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007 戦闘準備

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 〈何でも屋:シルバー〉が所有する工房にやってきた。
 生産に必要な器具が一式揃っている便利な場所だが、いかんせん狭い。
 数人が入るだけで窮屈感を抱きそうな空間だ。

 今日はここに篭もってスキルの習得に励んでいた。
 その為、俺の作ったアレコレが、工房の隅に置かれている。
 セレナはその内の1つを手に取る。

「下水道の仕事が今日で良かったよ、はいこれ」

 そう言って渡してきたのは剣だ。
 鞘も含めて全てがシンプルで、大した特徴のない物。
 短剣と長剣の間のような長さの剣で、俺が〈鍛冶〉で作った。
 えらく出来が良いおかげで、売って金にする予定だった物だ。

「コレを装備すればいいんだな?」

「売って同じような物を店で買うより安上がりだろうし」

「たしかに」

 受け取った剣を装備する。
 装備方法はただ腰に付けるのではない。
 ステータスの確認と同様に、「装備」と念じる。
 手に持っていた剣がスッと消えて、腰の左側に自動で装備された。
 この方法で装備すると、まるで接着剤でも使われているかのようにくっつく。
 セレナが背中に装備している大きな弓が落ちないのもその為だ。

 武器と同様、装備にもステータスが存在する。
 手に持つことで、武器のステータスを確認することが可能だ。
 俺の作った剣のステータスは、このようになっている。

====================
【名 前】名も無き剣
【属 性】無
【特 効】無
【攻撃力】C
【耐久力】C
====================

 セレナ曰く「普通に良い品」とのこと。
 初っ端から攻撃力及び耐久力がC級なのは異常らしい。

「あ、全部1個ずつ作ったせいで、ポーションが1個しかないね。念の為にもう1個作っていこうか。それぞれ1個ずつ持っていたら安心できるし、材料もちょうど1個分余ってるから」

「オーケー」

 ポーションを作る方法は〈製薬〉と〈合成〉の二種類が存在する。
 今回は専用の機械を使って作る〈製薬〉を使用するようだ。

「まずは材料の確認だったな」

「その通り! 私が既に確認したけど、自分でも確認してね」

 機械の上部は無数に枝分かれしており、材料を入れる箱になっている。
 全ての箱を確認した。丁寧に蓋を開き、中の材料が正しいかを。
 問題なかったので、次は機械の最下部を確認する。
 完成したポーションを入れる容器がセットされていた。
 フラスコのような物だ。

「準備よし、始めるぜ」

 機械の中央部に右手をかざし、魔力を注ぎ込む。
 今まで死んでいた機械が息を吹き返し、動き始めた。
 ドゴドゴと派手な音をたてながら左右に揺れる。
 揺れはすぐに止まり、下の容器に赤い液体が注がれていく。
 溢れるすこし手前で終わった。
 俺は容器を取り出し、専用の蓋をキュキュっと閉める。
 ポーションの完成だ。

====================
【名 前】HP回復ポーション
【効 果】飲むとHPが回復する
【ランク】C
====================

 作ったポーションはこんな感じ。
 ランクは品質を表しており、効果の強さと比例する。

「おっ?」

 俺の足下から光の輪が現れた。
 その輪はスーッと上に向かって進み、頭上を越えたところで消える。

「レベルアップじゃん! おめでとう!」

 セレナが祝ってくれる。
 本体ないしはスキルレベルが上がったようだ。

「どっちのレベルアップなんだ」

「この場合は本体レベルのことだけど、たぶんスキルレベルも上がってるんじゃない? 確認してみたら?」

「そうだな」

====================
【名 前】レイ・シノミヤ
【レベル】2
【H P】250/250
【M P】165/250
【適 性】
・戦闘系
 ├攻撃:S
 ├妨害:S
 └回復:S
・生産系:S
・その他:S
【スキル】
自動発動パッシブスキル
 └英雄の加護:Lv.99
 
任意発動アクティブスキル
 ├調理:Lv.1
 ├鍛冶:Lv.1
 ├製薬:Lv.2
 ├建築:Lv.1
 ├合成:Lv.1
 ├鑑定:Lv.1
 └裁縫:Lv.1
====================

 たしかに本体レベルとスキルレベルが上がっていた。
 本体レベルの上昇によって、HPとMPも増えている。

「これで準備万端だね! くっさいくさい下水道に行くよー!」

「戦闘経験とかないけど、マジで大丈夫なのか?」

「私が皆殺しにするからだいじょーぶ!」

「期待しているぜ」

 作ったポーションを懐にしまい、セレナに続いて工房を後にした。

 ◇

 適当な路地裏から下水道に侵入した。
 事前に臭いとは聞いていたが、本当に鼻をえぐりたくなる臭さだ。
 下水道は街の全体に伸びていて、色々な所から侵入が可能だ。
 俺にはどこも同じに見えるが、細かな区画分けがされている。

 今回、俺達が依頼されているのは、C区画の魔物退治だ。
 他の区画にも魔物が現れるようだが、無視しても問題ないらしい。
 セレナ曰く「金、金、金! 金にならない仕事に興味なし!」とのこと。

 俺達はB区画から侵入して、お隣のC区画を目指している。
 さながら迷路のように入り組んだ道を歩いて行く。
 俺だけだと迷子になることは間違いなかった。

「おっ、魔物を発見!」

 まだCに到着する前、俺達は魔物に遭遇した。
 約10メートル前方の突き当たりに、巨大なネズミが4匹。

「あれが魔物なのか?」

 俺にはただの大きなネズミに見えるが、立派な魔物のようだ。

「スタンラット。牙や爪に麻痺毒を備えた危険な奴よ。ランクはたしかD級だったかな」

「「チュー!?」」

 ラット共はこちらに気づくと突っ込んできた。

「初戦でラットと戦わせるのは危険だから、私が倒すね」

 セレナが弓を構えて、素早く矢を番える。
 ポンポンポンっとテンポよく矢を連射していく。
 あっという間に3匹のラットが矢に貫かれて死んだ。
 しかし、1匹だけ、仲間を盾に矢をくぐり抜けた奴が居る。
 敵が素早く間合いを詰めてきた。
 矢を番える余裕がない。

「危ない!」

「問題ないよ」

 セレナは矢を番えなかった。
 右手で矢筒から矢を取ると、それを直接ラットに突き刺したのだ。
 ラットは即死だった。

「おお……」

 鮮やかなお手並みに感動する。

「ふっふっふ。だから言ったでしょ? 私って、結構強いんだ」

「これならセレナだけでも余裕そうだな」

「もちろん! このクラスの敵を初っ端から戦わせるのは怖いし、今日のレイは私の後ろでプルプル怯えながら観戦することねー!」

 上機嫌で笑うセレナ。
 それを見て、俺も頬を緩める。

「今日は見て学ばせてもらうよ、セレナ先輩」

「おーおー! そうしてくれたまえ! レイ後輩!」

 ――この後に待ち受ける危機を、俺とセレナはまだ知らなかった。
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