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第10話 五色の短冊~七夕にて
1.夏休みのリクリエーション
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夏休みに入って2週間ほどが過ぎた8月。
私たち、三年一組のクラスで、1泊2日のレクリエーションの計画が持ち上がった。小・中・高一貫校である私たちの学校では、クラスメートのほとんどが系列の高校へ進学する。だから中三でも、時間に余裕があったからだ。
おまけに臨時担任の山下は、アウトドア活動にやたら詳しく、計画はあっという間に実行された。
「美夏ちゃん、早く早く! みんなもうバスに乗ってるよ!」
親友のゆうちゃんが、駅の集合場所で私を呼んでいる。
山下先生がチャーターしたこのバスは、自然に囲まれた学生向けのレクリエーション施設へ私たちを運んでくれる。そこでは、キャンプファイアーや星空観測もできるんだって。少しわくわくする。
バスの座席から後ろをふと見ると、クラスメートで眉目秀麗な少年がぐっすりと眠っている。
それは、”顔は良いが超変わり者”だと名を馳せている笹原隆太。
臨時担任の山下とクラスメートの村田は、この少年をすごく気に入っているみたいだけど……
そんな彼に目を留めたゆうちゃんが、
「笹原が来てるだなんて、山下先生と、村田は今回もしてやったりだね」
そう言ってほくそ笑んだ。
「まあね、七夕祭りのついでに流し素麺やるぞって、根回しばっちりだったもんね」と私が応じる。
クラスメートの間では『嫌いなものは学校活動、好きなものは学校給食』という謎のフレーズが彼の代名詞になりつつある。けれども、最近ではそのカテゴリーもだいぶ曖昧になってきた。
それでも、何かをするわけでもないのに、笹原がいてくれるだけで心が落ち着く。
市街地では猛暑で肌を刺すような熱気が充満していたが、バスが山道を登るにつれ涼しい風が吹き始めた。新緑から濃い緑に移り変わる森からの木漏れ日が眩しい。
ふと気になって私は隣のゆうちゃんに尋ねた。
「それにしても、七夕って7月じゃなかったっけ? 今は8月なのに何で七夕祭りなのよ?」
すると即座に後ろの座席の村田が身を乗り出し、
「旧暦では七夕は8月だからじゃねぇの? 仙台の七夕祭りも8月6日からだろ」
「仙台? もしかして、山下って宮城県出身?」と私。
「さあな。単に、課外活動と流し素麺がしたかっただけだったりして」
「うん、そんなとこだろうね」とゆうちゃん。
その時、笹原が目を覚ました。
「うるさいなぁ」
そう言うと、彼は「俺、腹減った」と、傍にあったリュックの中をごそごそと探り始めた。
「何だよ、村田のリュックにはおやつも入ってないのかよ」
「おいこら、人のリュックを勝手に開けるな!」
村田は慌てる。
「だってバスは退屈なんだ。あとどのくらいで流し素麺にたどり着くんだ?」
「……たどり着くのは流し素麺にじゃないけどな」
相変わらずの行動に呆れるばかりだが、単調な山道が続き、私も少し飽きてきた。すると村田が、
「よしっ、なぞなぞ、出すぞ!」
笹原が超変わり者なら、村田はそのミニ版のような性格だ。私の親友であるゆうちゃんが村田と付き合っているのが未だに信じられない。彼女曰く、『村田は人との向き合い方が真面目』だからなんだって。まあ、笹原への向き合い方を見る限りその真摯さは認めざるを得ないけれど。
「第一問! 奈良の大仏と鎌倉の大仏、どっちが先にたった?」
村田の得意げな声に、ゆうちゃんは首を傾げる。
「う~ん、建ったのってどっちが先だったかな。ヒントは?」
「そんなものはない!常識問題だぞ」と村田。
私は思わず笑ってしまう。なにこれ、小学生でも分かるじゃん。
「どちらも立っていませ~ん。大仏はいつも座っています」と私。
「ピンポーン、石井が正解!」村田の声が響く。
「はぁ? そういうこと? もうっ、美夏ちゃんに先を越された」と悔しそうなゆうちゃん。
笹原はぽかんとしたまま窓の外の景色を眺めている。あのね、考えなさいよ、ほんの少しでも。あのね、考えなさいよ、ほんの少しでも。
続けて村田が第2問を出す。
「1トンの鉄と1トンの紙、どちらが重い? ほらっ、隆太、答えてみろ」
すると、ゆうちゃんが、
「何度も騙されないわよ。同じ1トンだから重さは同じ!」
「あっ、俺は隆太に答えさせたかったのに」
「笹原はまた寝ちゃったわよ」
こんなやりとりが続き、やがてバスは目的地に到着した。
私たち、三年一組のクラスで、1泊2日のレクリエーションの計画が持ち上がった。小・中・高一貫校である私たちの学校では、クラスメートのほとんどが系列の高校へ進学する。だから中三でも、時間に余裕があったからだ。
おまけに臨時担任の山下は、アウトドア活動にやたら詳しく、計画はあっという間に実行された。
「美夏ちゃん、早く早く! みんなもうバスに乗ってるよ!」
親友のゆうちゃんが、駅の集合場所で私を呼んでいる。
山下先生がチャーターしたこのバスは、自然に囲まれた学生向けのレクリエーション施設へ私たちを運んでくれる。そこでは、キャンプファイアーや星空観測もできるんだって。少しわくわくする。
バスの座席から後ろをふと見ると、クラスメートで眉目秀麗な少年がぐっすりと眠っている。
それは、”顔は良いが超変わり者”だと名を馳せている笹原隆太。
臨時担任の山下とクラスメートの村田は、この少年をすごく気に入っているみたいだけど……
そんな彼に目を留めたゆうちゃんが、
「笹原が来てるだなんて、山下先生と、村田は今回もしてやったりだね」
そう言ってほくそ笑んだ。
「まあね、七夕祭りのついでに流し素麺やるぞって、根回しばっちりだったもんね」と私が応じる。
クラスメートの間では『嫌いなものは学校活動、好きなものは学校給食』という謎のフレーズが彼の代名詞になりつつある。けれども、最近ではそのカテゴリーもだいぶ曖昧になってきた。
それでも、何かをするわけでもないのに、笹原がいてくれるだけで心が落ち着く。
市街地では猛暑で肌を刺すような熱気が充満していたが、バスが山道を登るにつれ涼しい風が吹き始めた。新緑から濃い緑に移り変わる森からの木漏れ日が眩しい。
ふと気になって私は隣のゆうちゃんに尋ねた。
「それにしても、七夕って7月じゃなかったっけ? 今は8月なのに何で七夕祭りなのよ?」
すると即座に後ろの座席の村田が身を乗り出し、
「旧暦では七夕は8月だからじゃねぇの? 仙台の七夕祭りも8月6日からだろ」
「仙台? もしかして、山下って宮城県出身?」と私。
「さあな。単に、課外活動と流し素麺がしたかっただけだったりして」
「うん、そんなとこだろうね」とゆうちゃん。
その時、笹原が目を覚ました。
「うるさいなぁ」
そう言うと、彼は「俺、腹減った」と、傍にあったリュックの中をごそごそと探り始めた。
「何だよ、村田のリュックにはおやつも入ってないのかよ」
「おいこら、人のリュックを勝手に開けるな!」
村田は慌てる。
「だってバスは退屈なんだ。あとどのくらいで流し素麺にたどり着くんだ?」
「……たどり着くのは流し素麺にじゃないけどな」
相変わらずの行動に呆れるばかりだが、単調な山道が続き、私も少し飽きてきた。すると村田が、
「よしっ、なぞなぞ、出すぞ!」
笹原が超変わり者なら、村田はそのミニ版のような性格だ。私の親友であるゆうちゃんが村田と付き合っているのが未だに信じられない。彼女曰く、『村田は人との向き合い方が真面目』だからなんだって。まあ、笹原への向き合い方を見る限りその真摯さは認めざるを得ないけれど。
「第一問! 奈良の大仏と鎌倉の大仏、どっちが先にたった?」
村田の得意げな声に、ゆうちゃんは首を傾げる。
「う~ん、建ったのってどっちが先だったかな。ヒントは?」
「そんなものはない!常識問題だぞ」と村田。
私は思わず笑ってしまう。なにこれ、小学生でも分かるじゃん。
「どちらも立っていませ~ん。大仏はいつも座っています」と私。
「ピンポーン、石井が正解!」村田の声が響く。
「はぁ? そういうこと? もうっ、美夏ちゃんに先を越された」と悔しそうなゆうちゃん。
笹原はぽかんとしたまま窓の外の景色を眺めている。あのね、考えなさいよ、ほんの少しでも。あのね、考えなさいよ、ほんの少しでも。
続けて村田が第2問を出す。
「1トンの鉄と1トンの紙、どちらが重い? ほらっ、隆太、答えてみろ」
すると、ゆうちゃんが、
「何度も騙されないわよ。同じ1トンだから重さは同じ!」
「あっ、俺は隆太に答えさせたかったのに」
「笹原はまた寝ちゃったわよ」
こんなやりとりが続き、やがてバスは目的地に到着した。
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