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殴り合いと謹慎処分1
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真夜中になって、浩易は師匠の寝室をこっそり出た。
夢見心地で抱き合った後、二人ともしばらく眠ってしまったのだ。目が覚めてあわてて身支度をしていると任寛も目を覚ました。
「ごめんね。もっと早く帰すつもりだったのに。私の失敗だ」
「いえ、私が眠り込んでしまったのが悪いんです」
ゆったりした夜着を羽織った姿がしどけなくて、浩易は今さらながらどぎまぎした。この人と抱き合ったのか。
まるで夢みたいな出来事だった。
「気をつけて。夜は冷えるから」
「寮はすぐそこですから大丈夫です」
そっと扉を開けて、廊下に出た。満月には数日足りないが、夜空に月が上がっていてずいぶんと明るい。
急いで寮に戻ろうと足音を忍ばせて小走りに歩く。中庭に面した回廊に差し掛かったところで、
「こんな夜更けに何をしている?」
不意にかかった声に浩易は飛び上がった。
「何を驚いてる? こそこそしやがって」
椿の木を背にして、張巾が浩易を睨んでいた。
張巾の顔は赤くて、明らかに酒に酔っている。ろれつもあやしく、相当飲んでいるようだ。
「あなたこそ、こんなところで何をしているんですか?」
工房では職人見習いの夜間外出は禁じられているが、禁を破って酒を飲んできたらしい。こっそり戻って来たところで浩易を見かけたのだろう。
「夜間外出も飲酒も禁じられているはずですが」
「はっ。お前こそ、こんな夜更けまで師匠の部屋で何をしていた?」
出てくるところを見られていたのか。部屋からここまでつけてきた?
師匠に迷惑はかけられない。とっさに浩易が黙りこむと、張巾はにやりと下卑た笑いを浮かべた。
「やっぱり師匠をたぶらかしてたんだな、断袖野郎め。何も知りませんって顔して、裏では何をしでかしてるかわかったもんじゃねえ」
「違います」
余計なことを言うまいと短く否定する。
「何が違う? 師匠のひいきをいいことに好き放題しやがって」
「好き放題なんてしていません」
「してるだろ? 後から来たくせに自分は腕がいいんだって大きな顔で弟弟子を手なずけてるが、どんな手段を使ったんだか。体で落としたのか?」
張巾は浩易の言葉など聞く気はない。ずかずかと近づいてくると、両手でどんと浩易を突き飛ばした。
「何をする!」
木に背中を打ちつけて、浩易は息がつまった。
「何をするだと? お前のせいで俺は厄介者扱いだ、お前がすべて悪いんだ!」
興奮したのか張巾が大声を上げて喚きはじめる。
押したおされて腹を殴られた。身を縮める浩易に張巾が馬乗りになる。
「手を出せよ。指を折ってやる」
張巾は正気を失ったように浩易の腕を強引につかみ上げた。
「やめろ! 自分が何をしてるかわかってるのか?」
真っ赤な顔した張巾は浩易の手を握り潰そうとする。浩易はされまいと腕を振り回した。腹や背を殴られたが、指だけは死守しなければ。
揉みあいになっていると、灯火を持った家僕が駆けつけた。真夜中の中庭で大声で騒いでいるのだから当然だ。
「こんな夜中に一体、何の騒ぎだ!」
職人頭が一喝し、二人は家僕に拘束された。
夢見心地で抱き合った後、二人ともしばらく眠ってしまったのだ。目が覚めてあわてて身支度をしていると任寛も目を覚ました。
「ごめんね。もっと早く帰すつもりだったのに。私の失敗だ」
「いえ、私が眠り込んでしまったのが悪いんです」
ゆったりした夜着を羽織った姿がしどけなくて、浩易は今さらながらどぎまぎした。この人と抱き合ったのか。
まるで夢みたいな出来事だった。
「気をつけて。夜は冷えるから」
「寮はすぐそこですから大丈夫です」
そっと扉を開けて、廊下に出た。満月には数日足りないが、夜空に月が上がっていてずいぶんと明るい。
急いで寮に戻ろうと足音を忍ばせて小走りに歩く。中庭に面した回廊に差し掛かったところで、
「こんな夜更けに何をしている?」
不意にかかった声に浩易は飛び上がった。
「何を驚いてる? こそこそしやがって」
椿の木を背にして、張巾が浩易を睨んでいた。
張巾の顔は赤くて、明らかに酒に酔っている。ろれつもあやしく、相当飲んでいるようだ。
「あなたこそ、こんなところで何をしているんですか?」
工房では職人見習いの夜間外出は禁じられているが、禁を破って酒を飲んできたらしい。こっそり戻って来たところで浩易を見かけたのだろう。
「夜間外出も飲酒も禁じられているはずですが」
「はっ。お前こそ、こんな夜更けまで師匠の部屋で何をしていた?」
出てくるところを見られていたのか。部屋からここまでつけてきた?
師匠に迷惑はかけられない。とっさに浩易が黙りこむと、張巾はにやりと下卑た笑いを浮かべた。
「やっぱり師匠をたぶらかしてたんだな、断袖野郎め。何も知りませんって顔して、裏では何をしでかしてるかわかったもんじゃねえ」
「違います」
余計なことを言うまいと短く否定する。
「何が違う? 師匠のひいきをいいことに好き放題しやがって」
「好き放題なんてしていません」
「してるだろ? 後から来たくせに自分は腕がいいんだって大きな顔で弟弟子を手なずけてるが、どんな手段を使ったんだか。体で落としたのか?」
張巾は浩易の言葉など聞く気はない。ずかずかと近づいてくると、両手でどんと浩易を突き飛ばした。
「何をする!」
木に背中を打ちつけて、浩易は息がつまった。
「何をするだと? お前のせいで俺は厄介者扱いだ、お前がすべて悪いんだ!」
興奮したのか張巾が大声を上げて喚きはじめる。
押したおされて腹を殴られた。身を縮める浩易に張巾が馬乗りになる。
「手を出せよ。指を折ってやる」
張巾は正気を失ったように浩易の腕を強引につかみ上げた。
「やめろ! 自分が何をしてるかわかってるのか?」
真っ赤な顔した張巾は浩易の手を握り潰そうとする。浩易はされまいと腕を振り回した。腹や背を殴られたが、指だけは死守しなければ。
揉みあいになっていると、灯火を持った家僕が駆けつけた。真夜中の中庭で大声で騒いでいるのだから当然だ。
「こんな夜中に一体、何の騒ぎだ!」
職人頭が一喝し、二人は家僕に拘束された。
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見つけ次第削除いたします。
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