君に捧ぐ最後の時間

卯月終

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君に捧ぐ最後の時間

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「頑張れーー」
「頑張れ、頑張ってーー」

賑やかな、そしてさわがしい声がする。
うるさいなぁ、なんの騒ぎだよ。
そう思い閉じていた目を開く。

「なんだよ、これ」
俺はなんで、ここにいる?ここは十年前の記憶か?
そうま、とう? 俺は死んだのか?

「おはよう、お目覚めかな?霧島柚きりしまゆずくん?」
「お前、誰だ?」
「わぉ、第一声がそれかー、口悪いとか言われない?」
「そうか?見知らぬ相手が自分の名前を知っていたら誰だって驚きだろ」
しかも、宙に浮いているし。おまけに偉そうなんだよな。足組んでるし。

「そっか……」
なんで悲しそうなんだ? 打たれ弱いのか?
「まぁ、いいや、僕は神だよー。よろしく」
「はぁ? ふざけるな」
思わず声に出ていた。
「えー、冷たいなー」
その後も「冗談が通じないなぁ」とか「つまんないなぁ」とか文句を言われたが、いきなり目の前の存在が神とか言いだしたらこんな反応するはめになっているんだろうが。
「まぁ、ちゃんとした自己紹介するねー、詩季玲菜しきれいな、こんな名前してるけど男だよー」

「これ、俺もしたほうがいいのか?」
「まぁ、せっかくだし」
「霧島柚。男女どっちでも使う名前だよな」
「そうだね。なら、『青春』を青春らしい日を過ごしてね」

「って何だよこれ!?」
「おはよ、柚」
「おー、起きたのか」
「よく寝てたねー、ユズユズ」
これが、青春?何で、椅子の下に魔法陣かいてるんだよ?
「あーー、消しちゃダメだよ」
「そうそう、せっかくかいたんだからね」
「何やってるんだ?」
「先生、ひどいとーー」
「先生、すごいでしょ」
俺の一言は突然現れた自称神の一言でかき消された。
「あぁ、すごいな。楽しそうで何より」
何言ってんだよ、あの教師。俺は楽しんでなんか……
「自分の心に正直に生きようねー、柚くん?」
何言って、そういう前に口を塞がれた。
「君は死んでるんだよ。いつまでこの仮初めの日々を過ごせるか分からないんだよ。楽しまなきゃ、成仏できないよ」
だから、ね、そう言って自称神は俺の手を引っ張る。
「写真、撮りに行こうよ」
「写真」
意味がわからず聞き返す。
「青春の一枚だよ、あ、そうだその前に……」
自称神は俺のはちまきを奪い首に巻き直す。
「動かないで」
やけに真剣で、まるで目の前に銃があって、それが自分に向けられているかのように動けなかった。
「はい、出来たから目、開けてよ。まさか寝てるーー?」
いつの間にか閉じていた目を開ける。
「ネクタイ?」
「そうそう、大正解。今流行りのネクタイだよ。これで君もネクタイ族の一員だよ」
「お前はしないのか?」
「ん?あぁ、えっとね、不器用で自分のは上手くできなくて」
恥ずかしそうに自称神は目を逸らす。
「貸せよ」
見よう見まねで自称神の首にはちまきを巻く。
「上手いねー」
「よく不器用な友人の手伝いしてたからな」
「へー、良いお父さんだね」
「誰が父親だ」
「お母さんの方が良かった?」
「良くない」
こんな言い合いが楽しくて、笑いそうになるのを抑える。
「お前ら、二人で楽しんでじゃねぇ」
「俺らも混ぜろよな」
男子同士のノリにはやっぱりまだ慣れないな。

