座敷わらしのプテロ

ゆまは なお

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 庭からうるさいくらいの蝉の声が聞こえる。
 俺はドキドキしながら箪笥の影から廊下を覗いた。
 さらさらの髪を揺らして浴衣姿の少年がやってくる。きょろきょろと辺りを見回して俺を探している。そっと箪笥の影を出て隣りの和室に逃げたのに、反対側の襖から少年が入って来てにっこり笑った。

「敏明、みーつけた」
「見つかっちゃった。プテロはなんでそんなに探すのがうまいの?」
 プテロはふふっと笑う。
「敏明が好きだから」
「俺だってプテロが好きなのに」
 拗ねる俺の頬にプテロがキスをした。
「俺のほうがもっと好きだから」
「いいや、俺のほうが好きだ」
「じゃあ敏明と暮らしたいな。ずっと一人は寂しいもん」
 いつも一人で留守番していた俺は、プテロの寂しさがよくわかった。

「じゃあ大きくなったらプテロが住める大きな家を買う」
「それもいいけど、敏明がここに住めばいい」
「無理だよ、学校あるもん」
「そっか。大きくなったらここに住む?」
「どうかなあ。祖母ちゃんがいいよって言ったら住めるかも」
「じゃあ頼んでみてよ」
「わかった。プテロこそここで待ってろよ。よその家に行ったらダメだぞ」
「行かないよ。敏明とずっと一緒がいい」
「じゃあずっと一緒にいる。約束な」
 二人で指切りをする。
 指切ったと歌が終わると同時に目を覚ました。

 俺は布団の中にいて、寄り添うようにプテロが眠っていた。
 温かな体のしっかりした存在を感じる。
 約束ってあれか。
 端正な寝顔を眺めて悪かったなと思う。
 あんな子供の約束を信じて俺をずっと待っていたのに出て行けなんて言ってしまって。そう思いながらまた眠ってしまった。


 朝日が差して、目を覚ました。 
 プテロが優しい顔で見つめていてドキッとする。
 きまり悪くて目をそらしたら頬にキスされた。
「…腹減った」
「悪いが食べ物はないぞ」
「わかってる。俺の荷物は?」
「取ってくる」
 空腹で立ち上がるのも億劫で有難くプテロに任せた。後ろ姿でも力が満ちているのがわかる。

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