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第11話 雨上がりのラブソング
1.日曜日のドラマ
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10月の初め、午後の三年一組の教室には、穏やかでのんびりとした空気が漂っていた。
中間試験も終わり、年内には特別なイベントもなかったので、休み時間は自然と趣味の話や、今流行している話題で盛り上がるようになっていた。
「ねぇ、美夏ちゃん、日曜日はついに最終回だよね、『レクイエム ~雨が愛を葬る』」
「うん、録画もしたけど、絶対にリアル視聴したいよね!」
今、学年の女の子たちの話題は、配信サイトで公開中のネットドラマ『レクイエム ~雨が愛を葬る』でもちきりだ。人気男性アイドルが主演を務めていることもあって、複雑に絡み合う人間関係、切ない恋、そして思わず息をのむどんでん返しが魅力で、みんな、日曜日が待ち遠しくてたまらない。
何を隠そう、私、石井美夏もそのドラマにどっぷりハマっている。
最終話の予告編には、裏切られた恋人を手にかけようと、ナイフを手に握りしめる主人公が映し出されていた。どしゃ降りの雨、愛と裏切り、そして悲しみ――私は乙女心をそのドラマにがっつりと鷲掴まれてしまっていた。
「思いとどまってほしいな……彼を慕って励ましていた幼なじみの女の子と、上手くゆかないかな」
私の願いは切実だった。なかでも一番、感情を揺さぶられるのは、あの幼なじみの女の子にだ。私の願いは切実だった。なかでも一番、感情を揺さぶられるのは、あの幼なじみの女の子にだ。どうして、あの子の健気な想いに主人公は気づいてあげないの?ううん、絶対に気づくべき!
だが、隣の席でゆうちゃんが、少し気まずそうに体をもぞもぞさせている。
「うーん、タイトルが『レクイエム~雨が愛を葬る』だからね、どう考えても、ハッピーエンドはなさそうじゃない? でもさ、バッドエンドの方が心に残るってこともあるし」
「えっ……もしかして、原作読んだの?」
「へへ、我慢できなくて、つい」
その一言で、私の目の前は真っ暗になってしまった。
――せめて最後には、主人公には彼女と幸せになって欲しかったのに。
はぁとため息をつく。仕方ないか。ドラマの出来はすごく良いし。
「ねぇ、ゆうちゃん、日曜日に私の家で、一緒に最終回を見ない? だって、一人で泣くのって嫌なんだもん」
「OK! 一緒に泣こうっ」
「配信は午後1時だから、それまでには家に来てねっ!」
そんなやり取りを、教室の後ろで白々と聞いていた男子二人。
「はぁ? 女どもの気持ちはさっぱりわからん。バッドエンドが嫌なら、最初から見なきゃいいのに。一緒に泣いて何が楽しいんだよ」と村田。
「それより、大事なのはこっちだ。この将棋のタイトル戦の方がよっぽどドラマあるぞ! ほら、隆太、この棋譜を見てみろよ!」
だが、スマホを覗き込みながら熱く語る村田の隣で、笹原隆太の興味といったら、
「おっ、将棋って“おやつタイム”っていうのがあるんだな! この『河豚最中』ってやつ、餡が零れそうで美味そう!」
どうやら、将棋よりもおやつに夢中なようだった。だが、ちらりと前の席に目を向けると、
「やっぱり、ハッピーエンドがいいよなぁ」
ぽつりとつぶやく笹原。
「えっ? 隆太、まさか、あのドラマ、観てるんか?」
と、村田はひどく驚く。スマホでさえも持っているところを見たことがない。その笹原隆太が、女子に人気沸騰の配信ドラマを見ているだと?!
そのとき、5時間目のチャイムが鳴った。笹原はおっと声をあげると、即座にがたんと席を立ち上がった。
「じゃ、給食も食ったし、俺、帰るわ」
「隆太ぁ~、お前自由すぎだろ!」
そんな彼を誰も止めない。むしろ、それが日常だった。多分、ここに先生たちがいたとしても、それは同じことだろう。
誰も気にしない。彼がどこに現れても、突然、消えてしまっても。まるで季節が移ろうみたいに、それを受け入れて、いつの間にか忘れてしまう。
笹原が教室を出ていくとき、ふとこちらをを振り返るのが分かった。さらりとした前髪から覗く目元が涼しげだった。私は、眉目秀麗な彼の容姿に一瞬、どきりとする。
私と視線が合うと、笹原はくすりと笑った。そして、風が通り抜けるみたいに教室から出ていってしまった。
中間試験も終わり、年内には特別なイベントもなかったので、休み時間は自然と趣味の話や、今流行している話題で盛り上がるようになっていた。
「ねぇ、美夏ちゃん、日曜日はついに最終回だよね、『レクイエム ~雨が愛を葬る』」
「うん、録画もしたけど、絶対にリアル視聴したいよね!」
今、学年の女の子たちの話題は、配信サイトで公開中のネットドラマ『レクイエム ~雨が愛を葬る』でもちきりだ。人気男性アイドルが主演を務めていることもあって、複雑に絡み合う人間関係、切ない恋、そして思わず息をのむどんでん返しが魅力で、みんな、日曜日が待ち遠しくてたまらない。
何を隠そう、私、石井美夏もそのドラマにどっぷりハマっている。
最終話の予告編には、裏切られた恋人を手にかけようと、ナイフを手に握りしめる主人公が映し出されていた。どしゃ降りの雨、愛と裏切り、そして悲しみ――私は乙女心をそのドラマにがっつりと鷲掴まれてしまっていた。
「思いとどまってほしいな……彼を慕って励ましていた幼なじみの女の子と、上手くゆかないかな」
私の願いは切実だった。なかでも一番、感情を揺さぶられるのは、あの幼なじみの女の子にだ。私の願いは切実だった。なかでも一番、感情を揺さぶられるのは、あの幼なじみの女の子にだ。どうして、あの子の健気な想いに主人公は気づいてあげないの?ううん、絶対に気づくべき!
だが、隣の席でゆうちゃんが、少し気まずそうに体をもぞもぞさせている。
「うーん、タイトルが『レクイエム~雨が愛を葬る』だからね、どう考えても、ハッピーエンドはなさそうじゃない? でもさ、バッドエンドの方が心に残るってこともあるし」
「えっ……もしかして、原作読んだの?」
「へへ、我慢できなくて、つい」
その一言で、私の目の前は真っ暗になってしまった。
――せめて最後には、主人公には彼女と幸せになって欲しかったのに。
はぁとため息をつく。仕方ないか。ドラマの出来はすごく良いし。
「ねぇ、ゆうちゃん、日曜日に私の家で、一緒に最終回を見ない? だって、一人で泣くのって嫌なんだもん」
「OK! 一緒に泣こうっ」
「配信は午後1時だから、それまでには家に来てねっ!」
そんなやり取りを、教室の後ろで白々と聞いていた男子二人。
「はぁ? 女どもの気持ちはさっぱりわからん。バッドエンドが嫌なら、最初から見なきゃいいのに。一緒に泣いて何が楽しいんだよ」と村田。
「それより、大事なのはこっちだ。この将棋のタイトル戦の方がよっぽどドラマあるぞ! ほら、隆太、この棋譜を見てみろよ!」
だが、スマホを覗き込みながら熱く語る村田の隣で、笹原隆太の興味といったら、
「おっ、将棋って“おやつタイム”っていうのがあるんだな! この『河豚最中』ってやつ、餡が零れそうで美味そう!」
どうやら、将棋よりもおやつに夢中なようだった。だが、ちらりと前の席に目を向けると、
「やっぱり、ハッピーエンドがいいよなぁ」
ぽつりとつぶやく笹原。
「えっ? 隆太、まさか、あのドラマ、観てるんか?」
と、村田はひどく驚く。スマホでさえも持っているところを見たことがない。その笹原隆太が、女子に人気沸騰の配信ドラマを見ているだと?!
そのとき、5時間目のチャイムが鳴った。笹原はおっと声をあげると、即座にがたんと席を立ち上がった。
「じゃ、給食も食ったし、俺、帰るわ」
「隆太ぁ~、お前自由すぎだろ!」
そんな彼を誰も止めない。むしろ、それが日常だった。多分、ここに先生たちがいたとしても、それは同じことだろう。
誰も気にしない。彼がどこに現れても、突然、消えてしまっても。まるで季節が移ろうみたいに、それを受け入れて、いつの間にか忘れてしまう。
笹原が教室を出ていくとき、ふとこちらをを振り返るのが分かった。さらりとした前髪から覗く目元が涼しげだった。私は、眉目秀麗な彼の容姿に一瞬、どきりとする。
私と視線が合うと、笹原はくすりと笑った。そして、風が通り抜けるみたいに教室から出ていってしまった。
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