15 / 40
第9話 江戸の火消し~時空を超えた修学旅行
2.り組”の町火消
しおりを挟む
”あの火消しさん、かっこいい!”
テンション高めの私の耳に、火事を知らせる半鐘の鐘が鳴り響く。
辺りで一番高い屋根の上で、いなせなポーズをキメる町火消の青年。
♪芝で生まれて 神田で育ち
今じゃ 火消しの纏持ち ♪
彼が持つ纏に付いた、白い馬簾が風に棚引いている。
「へえ、ああいう”男気溢れた”のが、石井の好み?」
いつの間にか、村田が私の隣に来ていた。その横では、笹原がジオラマをのぞき込んでいる。
「好みも何も…… 馬っ鹿じゃないの。あんなちっちゃい人形なのに」
でも……わりと好きだったりして。
ナレーションまでが、江戸っ子風のいい声だ。
”『火事と喧嘩は江戸の華』と申しますが、 当時、江戸で起きた火事は約1800件。その対策として、隅田川の西の町に町火消の「いろは48組」と「本所・深川 16組」が設けられたのです”
村田が、それに解説を付け加える。
「”石井の心の恋人”は、”十番組、り組”の町火消だ。担当地域”は、今の”浅草”辺りだ」
「纏? それって、あの火消さんが持ってる棒のこと?」
「そう!今の俺は、消防の歴史のことなら何でも答えられるぞ! 纏っていうのは、各組のシンボルで、ああみえても、とても重い。だから、”纏持ち”っていうのは、腕力もあり、真っ先に現場に駆け付ける素早さ、ここ一番では、危険を顧みぬ度胸のよさを持ち合わした町火消の花形なのだ!」
「へえ、町火消の花形かぁ……」
……と、その時、
「ふぅん……で、こっちの街って何?」
ジオラマを見つめていた笹原が、火事現場の隣の街を指さして言った。江戸のジオラマの中で、そこだけが他から浮いていたからだ。門が一つある以外は、周りを堀で囲まれている。
「おお、そこは、江戸男子の”ユートピア”、吉原遊郭だ! 出入口が、吉原大門一つなのも、堀で囲まれているのも、遊女たちが外に逃げないようにするためだ」
「ユートピア? どういう意味だ?」
「えっと、”修学旅行中の中三”の俺の口からは言えんわ。……で、吉原遊郭は独自の火消組織を持ってたんで、町火消は吉原内の火災には手を貸せなかった。それもあってか、明歴の大火から幕末までの210年間に、吉原は23回も全焼している」
すると、ゆうちゃんが、話をむし返して来た。
「 遊郭っ……って、あの花魁《おいらん》がいる場所? 笹原が興味津々なのっ? うわぁ、意外!」
そのツッコミが妙にムカつく。
「ゆうちゃん、笹原は別に……。あれっ? あいつ、どこへ行ったの?」
姿を消してしまったクラスメート。すると、村田が屋外へ出る扉を指さして言った。
「隆太なら、屋外展示の防災ヘリを見に外へ出て行ったぞ」
「もうっ、私、外を見てくる!」
あんな変人なのに、いないと気持ちが落ち着かない。
その時、再び”アナウンスが始まった。
”火事でぃ、火事でぃ!”
火事を知らせる半鐘の音が、ジオラマの江戸の町に繰り返し鳴り響いていた。
テンション高めの私の耳に、火事を知らせる半鐘の鐘が鳴り響く。
辺りで一番高い屋根の上で、いなせなポーズをキメる町火消の青年。
♪芝で生まれて 神田で育ち
今じゃ 火消しの纏持ち ♪
彼が持つ纏に付いた、白い馬簾が風に棚引いている。
「へえ、ああいう”男気溢れた”のが、石井の好み?」
いつの間にか、村田が私の隣に来ていた。その横では、笹原がジオラマをのぞき込んでいる。
「好みも何も…… 馬っ鹿じゃないの。あんなちっちゃい人形なのに」
でも……わりと好きだったりして。
ナレーションまでが、江戸っ子風のいい声だ。
”『火事と喧嘩は江戸の華』と申しますが、 当時、江戸で起きた火事は約1800件。その対策として、隅田川の西の町に町火消の「いろは48組」と「本所・深川 16組」が設けられたのです”
村田が、それに解説を付け加える。
「”石井の心の恋人”は、”十番組、り組”の町火消だ。担当地域”は、今の”浅草”辺りだ」
「纏? それって、あの火消さんが持ってる棒のこと?」
「そう!今の俺は、消防の歴史のことなら何でも答えられるぞ! 纏っていうのは、各組のシンボルで、ああみえても、とても重い。だから、”纏持ち”っていうのは、腕力もあり、真っ先に現場に駆け付ける素早さ、ここ一番では、危険を顧みぬ度胸のよさを持ち合わした町火消の花形なのだ!」
「へえ、町火消の花形かぁ……」
……と、その時、
「ふぅん……で、こっちの街って何?」
ジオラマを見つめていた笹原が、火事現場の隣の街を指さして言った。江戸のジオラマの中で、そこだけが他から浮いていたからだ。門が一つある以外は、周りを堀で囲まれている。
「おお、そこは、江戸男子の”ユートピア”、吉原遊郭だ! 出入口が、吉原大門一つなのも、堀で囲まれているのも、遊女たちが外に逃げないようにするためだ」
「ユートピア? どういう意味だ?」
「えっと、”修学旅行中の中三”の俺の口からは言えんわ。……で、吉原遊郭は独自の火消組織を持ってたんで、町火消は吉原内の火災には手を貸せなかった。それもあってか、明歴の大火から幕末までの210年間に、吉原は23回も全焼している」
すると、ゆうちゃんが、話をむし返して来た。
「 遊郭っ……って、あの花魁《おいらん》がいる場所? 笹原が興味津々なのっ? うわぁ、意外!」
そのツッコミが妙にムカつく。
「ゆうちゃん、笹原は別に……。あれっ? あいつ、どこへ行ったの?」
姿を消してしまったクラスメート。すると、村田が屋外へ出る扉を指さして言った。
「隆太なら、屋外展示の防災ヘリを見に外へ出て行ったぞ」
「もうっ、私、外を見てくる!」
あんな変人なのに、いないと気持ちが落ち着かない。
その時、再び”アナウンスが始まった。
”火事でぃ、火事でぃ!”
火事を知らせる半鐘の音が、ジオラマの江戸の町に繰り返し鳴り響いていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
月の綺麗な夜に終わりゆく君と
石原唯人
恋愛
ある日、十七才の春に僕は病院で色のない少女と出会う。
それは、この場所で出会わなければ一生関わる事のなかった色のない彼女とモノクロな僕の
秘密の交流。
彼女との交流によって諦観でモノクロだった僕の世界は少しずつ色づき始める。
十七歳、大人でも子どもでもないトクベツな時間。
日常の無い二人は限られて時間の中で諦めていた当たり前の青春へと手を伸ばす。
不器用な僕らの織り成す物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる