2 / 11
1-2
しおりを挟む
「ここがそうなんだ」
青年が香り高いコーヒーを出してくれた。
「ええ。ここにいらしたということは、お客様はあまり合わないパートナーに困っているのでは?」
「そうなんだ。最初はうまくいくんだけど、そのうち振られちゃうっていうか」
今日の出来事を思い出して、オレの怒りが再燃する。
「それなら理想の攻め様を試してみるのはいかがでしょう? 色々なタイプを揃えておりますよ。今なら昭和の薄幸青年、平成のインテリヤクザ、令和の料理男子などが人気です」
「へ、へえ?」
店主はピンと来ないオレの様子を見て、安心させるようにもう一度、ほほ笑んだ。
「一度、ご覧になりますか? お顔や体格の好みもあるでしょうから」
いや、いらない、と言う間もなく、自分の後ろの真紅のカーテンを音もなく開けた。
オレはずらりと並んだ攻め様を見て、息を飲んだ。こんなにたくさんの攻め様がいるとは思わなかった。攻め様の視線が集中して、オレは思わず一歩後ずさる。
服装も髪型も人種も様々な攻め様にはそれぞれプレートがついていて、年齢職業属性が書き込まれていた。昭和の亭主関白、平成の乙女男子、令和のチャラ男、各時代のスポーツマンに果ては北欧の王子様からアラブの石油王まで。
キラキラした攻め様たちを前に、オレは目を丸くしていた。
ていうか、とても現実とは思えない。
これ夢? 酔って幻覚見てんのかな? うん、きっと夢だな。
「どうでしょう、お好みに合う攻め様は見つかりましたか?」
「いや、好みも何も、オレには必要ないんだって」
首を横に振ったが、店主は「あの子が店にお招きしたということは、お客様には攻め様が必要だということなんです」とやわらかな口調で断定した。
なんだそりゃ。でもまあ、このわけのわからない感じは夢だからだな。
そうだ、どんな攻め様が理想の攻め様なのかちょっと勉強させてもらおう。
「お好みの攻め様は見つかりましたか?」
店主に再度訊かれて、単純に好みの顔を選んだ。どうせ夢なら、好きな顔がいい。
「じゃあ、そのグレーのスーツの人でお願いします」
スーツは野暮ったいが、すっきりした目元が好みだ。スレンダーな体つきもいい。オレよりすこし年上だろうか。
「かしこまりました。それではまず、基本の扱い方をご説明いたします。攻め様には属性によって一日に一杯、決まった飲み物を与えてください」
「飲み物って何ですか?」
「こちらで購入して頂くのですが、牛乳かコーヒーかビールが基本設定です」
「牛乳かコーヒーかビール? それで動くんですか?」
「ええ。オプション設定のワインやウィスキーという攻め様もいますが、今回は基本設定のビールですね」
その程度なら問題ない。
食事は基本は不要だが、食べても問題はないこと。シャワーや風呂は一人で入れること。まめに構って、愛情をこめて大切に扱うこと。
「一週間以内でしたら、無料で交換が可能です。ただし無料交換は二回までなので、それまでに理想の攻め様をお決めください」
つまり三人目までに決めろってことか。いや、必要ねーし。
「攻め様は大事に扱えば、どんどん理想の攻め様になっていきます。優しく愛情を注いで理想の攻め様を育ててください」
愛情を注いで育てる? 攻め様って子供みたいだな。
説明の間に、オレが選んだ攻め様がやってきた。
「このまま連れて帰っていいの?」
「ええ。攻め様をどう育てるかはあなたの腕次第ですから、どうぞお楽しみください」
そしてオレは、攻め様をお持ち帰りした。
ちょっと宣伝させてください!
以前連載していた『草原の貴種と香種の花嫁』をkindle電子書籍にします。
連載中は毎日更新にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
電子書籍化にあたって大好きな絵師様にとても美しい表紙を描いて頂いたので、
表紙だけでも見に来てください!!
もうね、本当に本当に素敵なんですーー!!!
上巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5TZ6LS3
下巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5T93981
それから、橘咲帆(くぴお)様主催の「誰にも言えない秘密BLアンソロジー」に
参加させていただきました。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5W3PV24
Kindle Unlimited 対象 無料キャンペーンは6/7から6/11まで!
この機会にぜひご覧ください!(^^)!
