ヒキアズ創作BL短編集

ヒキアズ

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(1)いつの間にか意識

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 高校教師の鴪間 志貴は、校内一の王子様キャラである鹿野 仁依が隠れて煙草を吸っている場面に遭遇する。当然注意をするが「あのさ、もしかしてだけど……。先生、僕のコレ(顔面)に引っ掛かってくれない感じ……?」と興味を持たれてしまい――。
 王子力乱用生徒×気だるげ教師。
 初期に投稿した作品をリメイクしたものです。自分のテンプレ展開って感じの流れで好きです!
 番外編にて色々と補足があります。

鴪間 志貴(いつま しき):極力面倒ごとに関わりたくないと思っているが、残念ながら王子様に目をつけられてしまう。程よいチャラさで生徒からの評判は◎
鹿野 仁依(かの にい):顔面の良さを武器に生きてきた。その顔面は魔法としか思えない不思議な強制力がある。が、何故か鴪間には効かない。家が金持ちなので最強。未成年の喫煙駄目絶対。
桐谷 優子(きりや ゆうこ):花音と仲良し。ゆるふわ天然女子。
丹波 花音(たんば かのん) 優子と仲良し。クールビューティーヤンキー女子。
桜木先生:鴪間の想い人。お淑やかな女性。

男二人のネーミングは「いつのまにかいしき」のアナグラム。花音は「ばか」(ごめん)。他は忘れた(ごめん)。
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 夏目前の夕日が沈む時刻。
 採点をキリの良いところまで終わらせた俺は、大きく伸びをして、外の空気を吸うべく席を立つ。
 いつもは青春真っ盛りって感じの掛け声で賑わう校庭も、テスト期間である今日は部活が休みなお陰で、随分静かだ。
 いつもこれくらい静かだといいんだがな。
 そう思いながら手を空に突き出し、再び大きく伸びをする。少しの暑さを感じるが、今日は程よい風が吹いていて。なんとも心地よい。
「あっ、鴪間せんせ~! 私のテストどうでしたぁ?」
 そのまま軽くストレッチをしていたところで、靴箱の方から桐谷 優子がパタパタ駆けて来るのが見え、顔を歪める。
「桐谷、お前なぁ。あの解答でよくそんなこと呑気に聞けるな……」
「えぇ~?! 自信あったのにな~」
「あれでか……?」
「ぶっは! やっぱダメじゃん優子!」
 後から駆けてきた丹波 花音が笑いながら桐谷をバシバシ叩く。
「も~! 花音ちゃんってば酷い~!」
 そう言って頬を膨らませた桐谷は、丹波をポカポカ叩き返す。
 ちなみに、桐谷優子が天然馬鹿の方、丹波花音がヤンキー馬鹿の方だ。ゆるふわとクールビューティーで正反対な二人だが、何故だかとっても仲が良い。ついでに言うと、頭の出来も仲が良い。そして残念なことに、二人とも俺の担当クラスの女子なのである。
「丹波、お前もだ馬鹿。もうちょっと頑張ってくれ。せめて国語だけでいいからちゃんと勉強しろ」
「うわ~。鴪間センセーってば自分の教科だけ勧める……!」
「当たり前だろ、お前の担任として恥ずかしいんだよ! いい加減やる気を出せ!」
「や~ん。鴪間せんせ~こわ~い!」
「あ~あ。鹿野王子がアタシらに勉強教えてくれたら絶対やる気出るんだけどな~」
 口に両手の拳を当ててぷりぷりと嘘くさい怯え方をする桐谷。そして頭の後ろで手を組んで唇を尖らせ現実逃避をする丹波にため息を吐く。
「俺はこの学校で怖くない方だし、俺だって充分王子様だろ?」
「鴪間せんせ~が怖くないのはわかるけど~、ぷぷ、王子はないよね~!」
「うん。ない」
 冗談でしてみせたウインクが何とも切ない。女子高生二人に否定された俺は、静かに心の中で泣いた。
「てか丹波、お前でも鹿野に惚れたりするんだな」
「は? 失礼な言い方するじゃん? まあ、惚れたとかじゃなく、さっき王子のこと見かけたから言ってみただけ。目の保養っていうの? そういうのでモチベ上げれたら最高じゃん?」
「ん~、まあ。鹿野くん、顔がいいもんね~?」
 ニコニコしながら相槌を打った桐谷の目が笑っていないのは気のせいだろうか?
「いや、それが顔だけじゃないんだよ。鹿野王子は何でもできるんだよ! この前なんかさあ――」
 桐谷の様子に気づくことなく、丹波はうっとりした顔で王子の武勇伝を語り出す。
 ……やっぱコイツ、ヤンキーぽい癖に意外と乙女でミーハーなんだよな。
「という訳で、女子なら絶対一度は王子に夢を見ちゃうんだよな~!」
「え~? 花音ちゃん、鹿野くんに惚れちゃ嫌だよ~! 私を置いてかないで~!」
「いやだから、惚れるとかそんなんじゃないってば!」
 涙目で抱き着く桐谷に、丹波は苦笑しながらその背を優しく叩く。
 なるほど。桐谷は友達が王子様に取られるのが怖くてあんな顔をしてたのか。コイツらも意外と可愛いところがある。……じゃなくて。
「ったく。お前ら、王子はいいからさっさと帰って勉強しろ!」
「そんなに僻んでちゃ、鴪間っちモテないよ~?」
「うん。モテない」
「余計なお世話じゃ! てか変なあだ名で呼ぶな! ほら暗くなる前にさっさと帰れ!」
 二人をしっしと手で追い払い、後ろから聞こえてくる文句にもめげず、俺は散歩を続行する。
 鹿野 仁依、か。俺はアイツのクラスを受け持ったことがないからあまり詳しくはない。が、確かにアイツはどんなに難しいテストを作っても、必ず九十点台をキープしている。勉強ができるだけじゃなく、運動もでき、王子と呼ばれるほどに人並み外れた容姿を持ち、人当たりも良く、おまけに金持ち……と所謂隙なし完璧イケメンで、白い噂が後を絶たない。
 若いのにすごいわ。単純に尊敬する。きっと告白とかしても負けなしなんだろうな。羨ましい限りだ。
「さて。王子様の話は置いといてっと。ん~。どこを歩くかな~」
 独り言を零しつつ、人気のない校舎裏に入る。一人暮らしはどうもいかん。一人になった途端、思ったことをすぐ口に出してしまう。
「にしても、ここは少し寒いな……」
 もう夏だというのに、日の当たらない寂れたその場所は、じんめりとした空気が漂っていた。
 そういえば、校舎裏には飼育してたニワトリやウサギのお墓があるって噂があるんだよな……。本当に死体が埋まっているかどうかは知らないが、粗雑に造られた十字架が地面に刺さっているところを見ると……どうにも気味が悪い。
 それに、噂には続きがある。
 確か、いじめられている女子生徒が可愛がっていたウサギ。それがいじめっこに殺されて。自分のせいでウサギが殺されたのだと思いつめた少女は自殺してうんぬん……といった話だったな。そのせいで、夜な夜な泣き啜るお化けが出るとかいう噂。いわゆる学校の七不思議ってやつだ。
 全くどこからそんな話が湧いてくるんだか。
「って、うわっ!」
 くだらない話を思い出しながら角を曲がると、隅に生徒が座っていたので悲鳴を上げる。
 一瞬、幽霊かと思ってビビったじゃないか……。って、あれ。あの後姿は……。
「鹿野か? お前、なにして……」
「あ……」
 振り返った少年の口には白いものが咥えられていた。
「お前、それ、煙草……! 何やってんだ、こら!」
「えっと」
 少年はしぶしぶといった感じで吸いかけの煙草を口から離す。地面に落として靴で火を消す動作がこなれている。
「なんで鹿野が……。お前、これは駄目だろ……」
「は~。……すみませんッ! 先生、今回だけ許してください! お願いします!」
 鹿野が大きく息を吐き、閉じた目を開いた途端。気怠さを纏った雰囲気から一転、必死の形相に変わる。
「でもお前、そう言って止めないつもりだろ。隠れて吸うだろ、どうせ」
「そんなことしませんッ!」
「いいやするね。とにかくこれは没収。後の話はお前の担任にでもしてもらって……」
「あの、絶対もうしませんから……。先生、お願い……」
 可哀想なぐらい青ざめながら、瞳を揺らした鹿野が俺の裾を掴んで縋る。顔がいいお陰で、何だかこちらが悪いことをしているような気持になる。が、教師として生徒に間違った道を歩ませるわけにもいくまい。ここでしっかり指導をしておくべきだろう。
「あのなぁ、煙草とかお前の体に良くないから。やめろ。で、どうやって手に入れたんだ」
「あのさ、もしかしてだけど……。先生、僕のコレに引っ掛かってくれない感じ……?」
「あ?」
 鹿野がそのうるうるの瞳を指さしながら言うもんだから、首を傾げてドスの効いた声を出す。
「引っ掛かるって……。お前、やっぱり演技か。んなことしてないでちゃんと反省しろよ……」
「へぇ、ふぅん。そうなんだ。ふふ」
 そう言って、鹿野が「可哀想な王子様」の仮面を取っ払い、ニヤニヤと笑い出す。
「おい、お前、今俺に怒られてるのわかってんのか?」
「ふふ。わかってるから嬉しいんじゃないですか」
「お前、人をおちょくるのはやめろ。てか、噂に聞く王子様とは全く別人なんだが?」
「ええ。そうでしょうね。だって、いつもの僕は本性を隠して生きてますから」
「え?」
「だからね、先生。僕ね、貴方のことが好きになっちゃいました」
「は?」
 整った顔が太陽みたいな笑顔をみせる。でも、その目は全然笑っていなくて……。
 何を言っているんだこの王子様は。てかコイツ、本当に噂の王子様なのか……?
「お前、顔、恐い」
「そんなこと言うの、先生ぐらいですよ。ふふ、あはは! こんな気持ち、幼稚園の時の初恋以来だなぁ……!」
 楽しそうに笑い、自分の世界に入り込んでしまった鹿野に、俺はどうしようもなく立ち尽くす。
 コイツ、皆が憧れる爽やか王子様は嘘っぱちで、本性は映画の悪役魔女並みに黒いってことか……?
「おーい、鹿野……?」
「ああ、嬉しいなぁ。きっと運命だ。幼稚園の頃は逃がしちゃったし。今度は絶対に逃がしたくないなぁ。だから、ねえ先生?」
「ん?」
「とりあえず、犯しますね?」
「は?!」
 にこりと微笑んだ鹿野に、聞き間違いかと目を見張る。
 今、コイツ、なんて言った? てか、マジで顔が怖い……。って。
「痛ッ!」
 いきなり足を掬われてバランスを崩した俺は、無様に地面に倒れ込む。
「っ、お前、何なんだよ、一体……」
「大丈夫。心配しないで?」
 地面に手を突き、身を起こした時、地面に落ちた影にハッと息を飲む。
「逃げられないぐらい、気持ちよくしちゃえばいいですよね?」
 見上げると、にっこりと微笑む王子の手が、すぐ目の前まで迫っていて……。
「お前、なに、言って……」
「ああ、僕の運命。もう逃がさない」



「ちょ、マジで、やめっ! あッ、クソ!」
「せんせ、声抑えて。人が来ちゃいますよ?」
「お前、こんなとこでっ、こんなことしていいと、思って……ッ」
「やだなあ。こんなところで、生徒にフェラされてイった挙句! 素股でまたイきそうになってる先生には、言われたくないですけど、ねっ!」
「ぐ、ふざけ、あっ、うう……!」
 勿論抵抗した。そりゃあもう死ぬ気で抵抗したさ! だけど、悲しいかな油断した隙にネクタイで手を縛られて。後は意外と強い王子の腕力に押され押されて。めちゃくちゃ上手い舌使いに流されて。ついには組み敷かれてこんな疑似セッ……までさせられて! 控えめに言って死にたい……。けど、最近溜まってたこともあって、正直死ぬほど気持ちいい。
「は、気持ちいいですか、せんせ」
「ん、う……。も、駄目、は……」
「僕も、気持ちいいです、せんせ。ほら、も、イきそ……」
 太ももに熱い汁が伝う。裏から突かれる度に快感が襲う。そして、鹿野の指が先っぽを触り始めた途端、耐えがたい熱がこみ上げて……。
「鴪間せんせ、好き、愛してます、ッ」
「あ、くっ、あ、んッ!」
 耳元で甘い囁きを受けたタイミングで、頭が真っ白になる。
「お、まえ、ふざけるな、よ……」
 汚れてしまった太ももとシャツを見て、最悪な気持ちで地面に倒れ込む。
「クソ、とにかくコレ、外せ……。話はそれからだ」
「うんうん。そうですね」
 かしゃり。
「は?」
 今までの熱を一気に冷ますその音に、慌てて首を動かす。
「う~ん。いい写真だ。色っぽい先生の顔がよく撮れてる!」
 スマホの画面を見ながらそう呟いた鹿野に青ざめる。
「お前、何してんの……?」
「何って。先生を逃がさないための材料を作ってるんですけど?」
「いやいやいや。待て待て。それ、どうするつもりだ……?」
「どうして欲しいですか? 鴪間先生」
 ゆっくりと俺の名を呼ぶ悪魔は、幽霊なんかよりずっと怖くて。
「冗談、だろ……?」
 こうして、俺、鴪間 志貴の人生は唐突にピンチを迎えた。本当に、どうしてこうなってしまったのかわからな過ぎて、俺は神を恨むことしかできなかった。



 翌朝。徹夜して考えた末、あれはきっと夢だったのだろうと思い込むことで何とか学校へと足を向ける。
 あの後、放心する俺を尻目に、鹿野はてきぱきと自分の身なりを整え、俺のシャツを水洗いして持ってきて、やはりてきぱきと俺の身なりを整えた。そして、「じゃあまた明日」と言って啄むようなキスをした後、俺を残して去っていった。
 うん。夢だ。鹿野の行動が不可解過ぎる。夢だとしか思えない。
 一人で大きく頷いてから、「よし」と気合を入れて校門をくぐろうとしたその時。
「鴪間せ~んせっ」
「ヒッ!」
 後ろからいきなり肩を掴まれ、心臓が飛び跳ねる。その声は紛れもなく今一番会いたくない鹿野のもので……。
「先生。昨日はあの後、大丈夫でした?」
「っ……!」
 耳元で囁かれた言葉に、怒りやら憎しみやら殺意やらの感情がごった返しそうになるのを抑える。
「鹿野、お前……」
「大丈夫だったみたいですね。じゃ先生、ちょっと手貸してください」
 問いただそうと振り向いたところで、手を取られ、無理やり指に何かが押し込まれる。
「あ? なんだ、これ……?」
「先生が逃げないように。あと、変な虫がつかないように」
「は?」
 ご丁寧に左の薬指にはめられたそれは、銀色の指輪だった。
「取りあえずは安物ですけど。それ、僕からの愛なんで、ずっとしててくださいね?」
「愛って……。ゆ、夢じゃ……」
 一見すると、鹿野はいつもの清々しい笑顔を浮かべていた。でも。奥に潜む黒いものを感じ、俺はそれ以上何も言えなくなった。
「ふふ。あんまり可愛いこと言わないでくださいね、先生。じゃ、また放課後に」
 勝手に約束を取り付けた鹿野は俺の肩を叩くと、振り返ることなく先へ駆け出した。
「は~。人に見られなくてよかった……」
 改めて指輪を見つめながら、頬を抓る。痛い。やはり夢ではないようだ。
「というか、生徒が来るにはまだ早い。アイツ、もしかして待ち伏せしてたのか……?」
 予想以上に執着されていることに気づき、身を震わせる。ハァ、なんで俺が……。
 アイツの様子を見ると、恐らく俺はマジで惚れられてるんだろう。理由は……よくわからないが昨日ごちゃごちゃ言ってたことから推測すると、あの顔に騙されない人間が珍し過ぎて運命だとほざくに至ったのだろう。
「いや、でも。絶対いるだろ! 他に! あんなの、女しか引っかからんだろ!」
 いや、確かに顔が良すぎて一瞬男の俺でもくらっとしたけど、いくらなんでも顔でゴリ押しはできないっての!
「あ。鴪間先生、おはようございます!」
「わっ!」
 突然背後から声をかけられ、咄嗟に指輪を指から引き抜き、ポケットへ突っ込む。
「ふふ。私、驚かせちゃいました?」
「さっ、桜木先生! お、おはようございますッ!」
 口元に手を寄せて上品に笑ってみせた彼女に、俺は慌てて九十度の角度で腰を折り曲げる。
「テストの採点、終わりました?」
「あはは、実はまだ残ってて……。これからやろうかと……」
「まあ! 間に合います?」
「はは。頑張ります!」
 ぴしり、と敬礼してみせる俺に桜木先生は優しく微笑む。は~、女神。
 桜木先生は、隣のクラスの担任の先生だ。ショートカットでお淑やかで、気遣いができる女性。俺の癒し。密かに恋心を抱いている相手だったりする。
 だから。桜木先生の前でこんな指輪できるはずがない。あらぬ誤解を生んでしまう!
「そういえば、聞きました? 三年生の子が万引きで捕まっちゃったみたいで……」
「え。そうなんですか?」
「多分今日は朝から緊急職員会議ですよ。きっと受験ストレスなんじゃないかな……。真面目な子だったみたいで――」
 ああ、アイツもきっと受験ストレスでおかしくなったんだろうな……。時間が経てば自分の過ちに気づくだろう。こんな指輪、あっという間に黒歴史だ。とにかく、冷静に説得すればわかってくれるはずだ。何か悩みを抱えているようなら相談に乗ってあげてもいい。問題はあの写真だ。今のところ、流出している様子はない。だったら、とりあえずは鹿野が言った放課後までは大丈夫なはずだ。
 まだなんとかなる。アイツは馬鹿じゃないし俺も姫じゃない。案外、恋のお悩み相談にでも乗ってやればすぐに気が紛れるんじゃないだろうか。
 そう思うと、多少は気が楽になった。後から考えてみれば、随分と楽天的だったなと思ったが、そのときは何分睡眠不足で頭が回っていなかったから。
 だから、俺は昨日のことを誰に話すでもなく放課後を迎えてしまった。まあ、誰かに話したとしてもきっと信じてもらえなかったんだろうけど。



「ね、鴪間先生。ちゃんとはめといてくださいって言いましたよね?」
 鹿野の整った顔が迫る。人がいないとはいえ、こんな廊下のど真ん中で顔を寄せられては流石に困る。顔が良すぎて困る……じゃなくて。
「おい、離れろ。急に人が来たらどうする! 大体な、こんな指輪いきなりつけたりしたら、色々とツッコまれるだろ面倒くさい」
「いいじゃないですか。婚約者がいるって言えば」
「良くねえよ。勝手に婚約者を作るな」
 中々離れようとしない鹿野を押しのける。すると、すぐにその整った眉が吊り上がる。
「……婚約者がいると思われたくないってことですか?」
「そりゃそうだろ」
「誰に? ねえ、もしかして先生。好きな人いるんですか?」
「……」
 瞳孔が開いたままの鹿野の瞳が俺の瞳を間近で覗く。
 マズイ……。コイツにバレたら何をされるかわからない……。
「いや、誰もそんなこと言ってな……」
 俺は、声を引き攣らせながらなんとか否定しようとした。が。
「あーあ。それならそうと言ってくださいよ。そうですか。好きな人がもう既に……。それじゃあしょうがないですね」
「え?」
 そう言うと王子はあっさり俺から離れ、「じゃあまた明日」と帰っていった。
「なんだ? 諦めてくれた、のか……?」
 真相は謎だが、取りあえず今日は助かったということだろうか。


「鴪間センセー、もうよくなーい?」
「全然よくない。丹波、お前さっきから全然プリント進んでねぇだろ」
「うぐぐ~。もう疲れたよね~」
「桐谷、そこ答え違う」
 鹿野問題をクリアした俺は、案の定赤点を取った問題児二人の補習を行った。
「無理! こんなのアタシには解けない! アタシ、飲み物買って来るわ!」
 勢いよく立ち上がり、捕まえる間もなく丹波が教室を出て行く。
「げげ~! 花音ちゃん抜け駆け?!」
「おう、桐谷。お前は逃がさないからな」
「ひぇぇ~」
 オーバーリアクション気味に桐谷が机に突っ伏す。
「おいこら寝るな」
 そのまま動かなくなった彼女の背中に目を落とし……。
「ん、あれ。お前背中になんか虫ついてるぞ」
「えっ、ええええええ! と、取って取って~!」
「こら、抱きつくな馬鹿!」
「た、助けて助けて~!」
「ほれ、取れたから。って、あ……」
 顔を上げると、廊下で人影が揺れるのが見えた。
「鴪間せんせ~? どうかしました~? もしかして、また虫……?」
「いや、なんでもない。それより、虫取ってやったんだからさっさと続き解けよ?」
「うぐぐ、先生の鬼悪魔~!」
 膨れる桐谷を無視してさっきの影を思い出す。
 誰だか分らなかったが、明らかに俺が見たと同時に踵を返した。
 ……変な誤解されてなきゃいいけど。



「ねぇ、先生」
「うわ、びっくりした。丹波、お前が朝っぱらから職員室に来るなんて珍しいな」
 プリント作りに集中していた手を止めて、彼女に向き直る。丹波は色んな教師から目をつけられている自覚があるのか、滅多に職員室に近寄ることはないのだが……。
「今日も優子休みなの?」
「あぁ。今日も連絡が来たよ。休むって」
「理由は?」
「いや、聞いても風邪だとしか言わなかったが?」
「そう、なんだ……」
「どうかしたのか?」
 そう聞くと、彼女の顔が途端に歪む。
「アタシ、昨日もお見舞いに行くって言ったのに、大丈夫だって、拒否られて……」
「きっとお前に風邪をうつしたくないんじゃないか?」
「満月堂のプリン持っていくって言ったのに、断るなんて。絶対おかしいよ!」
「そうなのか……?」
 満月堂というのは近所で評判のケーキ屋だ。そこのプリンは絶品なのだと前、桜木先生に聞いたことがあったっけ。
「それに、アタシと一日会えないだけで「寂しくて死ぬ~!」って騒いでた優子が、こんなにアタシを我慢できるはずがないのに!」
「仲良いな、お前ら」
「おかしい……。絶対何かあったんだ……! アタシ、どうしよう。優子のことが、心配で、心配で……。うう、優子ぉ……。アタシ、何にもできないよぉ!」
 突然、顔を覆いながらわっと泣き出した丹波にぎょっとする。
「お、落ちつけ、丹波、とりあえず、な」
 他の教師や生徒の視線が痛いので、とりあえず職員室を出るように促す。
「そんなに心配するな。桐谷には俺からも連絡しておく。連絡取れなかったら家にも行ってみるから。な?」
「うん……」
 ポケットティッシュを差し出して、何とか丹波を安心させようと不格好な微笑みを向けてやる。ああ、鹿野だったらきっとこういうとき上手くやるんだろうな。
 ぐすぐすと泣く丹波は、いつもの彼女らしくなくて弱った。強いように見えて、やはり年頃の女の子というわけだ。
「ごめんな、俺がもうちょっと桐谷のこと心配してやればよかったな。お前のことも気に掛けるべきだったよ」
「アタシ、優子に拒否られるなんて、初めてでっ、どうしていいかわかんなくてっ……」
「そんなに思いつめるな。俺がもっかい桐谷に聞いてみるから、な?」
「うん……」
 丹波が涙を拭ったところで、予鈴が鳴る。
「今から電話してみるから、とりあえずお前は教室に戻れ」
 ぽん、と軽く頭に手を乗せてやると彼女の表情が少し柔らかくなる。
「わかった。けど、アタシがその、泣いてた、とか絶対言わないでよ?」
「はいはい。わかったよ」
「絶対だからね!」
 今更恥ずかしくなったのか、顔を赤くした丹波が再度念を押し、駆けてゆく。
「お~い。廊下を走るなよ~! って、聞こえてないか」
 にしても、なんだかこういうのって青春って感じがしていいな。若いっていいよな。まあ、本人たちは本気で悩んでるだろうから絶対口には出せないけど。
「こんなところでニヤニヤして、随分と楽しそうですね、鴪間先生」
「どわあ!」
 すぐ後ろから聞こえた声に振り返ると、今一番会いたくない人物がそこに立っていた。
「今度は友達の方に目移りですか?」
「な、何でこんなとこに鹿野が……?」
「嫌だな、そんなに怖がらないでくださいよ」
「お前が怖い顔をしてるからだろ」
「酷いなぁ。僕が王子様って呼ばれてるの知らないんですか?」
「それは、あくまで表の顔、だろ。なんで俺にはそんな態度なんだよ」
 今、俺の目に映っている彼は、みんなが見惚れる「爽やか王子スマイル」ではなく、いわゆる「暗黒微笑」を浮かべていた。
「それはだって、先生が悪いんですよ。先生が王子様に騙されてくれないから」
「魔法に掛からなかったら殺されるってか。えらく恐怖政治だな、王子様」
「別に先生のこと、殺そうだなんて思ってませんよ。ただ、手に入れたくなっただけです」
「悪いけど、王子様の意味のわからない遊びに付き合ってやるほど暇じゃないんだ。早くしないと朝会が始まっちまう」
「先生ってば、桐谷って子に電話するんでしょう?」
「……聞いてたのか」
 丹波が泣くものだから、それを隠すために人気のない廊下を選んだ。にも関わらずここにいるという時点で、コイツは意図的につけてきたのだろう。
「大変ですねぇ。彼女も。先生に気に入られたばっかりにあんな目にあっちゃって」
「お前、まさか彼女に何かしたのか……?」
 大げさに肩を竦めてみせた鹿野に嫌な予感を覚えた俺は、恐る恐る問いかける。
「ふふ。先生、これで迷うことありませんよね? あ、丹波さんの可能性もあるんですかね、先生の好きな子」
 もしかして、これはあれか? やっぱりあの時俺が見た影は鹿野で、鹿野は、俺と桐谷が抱き合ってると勘違いして……。
「そんなわけないだろう?!」
「ふ~ん。じゃあやっぱ桐谷って子なんですね。合ってて良かった。関係ない子まで傷つけたら可哀想ですもんね。危ない危ない」
「な……」
「でも先生があんな子好きだなんて意外ですね」
「ちが……っ」
 否定の言葉を咄嗟に留める。駄目だ……。今、違うと言っても本命が誰なのかを問い詰められるだけだ。
 そして、もしも桜木先生のことがバレたりしたら……。
 いや、でも。桐谷のことをこのまま勘違いさせておくわけにもいくまい。そもそも、コイツは桐谷に何をした……?
 俺のせいで桐谷を酷い目に遭わせてしまったのだとしたら、俺は教師として、男としてどう動けばいい……?
 駄目だ、いろんな感情がぐるぐると回って、気持ち悪い……。
「あれっ、あれれ。もしかして僕、間違えちゃいました?」
「!」
 黙り込み、俯いた俺の顔を、やはりわざとらしい口調で鹿野が覗き込む。
「あはは。やっぱり! あの子には悪いことしちゃったな~。全く、先生が紛らわしいことするからですよ?」
「お前、一体、桐谷に何をした……」
「何って。この前の先生にしたことと同じですよ……って言ったら?」
「や、やめろ……。嘘だよな……? お前、俺だけならまだしも、そんなの、犯罪……」
「ねぇ。せんせ。先生が本当に好きな子って誰なんです?」
「……っ」
 込み上げてくる吐き気を抑えながら声を絞り出た俺に、追い打ちをかけるように鹿野が囁く。顎を掴まれ、その傲慢な瞳に見つめられた俺は、息を詰まらせることしかできない。
 ……コイツ、ヤバい。マジでどうかしてる。
「ふふ、恐がらないでくださいよ。先生には酷いことしませんから」
「……十分してるだろ」
「嫌だなぁ。僕の愛ですよ、愛」
 恥ずかし気もなく言った鹿野が俺に口づけを落とす。
「なんで、俺なんだよ……」
 また明日、と言った鹿野は桐谷が休んだここ三日間、今まで全く目の前に現れなかった。だから、本当に諦めたのだと勝手に思っていた。写真の件をどう切り出そうかと頭を悩ませ、下手に刺激するのもどうかと怯え、結局俺は動くことができず、ただ無為に時間を過ごした。その怠惰の結果がこれだ。
「なんでって、んー。僕の顔見ても見惚れないとことか、それどころか注意してくるとことか、あと」
「っ」
 一呼吸置いて、もう一度唇が重なる。碌に抵抗できなかった自分が腹立たしい。
「ほら。先生のそういう可愛い顔、好きだなあ」
「……は?」
 いや。有り得ないだろ。俺の顔は別に可愛くも何ともない。自分で言うのもなんだが、人生に疲れ切った生気のない顔をしている。大した人生の目標もないままにただ流されて生きてるだけのしょうもない大人だ。よく「死んだ魚のような瞳」と揶揄われる始末だ。
「あの写真も、とっても可愛いから毎日お世話になってるんですよ?」
「お前……」
「くす。その汚いものを見る目も中々そそりますね」
「頼むから、消してくれ」
「ああ、心配しなくても今のところ僕の個人的な目的でしか使用してないから大丈夫ですよ? まあ、先生の本命を教えてくれるって言うんなら、消してあげてもいいですよ?」
「そんなもの、いない。というか、お前は本当に桐谷に酷いことをしたのなら桐谷に謝れ」
「嘘つくなんて馬鹿ですね。桐谷さんに謝れってのも馬鹿。彼女はそんなこと望んでないですよ。先生はね、下手に動かない方がいいんですよ」
「は……? 何なんだよお前……。クソ、俺はどうすれば正解なんだよ……」
 寝不足の目を揉みながら泣きたくなる。 俺はただ、無難に生きていたいだけだったのに。どうしてこんなことに……。
「あーあ。可愛い。早く僕の物になっちゃいなよ、先生」
 ずきずきと痛む頭を抱え、鹿野を睨む。全ての元凶である彼は、睨まれてもどこ吹く風だ。
「そんなに怒らないでくださいよ。当分は泳がせてあげますから。安心して丹波さんでも桐谷さんでも慰めてあげたらいいですよ」



 それから俺はしばらくの間、桜木先生と距離を取ることにした。
 話しかけられる前にその場から去ったり、近づかないようにしたりとなかなか大変な思いをした。さすがに印象が悪いとは思う。でも、これくらいしないと……。
 鹿野の笑顔を思い出して身震いをする。
 結局、あれから真っ先に桐谷に連絡をしたが、彼女は電話に出なかった。その日の放課後、宣言通りに家を訪ねてみたものの、彼女は何でもないとしか言わなかった。
 鹿野の名前を出してみたが何の反応もなく、「明日から学校には行くから」との一点張りで、それ以上は心を開いてもらえなかった。
 そして、その次の日からは宣言通り桐谷は学校へ顔を出し、今まで通りの彼女に戻っていた。
 丹波にはお礼を言われたが。どうも釈然としなかった。結局、桐谷に何があったかもわからないまま有耶無耶になり、自分の無力さを思い知るだけだった。
 だから尚のこと、桜木先生を危険な目に遭わせるわけにはいかない。根本的な解決法が見つかるまでは、これ以上俺のせいで被害を増やすわけにはいかないと思った。のだが。


 ストレスで寝不足の目を擦りながら職員室のドアに手を掛ける。が、目の前のドアは力を入れるより前に一人でに開き……。
「っ」
 出てきたのが桜木先生だったもんだから、俺は露骨に半歩後ろに下がってしまう。
「あ、鴪間先生……」
「……どうも」
 すぐに取り繕い、軽く会釈してから職員室に入ろうとするが。
「あのっ、鴪間先生。私、もしかして避けられてますか……?」
 縋りつくような目で、桜木先生が行く道を塞ぐ。
「いえ、そういうわけではっ!」
 その表情が、あまりにも思いつめたような、泣きそうな顔だったので、咄嗟に全力フォローしてしまった。
「なんだ……。良かった。私、なんか嫌なこと言っちゃったかなって不安になっちゃって」
 申し訳なさそうに笑う彼女に愛おしさと罪悪感が湧き、俺はへらりとした笑顔を浮かべ、頭を掻く。
「いや、桜木先生のこと嫌いになるわけが……」
 ふと、刺すような視線に気づいてその方向を見やる。
「ッ……!」
 一瞬にして全身が凍りつく。鹿野が遠くからこちらを見つめていた。
 ヤバイ……。
 鹿野は俺が気づいたのに気づくと、意味ありげににこりと笑った。そして、こちらに何をするでもなく、図書室へと消えていった。
「あ……」
「鴪間先生?」
「すみません、ちょっと急ぎの用事があるもので、失礼します」
「あ、鴪間先生!」
 彼女の制止を振り切って、俺は鹿野を追いかける。そうしないと、よくない方向に動いてしまう気がして。

 図書室の戸を開ける。古い紙と埃の匂いがすぐに鼻を突き、顔をしかめる。普段あまり生徒から利用されていないそこには案の定、彼しかいなかった。
「お、おい」
「あれ。どうしたんですか、鴪間先生」
 本棚に寄りかかり、本を読んでいた彼が気だるげに顔を上げる。
「……いや、その」
 声をかけたはいいものの、何と言っていいかわからず俺は口ごもる。
 もしさっきのやりとりをコイツが何とも思っていなかったらどうする? もし下手なことを言って逆に勘ぐられてしまったら……?
 でも、もしさっきのでバレて、コイツが桜木先生に何かしようと企んでいたら? 止めるべきじゃないのか?
「顔色悪いですよ? 保健室、連れてってあげましょうか?」
「いや……」
「あー。そうですよねぇ。僕なんかより、桜木先生の方がいいですよね」
 無邪気に微笑んだ鹿野にぞっとする。やっぱりバレていたのだ。
「待て! 桜木先生とは何も、んむっ」
 唇に鹿野の人差し指が静かに触れる。
「ね、先生、桜木先生に手、出してほしくないでしょ?」
「っ」
「だったら。代わりに僕の言うこと聞いてほしいな」
「はは、脅して奴隷にするってわけか」
「そんな酷いこと、しませんよ。ただ、一つだけお願いです」
 悠長に机に本を置いてから、鹿野が俺にぐいと近づく。
「なんだよ」
「あのですねぇ。一日一回、僕にキスして「愛してる」って言ってほしいんです」
「は?」
「ね、可愛いお願いでしょ?」
 あざとく首を傾げる鹿野は確かに可愛い。顔が良ければ甘いも辛いもやりたい放題自由自在ってわけだ。これ、きっと年上の女性だったらイチコロなんだろうな……じゃなくて。
「いや、いやいやいや。おかしいだろ。なんで俺がそんなこと」
「桜木先生、可愛いですよね……?」
「! わ、わかった、やる、やるから彼女には」
「えぇ。手は出しません。先生が約束を守ってくれるのならば、ね」
 露骨に顔を歪める俺を気にすることなく、鹿野が目を閉じる。
「う……」
 キス待ち顔も文句なしの美しさだな……。これ、俺なんかが触れていいのか? いや、駄目だろ。鹿野王子ファンに殺されるだろ。
「恥ずかしがってないで、早くしてくださいよ」
「あのさ、鹿野……。マジで、今、ここでか?」
「嫌なんですか?」
「当たり前だろ。なんでお前とそんなことしなきゃならんのだ」
「……僕の気が変わらないうちにさっさとした方がいいんじゃないですか? 先生」
 片目を開いて涼しげに宣う鹿野。それに、うっかりときめきそうになって唇を噛む。この王子様、本当に危険すぎる。
「いや、でも……。生徒にそういうことをするのはちょっと、教師という立場的に……」
「そういえば桜木先生って〇〇町のマンションに住んでるんですよね?」
「っ! なんでお前がそんなこと知ってる?」
「さあ。なんででしょう」
 ぞっとするような瞳が楽しそうに笑う。
「……わかった、やればいいんだろ!」
 多分、説得できるような相手じゃない。それどころか、モタモタしただけ状況が悪化しそうだ。だったら。
 ヤケだと言わんばかりに目を瞑り、勢いよく鹿野の口に己の口をくっつけ、くっついた瞬間、さっと離す。
「ふふ、色気のないキス」
「色気があってたまるか」
「さ、ちゃんと愛してるって言ってくださいね」
「チッ。ったく、愛してるよ、王子様」
「うん。オッケーです」
「ほんとに何なんだよ、お前……。こんなことしても気色悪いだけだろ……」
「いいえ。僕は満足ですけどね」
「お前さ、脅すんなら写真使って最初っからできただろ。なんでわざわざ……」
「最愛の人が人質、ってとこがいいんじゃないですか」
「悪趣味やめろ」
「それに、あの写真は返す気ありませんからね」
「……理由は聞きたくないな」
「あはは。賢明ですね。じゃ、僕はこれで。明日もよろしくお願いしますね」
 何事もなかったかのように机の本を書架に戻し、鹿野は図書室を出る。
「変な奴……」
 正直、もっと酷いことを要求されるんじゃないかと思っていた。けど、このごっこ遊びには一体どういう意味があるのだろうか。
「早く飽きてくれるといいんだが」



 気持ちの悪い約束を交わして一週間。こう言ってはなんだが、俺はこのごっこ遊びにも大分慣れ始めてきていた。……慣れたくないってのに、だ。
「愛してる。はい今日の分終了な」
 相変わらず軽く触れるだけのキスに感情のこもっていない言葉をこなした俺に、鹿野が微笑む。
「は~い。お疲れ様です。明日もよろしくお願いしますね」
 結局俺はまた、問題を先送りにしてしまっている。わかってはいる。どうにかしないとお互いにマズイということぐらい。だけど、誰に相談できる訳でもなく。下手に動ける訳でもない。正直、誰かにこの歪な関係がバレるより前にコイツが俺に飽きてくれることが一番だと思う訳で。
「なぁ。これ、いつまで続けるつもりなんだ?」
「ふふっ。残念ですが、まだまだ続けてもらいますよ、鴪間先生」
 イケメンだけに許されたキメ顔をする鹿野から目を逸らす。
 まぁ、そのうち飽きるだろう。それまでの辛抱だ。案外、来週にはもう捨てられてるかもしれないし。

 そう思ったのだけれども。

「愛してる。はい、今日の分は終わ……」
「僕も愛してますよ、先生」
「……は? いきなり何だよ」
「ふふっ、たまには、ね」
 ある日、突然鹿野から言葉を返された俺は面食らう。すっかりルーティン化された一方的な告白に変化があってはどうにも気持ちが悪い。
 約束をしてからはアイツから手を出してくることはなかったし、桜木先生にも何も起こらなかった。だから鹿野は、とっくに興味を失ってるんだろうと思っていた。ただの惰性、辞めるタイミングが見つからないだけだろうと思っていた。なのに。
「やめろよ。心にもないことを」
「なんだ。やっぱり先生は僕が本気じゃないと思ってたんだ」
「途中で飽きたんだろ?」
「まさか。僕は今でも先生のことを愛してるのに。そうじゃなきゃこんな面倒なこと毎日させないでしょ」
「……てっきり、今更引っ込みがつかなくなったのかと」
「僕は先生と違って人に流されて生きるのは御免なんで。興味がないことは秒でやめます」
「悪かったな、人に流される生き方してて」
「先生。言葉には不思議な力があるんですよ。たとえ無理なことでも、言葉として発し続ければ、叶うこともあるんですよ?」
「何が言いたい?」
「先生はこのまま流されて、僕のことを愛してくれますよ、きっと」
「はっ。随分乙女思考な王子様だな。こんなんで俺が本当にお前を好きになるわけない」
「……それでも。それでもいいんです。夢が見られるのならば」
 悲しそうに笑ってみせたそれが演技なのか本心なのか、俺にはわからない。でも、その顔が反則だということはわかる。
 そりゃこんな俳優顔負けの顔面でそんな健気な顔されたら、アホみたいに皆コイツを甘やかすだろ……。そういう魔法だって言われたら納得するレベルで破壊力がすごい。
 でも俺は引っ掛からない。生憎俺は、王子様の魔法に流されるお姫様なんかじゃない。
 なのに。
 どうして。
 おかしい。こんなはずじゃなかったのに。


「愛してる……」
「ありがとうございます。僕も愛していますよ、先生」
「っ……」
 愛の言葉を告げ、返事を貰い、鹿野に唇を寄せる。いつもと変わらない日課だ。
 それなのに。
「先生?」
 あと少しで唇が触れるというところで動きを止めた俺に、鹿野が怪訝な顔をする。
 クソ。ただ触れるだけなのに。
 鹿野の視線を受けて、嫌というほど鼓動が早くなる。いつからだ。いつからこんな風になってしまった?
 初めの頃は心を無にしてこなしてきた。なのに。次第に、コイツと目を合わせることもできなくなって……。
『言葉として発し続ければ』
 そんなわけない。これは違う。
 そんな否定を続けるも、胸の高鳴りは大きくなるばかりで……。
「……したくない」
 ついに言った。言ってしまった。鹿野の頬から手を放し、だらりと下げる。
「え?」
 何事かと探ろうとする鹿野の視線から、逃げるように目を逸らす。
「こんなこと、やめるべきだ」
 このままいったら本当に好きになってしまいそうで。怖かった。そんなはずないのに。こいつが妙なことを言うから。だからきっと頭が勘違いしたんだ。だから……。
「今更ですね。……どうしていきなり?」
「嫌なんだよ」
「そう、ですか。わかりました。もう、やめにしましょう」
「え……?」
 予想していなかった言葉に拍子抜けする。
「心配しなくても、桜木先生には手を出しません」
「……何でだ?」
「あは。言ったでしょ? 興味がないことは秒でやめるって。貴方の言葉で冷めました。だからもういいです。先生、要らないです」
「な……」
 なんだよそれは! 散々人の心を引っ掻き回しておいて!
「いや~、良かったですね。お互い後腐れもなくて。じゃあ、そういうことで。さよなら、鴪間先生」
 ひらひらと手を振りながら鹿野が去ってゆく。それを見ながら、俺は唖然として立ち尽くす。
「な、なんなんだよ……」
 人が今まで恥ずかしいやら、気持ち悪いやらを堪えて付き合ってやった、いや、無理やり付き合わされたってのに……! 脅されて、恐怖さえ感じたってのに!
「なんだよ。結局自分が飽きたらポイかよ……」
 俺がフラれたみたいな雰囲気止めろ! ほんと、最後までムカつく王子様だ!



