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七夕

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お酒を買って帰ろう。

おばあちゃんへのお土産だ。

同居するおばあちゃんは、普段お酒を飲まない。一年に一回、七夕の夜だけお酒を飲むのだ。

家の近くにあるスーパーに寄った。

お酒に詳しくはないので、見た目で選んだ。青い綺麗な瓶に月とうさぎが書いてあるスパークリング清酒にした。

「きよしさんに会えるの楽しみだわ」

今朝もおばあちゃんはカレンダーの日にちを見ながらそう言っていた。

財津清ざいつきよしは亡くなった祖父だ。

七夕の日に祖父と会えると祖母は固く信じているのだ。

祖父が亡くなってから本当に毎年会いに来てくれているという経験のもと、信じている祖母を、家族もほほえましく見守っている。

亡くなってから会いに来てるなんて、どういうことだと思われるだろう。

祖母はボケてなどいない。むしろ、とてもしっかりしていて、上品で真面目だ。冗談も言わないような祖母が嘘をつくはずなどない、そう確信を持って言える。

そんな祖母が語るのだ。祖父が会いに来てくれたと。そして、何を話したかまで事細かく。

家族はもう信じるしかないのだ。
見えているものだけが真実ではないのだと、自分がまだ経験していないことを祖母は経験しているのだと。
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