青年が香り高いコーヒーを出してくれた。
「ええ。ここにいらしたということは、お客様はあまり合わないパートナーに困っているのでは?」
「そうなんだ。最初はうまくいくんだけど、そのうち振られちゃうっていうか」
今日の出来事を思い出して、オレの怒りが再燃する。
「それなら理想の攻め様を試してみるのはいかがでしょう? 色々なタイプを揃えておりますよ。今なら昭和の薄幸青年、平成のインテリヤクザ、令和の料理男子などが人気です」
「へ、へえ?」
店主はピンと来ないオレの様子を見て、安心させるようにもう一度、ほほ笑んだ。
「一度、ご覧になりますか? お顔や体格の好みもあるでしょうから」
いや、いらない、と言う間もなく、自分の後ろの真紅のカーテンを音もなく開けた。
オレはずらりと並んだ攻め様を見て、息を飲んだ。こんなにたくさんの攻め様がいるとは思わなかった。攻め様の視線が集中して、オレは思わず一歩後ずさる。
服装も髪型も人種も様々な攻め様にはそれぞれプレートがついていて、年齢職業属性が書き込まれていた。昭和の亭主関白、平成の乙女男子、令和のチャラ男、各時代のスポーツマンに果ては北欧の王子様からアラブの石油王まで。
キラキラした攻め様たちを前に、オレは目を丸くしていた。
ていうか、とても現実とは思えない。
これ夢? 酔って幻覚見てんのかな? うん、きっと夢だな。
「どうでしょう、お好みに合う攻め様は見つかりましたか?」
「いや、好みも何も、オレには必要ないんだって」
首を横に振ったが、店主は「あの子が店にお招きしたということは、お客様には攻め様が必要だということなんです」とやわらかな口調で断定した。
なんだそりゃ。でもまあ、このわけのわからない感じは夢だからだな。
そうだ、どんな攻め様が理想の攻め様なのかちょっと勉強させてもらおう。
「お好みの攻め様は見つかりましたか?」
店主に再度訊かれて、単純に好みの顔を選んだ。どうせ夢なら、好きな顔がいい。
「じゃあ、そのグレーのスーツの人でお願いします」
スーツは野暮ったいが、すっきりした目元が好みだ。スレンダーな体つきもいい。オレよりすこし年上だろうか。
「かしこまりました。それではまず、基本の扱い方をご説明いたします。攻め様には属性によって一日に一杯、決まった飲み物を与えてください」
「飲み物って何ですか?」
「こちらで購入して頂くのですが、牛乳かコーヒーかビールが基本設定です」
「牛乳かコーヒーかビール? それで動くんですか?」
「ええ。オプション設定のワインやウィスキーという攻め様もいますが、今回は基本設定のビールですね」
その程度なら問題ない。
食事は基本は不要だが、食べても問題はないこと。シャワーや風呂は一人で入れること。まめに構って、愛情をこめて大切に扱うこと。
「一週間以内でしたら、無料で交換が可能です。ただし無料交換は二回までなので、それまでに理想の攻め様をお決めください」
つまり三人目までに決めろってことか。いや、必要ねーし。
「攻め様は大事に扱えば、どんどん理想の攻め様になっていきます。優しく愛情を注いで理想の攻め様を育ててください」
愛情を注いで育てる? 攻め様って子供みたいだな。
説明の間に、オレが選んだ攻め様がやってきた。
「このまま連れて帰っていいの?」
「ええ。攻め様をどう育てるかはあなたの腕次第ですから、どうぞお楽しみください」
そしてオレは、攻め様をお持ち帰りした。
ちょっと宣伝させてください!
以前連載していた『草原の貴種と香種の花嫁』をkindle電子書籍にします。
連載中は毎日更新にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
電子書籍化にあたって大好きな絵師様にとても美しい表紙を描いて頂いたので、
表紙だけでも見に来てください!!
もうね、本当に本当に素敵なんですーー!!!
上巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5TZ6LS3
下巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5T93981
それから、橘咲帆(くぴお)様主催の「誰にも言えない秘密BLアンソロジー」に
参加させていただきました。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5W3PV24
Kindle Unlimited 対象 無料キャンペーンは6/7から6/11まで!
この機会にぜひご覧ください!(^^)!
22
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
【完結】偽装結婚の代償〜リュシアン視点〜
伽羅
BL
リュシアンは従姉妹であるヴァネッサにプロポーズをした。
だが、それはお互いに恋愛感情からくるものではなく、利害が一致しただけの関係だった。
リュシアンの真の狙いとは…。
「偽装結婚の代償〜他に好きな人がいるのに結婚した私達〜」のリュシアン視点です。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる