ヒキアズ創作BL短編集

ヒキアズ

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31~40

(35)薬屋と剣士

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薬屋×剣士
ーーーーーーー

 あるところに薬屋がいました。薬屋は常にフードを被り、顔を隠したまま商売をしているものですから、街の人たちからは余り信用されていませんでした。
「よう。タビ。相変わらず客がいないな」
「いらっしゃい。リヴィル、君はいつも一言余計だな」
 しかし、常連客はいました。とりわけこのリヴィルと呼ばれた男はよく来る客で、とにかく傷薬を買っていく男でした。
「全く。君はいつまで怪我をするつもりだ。君のおかげで傷薬だけがよく回る!」
「痛って! いやぁ。だってさ。どうにも剣は苦手でさ」
 タビが薬を塗るとリヴィルは顔を歪ませました。タビの薬はよく効く代わりによく滲みるのです。
「剣が苦手ならさっさと剣士をやめるんだね」
 タビは包帯を巻き終えると、愛想なくカウンターに戻っていきました。
「はは。言えてる! それじゃあさ、俺が今の仕事クビになったらココで雇ってくれよな。タビ!」
「君みたいな馬鹿、雇うわけないだろ」
 治療が終わってもすぐに帰ろうとしないリヴィルに、タビはため息をついてみせました。
 勿論、それでリヴィルが帰ることもなく、いつものように他愛のないお喋りが始まりました。
 口には出さないけれど、タビはその時間がとても好きでした。だってタビってば、密かに彼に思いを寄せているのですから、当たり前です。
 でもそんなことを言えるはずもなく、タビは決まって緩みそうになる顔を引き締めて、その時間を噛みしめるのです。

 タビが彼に思いを告げようとしないのは、なにもタビの性格だとか性別だとかの問題だけではありません。
 フードの下に生えている耳は尖っていて、人間のものとは似ても似つきません。
 そう。タビはエルフなのです。
 この世界、昔よりはエルフに対する偏見が減ったのですが、やはり今も根強く残っていました。人間のせいで、エルフはめっきりその姿を消し、今ではとても貴重な存在となっていました。だから、タビはフードを被って自分の正体を隠しているのです。もし、人間に正体がバレてしまえば、きっとタダでは済みません。きっとリヴィルも例外ではないのです。
 それに、タビには隠していることがもう二つありました。
 一つは、タビがエルフに伝わる禁術を使えること。
 もう一つは、薬屋の地下で身寄りのない子どもたちを住まわせていることでした。
 この通り、タビには秘密が多いので、タビはリヴィル以外の人間とまともに話すことさえなかったのです。
 それでもタビは悲しくありませんでした。リヴィルとさえ話せれば、それでよかったのです。

 次の日。やはりリヴィルがやってきて、いつもと変わらぬ会話を交わしました。
「今日も傷薬? ほんと、なんで君はそうも襲われるんだ? どこかのお姫様なのか?」
「お姫様か。そりゃあいい。ふふ、タビはセンスがあるなあ」
「笑ってないで。さっさとお金!」
「ああ。あと最近、どうも寝付けなくてね。睡眠薬とかないのかな」
「姫なら糸車にでも触れれば一発だろ」
「それじゃあ糸車をくれよ」
「生憎、睡眠薬しか置いてないよ。お姫様」
「はは。じゃあそれで。できれば即効性のあるやつがいいな」
「はいはい。お姫様の言う通りに」
「これちゃんと効くんだろうな?」
「傷薬だって、効いてるだろ。僕を疑うのか?」
「いや、ごめん。君から傷薬以外を買うのは初めてだからさ」
「ここにあるのは僕が作ったものだから間違いないさ」
「そうか。それじゃあ安心だな」

