SCRAP

都槻郁稀

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本編 21.04 -

覚えていたなら/711

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 ――もしもあなたが、僕のことを覚えていたなら。

 いつか同じ日の夜に、駅前広場の時計塔の下で。


 人の波を掻き分けて辿り着く。焼かれる雲とビルの群れ。大通りの先に沈む夕日。6時を指した時計塔から人形が出て来て踊る。真っ赤な空は、地平線の彼方へ吸い込まれていく。鴉も、人も、金星も、あるべき場所へ帰っていく。

 昼が終わる。夜が来る。ネオン色の夜に身体をうずめ、ただわたしは、君を待っていた。澄んだ涼しい風の中で、注ぐ月明かりの中で。

 夜が終わる。朝が来る。逃げるように街は眠る。わたしはまだ、君を待っている。夜に濡れた空を、よく晴れた瑠璃色の空を、新しい朝日が昇っていく。夜が、西へ帰っていく。

「ウソつき」

 忘れないって、言ったのに。待ってるからって、言ったのに。

 もう帰ろう、わたしがあるべき場所へ。君のいない世界へ。

  ¶

 人の群れの中を走った。真っ赤に染め抜かれた夕焼け雲と夕陽。6時を指した時計塔から人形が出て来て踊った。ギリギリで間に合った僕は肩で呼吸をしながら空を見上げた。夜を連れた瑠璃色が、少しずつ隠した。街も人も、全てが夜に向かっていく。

 昼が終わる。夜が来る。久方ぶりに帰った街の夜に身体をうずめ、ただ僕は、あなたを待っていた。穏やかなぬるい風の中で、注ぐ星明かりの中で。

 夜が終わる。朝が来る。沈むように街は黙る。僕はまだ、あなたを待っていた。忘れないって、約束したから。待ってるからって、約束したから。
 夜の帳を金星が裂く。細い月と朝日が後を追い、夜は西に去っていく。

「ごめん」

 あなたが忘れてしまったのなら、僕はここには居られない。

 もう帰らないよ、あなたがいる場所に。僕のいない世界に。
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