悲恋?甘い恋?叶わぬ恋?貴方は何が好き?

卯月終

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世界崩壊ーー秒前

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この世界が壊れて消えるまでに私は彼を探さなければならない。
私の初恋の人で、お姉ちゃんの恋人である彼を。
 
 
ことの発端は、彼が姉と喧嘩をしたことだった。
喧嘩の理由は単純。姉が大事にしていたお菓子を間違えて食べてしまったことだった。
彼は知らなくて当たり前だろう。姉は何も伝えていなかったからだ。
彼はすぐに謝った。
それでも姉は怒っていた。
「食べ物の恨みは恐い」というやつだ。
「大っ嫌い」
それが最後に聞いた姉の言葉だった。
姉は死んだ。
涙が出ないほどに唐突で、感情の整理がつかないほど信じられない出来事だった。
家の前の道路にいきなり、車が突っ込んできたのだ。
あたりには血液が飛び散り、姉は跳ね飛ばされた。
気づいたら私の視界は歪んでいって。
 
 
「こんな世界いらない」
それが私が気を失う前に聞いた、彼の言葉だった。
 
 
 
 
「世界崩壊まで――秒。我々は世界を滅ぼす。我々は世界を許さない。我々の大切な人を奪ったこの世界を許さない」
なんで、彼が画面の中にいるの?
この世界を許さない?
どういうこと?
お姉ちゃんが死んだのはただの交通事故じゃない。
運転者が悪い。
歩行者を無視して家のほうに突っ込んできた、運転者の責任ではないか。
 
「――世界崩壊を止めたければ、我々を倒せばいい」
その言葉に反応するかの如く、あたりは賑やかになった。
世界崩壊を止めるため、悪を倒すため、そう言って武器を手に皆は立ち上がった。
私も誘われた。一緒に世界崩壊を止める英雄にならないかと。
私は断った。
体調がすぐれないから、と嘘をついて。
私は、彼が好きだった。
私は、姉が好きだった。
私は、二人のことが大好きだった。
両親は早くに事故で無くし、辛いはずなのに私の面倒を嫌な顔一つせず見てくれたお姉ちゃん。
そんな面倒見の良い姉に惚れて付き合い始めた彼。
彼が姉に惚れるよりも先に、私は彼を好きになっていた。
でも、そんな感情には蓋をした。
私は姉の幸せな顔が見たかった。
私は姉に笑っていてほしかった。
 
「お姉ちゃん」
そう呟いても優しく頭を撫でてくれる姉はいない。
会いたい、会いたいよ。
そんな我侭を心の奥底に閉じ込めて、私は病室を抜け出す。
医療機関もまともに機能しなくなって、抜けだしても咎める人はいなかった。
「今、会いに行く」
彼に会って、彼を止める。
世界崩壊に意味はないのだって、彼を止める。
たとえ、この世界が箱庭だとしても、たとえ、この世界が壊れたらまた世界が始まるとしても。
そこに私が望む世界はないから。
――そこにいるのは私じゃない私
――そこにあるのは違う運命
世界を再生するために、世界を滅ぼすなんて許されたことじゃないのだ。
どれだけ辛くても、どれだけ悲しくても、私たちには明日がある。
明日を奪われた人の為に?
――そんなのはただのエゴ
私たちには生きる権利がある。生きる義務がある。
貴方は知らないでしょう。
姉の最後の言葉を。
だから、私は貴方に伝えましょう。
 
「笑って」
 
それがお姉ちゃんの最後の言葉。
彼は笑っていなかった。
彼は泣いていた。
狂気に満ちた偽物の笑みを浮かべ、自分が悪役になろうとした。
私にはそう見えた。
だから、私は彼を止めたい。
「世界崩壊まで、あと――秒」
うるさいほどに鐘が鳴り響く。
待って、まだ待って、私は貴方に会いに行く。
 
 
「何しているんだ?」
「やっと追いついた、私は貴方に世界を壊させない」
「もう世界は崩壊の道へ足を踏み出した。もう無駄だ」
「無駄じゃない! 私は貴方を止めるためにここまで来た」
「そうか。だがもうカウントダウンが始まる」
 
一呼吸おいて彼は口を開いた。
「世界崩壊5秒前」
「私は貴方が好きでした」
「世界崩壊4秒前」
「姉は貴方を愛していました」
「世界崩壊3秒前」
「私たちはこの世界が大好きです」
「世界崩壊2秒前」
「私たちから明日を奪わないで」
「世界崩壊1秒前」
「さようなら」
私は手に持ったナイフを自分の首にあてがった。
これが私の出した答え。
「貴方は笑って。私たちがいない世界でも一人笑って生きてね。さようなら」
私はナイフを横に引いた。
あの時を同じようにあたりには血が飛び散った。
最後に映ったのは彼の泣きそうな笑顔だった。
そう、それで正解。
 
 
「待ってよ、お姉ちゃん。私のあげるから」
世界はまた始まった。
今度は姉の死を防いだ。
世界のループ条件は彼の心からの笑顔。
私には彼を笑わせられない、そうして一度はあきらめた、彼の隣。
今度はもう、諦めない。
たとえ、相手がお姉ちゃんだとしても私は譲らない。
 
 
 
「世界崩壊まであと86400秒」
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