 その翌日。やはりリヴィルがやってきて、眠れるようになったお礼にケーキを持って来たのだと、箱を開けて美味しそうなケーキをタビに見せました。
「どういう風の吹き回し?」
「なんだよ、素直に受け取れよな。俺だってたっぷり眠れば人も良くなる。ほら、疑ってんなら俺も一緒に食うよ。お茶でも淹れてくれ」
「今、営業中なんだけど?」
「は? 誰も来ないだろ」
「ほんと君は。ウチを何だと思ってるんだ」
 そう言いながらも、タビは丁寧に紅茶を淹れ、リヴィルの前に出しました。
「ありがと。お前の淹れた紅茶は美味いんだよなあ。出会って初めの頃しか出してくれなかったけど」
「当たり前だろ。ここは喫茶店じゃない。最初はお客様だと思って優しくしたけど。君は優しくしただけここに長居するじゃないか」
「今もお客様だし、どうせ長居もするけどね。ま、そんなことより。これほんとに美味いから食ってみろって」
「はぁ。全く君は……」
 ケーキを頬張るリヴィルを見て心の折れたタビは、目の前にあるケーキに手を伸ばしました。
「どうだ? おいしいか?」
「うん。おいしい……けど。これ、なんか……」
「なんか?」
 苦い。ほんの少しだけど、口に広がる薬草独特の味。常人にはわからないほどの苦みに、いつもそれを調合しているタビは気づいてしまいました。
「君、昨日出した、薬を、入れたのか……」
「ごめんね。でも、こうでもしないとお前の隙が突けないからさ」
 タビにはわかりました。自分が口に含んだケーキは恐らく、リヴィルに出した薬が全部入っていて、たとえ一口でも食べれば、すぐに眠気に囚われるであろうことが。
「君は……いったい、何者だ……?」
 本当はタビだってわかっていました。彼が怪しいことくらい。毎日傷だらけで。毎日薬を買いに来る。買い込んでおけばいいのに、欠かすことなく長居する。まるで何かを探すように……。
「ああ。何も考えるな。抵抗もするな。お前はゆっくり眠っているんだ、タビ」
 リヴィルは、机に突っ伏したままのタビを撫でると、カウンターの奥へと歩き出しました。
「や……めろ」
「……やっぱり。こっちにあるんだね?」
「リヴィル……! やめろって、言って……!」
「ごめん」
 力を振り絞って殴り掛かってきたタビを軽くかわし、リヴィルは再び歩みを進めました。
 床に転がったタビは身を起こそうとしましたが、どうにも眠気に逆らうことができず、深い眠りに溺れてゆきました。

 さて。店の奥へと入ったリヴィルは、あちこち調べ、ついに地下への入り口を見つけました。
「ユラ、サラ。待っててくれ。もう少しだ」
 焦る自分を落ち着かせるように深く息を吐くと、リヴィルはゆっくりと戸を引き上げました。
 真っ暗で冷たい地下の階段を、リヴィルは静かに下りてゆきます。
 ユラとサラはリヴィルの義弟妹でした。リヴィルの父はどうにも女性に弱く、浮気して作ってしまった子が彼ら双子でした。他にも隠し子が居るかはわかりませんが、ユラとサラの母親は二人を生んだ後死んでしまったので、仕方がなくリヴィルの家で育てることになったのです。
 初めはリヴィルも良い気はしませんでした。父の無神経さに苛立ちも覚えました。しかし、母はそんなこと少しも漏らさずに、二人をリヴィルと変わりなく愛し、包み込みました。
 そんな母を見てリヴィルは「お母様はどうしてそんなに優しいのですか?」と問いかけました。そうすると、母親はリヴィルに微笑んで「私はあの人を愛していますから。だから、リヴィル。貴方もあの子たちも可愛くて仕方がないのよ」と言いました。リヴィルには、やっぱりわかりませんでした。だけど、母があんなに澄んだ表情をしているのに、自分がやっかんでいるのは滑稽に見えて、すっかり毒気が抜かれてしまいました。
 それから、リヴィルは双子たちの兄としてよくしてきました。双子たちはとても良い子たちだったので、三人が本当の兄弟のように過ごすのに時間はかかりませんでした。
 しかし。ある日事件は起きました。母親と双子が三人で買い物へと出かけたとき、盗賊たちに襲われたのです。
 母は二人を守ったらしく、その場で倒れていました。駆け付けたリヴィルは、母を抱き寄せどうにか救おうと試みましたが、母は「ユラとサラは盗賊に攫われてしまったわ……。ごめんなさい。私には、守れなかったの……。リヴィルああ愛しているわ。私の可愛い子。どうか、あの子たちにもあの人にも伝えて頂戴。私はいつまでも、貴方たちを愛していると」と言いながら、死んでしまいました。
 リヴィルは泣きました。ユラとサラを恨んでしまおうかとも思いましたが、とてもそんな気持ちにはなれませんでした。だって、二人はとっくにリヴィルの家族だったのですから。
 それからリヴィルは、二人の行方を探りました。そして数年経ってようやく手掛かりを掴みました。
 それは、エルフでした。盗賊たちはあの後、幼い双子を禁術の研究をしているエルフに売り払ったのだと言いました。リヴィルは盗賊たちを残酷に殺した後、そのエルフを探し出すことに注力しました。
 そして見つけたのが、タビでした。彼はいつもフードで顔を隠していました。町の人々からは怪しまれ、様々な噂が飛び交っていました。その中でも、「子どもを生贄にして薬を作っている」という噂はリヴィルの興味を惹きました。探るうちにどうやらその根拠が、タビと子どもたちが店から出てくるのを見た人がいるかららしく、いよいよリヴィルは自らタビに接触を図り、探り始めたのです。
「そう。ようやくだ。ようやく、二人に会えるかもしれない」
 リヴィルは暗闇の中を一歩一歩焦れるような思いで進みました。もうどれだけ進んだことでしょう。
 突然、地下に歌が響きました。それは甲高い声で、一人、また二人と声を重ねて合唱し始めました。
「子どもの、声……!」
 そうとわかると、リヴィルは階段を一気に駆け下りました。
 そして、階段の終わりに現れた扉を勢いよく開くと――。

