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第一章〜ファーストフィル〜
第四話「フレーバードウオッカ」
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行商人の兄妹と夜更けまで、とことん自家製ウイスキーを楽しんだ。そして、翌日。エルフの兄妹達は、頭を抱えていた。特にリンランディアの方は酷い二日酔いだった。ウオッカとウイスキーを交互に飲んでいた為、無理もない。アリエルは、多少頭痛がするもののそこまで酷くはなさそうだ。そんな二人を見て、改めて俺の肝臓の強さを再確認した。
そして、昨日は商談もそこそこに飲み会に突入してしまった。その為商談を再開しようとしていた、リンランディアは馬車から何やら大きな宝箱を持ってきて、床に置いた。彼はその箱を開けると俺にこう言い放った。
「ショウゴさん、私にあなたの酒を売れるだけ売ってください。代金は、ここからいくらでも払います。」
「な?!正気ですか?」
「正気も正気です。久々に、行商人としての血が騒いでいます。あなたの酒はまさに黄金の水と言えるでしょう。言い値で構いません。貴方のお酒を売ってください。必ずや、このリンランディア。魂にかけて、貴方の酒を有名にしてご覧に入れます!」
彼が持って来た箱は、金貨や銀貨がびっしりと入った宝の山だった。彼は俺の酒を高く評価してくれているようで、本当に嬉しかった。そして何よりも、俺の酒を有名にしてくれると言う言葉が、俺の胸に深く突き刺さった。
俺は彼の手を取って、感謝を述べた。
「リンランディアさん!本当に嬉しいです!!貴方に私のお酒をお売りします。」
「本当ですか!これで一安心です。詳細を詰めましょう。」
自分以外の誰かが、他人に俺の酒を売る事を、俺はあまり快くはおもっていない。というのは、正しいお酒の表現とこだわりを理解してくれていない事が多いからだ。命をかけて作った酒を、ただ一言”美味しいお酒”ですと紹介されるのは我慢ならない。もちろん飲んでくれた人が、誰かにそう言って勧めてくれるのは問題ない。ただ、プロの商売人がそうだとなったら、考えただけで頭痛がする。
その点、リンランディア兄妹なら安心して任せられる。味を表現する語彙力も持ち合わせているし、お酒に合わせて客層も考えてくれるだろう。そして彼との商談は纏まり、金銭と商品の交換段階に入った。
「アリエル、森で緩衝材になりそうな植物を至急探して来てくれ。」
「はい、ディアお兄様。」
「あぁ、森に行くなら僕もご一緒してもよろしいですか?」
「はい?構いませんが、何かあるんですか?」
「実は--」
俺がアリエルと森に入ったのは理由があった。この辺りの森は、酒樽のタル材になる樹齢100年を越す木が林となっている、豊かな森だ。エルフの彼女は、平坦な道を歩くかのように、森を移動していた。俺はその速度についていけなくて、彼女がわざわざ俺の歩幅に合わせてくれた。
「ショウゴさんが、私に聞きたいことって何ですか?」
「はい、先ほど申しました通りフレーバードウオッカを作ろうと思いまして。」
「ふれーばーどウオッカ?」
フレーバードウオッカは、ウオッカに香草などを漬けて風味付けしたウオッカのことを指す。
「それでディアお兄様から、<天使の噛み草>を買われましたのね。」
「えぇ、あの香草は私の故郷に咲く、桜の葉と同じ匂いがしたのですよ。それも結構強い匂いと甘みがありました。これは!とおもった次第です。」
「ウオッカの中に、香草を入れるだけではダメなのですか?」
「はい、香草をウオッカの中にそのまま入れただけでは、お酒に風味が移り難い上に酒瓶一本に対して入れる香草が増えて、コストがかかり過ぎるんですよ。そこで、香草からエキスを抽出しなければいけないのですが、そういう事は私の専門外でして、薬草に精通されたエルフの方なら何かご存知かと。」
お酒のことを熱心に語る翔吾の姿を見て、アリエルはこう思った。
(ふふふ、知っていましたかショウゴさん。貴方はお酒の話をしている時、瞳をキラキラさせて本当に楽しそうにお喋りになるのですよ。)
「得心がいきました。そういう事でしたら、私にお任せください。簡単に薬草からエキスを抽出する方法をお教えします。」
俺は彼女に感謝を述べた。すると、お返しに出来たフレーバードウオッカを飲ませて欲しいと言われ、俺は快く快諾した。その後は、彼女が探している緩衝材になる草を探し、刈り取った。結構な量だったので、彼女は何回かに分けて運ぼうとしていた。そこで俺はアイテムBOXの巾着袋を出して、全て閉まってしまった。
