悪の組織によって改造された俺は失敗作として廃棄され、魔法少女に寄生する

重弘 茉莉

文字の大きさ
11 / 32

10話目:契約と嘘

しおりを挟む
 --リリは病院のベッドの上で眠っていた。時刻は深夜の3時2分のこと。
その枕元にゆらりと銀色の液体のようなスライムとなった奏矢が、リリを覗き込んでいた。


(……意味が分からない)


 奏矢は自分の意志とは無関係に人の目に触れる危険性を無視してまでリリについてきてしまったことに不可解さを覚えていた。
もっとも数回ほど確実に人に見られていたにも関わらず、誰にも奏矢に対して反応を示さなかったのだが。ぺちぺちと奏矢はそのひんやりとした身体でリリの頬を軽く叩く。数回ほどぴたぴたとひんやりした身体で頬にぶつかると、リリは目を覚ます。


「んん……?」


 リリはゆっくりと目を覚ますと、目の前にいる物体に目を凝らす。
少し間を置いて暗闇に目が慣れてきたリリが目の前のそれが見たこともない物体であることに気がつき、叫ぼうとするのを奏矢は身体を伸ばして口を塞ぐ。


「ちょっと、落ち着いて。ね?」


「んんんーっ!」


 リリは奏矢を引き剥がそうと必死になるが、口から銀のスライムである奏矢が離れることはない。
暴れるリリを諭すように、あえて優しげな声を出してリリを落ち着かせようとする。


「落ち着いて、落ち着いて。ねぇ、リリ。ここに来る前のことを覚えているかい?」


「んんー! ……ん?」


 リリはそこでようやく気がつく。『なんで自分はこんな所に居るんだろう?』、薄明かりの中でもわかる清潔な真っ白なベッドを覆うカーテン、つんと鼻につく薬品臭、そして枕元にはナースを呼び出すボタン”ナースコール”が置いてあった。
そして暴れた時に誰も来なかったのは、半分ほど開けたカーテンから見えたのは自分が今、個室に居るということであった。


「落ち着いた? なら口から外すよ」


「ぷはっ! ……えぇと?」


「そうだね。まず、君と契約のことなんだけど」

 
 奏矢はあることを確認したいがために質問する。それはリリと交わした”契約”のこと、簡単に言えばリリの身体を貰う代わりに、あの犬型怪人に対抗する力を与えたこと。
だが現状としてリリは奏矢に身体を渡してない”契約不成立”の状態、そして奏矢自身が自分の意志に反してリリに人目につくことも構わずにずっとついてきたことも違和感に拍車を掛けていた。


「けい、やく……?」


 リリは不思議そうな表情を浮かべる。
そこで奏矢はさらに違和感を覚える。そして一拍を置いてリリは何かを思い出したようにハッとした表情を浮かべる。


「……そうだ、私……園長先生と会って、院も燃えちゃって、怖い人が襲ってきて。それから……頭の中に言葉が響いてきて、願いを叶えてあげるって。だから私はあのひと”たち”に仕返しをしたいって思って。それから……それから……何か力が、すごい出て……。 ……でもなにか忘れてるような」



(おっと……?)



 奏矢はそこで気がつく。リリは不思議と”契約内容”があやふやになっていることに。だが、願い事はしっかりと覚えている。そう言えば”誰”に仕返しをしたいかまでは聞き届けていなかった。
そして何故己がこの状況に陥ってしまったのか理解出来た。あのひと”たち”、つまり仕返し対象があの犬型怪人ヘルハウだけではなかったのだ。お互いに契約不履行、宙ぶらりんのこの状態。そして奏矢が相手に願いを聞いて動くときは己の身体が勝手に契約から成立までを進めてしまっていた。”契約”を果たすために、奏矢の身体が勝手にリリへとついてしまってきていたのだった。


(……そういえばあの犬型怪人クソ犬、イズミ所長とかいう俺をこんな姿にしたあの女の名前を喋っていたな。あのくせぇ口から炎以外にもゴミみたいな話を垂れ流しやがって。だが)