「あれ、おかえり。タビ、今日は早かったん……」
「きゃあっ!」
「お、お前誰だ?! タビはどうした?!」
 そこには子どもたちが数名いました。みんな一斉にリヴィルを見つめ、恐怖と敵意を向けました。
「怪しい者じゃない。俺は君たちを助けに……」
「何が助けにだ! お前、タビをどうしたんだよ!」
「懐いているのか? 彼には少し眠ってもらっている」
「このやろ!」
「だめだよっ! 逃げなきゃ、タビがもしものときはって、言ってたじゃん!」
 いきり立つ少年を、傍らにいた少女が止めている隙に、リヴィルは辺りを見渡しました。
 そして、一点で止まりました。
「お兄様!?」
「サラ……!」
 遠くで立ち尽くしていた少女と目が合い、呟かれたその言葉で確信したリヴィルは、サラの元へ走り、彼女を抱きしめました。
「ああ。サラ! 無事でよかった……!」
「お兄様、苦しい……。それに、どうしてここに……? タビは、大丈夫なの?」
「サラ、どうしてアイツを心配するんだ? あのエルフはお前たちを生贄にするためにここで監禁してるんであって……」
「でたらめ言うなよ! タビはオレたちを助けてくれた恩人なんだぞ!」
「そうよ! タビはアタシたちを悪いエルフから助けてくれたのよ!」
「洗脳、されているのか……?」
 タビを庇おうと声を上げる少年少女たちに、リヴィルは困惑しました。
「違うわ、お兄様。全部本当のことよ」
「でも、アイツもエルフだろう?」
「ええ。そう。でも、良いエルフよ」
「良いエルフって。エルフは禁術を操る危ない種族だぞ」
「うん。私たちを盗賊から買ったエルフも、禁術に溺れた愚かなエルフだったわ。でも、違うの。タビは、タビだけは違うの……。タビは、私たちの命を救ってくれたの」
 サラも他の子どもたちも、洗脳を受けている様子はありませんでした。
「……そういえば、ユラはどこにいるんだ? 別の部屋でもあるのか?」
「ユラは……死んだわ」
「え……?」
「私たちは、既に禁術の生贄になりかけていたの。体はもう溶けかけていたの。だけど、それをタビが助けてくれて……。でも、ユラは……。ユラは私が殺したのよ」
「サラ……?」
 リヴィルは、こんなに思い詰めた表情をする彼女を見たのは初めてでした。いつもにこにこ笑っていた幼女は成長し、目の前でとんでもない言葉を口にしているのです。リヴィルは、サラの頬に優しく手を当てて微笑みました。すると少しだけ彼女の強張りが解れ、息をついた彼女は再び言葉を続け始めました。
「ユラは私よりも体が溶けていて、タビは手遅れになる前にと、ユラから助けようとしたわ。でも、ユラは私からやれって……。タビの術を拒否したの。タビにもきっとわかったんだわ。ユラはもう助からないんだって。だから、タビは、震える手で私の手当てに取り掛かった。私も震えていたけど、タビはもっと震えていたの……。お兄様。タビはね、本当に良い人なのよ」
「……そう、だったのか」
 リヴィルは静かに息を吐き、それだけ言いました。サラや他の子どもたちが見ていなかったら、きっと座り込んでいたでしょう。それくらい、ユラが死んだこと、二人が辛い目に遭っていたこと、そしてタビを疑ってしまったことにショックを受けたのです。
「だから、お兄様。タビにもう酷いことをするのは駄目。謝らなくちゃいけないわ」
「ああ。そうだな……」
 リヴィルが力なく頷いたとき、コツリと誰かの足音がしました。
「違うよ。謝る必要なんかない。サラちゃん、リヴィル。僕はやっぱり悪いエルフだから」
 振り返ると、そこには眠っていたはずのタビが立っていました。
「な……。お前、どうして……」
「エルフを舐めないことだ。人間とはわけが違う」
「お前は……」
 タビはまだ眠気が覚め切っていないようで、具合の悪そうな顔をしていました。いや、それよりも。フードを被っていない彼を見るのは初めてでした。いつもは口元しか見せずに、お茶の時でさえフードをかぶったままの彼。その本当の姿は、尖った耳と顔にできた痣以外いたって普通の人間だったのです。
「タビは私たちを救うために禁術を使ったの。そのときに痣ができたのよ」
 タビをじっと見つめていたリヴィルに、サラがこそりと教えました。
「耳だけでなく、痣を隠すためにもフードを被っていたのか……」
 視線に気づいたタビはリヴィルを睨みつけると、再びフードで顔を隠しました。
「僕は見ての通りエルフだ。僕の仲間がユラくんを殺したんだ。エルフは悪さ」
「随分と責任感が強いエルフもいたもんだな」
「お兄様!」
「リヴィル。上で話そう。みんなは少しここで待っててくれ」
 タビはサラを手で制すと、リヴィルに目を向けて店に上がるよう促しました。
「タビ……」
「大丈夫。君のお兄さんを取って食ったりはしないさ」
「いや、サラは俺がお前を殺しはしないか心配してるんだろ」
「どっちもよ。お願いだから、喧嘩しないでね?」
「もちろん。リヴィルが噛みついてこない限りはね」
「それはこっちの台詞だ」