「ショウゴさん?もしかしなくても、それはアイテムBOXではありませんか?」
「はい、その通りです。神様に頂きました。」
「神様・・にですか?!」
「何かまずいこと言いましたか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、そう言った大きな秘密はあまり公言なさらない方がよろしいかと・・。」
「と言いますと?」
「ですから、アイテムBOXは伝説級のアイテムであり、普通は一国の王といえど、持っているかないかの代物ですし。神の使徒であり、加護を授かった人間だということが教会にばれれば、強制連行で、あっという間に聖者に祭り上げられてしまいますよ!!」
マジかよ。でも確かに、前世の常識から考えてもそれくらいの扱いになるよな。
しかし、既に一度死んで神様というものに出会い、この世界に転移した時から俺の中の常識は全てなくなってしまった。だからと言って、この世界の常識を学ばなければ、この身が危なくなるところだった。気づかせてくれた彼女には感謝しなくてはいけない。
「不公平です」(ボソッ)
「え?」
アリエルが急に、モジモジし始めた。まるで何かを、話したくてしょうがない年端も行かぬ少女のような反応だ。
「だからその、ショウゴさんの秘密だけ知るのは不公平ですので、私の秘密もお教えします。」
「あぁ、お兄様が大好きなブラコンの事ならわかってますよ?」
「なっ違います!!それは秘密ではありません。」
彼女は不意をつかれた蜂のように、顔を真っ赤にして否定した。
「そうですか、なら何を教えていただけるのですか?」
「私は、エルフの王族の血を引く、王女なのです。」
「えっ、えぇえええええええ!!?お、王女様ですか。」
「はい・・。」
「王女様が、こんなところにいて大丈夫なんですか?それに、妹のアリエルさんが王女ならリンランディアさんは・・」
「ディアお兄様は、王位継承権第二位の王子です。」
俺はそう言われて、驚くかと思ったが昨日見た酒にだらしない、彼のことを思い浮かべたら、急に彼女の話が胡散臭くなった。
「え、えぇ~。まさか~。あんな抜けた方が王子だなんて。」
「ディアお兄様は、間抜けでもアホでもありません!!!」
「そこまで言ってはないのですが・・。」
「ディアお兄様は、その名を<歌う放浪者>と名付けられた方なのです。預言者が予言した通り、ディアお兄様はひと所に縛られるのを酷く嫌がりました。それで、行商人として世界を練り歩いているだけです!」
「なるほど、それでアリエルさんは大好きなお兄さんと一緒に旅を」
「はい、私はもうじき成人です。エルフの王族は成人すると、里から出れなくなってしまいます。その前に外の世界が知りたかった。それで、ディアお兄様に無理を言って連れてきて貰っちゃいました」
よくお父様がお許しになられましたね。
俺とアリエルさんは、その後無事に家に帰ってきた。リンランディアさんが、せっせとお酒を梱包していく側で、彼女からフレーバードウオッカを造る手伝いをして貰った。自然乾燥された香草を、水の入った容器に入れてそこに魔力を流し込んで行く。すると、透明だった水が薄緑色になっていった。
「すごいです!どうやったのですか?」
「全ての物質は魔力を持っていますから、水を魔力水に変えれば、物質の魔力が魔力水に溶け出します。魔力と一緒に植物由来の成分も、一緒になって溶け出すのです。ショウゴさんもやってみてください。誰でもできますから。」
「わかりました!」
俺は、早速<天使の噛み草>を水に入れて、体内に流れている魔力を容器へと流し込んだ。すると、アリエルと同じように香草のエキスが水に溶け出した。その後に、ウオッカと香草のエキスを混ぜて、最後に一本だけ香草本体を酒瓶に入れれば完成だ。
お酒が完成すると、釣られるようにリンランディアが現れた。
「もう梱包は終わったんですか?」
「はい、完璧です。これなら、どんな衝撃からも酒瓶を守れます!それで、例のお酒はできたのですか?」
「はい、今しがた完成しました。」
「それはもちろん、試飲させていただけるのでしょうか?」
「アレェ~リンランディアさんは、酷い二日酔いに、悩まされていたのではありませんかぁ~?」
「二日酔いにはやはり、迎え酒が一番の薬かと。」
全く、この飲兵衛がエルフの王族で、王子な訳がない。俺はそう思いつつ、グラスを三つ用意して、香草で風味付けしたウオッカを注いだ。早速飲もうとする二人を制止して、リンランディアから購入した魔石をグラスの中に落とした。
