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11話 ツナグ
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僕は今、静さんの書斎の扉の前にいる。
普段は有加から入っちゃダメと釘を刺されて、滅多に入ったことが無いのだが、今日は珍しく有加からの許可が下りたので、来たわけなのだが……、
絶対に有加自身が静さんに言い難い要求だから僕に押し付けたんだ。
「でも、頼まないと、ミステリーがやっと読めるのに……」
今まで禁止されていたミステリーを、ずっと憧れていた静さんが書いたミステリーを読めるチャンスなのだ。この機会を逃すわけにはいかないんだ。
「でもなぁ、静さんだって仕事で忙しいだろうし」
年に1冊のペースで刊行しているような人だ。きっと、今だって新作の執筆の真っ最中のハズだ。それを投げ打って僕のために書いてくれるのだろうか?
そんな事を考えてはノックする手が止まり、僕は入り口の前でウロウロとしてしまう。
どうやったら中に入れる口実が作れるのだろうか、と頭を抱えていると、
「物音がしたと思って来てみれば……、りーくん、どうされましたか?」
急に扉がガチャと開き、中から作務衣姿の静さんが僕の方を見てきたのだ。僕は突然のことで、まるで心臓を鷲づかみされたような心地で扉の前にへたり込む。
「ど、どうしましたか! 何処か調子が悪いのですか!?」
僕の様子に静さんも驚いて、僕の許へと駆け寄ってくれた。
「いえ、ちょっと緊張が解けたら腰が抜けて……」
僕は真顔でそう答えると、静さんはプッと噴き出した。
「おっと、笑ってしまうのは失礼でしたね。さ、中にお入り。用件を聞きましょう」
静さんは僕を介抱しつつ、書斎の中に入れてくれた。
中央に配置してある椅子に僕は座らされる。
「で、何か私にご用件でしょうか?」
「あ、あの……」
用件を言い出せない僕は、静さんの前でモジモジとしてしまうだけで、なかなか話が前に進まない。
「その手に持っているものが、用件に関連するものですかね?」
静さんは僕の手に持っている紙類を指差す。
この人には何でもお見通しなのだろうか?
「そ、そうなんです。実は、静さんにミ、ミ……」
僕は居ても経っても居られず、椅子から降りて、土下座をしながら、
「この設定でミステリーを書いてください! お願いします!」
もう、ほぼヤケの状態で、僕は静さんに頼み込む。
「とりあえず、りーくん。一先ず落ち着きましょう。貴方も私の家族の一員なのですから、そんなに他人行儀に土下座しなくていいのですよ? それをやって、大いに喜ぶのはゆーちゃんくらいですから」
静さんはそう諭しながら、僕に椅子に座るように促した。確かに、僕が土下座したら有加はテンションが上がりそうな気がした。
「静さんのお手間を取らせるのは分かっていますが、僕の憧れである静さんの話が読みたいのです、大丈夫でしょうか?」
僕のお願いに静さんは優しく微笑む。
「ちょうど新作原稿を書き終えて校正待ちなので、私でよければ書きますよ?」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」
僕はペコペコとお辞儀を何度も繰り返し、静さんに感謝の意を示す。
「りーくんは、家族ですから。頼みたいことがあったのなら、いつでも私を頼っていいんですよ? ところで……」
静さんは、僕から渡された紙の束をチラッと見ただけで、
「この話を持ちかけて来たのは、りーくん自身ではなく、ゆーちゃんですね?」
ギクッ。
僕は、静さんに有加が書いてもらうように提案したことが瞬時にバレて、ぴたっと動きが止まる。
「え、あ……、誠もってその通りでございます」
僕はこれ以上の言い訳は無謀だと悟り、素直に有加が実行犯だってことを認めた。
すると、おじさんはハァと息をつく。
「あの子も仕方ない子ですね。りーくんも、ゆーちゃんの言いなりばかりで大変でしょうに……、いいんですよ? 嫌なら断っても」
「いいえ、いいんです。有加が僕みたいなちっぽけな存在と一緒に居てくれるだけで、それだけで嬉しいから」
有加が僕と一緒に話し、遊んで、行動してくれる。だから、毎日が楽しいし、幸せな気分になれた。
有加が僕を生に繋ぎとめてくれる。それだけで僕は満足だ。
「そうですか。でも、無理は禁物ですよ。君には君の人生がある、誰もソレを阻害することなんて出来ないのだから。おや、これは?」
静さんは一通の封筒を紙の束の中から発見した。
「あ、それは、有加からです。女優としてのリクエストを記してあるって言ってました。僕は見てないので、全然分からないのですが」
静さんは封筒をあけ、中に入っていた手紙に目を通して目を細めた。
「あの子らしい面白い発想ですね。なるほど、これは興味深いですね。流石、私の子」
静さんはそう笑いながら言うので、僕は手紙の内容が気になって仕方ない。
「なんて書いてあるんですか?」
「有加は私の書いた小説で、事件を解決するそうだよ。いやぁ、フィクションとノンフィクションの融合というわけですか。これは、腕が鳴りますねぇ」
静さんは楽しそうに万年筆を走らせる。
フィクションとノンフィクションの融合? 静さんの小説で事件を解決?
