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第一章〜ファーストフィル〜
第十五話「カルアミルクと談話」
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俺は今ちょっと困った問題に直面していた。と言うのも突然ティナさんが俺の家に住み込みで警護をすると申し出てくれたからだ。
申し出自体はありがたい事なんだが、俺の家はいろんな秘密が眠っているからそれら諸々の事を考えると正直めんどくさいと言うのが本音だった。
「ティナさん、本当に家まで付いてくるんですか?」
「当たり前だ! とうとう、ブルガまで顔を突き出してきたんだ。追い込まれた鼠は猫をも噛むっていうからな。今日からは決着がつく、その日まで全日警護だ!!」
(聞くところによればショウゴの家は、モンスターがうじゃうじゃしている緑歐の森の先にあると言うではないか! 愚か者なのか?! 何の戦闘力をも持たない貴様が一人で出入りしていい場所ではないぞ?
まぁかなりの魔力量を持っている様だから身を守る術ぐらいはありそうが……。とはいえ、ショウゴの身のこなしには武の匂いが一切しない。やはり警護した方がいいだろう。それに……この男は目を離すとすぐに娼館に入っていくのだ!! 私と言うものがありながら何故だ! そんなに私は魅力がないのだろうか……。
やはり許せない、私より売女がいいなどとは認めんぞ!!)
何をそんなに怒っているんだ? ん? 今度は急に顔を隠しながらモジモジし始めたぞ? 大丈夫か? まぁそれはさておき取り付く島もなくティナさんは宿屋に戻って自分の荷物を取ってきてしまった。
しかも彼女の荷物というのが今、彼女が肩に掛けているズタ袋一個って……やっぱり給料はあげた方が良さそうだな。彼女ほどの優秀な軍人を俺みたいな弱小商人が雇える機会なんてまずないからな。
それはそうと彼女がついて来てしまうなら、色々と釘を刺しておかないといけない。
「ティナさん」
「なんだ?」
「これから目にする事全て、あなたの魂に誓って口外しないと誓ってくれますか。あなたが俺の家まで来れば、酒の秘密まで知ることになる。これは私が譲れない条件なのです」
「……契約の魔導書でも使うか?」
「いえ紙切れよりも貴方が己に立てる誓いの方が、重い契約でしょう」
「よく分かっているな。良いだろう、剣士ファウスティーナは我が剣に誓って、ショウゴとの間の如何なる秘密をも墓場まで持って行くと」
彼女は、自身のレイピアを鞘ごと腰から外し、己の胸の前で寝かせるように翳し、刀身をちょっとだけ露わにし、誓いを立て金打した。
彼女の性格はこの一ヶ月とちょっとの間でよく分かった。何故なら彼女は冗談が通じないくらい短気で真っ直ぐな性格をしているからだ。街ゆく人にすれ違い様に陰口を叩かれれば、即座に血祭りに上げる程である。
この牙がお客さんに向かわない事を祈るばかりである。つまり、彼女は敵にも味方にも猪突猛進なのである。そんな彼女が最も大事にしている剣に誓ったのなら、下手な契約の魔導書よりずっと安心というわけだ。
「有難うございます。それでは、帰りましょう」
俺は、馬車に乗って街から十分に離れたところで、馬車をアイテムBOXに納めた。ティナは、初っ端から俺の命に関わる秘密を知って、恐れ慄いていた。それから、地竜のベッラに二人で乗って、三時間後には家に着いた。ちょうど日が暮れた頃だった。
ティナさんは俺の家につくなり、その場に呆然と立ち尽くしてずた袋を落とした。
「ここが、ショウゴの家か……」
「はい、小さいですけど2階に客間があるので、ティナさんにはそこに住んでもらいます」
「小さい?! 何をいってるんだ!! こんな立派な家、例え近衛騎士になってもそうそう買えないぞ」
「そうなんですか。この家も貰い物なので、なら僕は幸運ですね」
「貰った? 一体誰に……」
「はい、それは神様に……」
あ、やべつい真実を口にしてしまった。ティナさんがさらに固い顔になってしまったではないか。
「……ハハッ、ハハハッ、ハハハハハッ! ショウゴ~! お前も冗談が言えるんじゃないか!」
ティナさんはそう言いながら俺の背中をバンバンと叩き始めた。
まぁいいか。とりあえず、ティナさんを二階の客間に案内して、この部屋を自由に使うようにと案内した。彼女が、備え付けのベッドにびっくりするぐらい感激していた。
「おぉこの手触りとフカフカは凄いな! まるで、お姫様にでもなった気分だ」
「ティナさんも、可愛らしいこと言うんですね」
「むっ、揶揄うんじゃない!」
ティナは褐色の頬を赤くして手元にあった枕を強めに投げてきた。
「おっと。枕を投げないでくださいよ。とりあえず、荷解きが終わったら下に来てください。ご飯にしましょう」
「あぁ、分かった」
俺はキッチンで、先日ベッラが持ってきたでっかい猪の肉を調理していた。冒険者組合で、捌いて貰ったものだ。獲物は、<グレート・ボア>と言うらしく、危険度:二級の魔物らしい。その毛皮と、牙、魔石は売り、肉だけ貰ってきた。今日は肩ロースでロースカツを作った。
もちろん米などはないので、街で買ってきた黒パンがカツのお供である。大商人でもなったら、東方から米を輸入したい。
そんな事を思っていたら、ティナさんが降りてきた。
「良い匂いだな。何を作ってくれたんだ?」
「あぁ、いらっしゃ……い」
「ん、どうかしたか?」
彼女は耳をかきあげる様な仕草をしながら尋ねてきた。
いやはや、これはたまげた。彼女は今、見た事ないまでリラックスした服装だった。白いタンクトップに、ショートパンツ、前世でだらしなかった妹が、よく履いていたのを思い出す。はっきりいって、生唾ものだ。
いつもは、怒り肩の軍服だからそこまで女性らしさを感じていなかったが、これは凄い。鍛え抜かれた体とはいえ、相手は女性だ男性的な筋肉の出っ張りはなく、引き締まった曲線美が肉体を浮き彫りにしていた。
それでいて、彼女……ノーブラなのよね。この世界にブラージャーはない。だから、俺もその風習に慣れて気にはして居なかったものの、参った。おっと、ジロジロ見すぎたか。彼女が、肩肘を右手でさすりながらモジモジし始めてしまった。
「いや、なんでもないです」
「そ、そうか」
(ば、バレバレだぞ! 少しは、ジロジロ見る事を憚らんか!! まっ、まぁ、ショウゴになら見られても良いのか……一体私はどうしてしまったのだ!!)
「さ、食べましょう。今日は、ロースカツです」
「おっ、おぉ! 私の大好物ではないか。ショウゴの賄いで一番好きな奴だ!!」
彼女は、毎日のように訓練をしているから、食べ盛りの部活男子以上にご飯を食べた。それだけ食べても一切太らないのだから、彼女の基礎代謝は恐れ入るほどだ。いつもの、凛とした姿からは想像がつかないほど、食事中のティナは純真無垢な少女のように、食事を楽しんでいた。
「ティナさん。食後のデザートにお酒はいかがですか?」
「ん? 酒がデザートになるのか?」
「えぇ、美味しいですよ。カルアミルクっていう、お酒なんですけどね。お酒の弱い、ティナさんにもきっと気に入ってもらえる事間違いなしです」
俺は、先日試しに港で買ったコーヒー豆を、ウオッカに漬けて時空魔法であっという間に、コーヒーフレーバーのウオッカを作り出してしまった。正直、これが結構いけた。ウオッカ1リットルにコーヒー豆一掴み、本来氷砂糖を入れるがそんなものは無いので、ベッラが採ってきた蜂蜜で量を調節して代用、これを200mlとたっぷり。