「紅茶を一杯くれないか」
 店に上がり、いつもと変わらぬ定位置に座ったリヴィルは、なるべくいつもの調子でタビにそう言いました。
「いいけど。僕が解毒を飲んでからね」
 しかしタビは意地悪くそう告げると、これ見よがしに薬を飲みほします。
「悪かったよ。疑ったりして。薬まで盛って」
「本当にね。薬ってのは健康な人に使うもんじゃない」
「健康って。お前こそちゃんと寝てんのかよ」
「寝てるよ」
 言い張るタビの隙を突き、フードを剥がしたリヴィルは、彼の目の下を指で撫でました。
「これ。隈じゃないか」
「違う。禁術の後遺症さ」
 リヴィルの手を払い、フードを被りなおしたタビは、綺麗なビーカーを手に取ると水と葉を入れ、火に掛けはじめました。
「どっちにしたって、お前は健康じゃない。その後遺症だって、まさかその模様だけってんじゃないだろ?」
「……」
「お前さ、どうするつもりなんだよ。そんなボロボロの体で、あの子たちまで匿って」
「薬の作り方はあの子たちに教えてある。僕が死んだらこの店を継いでもらうさ。あとは、死ぬ前に纏まったお金を残してやる」
「纏まった金って。この店はどう見ても儲かってないだろ」
「はは。やっぱり君は一言多いよ。ま、残念だけど確かにここで稼いだ金じゃ、気休めにしかならない」
 そっとリヴィルの目の前に置かれたティーカップには、先ほどビーカーで沸いた紅茶が入っていました。
 息を吹きかけ少し冷ました後、一口味わうと、リヴィルは思わず息を漏らしました。
「おいしい。やっぱ落ち着く味だ。どうしてあんな雑なやり方でここまでおいしくできるのか。ほんと、不思議でならないよ。……変な薬がビーカーに残ってるからとかじゃないよな?」
「はは。案外そうかもね」
 からりと笑うタビを見て、リヴィルはカップに目を落としました。
「まさか、禁術を売る気じゃあないだろうな」
「禁術は僕の墓まで持ってくよ。渡しちゃいけないと思うし、誰も使うべきじゃないね」
「じゃあ、どうやって」
「ね、なんでエルフは絶滅したのか知ってる?」
「禁術を使う危険な存在だから、国々が結託してエルフを根絶やしにしたって……」
「エルフの心臓には病を治す力があるんだよ」
「は……?」
「だから僕は僕の心臓を国王に買ってもらう。この国の王子は病気らしくてさ。その糧となるんだ。それだったら儲かるだろ? 僕の心臓でみんなが幸せになるなんて、夢みたいだよね」
「なんだよそれ。そんなの、俺は知らねえぞ……?」
「知らなくて当然。心臓の話は限られた人しか知らない情報だもん。サラちゃんは君が引き取ってくれるだろ? 他の子もさ、たまにでいいんだ。様子を見に来てやってくれないかな、なんて」
「タビ、正気か?」
「こんなことを君に頼むのはどうかと思うけど。僕、頼れる人がいなくてさ。君にしか言えないんだよ……」
 リヴィルは、初めてタビの弱々しい声を聞きました。
「タビ……」
「ほんと、情けない。君にだけはこんな姿見せたくなかった。僕はさ、君が……」
「……? なんだよ?」
「いや、なんでもない」
「お前さ。一人で何でも溜め込もうとすんな。なあ、タビ。お前が心臓売っても、あの子たちが悲しむだけだぞ。金だったら、俺がどうにでもする。だから、お前が自分を犠牲にする必要なんてない」
「君は僕に同情しているの? 本当に馬鹿だな。でもね、ユラくんを殺したのは僕だ。僕たちエルフだ。君には僕を許さないでいてほしい」
 そう言い切ったタビは、もう後戻りのできない決意に満ちていて。リヴィルにはわかりました。これ以上彼に何を言っても無駄なのだろうと。それであれば、自分がどうにかするしかないのだろうと。


