴下を履いているが何だかちょっと変な気分になってきてしまった。

「何……お姉ちゃん。止めてよ……」

「だって真ちゃんが悲しいこと言うから……私に出来ることは何でもしたいな……それとも私は真ちゃんの役には立てない……のかな……?」

 更に足を絡めてくるお姉ちゃん。僕はこたつ布団に片手を突っ込みお姉ちゃんに足を退けようと触るとお姉ちゃんが変な声を出してくる。無心で僕は何とかお姉ちゃんの足から抜け出すことに成功した。何がしたんだか……全く。

「ごめん、そういう意味で言ったわけじゃないよ……お姉ちゃん勉強教えてもらうよ。来年の為に、ね」

「うんっ! 私も来年の為に、真ちゃんをちゃんと高校に合格させなきゃ!!」

 ん……? どういう意味だろう。僕が受ける高校をお姉ちゃんが知っているわけがない。というか両親にもまだ行ってない筈。高校入学案内も机の奥そこに隠しているから見つかる筈がない。まlま、まぁ、考え、過ぎ? 

「そ…そだねっ」

 苦笑いしながらお姉ちゃんの満面の笑みに答えた僕。外を見るとすっかり当たりは薄暗くなっていた。お姉ちゃんはその後も僕の部屋で……というかこたつに入ったままうつ伏せになって胸に僕の枕を当てて漫画を読んで過ごしていた。僕は黙ったまま粛々と学校の宿題をしていたのだった。


 お姉ちゃんが僕に構い過ぎて、僕に色々な事を刺激して困ってますっ!! 

 今回はなんだかおかしなお姉ちゃんを垣間見た感じがしました。それに最後の『高校に合格させなきゃ』と言った一言が凄く僕の中で引っかかるのですが……まさか、はは、まさかねぇ~。どうかお姉ちゃんの魔の手から僕を解放してくださいっ!! そしてブラコン卒業して! 僕のお姉ちゃん!!


 僕の行動ってどこまで筒抜けなんだろうか……。
 そしてお姉ちゃんは何処まで知っているのだろうか。
 僕はお姉ちゃんの事で頭がいっぱいだよ。
 夜、ベッドに横になりながら頭の中で恐ろしい妄想と戦っていた……マジですか? お姉ちゃん。

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