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マンションに帰り、攻め様はオレの部屋を確かめて満足そうな顔をした。
「意外と部屋数があるな。手前の部屋は俺の仕事部屋によさそうだ」
先日まで居候の後輩が使っていた部屋は攻め様の部屋になった。
「じゃあ、名前をつけてくれ」
「ええと、健はどう?」
頭に浮かんだヤクザ映画の俳優の名前を言ってみた。
「健か、まあいいだろう。呼ぶのはオーナーだから、オーナーが呼びやすい名前がいい」
そういう視点で今まで名前をつけてなかったな。でもそれならこの面構えには健って音はすこし軽いかもしれない。
「ごめん、やっぱもうちょっと考えさせて。それとオレはセナでいいよ」
「ああ、ゆっくり考えればいい。セナとは末永く付き合うことになるからな」
「え?」
「俺が三人目だろう?」
その言葉を聞いて、オレはハッと目を瞬いた。
「無料交換は二回までだ。そう説明があったはずだが」
確かに聞いた。ということは、オレはこの「平成のインテリヤクザ」を理想の攻め様に選んじゃったのか?
青ざめるオレと対照的に、攻め様は明るい声で言った。
「大丈夫だ。セナの理想の攻め様になれるように努力は惜しまない」
「あ、ありがと」
どうすりゃいいんだ?
お試しだけのつもりだったのに。はっきり断れなかったオレが悪いのか? インテリヤクザがずっと家にいるという状況にオレは困惑する。
もちろん属性がインテリヤクザなだけで本物のやくざではないから、組織に属しているわけではないし暴力をふるうなんてこともなく、いたって穏やかでおとなしいのだが。
そして驚いたことに、本当にデイトレーダーとしては優秀だった。最初の資金だけは貸したのだが、最初の二日で回収して今は自分の金で稼いでいる。
飲み物はオプションのウィスキーだけど、これも自分の金で買っていて、確かに維持費がかからない。料理は琥珀ほどうまくないけど、一緒に飲むときの簡単なつまみくらいは作ってくれるし(ほとんどオレが食べる)、案外、会話も楽しい。
問題なのは、ベッドの上の関係だけだった。
攻め様はオーナーを慰撫する存在としてすり込まれていて、とにかく濃厚な愛撫と丁寧な抱き方をするので、オレはその快感に抵抗できなくなってしまう。
悔しい。自分がこんなに快楽に弱いなんて。オレはベッドに突っ伏してため息をつく。
違うんだよ、オレはすっきりした顔立ちのスレンダーな体格の子が好みなんだよ。そういう子を可愛がりたいんだよ。
そうわめいても、攻め様は「うんうん」とうなずきながら、オレをヘロヘロにして喘がせる。
ちくしょう、好みじゃないのにめちゃくちゃ気持ちいいってどういうことだ。オレは自分の体に歯噛みする。
「気持ちいいなら問題ないだろう?」
有名な映画監督から取って武志と名付けた攻め様は、ゆったりと笑うと「セナは愛されているほうがいいと思うぞ」とオレの髪を優しく撫でる。
うあー、違うんだ。オレが誰かにそうしてやりたいんだってば!
でも確かに攻め様に尽くされるのは気分がいい。誰かに愛されるという実感は気持ちに余裕をもたらした。
「最近、調子よさそうだね」
職場でもそんな声を掛けられる。不本意だが体調も気持ちも安定しているらしい。
「そもそもセナみたいなキレイ系の顔立ちで、これまでタチだったことのほうが不思議だが」
「迫られたことは何度もあるよ。でもちゃんと突っぱねて来たんだ」
「本当の自分をわかっていなかったんだな。ほら、ここが好きだろ?」
「あっ、いや、そこ触んなって」
含み笑いをした武志はオレの言葉なんて聞いちゃいない。
「攻め様はオーナーの言うことを聞くんだろ」
「ああ、もちろん。オーナーが日々、気持ちよく過ごせるようにな。ほら、セナ、どうしたいか言ってみろ」
長い指で中を連続で突かれて、オレは腰を跳ね上げた。とろとろとこぼれた体液でぬるぬるになった先端をぐりっと刺激され、背筋をびりびりと電流のような快感が駆け上がる。
「ああっ、だめ……っ、そこは、いやだ……ああっ」
強すぎる快感に思わず涙がこぼれた。
「セナ、言ってみろ、いいようにしてやるから」
優しい口ぶりになって武志がそそのかす。我慢も限界だったオレはぐっと腕をつかみながら口を開いた。
「もう……ちゃんと、しろよ」
「わかった。だから言っただろう、セナは愛されているほうがいいと」
熱くささやいた武志に貫かれて、オレは息も絶え絶えに絶頂まで連れていかれた。理想の攻め様との夜はまだまだ終わらないのだ。
完
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
初めはセナは受け設定でしたが、書いていくうちにやっぱ攻×攻がいいなと、いつもの性癖が出た話になりました。皆さまにも楽しんでいただければ幸いです。
こちらの作品を改稿して電子書籍で配信しました。
ぜひご覧くださいませm(__)m
「意外と部屋数があるな。手前の部屋は俺の仕事部屋によさそうだ」
先日まで居候の後輩が使っていた部屋は攻め様の部屋になった。
「じゃあ、名前をつけてくれ」
「ええと、健はどう?」
頭に浮かんだヤクザ映画の俳優の名前を言ってみた。
「健か、まあいいだろう。呼ぶのはオーナーだから、オーナーが呼びやすい名前がいい」
そういう視点で今まで名前をつけてなかったな。でもそれならこの面構えには健って音はすこし軽いかもしれない。
「ごめん、やっぱもうちょっと考えさせて。それとオレはセナでいいよ」
「ああ、ゆっくり考えればいい。セナとは末永く付き合うことになるからな」
「え?」
「俺が三人目だろう?」
その言葉を聞いて、オレはハッと目を瞬いた。
「無料交換は二回までだ。そう説明があったはずだが」
確かに聞いた。ということは、オレはこの「平成のインテリヤクザ」を理想の攻め様に選んじゃったのか?