 だが。ある意味では奏矢にとってはまだ都合の良い状態ではあった。
それはリリが”契約内容”についてよく覚えていないことだった。ならばまだやるようがある。


「君の力が必要だったんだよ。そう、君には”素質”があったんだ。君を襲ったあの怪人を改造、いや君が園長先生と呼んでいたひとも改造した悪の組織を打ち倒す力の”素質”がね」


「素質……?」


「そう、君があの怪人と戦う力を得られたのは俺……いやボクと契約したからさ。だから君は魔法のような強さを手に入れただろう?」


「……うん」


「君は魔法のような強さを手に入れた”魔法少女”になったんだ。それでボクは君と一心同体のような使い魔ってわけさ」



 カバーストーリー。奏矢は知っている事実と嘘を織り交ぜた物語をリリへと聞かせる。
今居るこの世界とは別の次元からやってきて世界制服を狙い、人を傷つけ混乱させ、破滅を誘う、そんな邪悪な秘密組織。その組織の名は陰謀団カバルであり、あの犬型怪人ヘルハウ戦闘員シャドウになった沓野輪くつのわたちは元は拉致された人間であったこと。そしてこの組織を止めるために”奏矢自身”もその別の異世界からやってきて”素質”を持つ人間を探していたこと。加えて現状、組織に対抗できる素質をもった人間はリリしかいないこと。そのことをゆっくりとした口調で奏矢は話し終えると、リリの様子を窺う。


「……どうだい? (……まあ、攫われた人間を改造してるってことと組織の名前以外は今俺が考えたことなんだがな)」


「……わかった。私が戦わないと、駄目なんでしょ。私、頑張ってあのひとたちと戦うよ」


「よかった。とりあえず今は疲れているだろうし、今はやす」


 奏矢がそう言いかけたときに、突如として個室にライトの明かりが差し込まれる。そして中途半端に空いたカーテンの隙間から看護婦が中を覗いてくる。
リリは上半身をベッドの上で起こし、奏矢は膝に乗っている状態、まず通常ならば銀色のスライムのような物体に目を惹かれ、かつ大騒ぎすることだろう。だが、リリにライトを当てていた看護婦は奏矢のことなど気にも止めず、リリに声を掛ける。


「ちょっと天野さん? 今は寝る時間ですよ? 携帯電話でお喋りでもしていたんですか?」


「いえ、そういうわけじゃ……。あっ、そういえば私が居た孤児院のみんなってどうなったか知っていますか?」


 リリは孤児院の友人の顔を思い出しながら看護婦に疑問をぶつける。
先ほどまで厳しい表情を浮かべていた看護婦は少しだけ考えると、ぴしゃりと話を断つように通った声でリリへと喋りかける。


「……もう遅いから早く寝なさい。携帯持っていたことは婦長には黙っておいて上げるから。次からは病院内で通話出来る場所教えてあげるから」


 そう言って看護婦は奏矢に何の反応も示さずに出て行く。
リリは看護婦の足音が遠くなっていくのを確認してから、薄い夏掛けを頭から被ってひそひそ声で奏矢と喋る。


「……なんで看護婦さんはあなたを見て反応しなかったんだろう。」


「なんでかボクは普通の人には認識されないみたい」


「あれ、というかあなたの名前聞いたっけ?」


奏矢そうやだよ。あっ」


 咄嗟に自分の名前をそのまま言ってしまう。
あっと思ったがもう遅い。リリは笑顔で奏矢の身体を掴むと握手する。


「よろしくね、ソーヤさん! ……明日になったらちゃんと看護婦さんにみんなのこと教えてもらわなきゃね。おやすみなさい」


「……ああ、うん。よろしくね」


 そういってすぐに寝入ったリリを見てから、念のため奏矢も身を隠して辺りを警戒するのであった。
























しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」 現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。 渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。 私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル! 「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」 提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。 家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。 裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。 錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。 主人公無双×のんびり錬金スローライフ!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

処理中です...