 そうして、鹿野が「日課」を求めに来ない放課後が何日も続いた。
 勿論、別に待ってるわけじゃない。でも。いつもしつこくやってきた奴があっさり姿を消すと……。
「さすがに静かだな」
 世界がこんなに静かで平穏だったなんて。失ってから初めて気づくってやつだな、うん。蝉の鳴き声ですら、愛しく思えるよ。あと、部活動生の掛け声もそう。
 ふいに、青春エネルギーをチャージしたくなって窓から校庭を見つめる。そして、秒で後悔する。
「あ……」
 見つめた先には、偶然にも鹿野がいた。そして、その横には女子生徒。これ見よがしに手を繋いで歩く姿は、どこからどう見ても下校するカップルだ。
 ……何が愛してるだ。お前の愛はそんなに軽いのかよ。飽きてすぐ次に行けるほど、俺への気持ちは浅かったのかよ。
「いやいや。だから、なんで俺が振られたみたいになってんだよ……!」
 ぶんぶんと頭を振り、窓から身を引く。
 変な冗談につき合わされなくなって最高に嬉しいだろ? なのに、なんでこんな……。
「だ~、もやもやするッ! クソ! 祝いも兼ねて、今日は一人で飲みに行ってやるからな! 待ってろ黒霧島! 頼むぞさつま白波!」


「ぷっはぁ~! 仕事終わりの酒は罪ッ!」
 宣言通り、俺は一人寂しく祝い酒を堪能すべく、お気に入りの居酒屋へ向かった。
 グラスの酒をごくりと飲み干すと、嫌な気持ちが少しずつ酔いに追いやられてゆく。
 なんだかんだあったが、これで俺も晴れて自由。己の恋愛に勤しめるというものだ。
 そもそも俺は、そろそろ桜木先生に告白するつもりでいたのだ。鹿野の件で先延ばされてしまったが、今度こそは本気で行かせてもらう! そして、ゆくゆくは……。
「ふふ~。新婚生活ってどんなもんかね~」
 毎朝桜木先生に起こしてもらえたら、どんなに寝覚めの良い朝になるんだろうな……。
 可愛い妻の作ってくれた朝食を食べて……。そして、いってきますのキスを……。
『僕も愛してますよ、先生』
 ふいに奴のことを思い出してしまい、酔いに不快感が混じる。
「ちっ。なんだよ、あんだけのことしといて……」
 結局は俺じゃなくてもいいなんて。面白くない。不愉快でしかない。
「あ~あ。せっかくの酒が台無しだ」
 鹿野のことを思い出してしまった自分に興醒めし、店を出る。
「あ~、さっさと忘れろ馬鹿!」
 深く考えようとする頭をぶんぶんと振る。
 考えるだけ無駄! もう俺は何も知らない! ハイ、解散解散! って。
「痛ッ!」
 よく前を見て歩いていなかったせいで、中年のおじさんにぶつかってしまう。
『おい、どこ見て歩いてる!』
「す、すみません……!」
『おい、それで謝ってるつもりか? もっと頭下げろ!』
「ええと……」
 これ、面倒くさい説教おじさんだわ……。ついてない……。
『こっちは被害者なんだぞ?! 今時の若い奴はみんなそうだ! お前みたいにヘラヘラしてオレのこと馬鹿にして……。オレはなあ、お前らなんかより偉いんだぞ?!』
「うっ」
 逃げようとした途端、胸倉を掴まれる。かなり飲んだらしく、酒の匂いがぷんぷんする。
 はぁ、最悪だ。このおじさんもアレかな。嫌なことを忘れるために一人酒して見事に悪い酔い方したんかな……。悪いけど、クソほど迷惑。
『あ? なんだその顔は!』
「えっ、いえ。あの~。一旦、冷静になりません?」
『若造のくせに、オレを馬鹿にするな!』
「あの、馬鹿にしてませんから、放してください!」
 これ、結構ヤバい。めっちゃ顔真っ赤にして怒るじゃん。相当ストレス抱えてんだな。でも、それを俺で発散されるのは勘弁っていうか……。これ、警察呼ぶべきじゃね?
『馬鹿にするな、馬鹿にするな、馬鹿にするなァ!!』
「あ」
 癇癪を起したおっさんの拳が目の前に迫る。
 やば。これ、殴られ……。
「やめろ」
『ひっ』
「え……?」
 凛とした声が横から聞こえたかと思うと、伸びてきた手がおっさんの拳を受け止める。
「大丈夫? 先生」
「な、なんで……」
 現れたのは、こういうシーンが一番似合う男。相変わらずの王子様ムーブに、俺はただただ目を丸くする。
『おい、ガキが邪魔すんじゃねぇぞ……』
「そのガキにビビってんのはどこの誰だよ? ええ?」
『いてぇっ!』
 鹿野がおっさんの手をひねり上げると、おっさんは汚い悲鳴を上げて痛がる。……容赦がないな、鹿野。
「僕がアンタを殺す前にさっさと消えろよ? おっさん」
『ひっ……!』
 勝てないことを察したおっさんは、鹿野に睨まれるや否やそそくさと逃げだした。
「あ……。えっと、鹿野……?」
 びっくりした。いきなり鹿野がここに現れたこともだけど、なにより。
「お前、あんなに怖い顔、できたんだな……。本当にあのおっさん殺すかと思ったぞ……? てか、なんでこんな時間にこんなとこにいるんだよ、お前」
「偶然通りかかっただけですよ。そしたら、先生がみっともなく絡まれてたから仕方なく助けたんです。感謝してくださいね」
「あ、あぁ。そりゃ、どうもすまなかったな。ありがとう……?」
 目も合わせず、どうでもいいような口ぶりで話す鹿野に、モヤモヤが再び胸を詰まらせる。
 なんだ、本当にただの偶然なんだな……。ちょっと本物の王子様みたいだなって思ったのに。いや、めちゃくちゃ顔恐かったけどさ。
「……チッ」
「あ、おいっ」
 舌打ちして踵を返す鹿野を咄嗟に呼び止める。
「なんですか?」
「あ、いや、えーっと。お礼に飲み物でも奢るからさ……。少し、話さないか?」
「……いいですよ」
 いや、よくない。何やってんだ俺……。こんなの、気まずすぎるだろ。

「……ん」
「……ども」
 公園のベンチに座り、缶コーヒーを鹿野に手渡す。
 あ~、鹿野の奴、一切こっちを見ないじゃないか。
 露骨に逸らされている視線と沈黙が辛い。これでは聞きたいことも聞けるわけがない。
「あー、えと、鹿野……?」
「やっぱ僕、帰りま――」
「ま、待て!」
 言葉を遮るように言い放ち、立ち上がる鹿野の裾を慌てて掴む。
「なんなんですか、ほんと……。こっちは堪えてるってのに……」
「え……?」
 片手で額を押さえ、鹿野は顔を隠す。隙間から見える苦し気な表情は一体なんなのだろうか。
「なあ。お前、本当に俺に飽きたの?」
 酔いも手伝って、つい疑問をぶつけてしまう。
「それはっ……」
 顔を上げた鹿野がくるくると表情を変える。
 悲しそう。苦しそう。辛そう。全部、見てるこっちが切なくなるような表情だ。
 コイツは、こんな表情しないと思ってた。いつも余裕な王子様がどうして俺の前でこんな顔をするのだろう。
「鹿野……?」
 柄にもなく頭をぐしゃぐしゃと乱暴に掻いた鹿野は、でかいため息を吐くと、不貞腐れた顔をしてぼそぼそ話し始めた。
「……今までは、要らないものは全部壊して、欲しいものは力づくで奪えばいいって思ってました。家も裕福だし、この顔のせいで、なんでも僕の思い通りに皆従ってくれてたから……。先生には信じてもらえないかもですけど、これ、本当に魔法みたいに不思議な強制力があるんですよ?」
「あ~。なんかそんな気はしてたけどな……。何故か俺には効かないけど……」
「ええ。僕の魔法が効かない貴方に僕は惚れた。信じられないぐらい。貴方が思っている以上に。僕は貴方を愛してしまった。先生が誰かと話すだけでどうにかなりそうなくらい嫌になって、苦しくて、切なくて。他を排除して、先生のことを独り占めしたかった。でも、それじゃあ先生は僕のこと、嫌いになるでしょ?」
 力なく笑う鹿野はまるで……。
「なあ、もしかしてお前は、まだ俺のことを……」
 問おうとする俺の唇に鹿野が人差し指を乗せる。
「貴方に憎まれるのは怖いんです。貴方に怖がられるのも。貴方に嫌われるのも……」
「……」
「だから、このまま貴方のことを好きでいたら僕、どうにかなりそうで。僕が貴方を好きになればなるほど、貴方に嫌われるようなことをしてしまう。こんな悪循環、苦しいでしょう? だからやめるんですよ。僕は、貴方を好きでいることを、やめます。それが、僕のためでもあり、貴方のためでもあるんだから」
 悲しげな笑顔を浮かべた鹿野は、まるで自分に言い聞かせるかのようにゆっくりとそう言った。
「なんだよ、それ……」
「めちゃくちゃにして、すみませんでした。貴方の人生を汚してしまったことを、後悔してます。ごめんなさい。だから、もう僕のことは忘れてください。そして、桜木先生と幸せになってくれると……嬉しい、です。僕は僕で、先生のことを忘れる努力をしますから……」
 そう言い残して鹿野は俺の目の前から消えた。
 悪夢が終わったのだ。ずっと終わらせたかったこの悪夢が。悪魔がようやく悔い改めてくれた。これで、心置きなくハッピーエンドが迎えられる。
 物語の終わりは、いつだって悪い魔女や恐ろしい悪魔が消えて終わるもの。そして、主人公とヒロインが幸せに暮らす最高の結末が待っている。俺が物語の主人公だとは言わないが、それなりの幸せを手に入れたっていいはずだ。
「でも……。これで、本当に良かったんだろうか」
 鹿野の表情を思い返すと胸が痛い。
 鹿野があんなに俺を想っているとは知らなかった。鹿野があんな風に俺を諦めてくれるとは思わなかった。
 罪悪感を抱いたって、想いに応えられる訳じゃない癖に。
「忘れよう。全部なかったことにしよう。それが一番手っ取り早い」
 満天の星空にため息を吐く。何が悲しくて俺はこんなロマンチックな夜を一人で過ごしているんだろうな。



