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波乱の一日警察署長編

その4

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「お口にあって幸いですゾー。さぁさぁ、じゃんじゃんいきまSHOW!!」

 白人男性はテンションマックスでドンドン酒じゃなく麦茶を煽っていく、
 俺もそんな流れに流されつつ麦茶を飲んでいると、

「いやいやいや、こんな所で呑気にお茶を飲んでいる場合じゃない。なぜ、此処で酒盛りなんてしているんだ? えっと……」

 俺はその白人男性の名前を呼ぼうとしたが、そういえばコイツ名前を名乗ってない。

「セッシャ、ケニーとものもーす!!」

 いきなり白人男性は大声で自己紹介を始めるものだから、一瞬心臓が止まりそうになった。

「日本人とても、真面目。ソードを天に向けて自己紹介すると聞いたよ。オレはジャパニーズソード持ってないから、大声で名乗ってみたHAHAHA」

 ケニーはさらに楽しそうに麦茶を飲む。

「じゃあ、ケニー。お前はどうして署の前で酔い潰れていたんだ?」

 俺は一応【テリトリー】の音声翻訳機能も併用して使いつつ、ケニーに問いただす。

「さぁ、セッシャにはさっぱりポン酢」

 まるで記憶が無いような感じにケニーが答える。

「とりあえず、こんな所で酒盛りをしてもらったら困る奴が居る、飲むなら何処か居酒屋でも行って飲んでくれ」

 すると、いきなりケニーが涙目になりなき始める。

「ヤダー! 一人で飲むのはトテモさみしいデース。一緒に飲んでくださーい!!」

 そして、俺に抱き付いてくる。

「もう、離せ! 分かったから、飲んで満足したら帰れよ」

 俺が嫌々ながらも一緒に飲むことを承諾すると、ケニーはすぐに満面の笑みを浮かべて、

「やったデス。仲間ゲットですぞ」

 と楽しそうに言った。
 俺はチラッと扉の先に居座っていた二人を見る。二人は俺に任せていれば害は被らないだろうという余裕な表情でコチラを見ていたので、

「おい、あそこにも飲み仲間になりそうな二人が居るぞ」

 わざとらしく、ケニーに二人の存在を示してやる。

「おっ、そうですねぇー。丁度いいです。お前ラも参加しろデース」

 ケニーは二人の姿を視認し、首根っこを捕まえて刑事課の中へと引き連れてくる。

「カンちゃん酷い、俺たちを犠牲にするなんて!」
「そうですよ。ご自身が巻き込まれたからって、僕たちをさらに巻き込むなんて」

 二人が俺に向かってプリプリと怒るのを、俺は麦茶を飲みながらジト目で見る。

「皆、ナカヨク! 人類、エブリバティフレンドデース」

 元々の原因である人間が呑気に麦茶を注いで史と神崎に渡す。

「フレンドの証拠として、名前を教えてくださいー。そこのブロンドヘアのアナタからぁ」

 そう言ってケニーは俺のことを指差した。

「俺? 如月神那だ」
「俺は、長月史。カンちゃんの大親友だよ!」
「え、お前、俺の大親友だったのか?」

 俺はまるでビックリしたような表情をすると、史はショックを受けた表情を見せる。

「カンちゃん、それは冗談でも傷つくから、俺のセンチメンタルハートが木っ端微塵に壊れちゃうから」

 えぐえぐと涙目を浮かべる史。全く、面倒くさい奴だと思いつつ、俺はため息をついた。

「はいはい、親友ですよ、親友」
「カンちゃん。そう言ってくれるところ大好きだ!」

 そう言って史は俺に抱きつく。

「やめろ、ひっつくな!」
「仲が良すぎるお二人さんの隣にいる僕が神崎ヒカルでーす。カンナさんのファンです! いつか大親友にランクアップできるように頑張ります!」

 そう言う神崎の目はやる気に満ちていた。

「や、そういうのは史と張り合わないでいい」

 俺がそういうと、えー……と不満そうな声を出す神崎。

「さ、自己紹介が終わったから、満足しただろ? さっさとお開きにするか」
「まだオレの自己紹介がマダでーすぞ。オレは、ケニー・マックス。日本が大好きな男だ!」

 ケニーは胸を張ってドヤ顔で答える。
 彼の服は和装を模したようなTシャツに着ていて、鞄には浮世絵の絵柄が描かれていた。
 どこからどう見ても日本好きの海外旅行者に見えない。

「そりゃ、見たら日本好きにしか見えないな」
「さすが、カンナ殿は凄い方でござるなぁー」

 ケニーはまるで凄く感心した様子で大きく頷く。

「いや、見たら分かる……」
「そうなんだよ! カンちゃんは凄いんだよ。なんでも出来るし」
「そうですよ。カンナさんはエキスパートでDJ界を背負って立つ偉大な人なんですよ」

 俺の言葉に被せるように史と神崎が食い気味にケニーに俺について語る。

「おー、こんなに同士がいっぱいいるとは思いませんでした。カンナ殿ばんざーい。カンパーイ!」
「ええー……」
『カンパーイ!』

 戸惑う俺を余所に三人は乾杯の合図までし始める始末。

「カンちゃんを称える会みたいだねぇー。麦茶おいしー」
「ですねぇー」
「HAHAHA!」

 三人は仲睦まじく麦茶でお茶会をおっぱじめる。
 そんな三人を見つつ、俺はそろそろ広報が痺れを切らしている頃ではないかと刑事課の窓から見える空をぼーっと眺めていた。

「史、そろそろ、広報の人に連絡しないと痺れを切らしているんじゃないか?」
「ん? ……あー!」

 史はそのことを今まですっかり忘れていたみたいで、大声を出した。

「……忘れていたんだな」
「い、いや、覚えてたし! 今から連絡しようと思ってたし」

 史はあくまで覚えていたと主張しているが、コイツ絶対に俺が言うまで忘れてたぞ。絶対に。
 しかし、ケニーが刑事課に居座る気満々なのをどうすれば……、俺がそんな事を悩んでいると、神崎がある提案をケニーに持ちかけた。

「そうだ。ケニーさんも一緒に警察署廻りませんか?」
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