僕は静さんの言っている意図がまったく読めない。
「つまり、どういうことなんですか?」
「そうだねぇー、アリナシコンビが私の書いた小説で犯人をコテンパンにするって言ったほうが早いですかね」
「え? えぇぇぇぇえええええええ!?」
静さんの言葉に僕は椅子ごと後ろにひっくり返りそうになったのは言うまでも無い。
普段は有加から入っちゃダメと釘を刺されて、滅多に入ったことが無いのだが、今日は珍しく有加からの許可が下りたので、来たわけなのだが……、
絶対に有加自身が静さんに言い難い要求だから僕に押し付けたんだ。
「でも、頼まないと、ミステリーがやっと読めるのに……」
今まで禁止されていたミステリーを、ずっと憧れていた静さんが書いたミステリーを読めるチャンスなのだ。この機会を逃すわけにはいかないんだ。
「でもなぁ、静さんだって仕事で忙しいだろうし」
年に1冊のペースで刊行しているような人だ。きっと、今だって新作の執筆の真っ最中のハズだ。それを投げ打って僕のために書いてくれるのだろうか?
そんな事を考えてはノックする手が止まり、僕は入り口の前でウロウロとしてしまう。
どうやったら中に入れる口実が作れるのだろうか、と頭を抱えていると、
「物音がしたと思って来てみれば……、りーくん、どうされましたか?」
急に扉がガチャと開き、中から作務衣姿の静さんが僕の方を見てきたのだ。僕は突然のことで、まるで心臓を鷲づかみされたような心地で扉の前にへたり込む。
「ど、どうしましたか! 何処か調子が悪いのですか!?」
僕の様子に静さんも驚いて、僕の許へと駆け寄ってくれた。
「いえ、ちょっと緊張が解けたら腰が抜けて……」
僕は真顔でそう答えると、静さんはプッと噴き出した。
「おっと、笑ってしまうのは失礼でしたね。さ、中にお入り。用件を聞きましょう」
静さんは僕を介抱しつつ、書斎の中に入れてくれた。
中央に配置してある椅子に僕は座らされる。
「で、何か私にご用件でしょうか?」
「あ、あの……」
用件を言い出せない僕は、静さんの前でモジモジとしてしまうだけで、なかなか話が前に進まない。
「その手に持っているものが、用件に関連するものですかね?」
静さんは僕の手に持っている紙類を指差す。
この人には何でもお見通しなのだろうか?
「そ、そうなんです。実は、静さんにミ、ミ……」
僕は居ても経っても居られず、椅子から降りて、土下座をしながら、
「この設定でミステリーを書いてください! お願いします!」
もう、ほぼヤケの状態で、僕は静さんに頼み込む。
「とりあえず、りーくん。一先ず落ち着きましょう。貴方も私の家族の一員なのですから、そんなに他人行儀に土下座しなくていいのですよ? それをやって、大いに喜ぶのはゆーちゃんくらいですから」
静さんはそう諭しながら、僕に椅子に座るように促した。確かに、僕が土下座したら有加はテンションが上がりそうな気がした。
「静さんのお手間を取らせるのは分かっていますが、僕の憧れである静さんの話が読みたいのです、大丈夫でしょうか?」
僕のお願いに静さんは優しく微笑む。
「ちょうど新作原稿を書き終えて校正待ちなので、私でよければ書きますよ?」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」
僕はペコペコとお辞儀を何度も繰り返し、静さんに感謝の意を示す。
「りーくんは、家族ですから。頼みたいことがあったのなら、いつでも私を頼っていいんですよ? ところで……」
静さんは、僕から渡された紙の束をチラッと見ただけで、
「この話を持ちかけて来たのは、りーくん自身ではなく、ゆーちゃんですね?」
ギクッ。
僕は、静さんに有加が書いてもらうように提案したことが瞬時にバレて、ぴたっと動きが止まる。
「え、あ……、誠もってその通りでございます」
僕はこれ以上の言い訳は無謀だと悟り、素直に有加が実行犯だってことを認めた。
すると、おじさんはハァと息をつく。
「あの子も仕方ない子ですね。りーくんも、ゆーちゃんの言いなりばかりで大変でしょうに……、いいんですよ? 嫌なら断っても」
「いいえ、いいんです。有加が僕みたいなちっぽけな存在と一緒に居てくれるだけで、それだけで嬉しいから」
有加が僕と一緒に話し、遊んで、行動してくれる。だから、毎日が楽しいし、幸せな気分になれた。
有加が僕を生に繋ぎとめてくれる。それだけで僕は満足だ。
「そうですか。でも、無理は禁物ですよ。君には君の人生がある、誰もソレを阻害することなんて出来ないのだから。おや、これは?」
静さんは一通の封筒を紙の束の中から発見した。
「あ、それは、有加からです。女優としてのリクエストを記してあるって言ってました。僕は見てないので、全然分からないのですが」
静さんは封筒をあけ、中に入っていた手紙に目を通して目を細めた。
「あの子らしい面白い発想ですね。なるほど、これは興味深いですね。流石、私の子」
静さんはそう笑いながら言うので、僕は手紙の内容が気になって仕方ない。
「なんて書いてあるんですか?」
「有加は私の書いた小説で、事件を解決するそうだよ。いやぁ、フィクションとノンフィクションの融合というわけですか。これは、腕が鳴りますねぇ」
静さんは楽しそうに万年筆を走らせる。
フィクションとノンフィクションの融合? 静さんの小説で事件を解決?
僕は静さんの言っている意図がまったく読めない。
「つまり、どういうことなんですか?」
「そうだねぇー、アリナシコンビが私の書いた小説で犯人をコテンパンにするって言ったほうが早いですかね」
「え? えぇぇぇぇえええええええ!?」
静さんの言葉に僕は椅子ごと後ろにひっくり返りそうになったのは言うまでも無い。
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