夜明けの冒険譚

葉月

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第3章 魔王軍四天王 ルマアニ

第二十五話

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 大部屋の中に入れば、そこには既に何人かの冒険者がいた。知っている顔から知らない顔まで様々だ。
 俺達が部屋に入ってきたのを見て、冒険者達がざわざわと騒ぎだす。

「なあ、あれって勇者様だよな?」
「マジで!? はぇー、ほんとにいたんだなぁ。」

「サインとかもらえねぇかな?」
「馬っ鹿、お前、勇者様に迷惑だろ。」

「勇者様もこの作戦に参加するのかな?」
「ここに来たってことは、そうじゃない?」

 話しかけてくる人もいたが、軽く流して、目立たない部屋の端に行く。それでも、俺達の周囲から人と一定の距離があるから、目立ってしまっている。
 ラルフが俺に耳打ちする。

「人気者だね、アルバ?」

 俺は少々、ムスッとする。俺としては目立つのは不本意なのだ。
 そんな俺を見て、ラルフはくすくすと笑っている。
 肘でラルフを軽く突く。

「笑うな。」
「ふふっ。」
「シエルまで……。」

 俺の様子を見て、シエルも小さく短く笑う。
 どうしようかと悩んでいると、突然、大部屋の扉が開いた。
 先ほど俺達を案内した人に加え、隊長らしき人が入ってきて、皆、顔を引き締める。
 皺1つ無い、整った服装で、立派な髭を貯えた、厳格そうな人だ。

「ここにお集まりいただいた冒険者の皆様、そして、お忙しい中特別に駆けつけてくださった勇者様御一行、作戦へのご協力、感謝致す。わたくしはラント王国軍第3騎士団団長、そして今回の作戦隊長、モルガンと申す。」

 この部屋全体を見回して、隊長が丁寧に述べる。

「さて、私達が、貴殿方にお願いしたいのは……」




 作戦会議が終わり、俺達は町の中を歩いていた。町の中でも、オークション会場の近くだ。
 モルガン隊長によれば、オークションの会場や開始時刻は、諜報員からの情報でわかっているそうだ。
 そして、俺達、冒険者に課せられた依頼は、町の見回りと、逃げ出した魔物の対処、そして、オークション会場の裏口を特定して塞ぐことだ。ちなみに、会場への突撃と捕縛は軍の部隊が行うらしい。
 オークションは今から1時間後、つまり、昼間に始まる。こういうものは夜中に行われそうなものだが、人通りの少ない夜中より人通りの多い昼間のほうが、参加者が人混みの中に隠れられるので、逆に目立たず向こうにとって都合がよいらしい。
 それで、今、裏口を見つけるために会場周辺を歩いているわけなんだが……。

「あまりはしゃぎすぎるなよ。」

 ラルフの元気の良い返事と、シエルの小さく大人しい返事が帰ってくる。
 先ほどから、美味しそうなものや面白い仕掛けのある玩具を見つけたら、ラルフが寄り道をしているのだ。
 シエルも、ラルフほどはしゃいではいないが、魔道具や魔法石を見かけたら、じーっとそちらを見ている。
 迷子にならないよう、シエルとは手を繋いで歩く。ラルフは……まあ、たぶん、大丈夫だろう。
 しかし、ラルフ達がはしゃぐのも少しわかる。この町は、他の町に比べて抜きん出て綺麗だ。外にゴミが捨て置かれないように住民達で徹底されているようだし、ゴミ処理の回収も、地下の方で下水道も隅々まで整備がなされているようだ。
 そんなこんなで、周囲を見ながら歩いていると、目的地に着いて立ち止まる。すると、前を見ていなかったらしいラルフがぶつかってきた。

「…わっ、どうして止まるの、アルバ?」
「お前、目的を忘れんなよ……。ここがちょうど、会場の裏手だ。」

 左を見れば、会場の裏を通る路地がある。
 路地に入って奥まで覗いてみたが、裏口らしきものはない。
 路地から通りに戻って、地図を広げ、話をする。先ほどの作戦会議のときに、この町の地図をもらったのだ。

「扉らしきものはなかったな。幻惑魔法、だったか、で見えない可能性は?」
「それはないと思うよ。さっき、壁を調べながら進んだけど、扉はなかったし、あったら僕はなんとなくわかるから。」

 俺が提示した可能性を、ラルフが否定する。
 そういえば、ラルフは幻惑魔法を使った罠を作れるのだったな。使えるからこそわかるものがあるのだろうか。
 考えていると、シエルが新しく意見を出す。

「そもそも裏口が存在しない可能性はありませんか? 『テレポート』の魔法を使えば、裏口が無くても逃げられるのでは?」
「ないとは言い切れないが、可能性は低いだろうな。『テレポート』ができるのは、1日に1、2回なんだろう? 万が一の為、逃げる算段をしていると思う。隊長の見解もそうだったし。」

 また、隊長によると、魔物の運搬には『テレポート』が使われている可能性が高いらしい。もし裏口が無いのなら、運搬後に襲われれば、一溜りもないだろう。
 ラルフが背伸びをしながら、適当に話す。

「じゃあ、もう、上空か地下しかなくない? 鳥みたいに飛んでくるとか、土竜みたいに掘ってくるとか。」
「上空は目立つだろうが……ん? 地下?」

 俺は、ふと思い付く。

「どうしたの、アルバ?」
「なあ、この町の地下下水道ってどこを通ってる?」
「それって…!」

 ラルフもシエルも、俺の言いたいことがわかったらしい。
 シエルが言う。

「『透視』を使って、この地下を調べてみますか?」
「透視って?」
「その名の通り、物体を透過してその奥の物を見る魔法です。」
「なるほどな。頼む。」

 シエルが『透視』と唱えると、シエルの目の近くに透明なカードが現れ、そのまま地面を見ている。
 それにしても、『透視』か。『心眼』にも似たような効果があったような…。

「今、『透視』と『心眼』って何が違うんだろう、って思ったでしょ?」
「あ、ああ。」

 ラルフに考えを当てられて、少し驚いた。
 ラルフは少し笑ってから、説明を始める。

「『透視』と『心眼』は、……ま、簡潔に言えば、効果時間と範囲の違いがあるかな。」
「…つまり?」
「『透視』は視界が狭く、そして魔法の発動中だけの代わりに、何枚壁を隔てようが遠くまで鮮明に見ることができる。逆に『心眼』は何枚も壁を越えることができないし、遠くははっきりと見えない代わりに、視界が広く、一度魔法を発動したら効果が持続するんだ。あと、暗闇や濃霧の中でも見える。」
「『透視』を発動し続けることは、できないのか?」
「できなくはないけど……魔法を発動中は魔力を消費し続けるから、効率が悪いかな。」
「なるほどな。」

 ラルフから魔法の説明を受けている間に、シエルのほうは終わったようだ。
 シエルがこちらを向いて、俺の名前を呼ぶ。

「アルバ様!」
「どうだった、シエル?」
「アルバ様の予想は当たっていたようです。下水道に、巣を張った蜘蛛の魔物が何体も確認できました。」
「そうか。ありがとう、シエル。とりあえず、そのことを隊長に伝えないとな。急いで向かうぞ。」
「はい。」
「そうだね。」

 俺達は駆け出した。


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