青ざめるオレと対照的に、攻め様は明るい声で言った。
「大丈夫だ。セナの理想の攻め様になれるように努力は惜しまない」
「あ、ありがと」
どうすりゃいいんだ?
お試しだけのつもりだったのに。はっきり断れなかったオレが悪いのか? インテリヤクザがずっと家にいるという状況にオレは困惑する。
もちろん属性がインテリヤクザなだけで本物のやくざではないから、組織に属しているわけではないし暴力をふるうなんてこともなく、いたって穏やかでおとなしいのだが。
そして驚いたことに、本当にデイトレーダーとしては優秀だった。最初の資金だけは貸したのだが、最初の二日で回収して今は自分の金で稼いでいる。
飲み物はオプションのウィスキーだけど、これも自分の金で買っていて、確かに維持費がかからない。料理は琥珀ほどうまくないけど、一緒に飲むときの簡単なつまみくらいは作ってくれるし(ほとんどオレが食べる)、案外、会話も楽しい。
問題なのは、ベッドの上の関係だけだった。
攻め様はオーナーを慰撫する存在としてすり込まれていて、とにかく濃厚な愛撫と丁寧な抱き方をするので、オレはその快感に抵抗できなくなってしまう。
悔しい。自分がこんなに快楽に弱いなんて。オレはベッドに突っ伏してため息をつく。
違うんだよ、オレはすっきりした顔立ちのスレンダーな体格の子が好みなんだよ。そういう子を可愛がりたいんだよ。
そうわめいても、攻め様は「うんうん」とうなずきながら、オレをヘロヘロにして喘がせる。
ちくしょう、好みじゃないのにめちゃくちゃ気持ちいいってどういうことだ。オレは自分の体に歯噛みする。
「気持ちいいなら問題ないだろう?」
有名な映画監督から取って武志と名付けた攻め様は、ゆったりと笑うと「セナは愛されているほうがいいと思うぞ」とオレの髪を優しく撫でる。
うあー、違うんだ。オレが誰かにそうしてやりたいんだってば!
でも確かに攻め様に尽くされるのは気分がいい。誰かに愛されるという実感は気持ちに余裕をもたらした。
「最近、調子よさそうだね」
職場でもそんな声を掛けられる。不本意だが体調も気持ちも安定しているらしい。
「そもそもセナみたいなキレイ系の顔立ちで、これまでタチだったことのほうが不思議だが」
「迫られたことは何度もあるよ。でもちゃんと突っぱねて来たんだ」
「本当の自分をわかっていなかったんだな。ほら、ここが好きだろ?」
「あっ、いや、そこ触んなって」
含み笑いをした武志はオレの言葉なんて聞いちゃいない。
「攻め様はオーナーの言うことを聞くんだろ」
「ああ、もちろん。オーナーが日々、気持ちよく過ごせるようにな。ほら、セナ、どうしたいか言ってみろ」
長い指で中を連続で突かれて、オレは腰を跳ね上げた。とろとろとこぼれた体液でぬるぬるになった先端をぐりっと刺激され、背筋をびりびりと電流のような快感が駆け上がる。
「ああっ、だめ……っ、そこは、いやだ……ああっ」
強すぎる快感に思わず涙がこぼれた。
「セナ、言ってみろ、いいようにしてやるから」
優しい口ぶりになって武志がそそのかす。我慢も限界だったオレはぐっと腕をつかみながら口を開いた。
「もう……ちゃんと、しろよ」
「わかった。だから言っただろう、セナは愛されているほうがいいと」
熱くささやいた武志に貫かれて、オレは息も絶え絶えに絶頂まで連れていかれた。理想の攻め様との夜はまだまだ終わらないのだ。
完
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
初めはセナは受け設定でしたが、書いていくうちにやっぱ攻×攻がいいなと、いつもの性癖が出た話になりました。皆さまにも楽しんでいただければ幸いです。
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