『次はプログラム四番、借り物競走です』
「柚、行くよ!」
「えっ、俺出るなんて聞いてないんだが」
「何言ってるの、柚も出るんだよ。一人一つは出なきゃいけないんだからね」
自称神に手を引かれ運動場の真ん中に行く。
「俺、第一走者かよ」
その場にいたクラスメイト全員が頷く。
『位置について、よーい、ドン』
銃声が響くと同時に、目の前のお題に手を伸ばす。お題は『プログラムの紙』だった。
どうしたらいい。俺はプログラムを持っていないし、自称神は持っていたとしても、今手元にないだろう。
「どうしたの、柚?」
いつの間にか、真後ろに自称神がいた。
「誰か、プログラム持ってないー」
そう言って、テントの方に自称神は走る。
「ありがとっ」
そして、すぐに戻ってきた。
「ほら、柚。さっさと走る」
自称神はプログラムを俺に押し付けて、自分の持ち場に戻る。
「走りゃいいんだろ、走れば」
久々の全力疾走。まだ、借り物競走で良かったと思う。順位は、五クラス中三位。なんとも言えない結果だった。テントに戻ると、
「お疲れ様」
「惜しかったな」
と声をかけてくれる。こんな時なんて返せばいいのか分からなくて顔を伏せる。
「柚ー、ちょっと来てー」
自称神がいきなりテントに現れる。なんで毎回、唐突なんだよ。
「早く!走るよ!」
おまけに毎回、手を引っ張られるし。
「なんで、毎回のように俺を呼ぶんだよ」
「だって、柚が必要なんだもん」
「必要って何で」
「内緒」
自称神は一番でゴールをした。
「やったね、柚」
自称神は『親友』と書かれている紙を元あった場所に戻す。
「これは、柚には絶対に言わない」
柚には聞こえないようにそう呟く。

「写真、撮るよ」
「また、撮るのか」
驚きと呆れを滲ませながら、苦情を申し立てる。
「えー、いいじゃん」
「ユズユズ、はちまき貸ーしーて!」
お前、誰だよ。そう言いそうになるのを必死の抑える。
「幸#__ゆき__#くんだよ」
隣にいた自称神がそっと耳打ちをしてきた。どっかで聞いたことあるような無いような名前だな。
「何作っているんだ?」
「えっとねー、猫耳」
「猫耳!?」
「そう、猫耳。出来たからユズユズ着けて」
半ば強引に頭の上に乗せられる。
「似合うね、さすが柚」
「『さすが柚』じゃ無いんだよ、お前は」
「お前じゃなくて玲菜だよ。あっ、もしかして忘っちゃたのー?」
「そんなわけないだろ」
「なら、名前で呼んでよ。だって覚えているんでしょ」
自称神が口元に笑みを浮かべてこちらを見ている。嵌められたな。
「分かったよ。呼べば良いんだろ。玲菜」
「わーい。柚、大好き」
「わお、ラブラブだね」
「何で男同士でラブロマンスするんだよ」
「ナイスツッコミ」
「写真、撮らないんですか?」
いつの間にか、玲菜のカメラを持っている少年がそう尋ねてくる。
「あっ、ごめん、はる
「二人とも並んで」
「いきますよ、ハイ、チーズ」
撮れた写真を見せてもらう。猫耳をつけた俺とネクタイを巻いた幸と玲菜。何で、俺だけ……

「幸、玲菜、はちまき貸せ」
幸のはちまきを結んで、うさ耳を作る。玲菜のはちまきはくま耳にする。俺がはちまきを結んでいる間に玲菜が説明をしてくれた。幸と春は双子の兄弟で、その兄がである夏(なつ)ということと、担任の紅羽(くれは)先生はノリがいい先生だということ。そしてここは男子校で教師も全員男性であるという珍しい学校であるということも教えてくれた。

「悪い、春、もう一枚撮ってもらえるか?」
「構いませんよ」
両手で耳を塞いで写真を撮った。
「楽しいな」
「なら、良かった」
隣に来て、玲菜が言う。
『十五分の休憩を挟みます』
放送がなった。

「玲菜、こっち来い」
校舎裏まで玲菜を連れて走る。
「どうしたの? 柚」
「どうしたって、お前は一体何者だ?」
「何者って。僕は神、詩季玲菜だよ」
「こんなに胡散臭い神がいてたまるかよ」
俺は吐き捨てるように言う。
「はぁ、面倒くさいな。知らない方が幸せなこともあるのに。柚は馬鹿なのかなぁ」
前髪を上げながら自称神は話す。これがこいつの素。
「改めまして、僕は死神。君の魂を狩る存在だよ」
「しに、がみ」
その言葉を心の中で何度も繰り返す。死神って、あの鎌を片手に持っている存在だよな。目の前の存在はただの美少年にしか見えないが、こいつが死神。信じられないことのはずなのに妙に納得がいっている自分がいる。
「あぁ、余計なことを言ったり、僕のことをどうにかしようとしたら直ぐに魂を戴くからね」
絶対余計なことは言うなよ、と玲菜は念を押してくる。俺は、もう一つの疑問を口にすることにした。
「この世界は何なんだ」
俺にあんなに沢山の仲の良いクラスメイトは居ない。
「この世界は、君の最後の願いを叶えるために君の記憶をもとにして作り出した、擬似世界だよ。モデルは学校の体育祭。一番『青春』が楽しめそうな行事でしょ」
「そんなことをしてお前に何の得がーー」
『休憩時間は終わりです、続きを始めます』
「あっ、戻らなきゃだよ、柚」
俺の言葉は休憩の終わりを告げる放送に遮られた。
「親友と平和で幸せな日常過ごしたかったからだよ」
死神の一言は誰にも届かず空に消えていく。

「あー、帰ってきた」
「告白の結果は?どうだったの?」
「こ、告白!?」
意味が分からず問い返す。
「えー、知らないの?体育祭の日に校舎裏に手を引いて連れてって二人きりっていうのは告白って相場が決まっているんだよ」
「告白なんかじゃねえよ。だよな、玲菜」
「えー、どうだろうね」
「玲菜さん」
えへへと玲菜は笑う。

「あっ、ダンス始まるよ。先生探しに行こうよ」
「そうだね、行こう」
「柚も行こう」
玲菜が手を伸ばしてくる。当たり前のようにその手を取る。
「なんで、走ってるんだ?」
「特に理由は「「無い!」」」
その場にいた全員が声を合わせて言う。

なんか青春みたい。誰かがそう言った。それに応えるように、当たり前だよ、青春だ。と誰かが言った。
「あぁ、幸せだな」
「そっか、それなら良かった」
そう言った玲菜に桜の花のペンダントを渡された。
「大事にしてね」
玲菜はそう告げて、先生を探すためにさらに走る。それをみんなで追いかけた。

先生のダンスをみんなで見てテントに戻る時に世界が暗転した。
「な、何事だ」
「青い春の終わりの時間だよ」
「思ったより早いな」
俺は泣いていた。俺の何倍も何十倍も泣きながら玲菜は鎌を振り下ろした。
「さようなら。哀れな死神」
最後に聞こえたのはその言葉。

「柚の馬鹿、ばか、ばかーー」
玲菜はもう誰もいない空間に向かって叫ぶ。泣き崩れて力が入らなくなって、それでも親友の名前を叫び続ける。幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた死神の仲間であり親友の名前を。

パチパチパチパチ。先程まで、誰もいなかった空間に手と手が生みだす音が響き渡る。
「お疲れ様です。詩季様。詩季家の次期当主様なだけはある。人間の双子とその兄、そしてその三人を庇い死ぬはずだった三人の気学校の教師を救うために人と関わってはならないと規律を犯したあの愚か者とは大違いで」
「お前か。俺は別に、疲れてなどいない」
ただ、悲しいだけだ。

まぁ、良い。こいつが来る前に、涙も空間も全てを消した。誰にもバレないように。あのペンダントがあれば、あいつは柚は人として幸せな日々を送れるはずだ。

親友に捧ぐ、最初で最後の贈り物。
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