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7月の満月に
Interceptor:
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殺った。
殺ったけど、殺られた。
クローバーの髪留めを狙い、引き金を引いた。少しズレたが、確かに弾は当たった。しかしそれは、私も同じだった。鉛が口に飛び込み、喉を突き抜けた。
感覚の限界値を超えていた。多分、痛かったんだろう。それを痛いと感じるより先に、私は死んだ。
次に目を開けたとき、私は“最初”と同じ部屋にいた。夢だと思った。ああ、さっきまでの地獄のような経験は、全部嘘だったんだ。そう信じた。喉の他に傷を受けた手足や胴体の3箇所は、傷を塞いだ痕さえないし、何より血が出ていない。痛くもなかった。
私は今、悪夢から覚めたんだ。と、思い込んだ。
マスターは、私を創ったらしいマスターは、それを否定した。曰く、一号機にあったデータを引き出し、この身体に植え付けたと。彼女は、望月は私に、何回死んでも、何回殺されても、新しい身体で生き返られると言った。その時私は、初めて“生命”という概念を軽視した。あってないようなものなんだ。いくら落としても、手元に戻って来るんだ、と。
私が彼女を、“クローバー”を殺したとき、殺されるまでは非常に幸福だった。気持ちが良かった。だから私は。
マスターを殺した。
どうせ生き返る。そう思っていた。些細なイライラで、私は私を満足に手入れしてくれる“親”を殺した。
17回目の襲撃を境に、彼岸から敵が訪れることは減った。
クローバーに似たようなものは、いくらでも現れた。それを撃ち殺しても、最初と同じだけの幸福は得られなかった。ゼロじゃない。けれど、足りない。
クローバーは、最後まで来なかった。
百と十数回死んで、私は向こう側へ行く機能を搭載された。そしてすぐ、研究所から逃げ出した。
来ないなら、迎えに行く。
この手で、もう一度彼女を撃ち殺す。
深い緑の草原を、裸足で進む。川の向こうには、浅い緑が広がっていた。平瀬と中洲を辿り、彼岸へ渡る。此岸が見えなくなるほど進むと、目の前にドアが現れた。木製のドア。真新しいノブを捻り、押す。
広がっていたのは、灰色の世界だった。高い塔の上から見る世界は、街も山も、海も空も、煌煌と輝く満月さえも、全てがモノトーンに染まっていた。やがて数人が塔を登り、私を殺そうと武器を向ける。
撃った。全員撃ち殺した。けれど、その中に彼女はいなかった。
誰もいない世界。誰も動かない世界。今から派手に壊す街を歩いて回った。
気がつけば、塔と月と、海のよく見えるビルの屋上にいた。動かない丸い月に向かって、私は拳銃を向けた。
乾いた音が響く。右に見えるドアの前には、ターゲットが立っていた。
照星と照門とを結ぶ線は、私に向いている。
私は、彼女に笑いかけた。
「何しに来たの?」
「貴女を殺しに」
「なぜ?」
「殺したいから」
「残念だけど、エックス」
「朔だ」
「君には帰ってもらうよ」
「せっかく会えたのに?」
「私は望んでない」
「私は会いたかった。」
「軍は辞めた。二度と会わないよ」
「何度でも来るよ」
「早く殺されてくれないかな。人を待たせてるんだ」
大きくため息を吐くと、さよなら、永遠に。と彼女は言い、引き金が引かれる。
梅雨明けの空気に、発砲音が響いて消えた。
視界から全てが消える。その時、私は初めて「永遠に」の意味を理解した。しかし、既に遅すぎたようだった。
殺ったけど、殺られた。
クローバーの髪留めを狙い、引き金を引いた。少しズレたが、確かに弾は当たった。しかしそれは、私も同じだった。鉛が口に飛び込み、喉を突き抜けた。
感覚の限界値を超えていた。多分、痛かったんだろう。それを痛いと感じるより先に、私は死んだ。
次に目を開けたとき、私は“最初”と同じ部屋にいた。夢だと思った。ああ、さっきまでの地獄のような経験は、全部嘘だったんだ。そう信じた。喉の他に傷を受けた手足や胴体の3箇所は、傷を塞いだ痕さえないし、何より血が出ていない。痛くもなかった。
私は今、悪夢から覚めたんだ。と、思い込んだ。
マスターは、私を創ったらしいマスターは、それを否定した。曰く、一号機にあったデータを引き出し、この身体に植え付けたと。彼女は、望月は私に、何回死んでも、何回殺されても、新しい身体で生き返られると言った。その時私は、初めて“生命”という概念を軽視した。あってないようなものなんだ。いくら落としても、手元に戻って来るんだ、と。
私が彼女を、“クローバー”を殺したとき、殺されるまでは非常に幸福だった。気持ちが良かった。だから私は。
マスターを殺した。
どうせ生き返る。そう思っていた。些細なイライラで、私は私を満足に手入れしてくれる“親”を殺した。
17回目の襲撃を境に、彼岸から敵が訪れることは減った。
クローバーに似たようなものは、いくらでも現れた。それを撃ち殺しても、最初と同じだけの幸福は得られなかった。ゼロじゃない。けれど、足りない。
クローバーは、最後まで来なかった。
百と十数回死んで、私は向こう側へ行く機能を搭載された。そしてすぐ、研究所から逃げ出した。
来ないなら、迎えに行く。
この手で、もう一度彼女を撃ち殺す。
深い緑の草原を、裸足で進む。川の向こうには、浅い緑が広がっていた。平瀬と中洲を辿り、彼岸へ渡る。此岸が見えなくなるほど進むと、目の前にドアが現れた。木製のドア。真新しいノブを捻り、押す。
広がっていたのは、灰色の世界だった。高い塔の上から見る世界は、街も山も、海も空も、煌煌と輝く満月さえも、全てがモノトーンに染まっていた。やがて数人が塔を登り、私を殺そうと武器を向ける。
撃った。全員撃ち殺した。けれど、その中に彼女はいなかった。
誰もいない世界。誰も動かない世界。今から派手に壊す街を歩いて回った。
気がつけば、塔と月と、海のよく見えるビルの屋上にいた。動かない丸い月に向かって、私は拳銃を向けた。
乾いた音が響く。右に見えるドアの前には、ターゲットが立っていた。
照星と照門とを結ぶ線は、私に向いている。
私は、彼女に笑いかけた。
「何しに来たの?」
「貴女を殺しに」
「なぜ?」
「殺したいから」
「残念だけど、エックス」
「朔だ」
「君には帰ってもらうよ」
「せっかく会えたのに?」
「私は望んでない」
「私は会いたかった。」
「軍は辞めた。二度と会わないよ」
「何度でも来るよ」
「早く殺されてくれないかな。人を待たせてるんだ」
大きくため息を吐くと、さよなら、永遠に。と彼女は言い、引き金が引かれる。
梅雨明けの空気に、発砲音が響いて消えた。
視界から全てが消える。その時、私は初めて「永遠に」の意味を理解した。しかし、既に遅すぎたようだった。
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