 そうして、ついにタビの心臓が王子に売られる日。
 いつものフードではなく白い布を被ったタビは、民衆の好奇の目線が集まる中、王宮の広場で捌かれる時を待ちました。
 タビの周りには槍を構えた兵。それを見つめる民衆の中には薬屋の常連客だった者もいました。しかし幸いなことに、タビが注意深く見渡してみてもリヴィルはどこにもいませんでした。
「ああ。君に見られなくてよかった」
 誰にも聞こえない声でそう呟いたタビは、それから目を瞑り、彼や子どもたちのことを一つ一つ大切に思い出してゆきました。

 タビは孤独でした。エルフとして生まれたときから、人間たちに迫害されてきました。エルフたちは人間に対抗するために禁術を使い倒し、互いの命を削り合う戦争のような日々を続けました。仲間は一人また一人と減っていき、とうとうタビが属していた一団は二人になってしまいました。
 残った一人は、タビに言いました。「オレが何とかしてやる」と。タビは仲間の笑顔を見たとき、よくないことが起こるのだと思いました。だけど、タビにはそれを止める勇気もありませんでした。
 そして、タビが気づいたときその男は、既に禁術の生贄として人間を使い始めていました。そう、男は禁術の中でも最も触れてはいけない、命を生贄にする魔術を使おうとしていたのです。
 タビは止めました。仲間に初めて禁術を使いました。タビの魔力は優れていました。だから、男を倒すことは容易でした。でも、タビは魔術を人に向けることにあまりにも慣れていませんでした。そう。タビは加減を誤って、仲間を殺してしまったのです。
 タビはすぐに恐怖で震えあがりました。タビはずっと仲間に守られていたので、戦ったことなんてまだ一度もなく、人間すら殺したことがなかったのです。そして、ふと気づきました。人間の悲鳴に。タビは、あまり考えることもせずに、部屋の奥へと進みました。そこには、溶けかけた人間の子どもが二人いました。その子たちは言いました。「助けて」と。
 タビはその言葉に弾かれたように二人に駆け寄りました。そして禁術を使って、二人を助けようとしました。しかし、男の子の方はもう助かりそうにありませんでした。タビは、必死になって女の子を助けました。禁術が体を蝕んでゆくのがわかりました。抑えようと思っても、震えは止まりませんでした。それでも。タビはどうしても自分の力で命を繋ぎ止めたかったのです。
 そして、女の子が助かって。他の部屋に囚われていた子どもたちを助けて。薬屋を開いて。子どもたちに薬の知識を教えて。リヴィルと仲良くなって。初めてタビは恋というものを自覚して。タビにとって十分なほどに幸せな人生でした。

