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応接間に通された私たちはソファに座るよう王太子に言われ私はソファに座り女騎士二人は私の後ろに立っていた。
向かいの席に王太子とあのパドラー令嬢が座った。


「エリスよ。何故其方は刑の執行中に隣国イングラルへ逃げ込んだのだ?」
「わたくしは何も悪事などはしておりません。そしてわたくしを信じてくれたイングラルのマラス王太子に救われたのです」
「ほう……マラス王太子が」
「はい……」


顎に手を当てて私を見つめる王太子。
その横でパドラー令嬢が口を挟んだ。


「貴方は今までわたくし達に卑劣な行為を重ねてきたことは間違いりませんわ。わたくしは貴女に階段から突き落とされたり、靴を盗まれたり、色々やられておりましたのよっ」


パドラー令嬢は甲高い声でそう私に言った。
本当に私には身に覚えのない事だった。
そして全盛の記憶を取り戻した私はこのパドラー令嬢が本当の悪役令嬢だということを知っていた。
ゲームでは私と王太子の間を割いて自分が王太子と婚約する事を密かに計画していた。
婚約していた私が邪魔だったパドラー令嬢は私にありもしない罪をきせて殺そうとしていた。
そんなゲームの話をしてもパレッド王太子には分かって貰えない。
それにその話をすれば、パドラー令嬢が『魔女』というだろう。
私は無実の罪をきせられたことだけを王太子に訴えた。


「……言いたいことはそれだけか? エリス」
「はい…。私は何もしておりません。それに魔女だなんて…私はダラム公爵家の娘、ただそれだけです。信じてください、パレッド王太子」


私の話を訊いた上で王太子は唸った。
そして横に座っていたパドラー令嬢の方を向いた。


「このように訴えておるが、私にはそれが全部嘘だとは思えない。パドラ―、本当に彼女が悪事を働いていたと言えるのか? それに其方がそう言っているだけで証拠は何もないのだ。魔女の事だってそうだ。確かに最初私も同調したが、彼女が隣国へ行っていた時の話をマラスやエリクソンに訊いている。彼女がそんなことをするはずがないと」
「……っ」


パドラー令嬢が言葉を詰まらせた。
全てはパドラー令嬢の思惑だったことがバレてしまう。
私は心の中で『ざまぁ』だと思った。そして私は再び口を開いた。


「パレッド王太子様、私は無実です。そこにいるパドラー様に図られたのですっ」
「まぁっ! そんなことを言ってよろしいのですか!? 貴女は魔女ですわ。私は貴方の侍女から訊いていたのですよ。奇怪な夢を見ていることを」


やはり…侍女と繋がっていたのだということが分かった。
この話が出てくることは容易に想像していた。
私は前世の記憶が夢に出ていたことを言えばやはり魔女だと疑われてしまう。


「私は夢をただ侍女に語っていただけです。夢なのだからどんな夢を見ようと勝手ではないでしょうか。私は魔女でもなければ悪いことをした事は在りませんっ」


私がそう言ってきっぱり話をするとパドラー令嬢は唇を噛みしめながら黙ってしまった。
その一部始終を見ていた王太子は私の方を見て話し出した。

「取り合えず、この件については国王である私の父上に報告させて貰う」
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