この世界の牛乳は生乳だ。前世では高温殺菌された牛乳が一般的だったが、この時代にそんな技術はない。腹を下す可能性はあるが、美味しさで言ったら断然生乳である。なんかもう、生クリームを飲んでいるような満足感だ。
「この黒いのが酒か?中には、何を入れているんだ」
「コーヒー豆です」
「なっ?! あんな美味しくも無いのに、バカ高い醜く苦い黒豆の酒……お前本当に、これ美味いのか……」
「あのねぇ。そんな犬の糞を前にするような反応、やめてください。僕の造ったお酒が不味いなんてあり得ませんから!」
「まぁ、確かにショウゴの造る酒は美しい……からな。」
全くこの子は……コーヒーの苦さがダメなんだろうな。よかった、蜂蜜たっぷり入れておいて。
さて、シェイカーに砕いた氷を入れて、コーヒーウオッカ30mlに、牛乳90ml、そしてシェイクして、いやぁ久しぶりにシェイカー振ったなぁ。こうやって誰かの為に、シェイカー振るのやっぱり嫌いじゃない。
シェイカーを振るときは、まぁこれはそれぞれのBARが正解なのだが、大事なのは中の氷を溶かさない事だ。氷が溶け出すほど長く振らないこと、中の酒の熱を迅速に奪い、熱エネルギーが氷に移り切ったところでグラスに注ぐ。この時、最後の一滴がテーブルに溢れないようにサッと切る。
最後に、お好みでスパイスを少量かける。おすすめは、ナツメグかシナモン。今回は、シナモンだ。
「どうぞ、お嬢様。カルアミルクでございます」
「……やはり美しいな」
「えっ?」
「あっ!? いや、そのあれだ! この酒は中々美しいな!? ほら、よくわからんがスパイスまでかかっているし」
「あぁ、それはシナモンだよ。ティナ、シナモン好きでしょう」
「あっあぁ! す、好きだ」
(わ、私は何を口走っている!!……それよりもだ、初めて見た。
ショウゴが銀の器を振るうところを……。一体何に使う物なのかと疑問だったのだが、酒を混ぜる為に使う物だったとはな。ショウゴの酒を混ぜ、作り上げるまでの所作一つ一つが、私の胸を高鳴らせてくれた。
酒を銀の秤で計り器に入れていく、そしてそれらを独特な動作で、混ぜ合わせ、グラスに酒を注ぐ、スパイスを添えて私に酒を出す指、全ての仕草という仕草が、美しかった。
あぁ、どうしてだ! ショウゴ貴様という奴は酒のことになると、そうまで美しくなってしまうのだ!! 商売女などを買うヤツのくせに!!)
なんかティナがキラキラ光っている金色の瞳で、やたらまっすぐ俺を見つめてくるんだが……。そんなに見つめられると照れるなぁ。
「商売女なんか、買わずに、私に手を出せというのだ……全く」
ティナが急に俺の顔を見つめてしばらくフリーズしていたかと思えば、突然俯き負のオーラを出しながら何かをつぶやいた様に聞こえた。
「なにか言いました?」
「何も言っておらんわ!!」
ティナは怒ってるようにそう言うとカルアミルクの入ったグラスをふんだくる様に飲み始めた。すると今度は態度がころっと変わり、美味しい物を食べた時に出てくる優しい表情を見せた。
全く、表情がコロコロ変わる女だな。嫌いじゃない、むしろ明るい女は大好きだ。
「美味いな、このカルアミルクとやら。あの苦いだけの汁が、苦くなくて、初めてコーヒーの風味を思い込み抜きで知ることが出来た」
「そう、それは良かった」
まただ、彼女の態度が変わった。俺に何かを言いたげで少しモジモジし始めた。ティナさんらしくないものだ。彼女はいつだって真っ直ぐ俺に言葉を届けてくれる。そう彼女のレイピアの様に深く突き刺さる言葉を。
「また、作ってくれるか?」
おいおいそんな事を言うのを躊躇っていたのか?
「もちろん。ティナさんの為ならいくらでもいつだって作るよ。君が喜んでくれるなら」
「そうか……いくらでも、いついかなる時でもか……なら許してやろう」
えっ、許す? 俺何かしたっけ? うーん思い当たる節がないなぁ。でもまぁ、機嫌良さそうだからいっか!