「これは、私がお売りした<炭酸石>ですか?」
「その通りです。もちろん、ストレートで飲んでも美味しいのですが、炭酸のしゅわしゅわとした泡が、フレーバードウオッカの持つ香味を最大限感じさせてくれますから。」
炭酸石は、液体と反応して炭酸を生み出す魔石だった。これがあれば、ハイボール用のウイスキーを造る事だって考えられる。
「では、頂きます。」
彼らは、一口飲むと続けて二口といった感じで、食いつくようにウオッカを飲んだ。
「「プハァー!!」」
「あんなにクリアな味わいだったウオッカが、ここまで変わるものですか?香草の植物由来の爽快さと、ほんのりとした塩分を含んだ甘みが何ともいえませんね。」
「お兄様の言う通りです。昨日飲んだお酒は、口の中に入って来た時のアルコールの強さが苦手でしたが、このフレーバードウオッカは、香味が先に感じられて炭酸とアルコールが一緒に弾けるので、あまりお酒の強さが気になりませんでした。」
「もう少し、香草エキスとウオッカの配分調整は必要ですが、十分に美味しいお酒になりそうです。」
この後、リンランディアが商魂根性逞しく、フレーバードウオッカも購入して行ったのは言うまでも無かった。たった二日の取引相手といった間柄だったが、俺とエルフの絆は中々深いものになっていた。彼らの旅の無事を祈り、彼らもまた私の商売の成功を祈って新たな商談へと旅立っていった。
「<天使の噛み草>で造ったフレーバードウオッカか・・。<天使の息抜き>と名付けようか。」
(ちょっと臭いか? まぁ、名前は目立つし問題ないだろう)
====フレーバードウオッカ====
*ウォッカとしてイメージが強い、無色透明で癖が少なく飲みやすいものは、ピュアウォッカと呼ばれるものです。
*ですが、このピュアウォッカをベースとしてフルーツやハーブ、変わり種だと香辛料などを漬け込んで作るもの、あるいは人工甘味料を添加して作る香り豊かな、ウォッカがフレーバードウォッカとなります。
==================
【作者あとがき】
今回登場したフレーバードウオッカは、ズブロッカと言うお酒をイメージして登場しました。このウオッカは、バイソンがよく好んで食べる草をウオッカに入れたお酒になります。日本人はよく、桜餅の風味がするウオッカと表現する事が多いです。かく言う私も、桜餅が大好きで次の日が休みであれば、必ず炭酸割りで飲むお酒です。是非、BARに行く機会があれば、飲んで見てはいかがでしょうか。
そして、昨日は商談もそこそこに飲み会に突入してしまった。その為商談を再開しようとしていた、リンランディアは馬車から何やら大きな宝箱を持ってきて、床に置いた。彼はその箱を開けると俺にこう言い放った。
「ショウゴさん、私にあなたの酒を売れるだけ売ってください。代金は、ここからいくらでも払います。」
「な?!正気ですか?」
「正気も正気です。久々に、行商人としての血が騒いでいます。あなたの酒はまさに黄金の水と言えるでしょう。言い値で構いません。貴方のお酒を売ってください。必ずや、このリンランディア。魂にかけて、貴方の酒を有名にしてご覧に入れます!」
彼が持って来た箱は、金貨や銀貨がびっしりと入った宝の山だった。彼は俺の酒を高く評価してくれているようで、本当に嬉しかった。そして何よりも、俺の酒を有名にしてくれると言う言葉が、俺の胸に深く突き刺さった。
俺は彼の手を取って、感謝を述べた。
「リンランディアさん!本当に嬉しいです!!貴方に私のお酒をお売りします。」
「本当ですか!これで一安心です。詳細を詰めましょう。」
自分以外の誰かが、他人に俺の酒を売る事を、俺はあまり快くはおもっていない。というのは、正しいお酒の表現とこだわりを理解してくれていない事が多いからだ。命をかけて作った酒を、ただ一言”美味しいお酒”ですと紹介されるのは我慢ならない。もちろん飲んでくれた人が、誰かにそう言って勧めてくれるのは問題ない。ただ、プロの商売人がそうだとなったら、考えただけで頭痛がする。
その点、リンランディア兄妹なら安心して任せられる。味を表現する語彙力も持ち合わせているし、お酒に合わせて客層も考えてくれるだろう。そして彼との商談は纏まり、金銭と商品の交換段階に入った。
「アリエル、森で緩衝材になりそうな植物を至急探して来てくれ。」
「はい、ディアお兄様。」
「あぁ、森に行くなら僕もご一緒してもよろしいですか?」
「はい?構いませんが、何かあるんですか?」