 翌日。痛む頭を押さえながら昨日のことを思い返す。
 家に帰って深酒したのがまずかった。おかげで、流石の俺もこの通り二日酔いだ。
 鹿野からはやはり避けられているのか、全く会わないままに放課後を迎えた。あんな告白されちゃあ、気にならない訳がない。
「少し、様子を見るだけなら……」
 気になりすぎて仕事が手に付かなくなったところで、俺はそれとなく鹿野の教室を見に行った。
「まあ、誰もいないよな……」
『あっれ~、鴪間っちどうしたの? うちのクラスになんか用?』
 誰もいない教室を覗く俺の背後から、突然女子生徒の声がかかる。
「んお。丁度いいところに第一村人発見。先生と呼べ」
『誰が村人よ。どう見ても姫でしょ! 鴪間っち!』
 勝手にRPG変換した彼女は(今時の子はテレビ観ないんだな)、前年度に受け持ったクラスの女子だ。ノリがよろしい。言うことを聞かん。
「いや、姫。ちょっとお話伺っても?」
『許す。けど、部活の忘れ物取りに来ただけだから手短に』
「お~。えっとさ、鹿野はその、元気か?」
『何その質問。てか、鴪間っちもしかして知らないの?』
「ん?」
『王子、急に引っ越すことになったみたいで、今日から学校来ないんだってさ』
「は……?」
 残念そうにため息を吐いてみせた彼女の言葉に頭を殴られる。
『お別れ言ってないのに寂しいよね。はぁ……。今日一日、女子の間ではその話題で持ちきりだよ』
「っ」
『あれ? ちょ、鴪間っち~?』
 走馬灯のように鹿野の色んな顔が頭を過り、俺は気づいたら走っていた。


 焦る気持ちを落ち着かせながら、学校を出る支度をする。今日はそう大事な予定がある訳でもないし、早く帰らせてもらおう。
 そう思いながら机を片づけるが、焦っているせいで手が滑り、書類を床にぶちまけてしまう。
「クソ……」
 唇を噛みしめ、床に手を伸ばしたその時、コンコンと扉を叩く音がした。
 誰だよ、こんなときに……!
 舌打ちしたい気持ちを抑え、ドアを睨み、立ち上がる。
「鴪間先生、よろしいですか?」
「あ……。桜木先生……! ど、どうぞ!」
 その声は常々憧れの桜木先生のものだったため、慌ててドアに駆け寄り言葉を返す。
「失礼します……。ってわ、どうしたんですか、これ!」
「あはは。ちょっとドジっちゃいまして」
 床に散らばった書類を見て声を上げる桜木先生に、俺はへらへらとした笑顔を向ける。
「ふふ。手伝います」
「すみません」
 唇に手を添えて柔らかく微笑んだ彼女は、本当に可愛らしくて最高に愛おしかった。
「はいっ。これで全部ですね」
「ありがとうございます。ご迷惑を」
「いえいえ」
「そういえば、何か用事でも?」
「あ~、えっとですね。今日、大事なお話をしたいので、お食事でもどうかなって」
「……えっ?」
 頬を染めて恥じらう仕草をみせる彼女に、一つの可能性が頭を過る。
 これは……。あれ……? もしかして俺、脈アリなんじゃ……?
 思い上がりだろうか。いやでも、この反応は、そうだろ? 男ならば、そうだと思いたい!
 まあ、どうあれ。せっかくの誘いを断る理由などどこにもない!
 もし彼女が告白のために誘ってくれたんじゃなくても、自分からいけばいいじゃないか。こんな絶好のチャンスはない! これでもし成功して付き合えたならば……! 幸せすぎるじゃないか!
『桜木先生と幸せになってくれると……嬉しい、です』
 ふいに、有頂天の脳みそを鹿野の言葉が過る。
 ……クソ。なんでだよ。
「鴪間先生……?」
 アイツだってああ言ってたし。大体、教師と生徒、男同士で恋愛したって、待ってるのは地獄だろ? バレたら俺の首が飛ぶ。それなのに。
 俺が好きなのは目の前の彼女だったはずなのに……。
「あの、鴪間先生……!」
「すみません、今日は急いでるので……」
「! あ、はは。いえ、気にしないでください。私こそ、急にごめんなさい!」
「すみません」
 俺が謝ると同時に目を潤ませ俯いた桜木先生に、心の中でもう一度謝る。
 自分の馬鹿さ加減が嫌になる。アイツの言った通り、繰り返し発した言葉は確実に心に染み込んでいた。もう消せない。心の中でぐるぐると彷徨った言葉が膨れ上がって、俺の体を突き動かす。自分勝手なのはわかってる。だけど、この気持ちを伝えなければ、一生後悔すると思った。だから。


 鹿野の部屋の前に着く。高校生のくせに高級マンション最上階で一人暮らししているという彼は、やはり破格の金持ちなのだろう。悪いとは思ったが、住所は鹿野に忘れ物を届けたいという名目で担任に聞いた。職権乱用も甚だしいがあながち嘘ではないので、この際大目に見てほしい。
 ややあってチャイムを押す。うだうだ考えている時間はない。
「ハイハイ。開いてるよ……って、は? 鴪間先生? なんで……?」
 不用心にドアを開けた鹿野が俺を見て驚く。
「おい鹿野。お前はドアを開ける前に誰が来たのか確認しないのか?」
「は? いや、普通はするけど……。今日は、ここに住んでるいとこが今から引っ越しの手伝いしにくるって言ったから、てっきり……。てか、先生こそ、玄関の扉は……?」
「どうせお前に開けてもらえないだろうと思って、素知らぬ顔してここの住民の後をついて入った」
「さ、最低……!」
「こちとら焦ってたんだよ。……鹿野、やっぱり本当に引っ越すつもりなんだな。話がある」
「……僕はもう貴方に用はありません、帰ってください」
 抑揚のない声で鹿野が俺を冷たくあしらい、ドアを閉める。が。ここで諦めるほど俺は柔じゃない。
「待てって!」
 ドアが閉まる直前で足をねじ込み、なんとかドアをこじ開ける。
「ちょ、なにすんですか、うわっ!」
 こうなったら力づくだ。鹿野が戸惑っている隙に、体当たりをして部屋に無理やり体を押し込む。
 がちゃり、と重い扉が閉まり、部屋に静寂が訪れる。
「ちょ、教師が不法侵入って、どういうことですか?!」
 玄関に倒れ込んだまま、鹿野が叫ぶ。
「ふん。色々やらかしたお前に言われたくない! てかお前、部屋が煙草臭いぞ! やっぱりやめてないじゃないか!」
「うるさいなあ。何のつもりですか。僕はもう貴方と関わるつもりは……」
「待ってくれ」
「は?」
 顔をしかめた鹿野に跨り、その唇に自分の唇をそっと重ねる。
「……は?!」
「これは昨日の分。んで……。ん、これが今日の分。愛してる、愛してるんだ、鹿野……」
 その煙草の匂いがする唇に立て続けで口づけを落とし、体を起こしながら愛の言葉をぶつけてやる。
「ッ……。なんなんですか、嫌がらせですか!? 相当歪んでますね、僕なんかよりずっと先生の方が性格わる……」



