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013 ネクロウィズ
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クレアを違法奴隷として扱っていた悪の組織は〈ネクロウィズ〉という。
規模の大きな組織で、その全容は末端の奴隷であるクレアには分からないそうだ。
代わりに、別の人間が組織について知っていた。
「おいおい、〈ネクロウィズ〉っていやぁ、裏社会じゃ有名な組織じゃねぇか」
マスターだ。
クレアの一件が片付くまで仕事を休もうと考えた俺は、店に行ってマスターに事情を話した。
「そこを叩こうと思うんだけど、やばい感じなのか?」
「まぁやばいだろうな。とはいえ、俺も詳しいことは分からないんだ。なんせ〈ネクロウィズ〉が名を上げだしたのはここ数年のことでな。おそらく8年前の〈魔王復活〉くらいから活動を始めたんだろう」
今のように、人類が魔物の侵攻を受けて苦しむようになったのは、8年前に起きた魔王の復活からだ。
それまで、大陸全土にたくさんの人が暮らしていたという。
魔物はそれ以前からも存在していたが、今のように活発ではなかった。
復活した魔王は、強力な手下と共に魔物を束ね、人類の領土を侵略していっている。
今では、大陸の約半分が魔物の領土だ。
「魔王軍の攻撃を受けて都市が陥落すると、そこで暮らしていた人達は難民になり、近くの都市に避難する。〈ネクロウィズ〉はそんな難民を襲撃し、子供を攫っては違法奴隷として育て、ソルジャーとして扱ってきたと聞く。噂でしか聞いたことはなかったが……そっちの嬢ちゃんの話と一致するし、間違いではなかったようだな」
マスターは俺の隣に座るクレアを見て言った。
「難民の子供を攫うとは酷い奴等だな。ますます許せなくなったぜ」
「許せないのはかまわないが、ウチは何も支援できないぞ」
「分かっているさ。俺だって支援を期待しているわけじゃない」
「なら結構。好きなだけ暴れてくればいい。期間未定で休みたいって話も承諾した。薬草畑の仕事はセレナにでも回しておく。心配は無用だ」
「サンキュー、マスター」
「レイ様、私の為にお仕事に穴を開けてしまいすみません」
クレアは立ち上がり、深々と頭を下げてくる。
「謝る必要はないさ。これは俺の意志でやっていることだから。それに、前々から試したいと思っているスキルがあったんだ。悪人相手なら遠慮無く使えるし、こちらとしてもちょうどいいってもんだ」
〈ソニックブレード〉や〈エンチャント〉など、この世界の戦闘スキルというのは、俺が数多のネトゲで使ってきたスキルと似ている。
だから、「こういうスキルだって存在するのでは?」というアイデアが無数にあった。
アイデアの全てが使えるとは思わないが、いくらかは役に立つ物もあるはずだ。
悪党をこらしめるついでに、新たなスキルを身に着けるとしよう。
◇
クレアと共に街を出た。
街を囲む門をくぐる際、衛兵にバレないか不安だった。
俺は問題ないが、クレアは〈ネクロウィズ〉から逃げ出した違法奴隷。
組織と繋がっている衛兵が見れば、一目瞭然だ。
ところが実際には、特に問題なかった。
「マスターの言う通り、変装とかしなくても大丈夫だったな」
「拍子抜けしちゃいましたね」
マスター曰く、衛兵は最初から悪人と情報を共有しているわけではない。
例えば前のクレアみたいに、自分から助けを求めた時に所属組織を聞き出してから、その組織に情報を売り付ける。だから自分から話しかけなければ問題ない、というのがマスターの主張だ。その通りだった。
「それにしても、ゾルダン様はすごくお詳しいのですね。裏の世界に。元々、そちらの世界で働かれていた方なのでしょうか?」
「いや、元は冒険者らしいよ。俺も詳しいことは知らないんだ。ひょっとしたら、昔は悪人だったかもしれないね。でも、関係ないよ」
「関係ない?」
「昔どころか今も悪人だったとして、だからなんだって話さ。俺にとっては良い人だし、俺の前で良いマスターであれば、俺はそれでかまわない。別に俺は、正義の味方ってわけじゃないからね」
クレアが驚いたような顔でこちらを見ている。
「今から〈ネクロウィズ〉に仕掛けるのだって同じさ。相手が悪党だから攻撃してもいいだろ、と考えているだけのこと。悪を滅ぼそうとか思っているわけじゃない。根っこの部分で自己中なのさ、俺は」
「すごく大人な考え方だと思います。感動しました」
会話はそこで終了した。
無言の中、クレアの案内に従って道を進む。
しばらくして、舗装された道からそれた。
「なるほど、人の通った形跡があるな」
獣道とすら言えないが、足下の雑草には踏まれた跡が見られる。
一度や二度の往復だとこうはならない。
たしかにこの道を進んだ先にアジトがあるようだ。
「「ゴブー!」」
そういう道になると、やはり安全ではない。
茂みから魔物が飛び出してくるのは日常茶飯事だ。
敵は主に雑魚モンスターのゴブリン。
背の小さな緑色の人型モンスターで、極めて弱い。
俺は右手に持っている剣を振り、ゴブリンを一掃した。
「この森の中に小さな洞窟があって、そこが臨時のアジトになっています」
目の前に見えるのは森だ。
昼間というのに薄暗くて、なんだか不気味。
「臨時? 本拠点じゃないのか?」
「組織は作戦に応じてアジトを変えます。私が所属していたグループは、常に大陸中の臨時アジトを転々としていました」
「じゃあ、本拠点の場所を知らないわけか」
「すみません」
「謝る必要はないさ、行こう」
森に足を踏み入れる。
その瞬間、森の奥から矢が飛んできた。
漫画のヒーローみたいに、俺はその矢を剣で弾く。
……なんてことは出来るわけもなく。
「グハッ」
「レイ様!」
矢は俺の胸にグサッと突き刺さった。
規模の大きな組織で、その全容は末端の奴隷であるクレアには分からないそうだ。
代わりに、別の人間が組織について知っていた。
「おいおい、〈ネクロウィズ〉っていやぁ、裏社会じゃ有名な組織じゃねぇか」
マスターだ。
クレアの一件が片付くまで仕事を休もうと考えた俺は、店に行ってマスターに事情を話した。
「そこを叩こうと思うんだけど、やばい感じなのか?」
「まぁやばいだろうな。とはいえ、俺も詳しいことは分からないんだ。なんせ〈ネクロウィズ〉が名を上げだしたのはここ数年のことでな。おそらく8年前の〈魔王復活〉くらいから活動を始めたんだろう」
今のように、人類が魔物の侵攻を受けて苦しむようになったのは、8年前に起きた魔王の復活からだ。
それまで、大陸全土にたくさんの人が暮らしていたという。
魔物はそれ以前からも存在していたが、今のように活発ではなかった。
復活した魔王は、強力な手下と共に魔物を束ね、人類の領土を侵略していっている。
今では、大陸の約半分が魔物の領土だ。
「魔王軍の攻撃を受けて都市が陥落すると、そこで暮らしていた人達は難民になり、近くの都市に避難する。〈ネクロウィズ〉はそんな難民を襲撃し、子供を攫っては違法奴隷として育て、ソルジャーとして扱ってきたと聞く。噂でしか聞いたことはなかったが……そっちの嬢ちゃんの話と一致するし、間違いではなかったようだな」
マスターは俺の隣に座るクレアを見て言った。
「難民の子供を攫うとは酷い奴等だな。ますます許せなくなったぜ」
「許せないのはかまわないが、ウチは何も支援できないぞ」
「分かっているさ。俺だって支援を期待しているわけじゃない」
「なら結構。好きなだけ暴れてくればいい。期間未定で休みたいって話も承諾した。薬草畑の仕事はセレナにでも回しておく。心配は無用だ」
「サンキュー、マスター」
「レイ様、私の為にお仕事に穴を開けてしまいすみません」
クレアは立ち上がり、深々と頭を下げてくる。
「謝る必要はないさ。これは俺の意志でやっていることだから。それに、前々から試したいと思っているスキルがあったんだ。悪人相手なら遠慮無く使えるし、こちらとしてもちょうどいいってもんだ」
〈ソニックブレード〉や〈エンチャント〉など、この世界の戦闘スキルというのは、俺が数多のネトゲで使ってきたスキルと似ている。
だから、「こういうスキルだって存在するのでは?」というアイデアが無数にあった。
アイデアの全てが使えるとは思わないが、いくらかは役に立つ物もあるはずだ。
悪党をこらしめるついでに、新たなスキルを身に着けるとしよう。
◇
クレアと共に街を出た。
街を囲む門をくぐる際、衛兵にバレないか不安だった。
俺は問題ないが、クレアは〈ネクロウィズ〉から逃げ出した違法奴隷。
組織と繋がっている衛兵が見れば、一目瞭然だ。
ところが実際には、特に問題なかった。
「マスターの言う通り、変装とかしなくても大丈夫だったな」
「拍子抜けしちゃいましたね」
マスター曰く、衛兵は最初から悪人と情報を共有しているわけではない。
例えば前のクレアみたいに、自分から助けを求めた時に所属組織を聞き出してから、その組織に情報を売り付ける。だから自分から話しかけなければ問題ない、というのがマスターの主張だ。その通りだった。
「それにしても、ゾルダン様はすごくお詳しいのですね。裏の世界に。元々、そちらの世界で働かれていた方なのでしょうか?」
「いや、元は冒険者らしいよ。俺も詳しいことは知らないんだ。ひょっとしたら、昔は悪人だったかもしれないね。でも、関係ないよ」
「関係ない?」
「昔どころか今も悪人だったとして、だからなんだって話さ。俺にとっては良い人だし、俺の前で良いマスターであれば、俺はそれでかまわない。別に俺は、正義の味方ってわけじゃないからね」
クレアが驚いたような顔でこちらを見ている。
「今から〈ネクロウィズ〉に仕掛けるのだって同じさ。相手が悪党だから攻撃してもいいだろ、と考えているだけのこと。悪を滅ぼそうとか思っているわけじゃない。根っこの部分で自己中なのさ、俺は」
「すごく大人な考え方だと思います。感動しました」
会話はそこで終了した。
無言の中、クレアの案内に従って道を進む。
しばらくして、舗装された道からそれた。
「なるほど、人の通った形跡があるな」
獣道とすら言えないが、足下の雑草には踏まれた跡が見られる。
一度や二度の往復だとこうはならない。
たしかにこの道を進んだ先にアジトがあるようだ。
「「ゴブー!」」
そういう道になると、やはり安全ではない。
茂みから魔物が飛び出してくるのは日常茶飯事だ。
敵は主に雑魚モンスターのゴブリン。
背の小さな緑色の人型モンスターで、極めて弱い。
俺は右手に持っている剣を振り、ゴブリンを一掃した。
「この森の中に小さな洞窟があって、そこが臨時のアジトになっています」
目の前に見えるのは森だ。
昼間というのに薄暗くて、なんだか不気味。
「臨時? 本拠点じゃないのか?」
「組織は作戦に応じてアジトを変えます。私が所属していたグループは、常に大陸中の臨時アジトを転々としていました」
「じゃあ、本拠点の場所を知らないわけか」
「すみません」
「謝る必要はないさ、行こう」
森に足を踏み入れる。
その瞬間、森の奥から矢が飛んできた。
漫画のヒーローみたいに、俺はその矢を剣で弾く。
……なんてことは出来るわけもなく。
「グハッ」
「レイ様!」
矢は俺の胸にグサッと突き刺さった。
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