「実は--」
俺がアリエルと森に入ったのは理由があった。この辺りの森は、酒樽のタル材になる樹齢100年を越す木が林となっている、豊かな森だ。エルフの彼女は、平坦な道を歩くかのように、森を移動していた。俺はその速度についていけなくて、彼女がわざわざ俺の歩幅に合わせてくれた。
「ショウゴさんが、私に聞きたいことって何ですか?」
「はい、先ほど申しました通りフレーバードウオッカを作ろうと思いまして。」
「ふれーばーどウオッカ?」
フレーバードウオッカは、ウオッカに香草などを漬けて風味付けしたウオッカのことを指す。
「それでディアお兄様から、<天使の噛み草>を買われましたのね。」
「えぇ、あの香草は私の故郷に咲く、桜の葉と同じ匂いがしたのですよ。それも結構強い匂いと甘みがありました。これは!とおもった次第です。」
「ウオッカの中に、香草を入れるだけではダメなのですか?」
「はい、香草をウオッカの中にそのまま入れただけでは、お酒に風味が移り難い上に酒瓶一本に対して入れる香草が増えて、コストがかかり過ぎるんですよ。そこで、香草からエキスを抽出しなければいけないのですが、そういう事は私の専門外でして、薬草に精通されたエルフの方なら何かご存知かと。」
お酒のことを熱心に語る翔吾の姿を見て、アリエルはこう思った。
(ふふふ、知っていましたかショウゴさん。貴方はお酒の話をしている時、瞳をキラキラさせて本当に楽しそうにお喋りになるのですよ。)
「得心がいきました。そういう事でしたら、私にお任せください。簡単に薬草からエキスを抽出する方法をお教えします。」
俺は彼女に感謝を述べた。すると、お返しに出来たフレーバードウオッカを飲ませて欲しいと言われ、俺は快く快諾した。その後は、彼女が探している緩衝材になる草を探し、刈り取った。結構な量だったので、彼女は何回かに分けて運ぼうとしていた。そこで俺はアイテムBOXの巾着袋を出して、全て閉まってしまった。
「ショウゴさん?もしかしなくても、それはアイテムBOXではありませんか?」
「はい、その通りです。神様に頂きました。」
「神様・・にですか?!」
「何かまずいこと言いましたか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、そう言った大きな秘密はあまり公言なさらない方がよろしいかと・・。」
「と言いますと?」
「ですから、アイテムBOXは伝説級のアイテムであり、普通は一国の王といえど、持っているかないかの代物ですし。神の使徒であり、加護を授かった人間だということが教会にばれれば、強制連行で、あっという間に聖者に祭り上げられてしまいますよ!!」
マジかよ。でも確かに、前世の常識から考えてもそれくらいの扱いになるよな。
しかし、既に一度死んで神様というものに出会い、この世界に転移した時から俺の中の常識は全てなくなってしまった。だからと言って、この世界の常識を学ばなければ、この身が危なくなるところだった。気づかせてくれた彼女には感謝しなくてはいけない。
「不公平です」(ボソッ)
「え?」
アリエルが急に、モジモジし始めた。まるで何かを、話したくてしょうがない年端も行かぬ少女のような反応だ。
「だからその、ショウゴさんの秘密だけ知るのは不公平ですので、私の秘密もお教えします。」
「あぁ、お兄様が大好きなブラコンの事ならわかってますよ?」
「なっ違います!!それは秘密ではありません。」
彼女は不意をつかれた蜂のように、顔を真っ赤にして否定した。
「そうですか、なら何を教えていただけるのですか?」
「私は、エルフの王族の血を引く、王女なのです。」
「えっ、えぇえええええええ!!?お、王女様ですか。」
「はい・・。」
「王女様が、こんなところにいて大丈夫なんですか?それに、妹のアリエルさんが王女ならリンランディアさんは・・」
「ディアお兄様は、王位継承権第二位の王子です。」
俺はそう言われて、驚くかと思ったが昨日見た酒にだらしない、彼のことを思い浮かべたら、急に彼女の話が胡散臭くなった。
「え、えぇ~。まさか~。あんな抜けた方が王子だなんて。」
「ディアお兄様は、間抜けでもアホでもありません!!!」
「そこまで言ってはないのですが・・。」
「ディアお兄様は、その名を<歌う放浪者>と名付けられた方なのです。預言者が予言した通り、ディアお兄様はひと所に縛られるのを酷く嫌がりました。それで、行商人として世界を練り歩いているだけです!」
「なるほど、それでアリエルさんは大好きなお兄さんと一緒に旅を」
「はい、私はもうじき成人です。エルフの王族は成人すると、里から出れなくなってしまいます。その前に外の世界が知りたかった。それで、ディアお兄様に無理を言って連れてきて貰っちゃいました」
よくお父様がお許しになられましたね。
俺とアリエルさんは、その後無事に家に帰ってきた。リンランディアさんが、せっせとお酒を梱包していく側で、彼女からフレーバードウオッカを造る手伝いをして貰った。自然乾燥された香草を、水の入った容器に入れてそこに魔力を流し込んで行く。すると、透明だった水が薄緑色になっていった。
「すごいです!どうやったのですか?」
「全ての物質は魔力を持っていますから、水を魔力水に変えれば、物質の魔力が魔力水に溶け出します。魔力と一緒に植物由来の成分も、一緒になって溶け出すのです。ショウゴさんもやってみてください。誰でもできますから。」
「わかりました!」
俺は、早速<天使の噛み草>を水に入れて、体内に流れている魔力を容器へと流し込んだ。すると、アリエルと同じように香草のエキスが水に溶け出した。その後に、ウオッカと香草のエキスを混ぜて、最後に一本だけ香草本体を酒瓶に入れれば完成だ。
お酒が完成すると、釣られるようにリンランディアが現れた。
「もう梱包は終わったんですか?」
「はい、完璧です。これなら、どんな衝撃からも酒瓶を守れます!それで、例のお酒はできたのですか?」
「はい、今しがた完成しました。」
「それはもちろん、試飲させていただけるのでしょうか?」
「アレェ~リンランディアさんは、酷い二日酔いに、悩まされていたのではありませんかぁ~?」
「二日酔いにはやはり、迎え酒が一番の薬かと。」
全く、この飲兵衛がエルフの王族で、王子な訳がない。俺はそう思いつつ、グラスを三つ用意して、香草で風味付けしたウオッカを注いだ。早速飲もうとする二人を制止して、リンランディアから購入した魔石をグラスの中に落とした。
「これは、私がお売りした<炭酸石>ですか?」
「その通りです。もちろん、ストレートで飲んでも美味しいのですが、炭酸のしゅわしゅわとした泡が、フレーバードウオッカの持つ香味を最大限感じさせてくれますから。」
炭酸石は、液体と反応して炭酸を生み出す魔石だった。これがあれば、ハイボール用のウイスキーを造る事だって考えられる。
「では、頂きます。」
彼らは、一口飲むと続けて二口といった感じで、食いつくようにウオッカを飲んだ。
「「プハァー!!」」
「あんなにクリアな味わいだったウオッカが、ここまで変わるものですか?香草の植物由来の爽快さと、ほんのりとした塩分を含んだ甘みが何ともいえませんね。」
「お兄様の言う通りです。昨日飲んだお酒は、口の中に入って来た時のアルコールの強さが苦手でしたが、このフレーバードウオッカは、香味が先に感じられて炭酸とアルコールが一緒に弾けるので、あまりお酒の強さが気になりませんでした。」
「もう少し、香草エキスとウオッカの配分調整は必要ですが、十分に美味しいお酒になりそうです。」
この後、リンランディアが商魂根性逞しく、フレーバードウオッカも購入して行ったのは言うまでも無かった。たった二日の取引相手といった間柄だったが、俺とエルフの絆は中々深いものになっていた。彼らの旅の無事を祈り、彼らもまた私の商売の成功を祈って新たな商談へと旅立っていった。
「<天使の噛み草>で造ったフレーバードウオッカか・・。<天使の息抜き>と名付けようか。」
(ちょっと臭いか? まぁ、名前は目立つし問題ないだろう)
====フレーバードウオッカ====
*ウォッカとしてイメージが強い、無色透明で癖が少なく飲みやすいものは、ピュアウォッカと呼ばれるものです。
*ですが、このピュアウォッカをベースとしてフルーツやハーブ、変わり種だと香辛料などを漬け込んで作るもの、あるいは人工甘味料を添加して作る香り豊かな、ウォッカがフレーバードウォッカとなります。
==================
【作者あとがき】
今回登場したフレーバードウオッカは、ズブロッカと言うお酒をイメージして登場しました。このウオッカは、バイソンがよく好んで食べる草をウオッカに入れたお酒になります。日本人はよく、桜餅の風味がするウオッカと表現する事が多いです。かく言う私も、桜餅が大好きで次の日が休みであれば、必ず炭酸割りで飲むお酒です。是非、BARに行く機会があれば、飲んで見てはいかがでしょうか。
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