「さあさあ皆さん。世にも珍しいエルフの解体。もう二度と見られないよ!」
 ピエロがそう言うと、民衆たちの期待は一気に高まりました。高い値段で買ったエルフ。それを少しでも有効活用するようにと、王は民衆たちを招き、ショーとして皆に見せることにしたのです。
「さあエルフよ。我が王子の病を治す糧となれ」
 ついに王が命令を下しました。タビの横にいた兵士は、タビの首を狙って剣を振り下ろします。民衆は熱狂。誰もがエルフの首が落ちるところを予測しましたが……。
「やめろ」
 カンッという音がしたかと思うと、兵士の剣は遠くに弾き飛ばされていました。
「なに、して……」
 タビが顔を上げると、そこには剣を持ったリヴィルがいました。
「タビ、王子なんかのためにお前の心臓をくれてやるこたぁない」
「な、なに言って……。というか、どうして君がこんなところに……」
 タビが辺りを見回すと、皆が静まり返っていました。処刑の邪魔をされた兵士たちですらも、侵入者を倒すことなく、どうしたものかと佇んでいました。
「おい。馬鹿親父。またとんでもないことをしてくれたな」
「な……。リヴィル、お前はまたワタシにそんな口を……! 大体、これはお前のためのもので……」
「俺は望んでないのに、んなこと勝手にしてんじゃねえよ。今すぐやめろ」
「お、お前は……。王子なのだからフラフラしてないでさっさとワタシの後を継げというに……」
「うるせえ! 自分のこと棚に上げてんじゃねーぞ。この浮気王! 大体、今まで外に行ってたのはサラを見つけるためだって、この前も言ったじゃねーか!」
「サラちゃんのことはグッジョブだったが……。お前はそもそも自分の病についてもっと真剣に考えるべきで……」
「もちろん俺の病気についてだって探ってるわ。親父の諜報だけじゃ役に立たねえからな! 案の定サラのことだって、俺の方が見つけるの早かったじゃねーか」
「むぐっ。そりゃそうじゃが! お前なあ、一国の王子だぞ?! 敵にいつ命を狙われるかわからんというのに、いっつも外出ばかり勝手に……」
「自衛ぐらいしてるわ!」
「傷だらけではないか!」
「これも修行だ!」
「また始まったよ」「王宮名物親子喧嘩」「ほんとに。王子が病気だって忘れそうだよ」
 二人の言い争いが続く中、周りの人々はいつものことだと諦めたように苦笑しました。
「なるほど。だから、あんなに傷が絶えなかったのか……。って。え、王子……?」
 ぼんやりと二人の会話を聞いていたタビは、ようやくその言葉の意味を理解してリヴィルを見つめました。
「あっは。流石にバレたな」
「病弱……?」
「病弱ってか、治んない病気」
「君が王子だなんて……。まさか。そんな。信じられない……」
「よく言われるよ」
 リヴィルが可笑しそうに笑い、剣の柄をタビに向かって見せました。そこには周りの兵と同じ紋章、いや、それより更に装飾が施してあるものが刻まれていました。それは、この国の王または王子にしか持つことの許されない印で、彼が王子であることは疑う余地もありませんでした。
「とにかく。俺はタビの心臓なんて死んでも食べねえよ」
「リヴィル! このエルフを買うのに、ワタシがどれだけ手を尽くしたと思って……!」
「タビは俺の友達だ。コイツを殺すなんてことしてみろ。俺は親父であろうと容赦はしない」
「な……!」
 反抗的なリヴィルの言葉に、王様はぷるぷると怒りで肩を震わしました。
「リヴィル。そんなこと、言うもんじゃない……」
「ごめん。だけど俺は、お前に死んでほしくない。俺のために死ぬなんて以ての外だ。お前の命を食らって生きるなら死んだ方がマシだとさえ思う」
