夜明けの冒険譚

葉月

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第2章 魔王軍四天王 リベルタ

第十五話

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「おお、よくぞ来た勇者アルバよ。」

 俺が王に謁見すると、王は俺を歓迎する。

「顔を上げよ、勇者。さて、久しぶりに君とゆったりと話をしたいものだが、私も君も忙しいのでな。単刀直入に言う。」

 王は一度、咳払いをして、いつものほんの少しの優しさを微塵も感じさせない堅苦しい声と態度で言う。

「勇者よ。凶悪な魔王軍四天王、そして、諸悪の根元である魔王を討伐せよ。野蛮な魔族共を殲滅するのだ。」
「……承知しました。」

 ……いよいよか。
 勇者に選ばれたときから、覚悟は出来ている。いつか、この命令をくだされるだろうと。むしろ、俺はこの命令をされるのが遅い方なのではないだろうか。
 しかし、王のという言葉は言い過ぎだと思う。その言い方だと、善悪に関わらず魔族を皆殺しにしろということだ。いや、王にとっては…一般的には、この解釈で正解なのだろう。
 王は続ける。

「まずは、魔王軍四天王の一人、リベルタの討伐を頼む。噂によれば、城に近づいた多くの冒険者を殺害したそうじゃないか。」
「は……?」

 近くにいた兵士が、リベルタの討伐の依頼書と、リベルタの居城の場所を書いた地図を俺に手渡す。
 俺は思わず、開いた口が塞がらなかった。
 多くの冒険者を殺害…? 少なくとも俺は、そんな噂を全く聞いたことがない。怪我をしたという話は聞いたことがあるが、後遺症も無く完治したそうだ。
 おそらく噂が王に届くまでに、色んな尾ひれがつき、脚色されていったのだろう。

「どうした? なにか問題でもあったか。」
「……失礼ながら、申します。私はリベルタが人に怪我を負わせたという話は聞いたことがありますが、誰かを殺害したという話は聞いたことがありません。何かの間違いでは?」
「そうか。それで何が問題なのだ?」

 俺は王に問われた質問の意味を理解できなかった。

「魔王軍四天王は必ず倒さねばならぬ存在。誰も殺していないからといって、何が変わる。むしろ、大量殺人者であると言った方が、君は倒しやすいし、反発もないだろう。そうだな?」
「…………はい。」

 王の言葉に、俺はただ返事をすることしかできなかった。
 王の言葉は正しかったからだ。倒しやすいかは置いといて、気分は幾分、楽だろう。……トイファのときみたいに。
 俺の返事に王が頷いて言う。

「うむ。他に意見は無いようだな。それでは、よろしく頼むぞ、勇者。」
「はい。」

 王は俺の返事に再度頷き、満足したような顔をする。
 そして、下がるよう、俺に命令する。俺にとっても用事はなかったため、その言葉の通り、俺は去る。
 何か、モヤモヤしたものを抱えたまま、俺は日が傾き暗くなってきた中、館へ帰るのだった。



 館に着き中に入ると、それに気づいたシエルとラルフが出迎えてくれる。
 シエルは本を読んでいる途中だったらしく、本を腕に抱えたまま俺の元へ来たらしい。

「シエル、それは?」
「これですか? 有名な絵本らしいです。」

 シエルが俺にその本を掲げて見せる。
 その表紙と題名は、俺も子供の頃に読んだことがあるものだった。
 確か……

 ある公園で、ブタさんやネコさん、タカさん、スズメさん、コウモリさんなどたくさんの動物さんが遊んでいた。
 あるとき、ブタさんやネコさんの動物達とタカさんやスズメさんの鳥達で互いにやりたい遊びがあったけど場所の取り合いで喧嘩する。それを見たコウモリさんが陸の遊びと空の遊びを提案し、互いは場所を譲り合うことで仲直りする。
 鳥達は翼とくちばしを使い空でドッジボールをし、翼を持たない動物達は陸でサッカーをして遊ぶ。
 場所を譲り合うことでいつまでも楽しく遊べた動物達は、コウモリさんが今度来たら感謝を伝えよう、と決めるのだった。

 まとめるとこんな話だったはずだ。

「あっ、懐かしいー。それ、僕も読んだことあるよ。」
「そうなのですか?」
「うん、よく母さんが読み聞かせてくれたんだ。好きだったなぁ。」

 ラルフは昔のことを思い出しているのか、穏やかな笑みを浮かべる。
 ラルフがこの絵本を好きだったとは、初めて聞いた。

「ところで、アルバ。王様からの呼び出しはなんだったの?」
「あぁ、それはな。そろそろ本格的に魔王軍を倒しに行けとのことだ。」
「……ふーん、それで?」

 ラルフもシエルも真剣に俺を見る。

「…まずは、魔王軍四天王の一人、リベルタを倒してこいってさ。」
「そう……。」
「わかりました。私も同行してもよろしいでしょうか?」

 俺はシエルの質問に、少し考えあぐねてしまう。
 正直に言うと、危険なところにシエルを連れていきたくない。
 しかし、学校が始まるのはまだであるから、置いていくこともできない。

「あぁ、一緒に行こう。ラルフはどうする?」
「もちろん、一緒に行くよ。」

 そのとき、何かラルフに違和感を感じた。
 いつもの笑顔のはずなのに、心は笑っていないような……。

「……どうした、ラルフ?」
「何が?」
「元気無さそうだが…。」

 図星だったのか、ラルフが少しハッとする。しかし…

「……大丈夫、僕は何ともないよ。」
「……そうか。」

 明日の朝、出発することを伝え、夕飯の後、解散した。


 俺が部屋に向かうと、部屋の前でラルフが待っていた。

「どうした?」
「ねぇ、アルバ。本当にリベルタを倒しに行くの?」
「…あぁ。」

 ラルフがこんなことを聞くなんて、一体どうしたんだろう。

「本当に? 噂で聞いたけど、リベルタは人を殺してないんでしょ? もっと、後にするとか…」
「出来ないだろう。」
「…っなんで。本当は、アルバは人間も魔族も殺したくないんでしょ。なら、なんで」
「うるさい!」

 俺は疲れと何とも言えないモヤモヤからか、ラルフの言葉に妙にイラつく。

「そんなのは、俺でもわかってる。それでも、王に命令されたんだから、仕方ないだろ!」
「っ…」

 俺の怒鳴り声に、ラルフは怯え、一歩下がる。
 それを見て、俺はハッと正気に返る。

「あっ…………ごめん。やっぱり、疲れてるみたいだ。」
「…いや、大丈夫。僕の方こそ、疲れてるのに引き留めてごめんね。……お休み。」
「……お休み。」

 そうして、ラルフは自身の部屋へと返っていく。
 モヤモヤは晴れないまま、俺も自室のベッドで眠りについたのだった。


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