この後は、二人とも湯浴みをした。ティナは、うちのお風呂や、トイレ、上下水道全てに興奮していた。まぁ、街での暮らしはそれは酷いものだから、ここの設備は快適すぎるよな。
それにしても、脱衣所でお約束のように裸のティナに出くわした時は死ぬかと思ったよ。トイレと脱衣所は一緒だから、いつもの癖でわざとじゃ無いのに。……いや少し着替えてたらいいなぁとは思いました、はいすみませんでした。
裸を見られたティナはというと俺の予想の斜め上で、キレながら堂々とこっちに歩いて来て、思いっきり右頬を張るんだからな~。死ぬほど痛い。今日はもうジンジンして寝れないかもいろんな意味で。
翔吾とティナの静かな夜はしばらく訪れない。それを知ってかしらずか、彼らは眠くなるまでリビングで酒を酌み交わし、笑い合っていた。
申し出自体はありがたい事なんだが、俺の家はいろんな秘密が眠っているからそれら諸々の事を考えると正直めんどくさいと言うのが本音だった。
「ティナさん、本当に家まで付いてくるんですか?」
「当たり前だ! とうとう、ブルガまで顔を突き出してきたんだ。追い込まれた鼠は猫をも噛むっていうからな。今日からは決着がつく、その日まで全日警護だ!!」
(聞くところによればショウゴの家は、モンスターがうじゃうじゃしている緑歐の森の先にあると言うではないか! 愚か者なのか?! 何の戦闘力をも持たない貴様が一人で出入りしていい場所ではないぞ?
まぁかなりの魔力量を持っている様だから身を守る術ぐらいはありそうが……。とはいえ、ショウゴの身のこなしには武の匂いが一切しない。やはり警護した方がいいだろう。それに……この男は目を離すとすぐに娼館に入っていくのだ!! 私と言うものがありながら何故だ! そんなに私は魅力がないのだろうか……。
やはり許せない、私より売女がいいなどとは認めんぞ!!)
何をそんなに怒っているんだ? ん? 今度は急に顔を隠しながらモジモジし始めたぞ? 大丈夫か? まぁそれはさておき取り付く島もなくティナさんは宿屋に戻って自分の荷物を取ってきてしまった。
しかも彼女の荷物というのが今、彼女が肩に掛けているズタ袋一個って……やっぱり給料はあげた方が良さそうだな。彼女ほどの優秀な軍人を俺みたいな弱小商人が雇える機会なんてまずないからな。
それはそうと彼女がついて来てしまうなら、色々と釘を刺しておかないといけない。
「ティナさん」
「なんだ?」
「これから目にする事全て、あなたの魂に誓って口外しないと誓ってくれますか。あなたが俺の家まで来れば、酒の秘密まで知ることになる。これは私が譲れない条件なのです」
「……契約の魔導書でも使うか?」
「いえ紙切れよりも貴方が己に立てる誓いの方が、重い契約でしょう」
「よく分かっているな。良いだろう、剣士ファウスティーナは我が剣に誓って、ショウゴとの間の如何なる秘密をも墓場まで持って行くと」
彼女は、自身のレイピアを鞘ごと腰から外し、己の胸の前で寝かせるように翳し、刀身をちょっとだけ露わにし、誓いを立て金打した。
彼女の性格はこの一ヶ月とちょっとの間でよく分かった。何故なら彼女は冗談が通じないくらい短気で真っ直ぐな性格をしているからだ。街ゆく人にすれ違い様に陰口を叩かれれば、即座に血祭りに上げる程である。
この牙がお客さんに向かわない事を祈るばかりである。つまり、彼女は敵にも味方にも猪突猛進なのである。そんな彼女が最も大事にしている剣に誓ったのなら、下手な契約の魔導書よりずっと安心というわけだ。
「有難うございます。それでは、帰りましょう」
俺は、馬車に乗って街から十分に離れたところで、馬車をアイテムBOXに納めた。ティナは、初っ端から俺の命に関わる秘密を知って、恐れ慄いていた。それから、地竜のベッラに二人で乗って、三時間後には家に着いた。ちょうど日が暮れた頃だった。
ティナさんは俺の家につくなり、その場に呆然と立ち尽くしてずた袋を落とした。
「ここが、ショウゴの家か……」
「はい、小さいですけど2階に客間があるので、ティナさんにはそこに住んでもらいます」
「小さい?! 何をいってるんだ!! こんな立派な家、例え近衛騎士になってもそうそう買えないぞ」
「そうなんですか。この家も貰い物なので、なら僕は幸運ですね」
「貰った? 一体誰に……」
「はい、それは神様に……」
あ、やべつい真実を口にしてしまった。ティナさんがさらに固い顔になってしまったではないか。
「……ハハッ、ハハハッ、ハハハハハッ! ショウゴ~! お前も冗談が言えるんじゃないか!」
ティナさんはそう言いながら俺の背中をバンバンと叩き始めた。
まぁいいか。とりあえず、ティナさんを二階の客間に案内して、この部屋を自由に使うようにと案内した。彼女が、備え付けのベッドにびっくりするぐらい感激していた。
「おぉこの手触りとフカフカは凄いな! まるで、お姫様にでもなった気分だ」
「ティナさんも、可愛らしいこと言うんですね」
「むっ、揶揄うんじゃない!」
ティナは褐色の頬を赤くして手元にあった枕を強めに投げてきた。
「おっと。枕を投げないでくださいよ。とりあえず、荷解きが終わったら下に来てください。ご飯にしましょう」
「あぁ、分かった」
俺はキッチンで、先日ベッラが持ってきたでっかい猪の肉を調理していた。冒険者組合で、捌いて貰ったものだ。獲物は、<グレート・ボア>と言うらしく、危険度:二級の魔物らしい。その毛皮と、牙、魔石は売り、肉だけ貰ってきた。今日は肩ロースでロースカツを作った。
もちろん米などはないので、街で買ってきた黒パンがカツのお供である。大商人でもなったら、東方から米を輸入したい。
そんな事を思っていたら、ティナさんが降りてきた。
「良い匂いだな。何を作ってくれたんだ?」
「あぁ、いらっしゃ……い」
「ん、どうかしたか?」
彼女は耳をかきあげる様な仕草をしながら尋ねてきた。
いやはや、これはたまげた。彼女は今、見た事ないまでリラックスした服装だった。白いタンクトップに、ショートパンツ、前世でだらしなかった妹が、よく履いていたのを思い出す。はっきりいって、生唾ものだ。
いつもは、怒り肩の軍服だからそこまで女性らしさを感じていなかったが、これは凄い。鍛え抜かれた体とはいえ、相手は女性だ男性的な筋肉の出っ張りはなく、引き締まった曲線美が肉体を浮き彫りにしていた。
それでいて、彼女……ノーブラなのよね。この世界にブラージャーはない。だから、俺もその風習に慣れて気にはして居なかったものの、参った。おっと、ジロジロ見すぎたか。彼女が、肩肘を右手でさすりながらモジモジし始めてしまった。
「いや、なんでもないです」
「そ、そうか」
(ば、バレバレだぞ! 少しは、ジロジロ見る事を憚らんか!! まっ、まぁ、ショウゴになら見られても良いのか……一体私はどうしてしまったのだ!!)
「さ、食べましょう。今日は、ロースカツです」
「おっ、おぉ! 私の大好物ではないか。ショウゴの賄いで一番好きな奴だ!!」
彼女は、毎日のように訓練をしているから、食べ盛りの部活男子以上にご飯を食べた。それだけ食べても一切太らないのだから、彼女の基礎代謝は恐れ入るほどだ。いつもの、凛とした姿からは想像がつかないほど、食事中のティナは純真無垢な少女のように、食事を楽しんでいた。
「ティナさん。食後のデザートにお酒はいかがですか?」
「ん? 酒がデザートになるのか?」
「えぇ、美味しいですよ。カルアミルクっていう、お酒なんですけどね。お酒の弱い、ティナさんにもきっと気に入ってもらえる事間違いなしです」
俺は、先日試しに港で買ったコーヒー豆を、ウオッカに漬けて時空魔法であっという間に、コーヒーフレーバーのウオッカを作り出してしまった。正直、これが結構いけた。ウオッカ1リットルにコーヒー豆一掴み、本来氷砂糖を入れるがそんなものは無いので、ベッラが採ってきた蜂蜜で量を調節して代用、これを200mlとたっぷり。
この世界の牛乳は生乳だ。前世では高温殺菌された牛乳が一般的だったが、この時代にそんな技術はない。腹を下す可能性はあるが、美味しさで言ったら断然生乳である。なんかもう、生クリームを飲んでいるような満足感だ。
「この黒いのが酒か?中には、何を入れているんだ」
「コーヒー豆です」
「なっ?! あんな美味しくも無いのに、バカ高い醜く苦い黒豆の酒……お前本当に、これ美味いのか……」
「あのねぇ。そんな犬の糞を前にするような反応、やめてください。僕の造ったお酒が不味いなんてあり得ませんから!」
「まぁ、確かにショウゴの造る酒は美しい……からな。」
全くこの子は……コーヒーの苦さがダメなんだろうな。よかった、蜂蜜たっぷり入れておいて。
さて、シェイカーに砕いた氷を入れて、コーヒーウオッカ30mlに、牛乳90ml、そしてシェイクして、いやぁ久しぶりにシェイカー振ったなぁ。こうやって誰かの為に、シェイカー振るのやっぱり嫌いじゃない。
シェイカーを振るときは、まぁこれはそれぞれのBARが正解なのだが、大事なのは中の氷を溶かさない事だ。氷が溶け出すほど長く振らないこと、中の酒の熱を迅速に奪い、熱エネルギーが氷に移り切ったところでグラスに注ぐ。この時、最後の一滴がテーブルに溢れないようにサッと切る。
最後に、お好みでスパイスを少量かける。おすすめは、ナツメグかシナモン。今回は、シナモンだ。
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「……やはり美しいな」
「えっ?」
「あっ!? いや、そのあれだ! この酒は中々美しいな!? ほら、よくわからんがスパイスまでかかっているし」
「あぁ、それはシナモンだよ。ティナ、シナモン好きでしょう」
「あっあぁ! す、好きだ」
(わ、私は何を口走っている!!……それよりもだ、初めて見た。
ショウゴが銀の器を振るうところを……。一体何に使う物なのかと疑問だったのだが、酒を混ぜる為に使う物だったとはな。ショウゴの酒を混ぜ、作り上げるまでの所作一つ一つが、私の胸を高鳴らせてくれた。
酒を銀の秤で計り器に入れていく、そしてそれらを独特な動作で、混ぜ合わせ、グラスに酒を注ぐ、スパイスを添えて私に酒を出す指、全ての仕草という仕草が、美しかった。
あぁ、どうしてだ! ショウゴ貴様という奴は酒のことになると、そうまで美しくなってしまうのだ!! 商売女などを買うヤツのくせに!!)
なんかティナがキラキラ光っている金色の瞳で、やたらまっすぐ俺を見つめてくるんだが……。そんなに見つめられると照れるなぁ。
「商売女なんか、買わずに、私に手を出せというのだ……全く」
ティナが急に俺の顔を見つめてしばらくフリーズしていたかと思えば、突然俯き負のオーラを出しながら何かをつぶやいた様に聞こえた。
「なにか言いました?」
「何も言っておらんわ!!」
ティナは怒ってるようにそう言うとカルアミルクの入ったグラスをふんだくる様に飲み始めた。すると今度は態度がころっと変わり、美味しい物を食べた時に出てくる優しい表情を見せた。
全く、表情がコロコロ変わる女だな。嫌いじゃない、むしろ明るい女は大好きだ。
「美味いな、このカルアミルクとやら。あの苦いだけの汁が、苦くなくて、初めてコーヒーの風味を思い込み抜きで知ることが出来た」
「そう、それは良かった」
まただ、彼女の態度が変わった。俺に何かを言いたげで少しモジモジし始めた。ティナさんらしくないものだ。彼女はいつだって真っ直ぐ俺に言葉を届けてくれる。そう彼女のレイピアの様に深く突き刺さる言葉を。
「また、作ってくれるか?」
おいおいそんな事を言うのを躊躇っていたのか?
「もちろん。ティナさんの為ならいくらでもいつだって作るよ。君が喜んでくれるなら」
「そうか……いくらでも、いついかなる時でもか……なら許してやろう」
えっ、許す? 俺何かしたっけ? うーん思い当たる節がないなぁ。でもまぁ、機嫌良さそうだからいっか!
この後は、二人とも湯浴みをした。ティナは、うちのお風呂や、トイレ、上下水道全てに興奮していた。まぁ、街での暮らしはそれは酷いものだから、ここの設備は快適すぎるよな。
それにしても、脱衣所でお約束のように裸のティナに出くわした時は死ぬかと思ったよ。トイレと脱衣所は一緒だから、いつもの癖でわざとじゃ無いのに。……いや少し着替えてたらいいなぁとは思いました、はいすみませんでした。
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