 先生の顔を見て、思わず僕は言葉を止める。
 僕の上から退き、俯きながら今更恥じらうその姿は、どう見たって可愛い。
 自分でやっててこんなに照れるのか、この人は……。というか、今まで見たことないぐらい顔が赤い……。あ、ちょっと涙目になってるし、ほんと、可愛……って、危ない。
 先生の真っ赤な頬を撫でようと、出しかけた自分の手を引っ込める。
「先生、やめてください。謝りますから、僕は、酷いことをしました。でも、こんなことされたら、逆効果だって、わかんないんですか?」
 拳を握りしめ、体を起こす。どういうつもりかは知らないが、ここで先生のペースに流されるわけにはいかない。
「俺は! 桜木先生のことを可愛いな……って思ってて……。それで! あわよくば、結婚したいな……、とか思ってたわけ……!」
「はあ」
 そんなことはとっくの昔に知っている。この人は普通の幸せを歩める人間だ。
「でも、そこにお前がちょっかい出してくるから……」
「それは、すみません。申し訳ないと思ってます……」
 自分の口から出た言葉に驚く。人に素直に謝るなんて真似、僕にもできたんだな……。
「あのな……」
 先生も僕の素直さに目を丸くした後、呆れた顔をしてみせた。……何が不満なんだよ、この人は。
「先生、もういいでしょ? これ以上僕に関わらない方がいい。僕に復讐したい気持ちはわかりますけど……。あんまりしつこくすると、僕は貴方を今度こそ犯してしまいますよ? 本当に申し訳なく思ってるんで、それだけはしたくない。金で解決できるっていうなら、いくらでも渡します。だから、もう……」
「違うんだ、鹿野。俺は、まだ自分でもよくわかんないけど、その、な……」
「?」
 静かに突き出された拳を見つめる。殴られるのかと思ったが、そうではないらしい。
 意図を掴めず、ぼんやりとその指を見ていると、見覚えのある指輪がはめられていることに気づく。
 あれ。これ、もしかして、僕があげたやつか……?
 左手の薬指にはめられているそれを食い入るように見ていると、先生が咳ばらいをして手を引っ込める。
「鹿野、お前のことが、気になってしょうがないんだよ。多分、おそらく。俺は、お前のこと……」
「え?」
「好きなんだよ」
 頭が回らなくなった僕の唇に、先生の唇が軽く押し当てられる。
「え、は、え? これ、明日の分って、こと、ですか……?」
「……あえて言うならサービスだ」
「えっと……?」
「お前とキスすると、ドキドキするんだよ。最初は吐き気がするぐらいだったのに。なのに、今じゃどうしようもないくらい、その……。あ~、つまり。だから断ったんだよ、あのとき」
「え?」
「あのまま続けてたらお前のこと本当に好きになりそうで……。でももうこの通り、手遅れだって気づいたから……」
「うそ……。え、先生、僕のこと、好きってことでいいの?」
「……だから、そう言ってるだろ。じゃなきゃ誰がこんな指輪、わざわざつけるかっての」
 先生の指で輝くそれは紛れもなく、運命が逃げないように慌てて買った指輪だ。
 捨てられたと思ってたのに。取っててくれたんだ。それだけでも嬉しいのに。
「だから、だからっ……! その……。お前、責任とれよ……。俺はなぁ、お前が急に転校するっていうから、桜木先生の誘いを断って来たんだからな……! だからっ、お前も彼女と別れるってんなら、その……」
「え、ええっ。僕のために断ったんですか? 愛しの桜木先生の誘いを?」
「愛しのって……。だから、それよりお前が大事ってことだよ」
 ごにょごにょと最後が口ごもり気味になる先生に息を飲む。なんなんだよ、この可愛い人は……。
「先生……、じゃあ、ほんとに……? はぁ~、好き……。あ、ていうか僕、彼女いませんけど?」
「いや、だってお前、女の子と手ぇ繋いで帰ってたじゃねーか」
 むっとした顔で指摘する先生を写真に収めておきたい衝動に駆られながら、思い当たって笑いを堪える。
「あぁ。あれはただの友達ですよ」
「んなわけないだろ」
「あ~、やっぱ騙されないか~。まあ、本当のことを言うと、先生のこと忘れるためにさくっと誘惑したんですけどね。結局気分が乗らなくて……。いやほんと、努力はしたんです。けど……。貴方のことが忘れられなくて……。そのまま何もせずに別れちゃいました。笑えるでしょ?」
「笑えねーよ……。ったく、なんだよ、それ……。俺がどれだけモヤモヤしたと思って……。てか、女の子にも失礼だし、そんなこと金輪際すんなよな……」
「……それ、もしかして嫉妬ですか?」
「は……?」
 図星を指された先生の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「あ~。可愛い……。やっぱり嫉妬なんだ~!」
「……クソ。そうだよ。どうやら思った以上にお前にぞっこんみたいだな」
 額に手を当ててため息を吐いた先生の顔はやはり赤い。
「ふふ、何ですかそれ。ぞっこんて、古……。可愛いです……、ほんと……」
 鴪間先生と会わなければ、こんな幸せな気持ち、知ることはなかったんだろうな……。
 そう思うと、何だか胸が熱くなって……。
「うぅ……」
「な、鹿野、お前、泣いてるのか……?」
「先生……、僕、先生のことが、大好きです! 愛してます! ずっとずっと大好きです! だから……」
「うお」
 おろおろとこちらの様子を伺っていた先生を思い切り抱き寄せる。そして、唇にそっと口づける。
「これからは、毎日ちゅーして愛してるって言います」
「ふっ。なんだそれ、今までと逆バージョンだな。……でも、毎日は物理的に無理だろ?」
「え?」
「え?」
 いい雰囲気だと思っていただけに、僕は耳を疑った。
「まさか、ここまで来て拒否るんですか……?」
「いや、そうじゃなくて。お前、転校するんだろ? だったら、毎日会えるわけがない」
「あ、ああ~。そういえばそうでした」
 そういえば、そんなことも計画してたっけ。すっかり舞い上がって忘れてた。
「お前な……。つか、そもそも何でいきなり転校するんだよお前! 当てつけもいいとこだ!」
「そりゃまあ、先生のことを忘れるために思い立ったことですから……。でも、やめにします」
「は?」
「あ、もしもし父さん? うん、僕。転校の話なんだけどさ、やっぱナシで!」



「うん。ごめんって。でも、そういうことだから。よろしく! んじゃね~。ピッ、と。これでよし。先生、てことで転校の件、無しになりましたからね!」
 通話を終えた鹿野が、満足そうにピースをしてみせる。
「お前、よかったのか? そんな簡単に……」
「まあがっかりしてるかもしれませんね、父さんは」
「がっかり?」
 電話一本で断られたんだから、がっかりというより、怒りを覚えるんじゃないのか?
「いや、僕、元々私立の金持ち校に入れられる予定だったんですけど、僕が無理言ってこっちに入学したこともあって……。「ようやくわかってくれたのか~!」って喜んでたところをまた断っちゃったので……」
「いや、それやっぱ怒っていいやつだろ、親父さんは」
「あはは。そうですけどね、ウチの親は僕に甘々なので、心配いらないですよ」
「そういうもんなのか……? てか何で私立行かなかったの、お前」
「あ~。それはまあ、何というか、ここに色々と思い入れがありまして……。でももういいんです。今は貴方が居る場所に僕も居たいんです。鴪間先生、駄目ですか?」
「う……」
 指輪を撫でる鹿野の手がこそばゆい。その反則級おねだりフェイスが眩しい。
「先生が嫉妬しなくていいよう、先生以外とは手も繋ぎませんから」
「……イケメンの手を死守するのは不可能だと思うが?」
「煙草もやめます」
「それは当たり前だ」
「指輪、今度はちゃんとお揃いの買いますね」
「いや、高校生が安易に貢ぐなよ」
「休日の日もデートしましょうね」
「……一緒に出かけるくらいなら、まあ」
「一緒に登下校しましょうね」
「それはバレたらまずいからどうかと思うが……」
「先生」
「ん」
「一生傍に居ますからね」
 にこにこしながら指を絡ませ、バカップルみたいに手の甲にキスをする鹿野から目を逸らす。顔が熱くて仕方がない。
「恥ずかしい奴……。まぁ、お前が飽きるまでは付き合ってやるよ」
「それじゃあやっぱり一生ですね」
「とか言ってすぐ飽きたり……。ほら、結局俺、お前に絆されたわけだし。お前の顔に騙されたと言えなくもない」
「じゃあ煙草吸っていいですか?」
「駄目に決まってんだろ!」
「ほら、騙されないじゃん」
「それはそうだろ」
「だから、他の人は騙されるんですってば、これ。警察だって見逃してくれますよ」
「……やっぱマジなのか、それ」
「本当だって言ってるでしょ。ま、とにかく。例え途中で先生に魔法が効くようになろうと、一度惚れたんだ。僕はもう二度と離す気はないですよ」
「……そうか。あ~、それじゃあ、その、よろしく頼むわ」
「はいっ!」
 恥ずかしさに口ごもる俺に、鹿野は今までで一番輝いた笑顔を見せた。
 ……眩しくて、本当に王子様みたいな奴。
「俺なんかでいいのかね、本当に。俺はとても姫には成りきれないけど?」
「ふふ、先生ってば歩兵その一って感じですもんね」
「……黙れ。だったら戦闘しなくていい村人その一にしてくれよ」
「先生らしい考え方。でも、僕だって王子様なんかじゃない。最低の奴ですから。だから、先生は姫じゃなくていいんですよ」
「自分で言うなよ」
「でも、最低な奴になったのは先生への愛ゆえなんで、先生こそ責任取ってくださいね」
「なんちゅー言いがかりを……」
「それじゃあさっそく、今日の分いきますね」
「うわ。待て、さっきやっただろ!」
 鹿野の顔がいきなり近づき、心臓が跳ね上がる。
「あれは、サービスってやつですよ。これが本番。……先生、愛してます」
「ッ……、うう、クソ……、俺もだよ……」
 降参だと言わんばかりに、両手を上げて目を閉じる。その手を取った鹿野がゆっくり近づく。そして。
 夕日に包まれた二つの影が、静かに重なった。
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