君と猫

結城のんこ

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scene2

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 キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。ガラガラガラ、ドアを開けてこのクラスの先生であろう人が入ってきた。「さあ皆、席に着いてHRを始めます。早速自己紹介から、私の名前は中野詩織なかのしおりです。今日から一年間このクラスの担任を受け持つことになりました。楽しい一年になるように皆でがんばっていきましょうね。」ぱちぱちぱち、溢れんばかりの拍手がクラスを包む。「では、皆も自己紹介していきましょう。」そう言って先生は名簿を見る。そして俺を見て「では君からよろしく。」そう言った。仕方ない。俺は出席番号一番だから。よし、自己紹介は世界で三番目に嫌いなものだがやるしかない。俺は立ち上がって息を吸う。そして「安藤遥斗あんどうはるとです。よろしく。」そう言って遥斗は席に着いた。先生が拍手を皆に催促する。「はい。安藤遥斗君!これからよろしくね。」先生は俺にむかってそう言った──。
 どれくらい時間が経っただろうか。いつの間にか自己紹介が最後の一人になっていた。「では最後の君、自己紹介をどうぞ。」先生は相変わらずの明るい声で生徒に話しかけた。すると、ガタンッと椅子が倒れる音がした。そこにはしかめっ面の男の子が立っている。すると小さな声で「御堂悠斗みどうはると、よろしく。」とつぶやいた。教室が静寂に包まれる。が、それも束の間困惑と戸惑いの声が聞こえてくる。「え?なんて言ったの?」「わかんない、だって聞こえないんだもん。」女子達の容赦ない声が悠斗に降りかかる。心配になった遥斗はそっと悠斗のほうを見る。そこにはしかめっ面で無愛想な悠斗の顔があった。声をかけようと思ったがなんと言えばいいのか分からない。すると、「悠斗!もう少し大きな声で自己紹介しなさいよ!みんな聞こえていないじゃない!」と大きな声で悠斗に話しかけた。声の主を探すため辺りを見回してみると仁王立ちした可愛らしい女の子がそこにはいた。どうしたらこんな女の子からあんな声がでるのか不思議でしかない。そう思いながら、ふと彼女の手元を見てみる。するとそこには朝遥斗が猫にあげた赤色のハンカチが巻いてあった。遥斗は混乱した。なぜならあのハンカチは母が遥斗の5歳の誕生日の際にくれたお手製のものだったから。あれは世界に一つしかないものだから。考えるよりも先に体が動いていた。遥斗は彼女の手を掴むと教室から出て一目散に駆けていった。
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