 そう言ってリヴィルはタビを真っすぐに見つめました。その瞳は、今まで見たどの瞬間よりも真剣で、綺麗で、タビはそれを食い入るように見つめ返すことしかできませんでした。
「まさかお前、そいつに騙されているのではあるまいな?」
「騙されている? どうして?」
「そいつはエルフだぞ? 人間とはわけが違う」
「エルフは人間より悪か?」
「エルフは恐ろしい魔術を使って人間を脅かすという」
「ああ。俺もそう思ってたさ。でも、タビは違う。絶対に悪いことなんかしない」
「リヴィル。いい加減にしなさい。エルフは滅ぶべきして滅んだのだ。生き残りがまだいたことには驚いたが……そこにいるエルフも滅ぶべきなのだ」
「いくら父上でも、今の言葉は許せません」
 ふっとリヴィルを取り巻く気の流れが変わったかと思うと、彼はすらりと剣を抜き、静かに王様を見据えました。
「え……。何やって……」
「剣は苦手だけど。父上を倒すぐらいのことはできるでしょう」
 リヴィルの前に兵士たちが立ちはだかり、王の命令を待ちます。しかし、リヴィルはそれ
に臆することもなく、剣を強く握りしめました。
「リヴィル、君は間違っている! 僕のためだって? そんなことは今すぐやめろ!」
「リヴィル、お前は自分が何をしているのかわかっているのか……」
「ええ。でも、俺は王子である前に、タビの友なんだ!」
「馬鹿息子めが! 王子を捕らえよ! 正気ではない!」
 王が命令すると、兵士たちは一斉にリヴィルへ剣を向けました。民衆たちは揃って息を飲みました。いくら剣の腕が立つ王子でも、これだけの兵士相手では為す統べもないだろうと目を背ける者もいました。しかし。
「やめて!」
 張り詰めた空気の中で、場違いなほど麗しい少女の声。それが聞こえた先を見やると、ドレスを纏った美しい少女が、メイドたちの制止を振り切ってこちらへ駆けてくるところでした。
「サラ! 危ないからお前は部屋にいなさい」
「嫌よ! だってお父様、タビのことをいじめるなんて! 大嫌い!」
「だ、だいきらい……」
「王様!」
 顔を青くしてよろりと膝をつく王に、兵士たちは内心呆れながら駆け寄りました。
「お願い。タビを殺さないで! タビとお兄様は黙ってろって言ったけど。私を救ってくれたのは、他でもない、タビなのよ!?」
「え……。このエルフが……?」
 サラの言葉に、王がタビに目を向けました。その目はすっかり威厳を失い、おろおろと落ち着きがありません。
「ええと。僕はその……」
「だから、タビは私の命の恩人。お父様はタビを丁重にもてなすべきなのよ」
「え……。でもなあ……。エルフは……」
「お父様!!」
「わ、わかったよサラ。嫌いにならないでおくれ!!」
 ぴしゃりとサラが一喝すると、王はすぐに兵士たちを下がらせました。
「だがリヴィルよ、本当にいいのか? お前の病気はもう……」
「いいよ。例えこの先短くてもタビと過ごせるなら、俺はそれが一番いい。王子としては失格なのかもしれないけど」
「……本当にそのエルフが大事なんだな。わかった。もう野暮なことはしない。タビくん。悪かったね。良ければ君を王宮調薬師として雇わせてくれないか。そして、王子と共に過ごしてはくれないか」
 すっかり毒気を抜かれた王は、息子の幸せを願う優しい父親の顔になっていました。
「僕なんかがそんな……」
「タビ。貴方は私の命の恩人よ。私の家族よ? ねえだったら、今度は私が返す番。みんなも呼んで、ここで暮らしても罰は当たらないわ。いいわよね、お父様」


