4 / 32
3話目:戦闘員の願い
しおりを挟む
銀混じりの戦闘員は急いで地上に繋がる手すりを昇りきり、研究所と地上を隔てるマンホールの蓋へと手を掛ける。
一気に蓋をずらすと、そこはビルとビルの合間に挟まれた袋小路であった。そのままの勢いで外へと飛び出すと銀の翼を広げて一気に曇天の夜の空へと羽ばたく。
(さっきまで”俺”がいくら身体を動かそうとしてもできなかったのに、今じゃ自由に動ける……?)
奏矢は空を羽ばたきながら考える。先ほどまでは奏矢の意志とは関係なく動いていた体が、先ほどヘルハウと呼ばれた犬型怪人に攻撃されてから動かせるようになっていた。
奏矢にも意味が分からなかったが、まずはこの危険地帯から逃げ出すのを最優先にして羽ばたき続ける。下を見ると看板には『大宮』と地名が書かれた居酒屋の看板が煌々と辺りを照らしていた。そこで奏矢は首を捻る。
(……ここ、埼玉の大宮? 俺が事故った場所は確か群馬の太田だったはず。なんでこんな遠くに運ばれたんだ)
そんなことを考えながら奏矢は夜空を羽ばたくが、答えは出ない。ふと眼下に小さく見える歩行者の1人と視線がぶつかり、急いで人気のないところまで羽ばたく。時間にしたら半時間ほどのそこそこ高いマンションの屋上へと降り立つと、奏矢は一息つく。
とりあえずこれからどうするか悩むが、答えは出ない。己の背に付いた銀色の翼を引っ張り、そして影の様に黒い己の姿を見やる。所々銀色が混ざった姿は、どう見ても不審者のそれであった。
(……いや、こんな姿じゃ生きていけないだろ。元居た会社になんて戻ったら通報されるだろうし。いや、というかこれ、日常生活を送れないだろ。このまま生きていくか……? いや、さっきの俺を失敗作とか言っていた組織に土下座して助けて貰うとか。いやー、生きたまま解剖とか言ってたしなぁ)
奏矢は頭を掻きながら考え込む。奏矢の両親は既に死んでおり、身内と言えば兄と弟のみ。その2人もまた数年以上疎遠であったために頼ることは出来ないのだ。加えて信用できる友人も居ない。
そのため奏矢が身を隠せる場所など1つも存在しなかったのだった。途方に暮れて曇天の夜空を見上げるが答えなど出ようはずもない。
(取りあえず、ここからさらに遠くに……)
「……い」
「?」
突如、奏矢は己の意志とは無関係に口が動く。
そして思わず口元を押さえようとした手が動きが悪くなり、まるで油の切れたロボットのように動かなくなる。だが一方で背の翼は滑らかな動きで羽ばたき始める。
「かえりたいかえりたいかえりたいかえりたかえりたいかえりたい」
(ああああっ!??)
そして奏矢はまた身体の自由が効かなくなり、目的地も分からぬまま曇天の夜空を羽ばたくのであった。
**************
時刻はほんの少しだけ巻き戻る。
血濡れの犬型怪人がゆっくりと目を開ける。そして何があったかのかを思い出して、怒りで手を思い切り握り込む。力を入れすぎて手から血が流れ始めるが一切気にも止めない。
飛び跳ねるように起きると、銀混じりの戦闘員の臭いを嗅ぎ始める。猟犬のように鋭い嗅覚で辺りを探ると、その臭いは頭上のマンホールへと続いていたのだった。ヘルハウはマンホールに繋がる手すりへと手を掛けると一気に駆け上がる。
(殺す殺す殺す殺す戦闘員の分際で、俺に傷つけやがった。殺す殺す殺す)
ヘルハウは外へと這い出ると一気に跳躍して、追跡を開始する。
ヘルハウの脳裏は殺意で真っ黒に塗りつぶされており、ゴミと思っていた下っ端の戦闘員に気絶させられたことも彼のプライドを大いに傷つけていたのだった。
(それにイズミ所長の”お願い”に背いたら、俺が処罰されちまう)
『イズミ所長のお願い』、それは命令よりも重いものであった。”お願い”を叶えられずに、生きたまま解剖された同族や耐久実験と称して足先からすりつぶされていった同族、その他にも実験と言うよりも拷問であろう結末を迎えたものたちを今まで何度も目にしてきたのだ。
「お願い、ね♡」
ビルの谷間に消えかけたヘルハウの背に声が掛けられた気がした。それはイズミ所長の声であったが、それがヘルハウには風を切る音かあるいは本当に声を掛けられたのか分からなかったのであった。
一気に蓋をずらすと、そこはビルとビルの合間に挟まれた袋小路であった。そのままの勢いで外へと飛び出すと銀の翼を広げて一気に曇天の夜の空へと羽ばたく。
(さっきまで”俺”がいくら身体を動かそうとしてもできなかったのに、今じゃ自由に動ける……?)
