閉鎖病棟にいるということ

中原英果

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閉鎖病棟の窓際で

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 病棟の窓から見る外の景色は、特に風情がある訳ではない。別棟のカンファレンス室とただの木々。もっと癒されるような景色だといいのに。

 わたしは今、外がどのくらい暑いのか知らない。

 そういえば先に退院していったあいつとの会話を思い出す。

「あそこ(カンファレンス室の扉の前)に傘立てがあります。あれを見て何を思いますか?」

「…特に何も」(わたし)

「残念。あれには改善の余地があります。隣のカンファレンス室の前の傘立てには仕切りがあって、傘がばらばらにならないようにしてあります。あの傘立てにも仕切りがあるといいと思いませんか?」

「…」

(ちなみに彼は本当にこんな風な口調で話した)

 
 思い出すにはあまりに内容の無い会話だった。そして今、ふとあの傘立てを見ると、なんと仕切りがついていたのだ!あいつは預言者か何かだったのだろうか。元気でやってるといいなあ。

 そんなことを考えることしか今のわたしにはできないのだと、改めて気付かされる。

 
 傘立ての前でセミが死んでいる。

 わたしは、外の気温も、木々を撫でる風もその行方も、太陽の眩しさも、外の空気の匂いや心地良さも、知れないのだ。


 病棟内の換気扇の音やせわしいナースの様子や患者の叫び声などにはもう飽きた。


 逃げ出してしまいたいとは思わない。

 ただわたしには、まだ知らないことがたくさんある気がして、窓の開かない閉鎖病棟の窓際で、思いを馳せてしまうのだ。
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