1 / 9
好きだった君はもういない
しおりを挟む
「ーー僕は君に隠していた事があるんだ。隠し事は最後まで内緒にさせてね」
そう言って、彼は私の前から消えた。
◇◇◇
ここは、マンション屋上。
なんで雨が降る日にこんな場所にいたのか。それは今となってはわからない。
彼はここから姿を消した。私の目の前で飛び降りたのだ。
慌てて、かけよる。あまりもの高さによろけかけるが、なんとか堪えて下を見た。
そこには何もなかった。否、何も見えなかった、という方が正しいだろう。
人が見るには高すぎたのだ。千里眼の持ち主でもない限りこの高さは見えない。
「これが最後。じゃあまた……地獄ででも会おうか」
それが彼の口癖だった。
彼は落ちたのか。それとも堕ちたのか。生きているというありえない答えを求めて私は屋上の扉を開け、かけおりた。
足の感覚がなくなるほど長い階段をおり、たどりついた先にケラケラと笑う彼はいた。
「そんなに僕の秘密知りたかった?」
目の前にいるこの人は誰?
彼はこんな笑い方はしない。彼は…………眼鏡もかけていないし、髪だって短くて。
これじゃあまるで、彼からよく聞いていた双子のーー
目の前の何者かを睨んでいると、後ろからコツンコツンという足音が聞こえてきた。
後ろを向こうと、体を捻った瞬間ぐらりと視界が歪み、私はその場に崩れおちた。
◇◇◇
「……ごめんね。君を巻き込んで」
いつもみたいに君のサラサラの髪を撫でる。
僕が人だったら、ずっと一緒にいれたのかな。
君が悪い子だったら、向こう側に連れて行けたのかな。
「にーいさん! 人間のことなんて早く忘れて僕たちは僕たちのいるべき世界に帰ろう。逢魔時に現世と幽世が交わるなんて幻想、信じても辛くなるだけだよ。それとも、この人間僕が食べちゃおっか?」
「いや、良い。この子に手を出したら僕だって黙ってはいない。
君は僕の事を忘れて、人として生きたら良い。本来、僕たちの生きる世界は交わってはいけないんだ」
そう、君に会えたのはただの奇跡だったんだ。
だからもう会えない。どうかずっと幸せで。
もう二度とこちら側に踏み込んだらだめだよ。陰陽師なんて目指さなくて良いから……平和な世界に君は生きて。
「正真正銘これが最後。じゃあまた……地獄ででも会おうか」
絶対にあんな場所で会いたくないけどね。
嗚呼、雨と一緒に君のことも忘れてしまいたかった。
そう言って、彼は私の前から消えた。
◇◇◇
ここは、マンション屋上。
なんで雨が降る日にこんな場所にいたのか。それは今となってはわからない。
彼はここから姿を消した。私の目の前で飛び降りたのだ。
慌てて、かけよる。あまりもの高さによろけかけるが、なんとか堪えて下を見た。
そこには何もなかった。否、何も見えなかった、という方が正しいだろう。
人が見るには高すぎたのだ。千里眼の持ち主でもない限りこの高さは見えない。
「これが最後。じゃあまた……地獄ででも会おうか」
それが彼の口癖だった。
彼は落ちたのか。それとも堕ちたのか。生きているというありえない答えを求めて私は屋上の扉を開け、かけおりた。
足の感覚がなくなるほど長い階段をおり、たどりついた先にケラケラと笑う彼はいた。
「そんなに僕の秘密知りたかった?」
目の前にいるこの人は誰?
彼はこんな笑い方はしない。彼は…………眼鏡もかけていないし、髪だって短くて。
これじゃあまるで、彼からよく聞いていた双子のーー
目の前の何者かを睨んでいると、後ろからコツンコツンという足音が聞こえてきた。
後ろを向こうと、体を捻った瞬間ぐらりと視界が歪み、私はその場に崩れおちた。
◇◇◇
「……ごめんね。君を巻き込んで」
いつもみたいに君のサラサラの髪を撫でる。
僕が人だったら、ずっと一緒にいれたのかな。
君が悪い子だったら、向こう側に連れて行けたのかな。
「にーいさん! 人間のことなんて早く忘れて僕たちは僕たちのいるべき世界に帰ろう。逢魔時に現世と幽世が交わるなんて幻想、信じても辛くなるだけだよ。それとも、この人間僕が食べちゃおっか?」
「いや、良い。この子に手を出したら僕だって黙ってはいない。
君は僕の事を忘れて、人として生きたら良い。本来、僕たちの生きる世界は交わってはいけないんだ」
そう、君に会えたのはただの奇跡だったんだ。
だからもう会えない。どうかずっと幸せで。
もう二度とこちら側に踏み込んだらだめだよ。陰陽師なんて目指さなくて良いから……平和な世界に君は生きて。
「正真正銘これが最後。じゃあまた……地獄ででも会おうか」
絶対にあんな場所で会いたくないけどね。
嗚呼、雨と一緒に君のことも忘れてしまいたかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する
青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。
両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。
母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。
リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。
マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。
すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。
修道院で聖女様に覚醒して……
大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが
マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない
完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく
今回も短編です
誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる