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ある侍従の伝記
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エイダン・オンカディアン
赤味が強い髪と肌が特徴の先住民族、オンカヤ族最後の一人として記録された人物の名である
オンカヤ族は姓を持たず、またエイダンとは彼が王国本土へと拉致された際に改名させられたものであり、ナヤウタもしくはナヨウトが本名であるとされている
時は大航海時代
列強は競って新航路を開拓、急増する入植者達の手によって先住民族の生活は圧迫され、その多くが飢餓や感染症、武力衝突等により命を落とした
オンカヤ族も例外ではなく、また元より数家族単位の超少数民族であった事等から、領土併合が成された時点での生存者は10人を下回って居たとされる
ナヤウタは王国人好みの容姿をして居た事、未だ幼く教育の余地がある事等から商人に買われ、その際にエイダン・オンカディアンと改名させられた
「美しい異民族」という真新しい存在は国中の関心を集め、エイダンは半ば見世物じみた扱いを受けながらも、奴隷としては比較的上級の生活を送った
早くからある程度の公用語や礼儀作法を解し、主人や客人からの覚えも良く、遂には国王や王族、それに連なる貴族達との謁見を許されるまでに至る
その際、当時の王太子がエイダンを甚く気に入り、直属の使用人という異例の待遇で雇い入れた
両者は互いに潔い性格をして居り、とても良好な関係を築いたとされる
ある使用人がオンカヤ族の身体的特徴を侮辱した際、エイダンはその使用人の頭の上から暖炉の灰をぶちまけ、「そういうお前は溝鼠色だな」と言い放った
王太子も葡萄酒を手に参戦しようとしたがエイダンに制止され未遂に留まった、という小話も残されている
王太子の贔屓ぶりは周囲の知る所となり、エイダンに対する直接的な差別や加害は鳴りを潜めた
一連の様子は多少の脚色を混じえながらも、幾つかの書物や絵画に仄めかされている
その後長年に渡り王国式の生活を送った影響か、エイダンをオンカヤ族たらしめる身体的特徴は徐々に薄れていった
当初は奇異の目で見ていた周囲の人々も、いつしかその意識を忘れ、エイダンの存在は一使用人として日常風景に溶け込んでいった
時には新人に助言し、時には王太子との雑談に興じ、またある時には多少の権力闘争に巻き込まれ
そんな、比較的安定した時代は急速に終わりを迎える
先王突然の崩御に伴い、王太子改め新国王が即位
当時は周辺諸国との間で幾つもの小競り合いが勃発し、その他にも凶作や疫病といった問題が重なる困難な時代であった
王は事態の収拾に尽力したものの、心労からか精神を病み、度々癇癪を起こしては、その後酷く落ち込み物思いに耽るといった行動を繰り返す様になる
軈て王は独裁者へと変貌し、その意にそぐわぬ者、異議を唱える者、千を超える人々が処刑台へと送られ、民衆の不満は日増しに蓄積
最早革命は避けられぬものとなっていた
凄惨な内乱の末に王の身柄は拘束され、「大陸一堅牢にして最も冥府に近い部屋」と恐れられる監獄に収容された
しかし裁判の開廷を待つ最中に死亡
同時期にエイダンは歴史の表舞台から姿を消し、その後の半生を知る者は居ない
革命から凡そ40年後
国内及び周辺諸国の情勢が安定した事等もあり、歴史を再考証、再評価する機運が高まる
革命当時の価値観や個人の生い立ち等も見直され、両陣営の犠牲者達を弔おうと、国中で幾つもの記念碑が建立された
その内の一つ、首都の一角に作られた広場
整然と美しい慰霊の丘を前に、老人は涙を流した
「違う、私の国はこんなんじゃない」
エイダン・オンカディアン
享年、推定80歳
彼の死をもって、オンカヤ族は絶滅した
赤味が強い髪と肌が特徴の先住民族、オンカヤ族最後の一人として記録された人物の名である
オンカヤ族は姓を持たず、またエイダンとは彼が王国本土へと拉致された際に改名させられたものであり、ナヤウタもしくはナヨウトが本名であるとされている
時は大航海時代
列強は競って新航路を開拓、急増する入植者達の手によって先住民族の生活は圧迫され、その多くが飢餓や感染症、武力衝突等により命を落とした
オンカヤ族も例外ではなく、また元より数家族単位の超少数民族であった事等から、領土併合が成された時点での生存者は10人を下回って居たとされる
ナヤウタは王国人好みの容姿をして居た事、未だ幼く教育の余地がある事等から商人に買われ、その際にエイダン・オンカディアンと改名させられた
「美しい異民族」という真新しい存在は国中の関心を集め、エイダンは半ば見世物じみた扱いを受けながらも、奴隷としては比較的上級の生活を送った
早くからある程度の公用語や礼儀作法を解し、主人や客人からの覚えも良く、遂には国王や王族、それに連なる貴族達との謁見を許されるまでに至る
その際、当時の王太子がエイダンを甚く気に入り、直属の使用人という異例の待遇で雇い入れた
両者は互いに潔い性格をして居り、とても良好な関係を築いたとされる
ある使用人がオンカヤ族の身体的特徴を侮辱した際、エイダンはその使用人の頭の上から暖炉の灰をぶちまけ、「そういうお前は溝鼠色だな」と言い放った
王太子も葡萄酒を手に参戦しようとしたがエイダンに制止され未遂に留まった、という小話も残されている
王太子の贔屓ぶりは周囲の知る所となり、エイダンに対する直接的な差別や加害は鳴りを潜めた
一連の様子は多少の脚色を混じえながらも、幾つかの書物や絵画に仄めかされている
その後長年に渡り王国式の生活を送った影響か、エイダンをオンカヤ族たらしめる身体的特徴は徐々に薄れていった
当初は奇異の目で見ていた周囲の人々も、いつしかその意識を忘れ、エイダンの存在は一使用人として日常風景に溶け込んでいった
時には新人に助言し、時には王太子との雑談に興じ、またある時には多少の権力闘争に巻き込まれ
そんな、比較的安定した時代は急速に終わりを迎える
先王突然の崩御に伴い、王太子改め新国王が即位
当時は周辺諸国との間で幾つもの小競り合いが勃発し、その他にも凶作や疫病といった問題が重なる困難な時代であった
王は事態の収拾に尽力したものの、心労からか精神を病み、度々癇癪を起こしては、その後酷く落ち込み物思いに耽るといった行動を繰り返す様になる
軈て王は独裁者へと変貌し、その意にそぐわぬ者、異議を唱える者、千を超える人々が処刑台へと送られ、民衆の不満は日増しに蓄積
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同時期にエイダンは歴史の表舞台から姿を消し、その後の半生を知る者は居ない
革命から凡そ40年後
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その内の一つ、首都の一角に作られた広場
整然と美しい慰霊の丘を前に、老人は涙を流した
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エイダン・オンカディアン
享年、推定80歳
彼の死をもって、オンカヤ族は絶滅した
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