 そうしてサラの力添えもあり事なきを得た二人は、長かった一日を終え、新しい住処でようやく息をつきました。
「父さん、すっかりサラの尻に敷かれてんだよ。あの人は女に弱いからな」
「サラちゃん、本当にお姫様になったんだね。すごく綺麗だったな」
「ああ。あの子はきっと俺より政治が上手いだろうな」
「はは。確かに」
「タビ、悪かったな。王子だってこと、隠してて」
「ああ。びっくりしたよ。君が王子だったこともだけど、君が僕のことをあんなに思ってくれていたなんてさ」
「っ……。それは……まぁ、なんていうか。俺は王子だからな。身分関係なしの友達なんてお前以外に作れないから、特別、というか……」
「照れてる? 可愛いとこもあるんだね、王子様」
「揶揄うなよ。ったく、お前もう疲れただろ? さっさと自室に戻れ。わざわざ隣に部屋を用意してやったんだ。今日はもう遅いから……」
「本当に良かったのかな」
「ん?」
「僕はエルフなのに生きていていいのかな」
「馬鹿だな。お前が死んだら子どもたちが悲しむ。サラだって、きっと親父に八つ当たりするぜ? それに、俺だって……」
「あ、また照れた?」
「うるさいな! とにかく、子どもたちのとこには事情を説明しに行かせたけど、まだ警戒してるみたいだから。明日の朝、俺たちで地下に行って保護するって言ったろ? 早く寝るぞ! 部屋に戻れ!」
「あ。リヴィル……」
「ん?」
 名前を呼ばれたリヴィルは、寝間着に着替える手を止めてタビに振り向きました。
「それ。ちょっと見せて」
「え……? あ、おい」
 近づくなりいきなり服の下に手を伸ばすタビに焦ったリヴィルは、タビを押し返そうとしましたが力負けして、あっという間にベッドに押し倒されてしまいました。
「これは……」
「んっ。な、なに……」
 タビが真剣に見つめるリヴィルの肩には、黒い模様が浮かんでいました。それは禍々しく、リヴィルの心臓に向かって伸びているようでした。
「ちょっと撫でるよ」
「は? ちょ、うわ、くすぐった」
「これ。いつからあるの?」
「これ……? 何かできてるか?」
「君、この模様が見えないのか?」
「……? 模様なんてないだろ?」
 身を起こしたリヴィルは、自分の肩を見て不思議そうに首を傾げました。
「……なるほど」
「何? さっきからお前、怖いんだけど……」
「じっとしてて」
「え……。た、タビ……?」
「静かに」
「っ……!」
 真剣な表情になったタビは、口の中で何かぶつぶつ唱えると、リヴィルに顔を近づけました。そして。
「ん、んん……」
 唇が重なり、そのまま舌が絡み合い。リヴィルには何が起こったのかさっぱりわかりませんでした。もちろん抵抗しようと体を動かしましたが、タビの不思議な力と、快楽により思うように動けません。そうして長い時が経ち、リヴィルの体の力がすっかり抜けてしまった時。
「はい。終わり」
「っは……?」
 状況のわからないリヴィルは、呆然とタビを見つめました。
「大丈夫?」
「お前、何したの……? なんか、体が熱い……」
「うん。今、僕の魔力が君の体全体にいきわたって、呪いを消しているからね」
「ん……? 呪い……?」
「それ、病気じゃなくて魔女の呪いだよ。だから魔力を持たない人間たちには呪いの印すら見えないんだ」
「は? 魔女の呪い……?」
「うん。近づいて初めてわかったけど。それ多分、君が生まれてすぐにつけられてたみたいだ」
「魔女……。あ、そういえば。父さんが結婚する前に魔女と浮気してたって聞いたことが……」
「う~ん。魔女なんてエルフほどではないにせよ早々いないからね。きっとその人が呪いをかけたんだろうね」
「てことは、俺の病気は治ったのか?」
「うん。禁術が役に立ってよかったよ」
「禁術って……。まさかあのキスか?」
「そう。呪文を対象の口に移して、封じ込めるんだ。君には悪いと思ったけど、こういうのは早い方がいいと思って」
「いや。すまん。ありがとう。まさか長年苦しんでたのがこんな簡単に解決するとは……。最初っからお前に相談しておけば良かったかな」
 そう言ったリヴィルは、照れたよう笑いました。それに目を細めたタビは、リヴィルの肌をひと撫でして、支えていた手を離しました。
「よし。完全に消滅したみたいだ」
「悪かったな。治療のためとはいえ、気持ち悪いことさせて」
「リヴィルは気持ち悪かったの?」
「え、いや。俺はその……そんなに不快じゃなかったけど」
「僕は気持ち良かったよ。君が可愛すぎてつい予定より長くしちゃったし」
「……ん?」
「わからない? 僕はリヴィルが好き。愛してる。もうずっと前から君のことばかり考えてるのに。君ってば僕のことを友人だなんて言うし」
「いや、だって、タビは大事な友達で……」
「リヴィル。僕だってここまでするつもりはなかったけど。さっきの治療でタガが外れちゃった。ね、リヴィルだって不快じゃないんだよね。だったら、もう少し押せば」
「た、タビ……。待て、お前、なんか全部いきなりすぎて」
「うん。でもさ、背負ってたものが軽くなった分、浮かれちゃって」
「で、でも俺は、そんな気持ちじゃ……」
「それじゃあ診察させて。ほら、呪いが全部消えたかわからないでしょ」
「う……。そんなの、ずるいだろ」
 伸びてくるタビの手をリヴィルは振り払うことができませんでした。リヴィルにはこの熱を帯びた欲から逃げられないことがわかっていました。
「呪いの上書きなんて聞いてないぞ」
「君にとっては僕の愛は呪いなの?」
「ん……。似たようなもんだろ」
「そうかもね」

 そうして、薬屋のおかげですっかり元気になった王子は妹と共に国を支え、幸せに暮らしました。その傍には常に薬屋が付き、王子の健康をいつまでも守り続けたそうです。
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