奏矢は空を羽ばたきながら考える。先ほどまでは奏矢の意志とは関係なく動いていた体が、先ほどヘルハウと呼ばれた犬型怪人に攻撃されてから動かせるようになっていた。
奏矢にも意味が分からなかったが、まずはこの危険地帯から逃げ出すのを最優先にして羽ばたき続ける。下を見ると看板には『大宮』と地名が書かれた居酒屋の看板が煌々と辺りを照らしていた。そこで奏矢は首を捻る。
(……ここ、埼玉の大宮? 俺が事故った場所は確か群馬の太田だったはず。なんでこんな遠くに運ばれたんだ)
そんなことを考えながら奏矢は夜空を羽ばたくが、答えは出ない。ふと眼下に小さく見える歩行者の1人と視線がぶつかり、急いで人気のないところまで羽ばたく。時間にしたら半時間ほどのそこそこ高いマンションの屋上へと降り立つと、奏矢は一息つく。
とりあえずこれからどうするか悩むが、答えは出ない。己の背に付いた銀色の翼を引っ張り、そして影の様に黒い己の姿を見やる。所々銀色が混ざった姿は、どう見ても不審者のそれであった。
(……いや、こんな姿じゃ生きていけないだろ。元居た会社になんて戻ったら通報されるだろうし。いや、というかこれ、日常生活を送れないだろ。このまま生きていくか……? いや、さっきの俺を失敗作とか言っていた組織に土下座して助けて貰うとか。いやー、生きたまま解剖とか言ってたしなぁ)
奏矢は頭を掻きながら考え込む。奏矢の両親は既に死んでおり、身内と言えば兄と弟のみ。その2人もまた数年以上疎遠であったために頼ることは出来ないのだ。加えて信用できる友人も居ない。
そのため奏矢が身を隠せる場所など1つも存在しなかったのだった。途方に暮れて曇天の夜空を見上げるが答えなど出ようはずもない。
(取りあえず、ここからさらに遠くに……)
「……い」
「?」
突如、奏矢は己の意志とは無関係に口が動く。
そして思わず口元を押さえようとした手が動きが悪くなり、まるで油の切れたロボットのように動かなくなる。だが一方で背の翼は滑らかな動きで羽ばたき始める。
「かえりたいかえりたいかえりたいかえりたかえりたいかえりたい」
(ああああっ!??)
そして奏矢はまた身体の自由が効かなくなり、目的地も分からぬまま曇天の夜空を羽ばたくのであった。
**************
時刻はほんの少しだけ巻き戻る。
血濡れの犬型怪人がゆっくりと目を開ける。そして何があったかのかを思い出して、怒りで手を思い切り握り込む。力を入れすぎて手から血が流れ始めるが一切気にも止めない。
飛び跳ねるように起きると、銀混じりの戦闘員の臭いを嗅ぎ始める。猟犬のように鋭い嗅覚で辺りを探ると、その臭いは頭上のマンホールへと続いていたのだった。ヘルハウはマンホールに繋がる手すりへと手を掛けると一気に駆け上がる。
(殺す殺す殺す殺す戦闘員の分際で、俺に傷つけやがった。殺す殺す殺す)
ヘルハウは外へと這い出ると一気に跳躍して、追跡を開始する。
ヘルハウの脳裏は殺意で真っ黒に塗りつぶされており、ゴミと思っていた下っ端の戦闘員に気絶させられたことも彼のプライドを大いに傷つけていたのだった。
(それにイズミ所長の”お願い”に背いたら、俺が処罰されちまう)
『イズミ所長のお願い』、それは命令よりも重いものであった。”お願い”を叶えられずに、生きたまま解剖された同族や耐久実験と称して足先からすりつぶされていった同族、その他にも実験と言うよりも拷問であろう結末を迎えたものたちを今まで何度も目にしてきたのだ。
「お願い、ね♡」
ビルの谷間に消えかけたヘルハウの背に声が掛けられた気がした。それはイズミ所長の声であったが、それがヘルハウには風を切る音かあるいは本当に声を掛けられたのか分からなかったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~
わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」
現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。
渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。
私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル!
「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」
提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。
家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。
裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。
錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。
主人公無双×のんびり錬金スローライフ!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる