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016 麺料理
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フリーズドライや粉末調味料によって、エルディの知名度は急激に高まった。
それに伴い、町へ訪れる移住者や観光客も増加。町の場所がアルバニア王国との国境沿いにあるというのも拍車を掛けていた。
マリアが来た当初は1000人だった町の人口は、僅か数ヶ月で2000人を突破。その勢いは留まることを知らず増加の一途を辿っていた。
通常であれば、こういったケースでは住居の数がボトルネックとなるだろう。移住したくても済むところがない、と。
だが、エルディは元冒険者が集う町。ロンを始めとする腕のいい魔法使いにかかれば住居の増設など赤子の手を捻るようなものだった。
町の人口が増えると、町民相手の商売も繁盛する。飲食店にアパレル店、その他、ありとあらゆる店が続々とオープンした。
まさに人が人を呼ぶ状態のエルディだが、田舎町ならではの問題が残っていた。
それは――。
「若い奴が全然来ねぇ!」
新たにオープンした酒場で、ライデンは頭を抱えていた。テーブルの上にテオのまとめた資料を置き、浴びるように酒を飲む。
「若者は娯楽多き都市部に集まるからのう」
ロンは牛丼に一味唐辛子と野菜パウダーを掛けながら言った。
「この町でも賭場を開いたらどう? それか娼館を作るとか」
そう言って魚の串焼きに齧り付くテオ。
「賭場と娼館はまずいだろー。この町の奴等が破産しちまうぞ。あいつら女とバクチには目がないからなぁ」
「それに子供が寄りつかなくなっちゃうよ」とマリア。
「移住者が増えたのはいいけど、若くても30代ばかり。これじゃ町の平均年齢は上がる一方だぜ。俺はどうにかしてぇよ!」
ライデンはジーッとマリアを見る。
「そんな目で見られても私には分からないよ! 若い人の誘致方法なんて賢者の書には載ってないんだから!」
「じゃが若者ウケがいい料理か何か載っているんじゃないか?」
ロンが尋ねると、マリアはどこからともなく賢者の書を出した。
「若者ウケがいい料理かぁ」
ペラペラとページをめくるがパッとしない。
「その本ってさ、しばしばハズレが載ってるからあまり過信できないよねー」
と、テオが笑う。
「そうなんだよね……」
マリアはこの数ヶ月間、賢者の書を参考に色々と作ってきたが、その多くはハズレだった。既に同様の物がこの世界に存在していたり、不味くて食べられない物だったり。
「どれが若者ウケがいいか分からないから、私の作りたい物にしよう! これでも私はピチピチの20歳! 若者だからね!」
ということで、マリアが選んだのは――。
◇
酒場を出た四人は、町役場の二階にやってきていた。かつては一階で試作品を作っていたが、今では二階に場を移している。町民の数が増えて一階はれっきとした町役場として機能しているからだ。
「まずは小麦粉にこうして、ああして……」
マリアが賢者の書を見ながら手際よく作っていく。
「できた!」
メインとなる材料の一つが完成。
しかし、男性陣は首を傾げていた。
「なんじゃその細いのは?」
「麺だよ! 麺! 中華麺!」
「「「中華麺……?」」」
「まぁ見てて!」
マリアはフライパンにごま油をひき、その上で豚の挽肉をいためる。
同時進行で余っていた鶏ガラスープを沸騰させ、そこに味噌をとく。
「鶏ガラベースの味噌スープにさっきの麺を入れて、豚の挽肉を乗せる! あとはネギや小松菜などの野菜を添えつつ、ニンニクなや胡椒、唐辛子などで味を調整したら完成!」
味噌ラーメンができあがった。
「なんだこの料理は!」
「よく分からないけど美味しそう!」
ジュルリと舌を鳴らすテオ。
「これはラーメンって言うの! 味噌のスープなので味噌ラーメンだけど、他にも醤油ラーメンや塩ラーメンなど、スープによって色々な味が楽しめるよ!」
解説しながら皆のお椀に少しずつラーメンを入れる。
「さぁ召し上がれ!」
「「「いただきます!」」」
三人がラーメンを食べる。麺を啜るということを知らないため、丁寧に噛みちぎっていた。
「んめええええええええええ!」
「なにこれ! こんな美味しい料理があるなんて!」
「すごいのう! ラーメン!」
男性陣は大絶賛。
「あ、ラーメンの麺は啜るのが正しい食べ方なんだって!」
マリアは手本を見せた。ズズズッと派手な音を鳴らして豪快に啜る。
それを見てライデンたちも麺を啜った。
「こっちのほうが食べやすくて美味いな!」
「汁の絡まりがいい感じじゃわい」
「僕気に入った! ラーメン気に入った!」
「私も! 美味しいよね、ラーメン!」
マリアも自分のラーメンにニッコリ。
「よし! ラーメンをこの町の定番料理にしようぜ! 今日からエルディはラーメンの町だ!」
「賛成! 賢者の書にはスープのことがあまり書かれていないから、その辺はラッセルさんに頼んでレシピを教えてもらお!」
その数日後、ラーメンは町民に披露され、瞬く間にヒットした。
この世界には存在しない麺料理はクチコミで拡散され、町に訪れる観光客の数は増加。ラーメンを目当てに若い世代もたくさん来るようになった。
そして移住者はさらに増え、平均年齢は低下し、町がますます活気づくのだった。
それに伴い、町へ訪れる移住者や観光客も増加。町の場所がアルバニア王国との国境沿いにあるというのも拍車を掛けていた。
マリアが来た当初は1000人だった町の人口は、僅か数ヶ月で2000人を突破。その勢いは留まることを知らず増加の一途を辿っていた。
通常であれば、こういったケースでは住居の数がボトルネックとなるだろう。移住したくても済むところがない、と。
だが、エルディは元冒険者が集う町。ロンを始めとする腕のいい魔法使いにかかれば住居の増設など赤子の手を捻るようなものだった。
町の人口が増えると、町民相手の商売も繁盛する。飲食店にアパレル店、その他、ありとあらゆる店が続々とオープンした。
まさに人が人を呼ぶ状態のエルディだが、田舎町ならではの問題が残っていた。
それは――。
「若い奴が全然来ねぇ!」
新たにオープンした酒場で、ライデンは頭を抱えていた。テーブルの上にテオのまとめた資料を置き、浴びるように酒を飲む。
「若者は娯楽多き都市部に集まるからのう」
ロンは牛丼に一味唐辛子と野菜パウダーを掛けながら言った。
「この町でも賭場を開いたらどう? それか娼館を作るとか」
そう言って魚の串焼きに齧り付くテオ。
「賭場と娼館はまずいだろー。この町の奴等が破産しちまうぞ。あいつら女とバクチには目がないからなぁ」
「それに子供が寄りつかなくなっちゃうよ」とマリア。
「移住者が増えたのはいいけど、若くても30代ばかり。これじゃ町の平均年齢は上がる一方だぜ。俺はどうにかしてぇよ!」
ライデンはジーッとマリアを見る。
「そんな目で見られても私には分からないよ! 若い人の誘致方法なんて賢者の書には載ってないんだから!」
「じゃが若者ウケがいい料理か何か載っているんじゃないか?」
ロンが尋ねると、マリアはどこからともなく賢者の書を出した。
「若者ウケがいい料理かぁ」
ペラペラとページをめくるがパッとしない。
「その本ってさ、しばしばハズレが載ってるからあまり過信できないよねー」
と、テオが笑う。
「そうなんだよね……」
マリアはこの数ヶ月間、賢者の書を参考に色々と作ってきたが、その多くはハズレだった。既に同様の物がこの世界に存在していたり、不味くて食べられない物だったり。
「どれが若者ウケがいいか分からないから、私の作りたい物にしよう! これでも私はピチピチの20歳! 若者だからね!」
ということで、マリアが選んだのは――。
◇
酒場を出た四人は、町役場の二階にやってきていた。かつては一階で試作品を作っていたが、今では二階に場を移している。町民の数が増えて一階はれっきとした町役場として機能しているからだ。
「まずは小麦粉にこうして、ああして……」
マリアが賢者の書を見ながら手際よく作っていく。
「できた!」
メインとなる材料の一つが完成。
しかし、男性陣は首を傾げていた。
「なんじゃその細いのは?」
「麺だよ! 麺! 中華麺!」
「「「中華麺……?」」」
「まぁ見てて!」
マリアはフライパンにごま油をひき、その上で豚の挽肉をいためる。
同時進行で余っていた鶏ガラスープを沸騰させ、そこに味噌をとく。
「鶏ガラベースの味噌スープにさっきの麺を入れて、豚の挽肉を乗せる! あとはネギや小松菜などの野菜を添えつつ、ニンニクなや胡椒、唐辛子などで味を調整したら完成!」
味噌ラーメンができあがった。
「なんだこの料理は!」
「よく分からないけど美味しそう!」
ジュルリと舌を鳴らすテオ。
「これはラーメンって言うの! 味噌のスープなので味噌ラーメンだけど、他にも醤油ラーメンや塩ラーメンなど、スープによって色々な味が楽しめるよ!」
解説しながら皆のお椀に少しずつラーメンを入れる。
「さぁ召し上がれ!」
「「「いただきます!」」」
三人がラーメンを食べる。麺を啜るということを知らないため、丁寧に噛みちぎっていた。
「んめええええええええええ!」
「なにこれ! こんな美味しい料理があるなんて!」
「すごいのう! ラーメン!」
男性陣は大絶賛。
「あ、ラーメンの麺は啜るのが正しい食べ方なんだって!」
マリアは手本を見せた。ズズズッと派手な音を鳴らして豪快に啜る。
それを見てライデンたちも麺を啜った。
「こっちのほうが食べやすくて美味いな!」
「汁の絡まりがいい感じじゃわい」
「僕気に入った! ラーメン気に入った!」
「私も! 美味しいよね、ラーメン!」
マリアも自分のラーメンにニッコリ。
「よし! ラーメンをこの町の定番料理にしようぜ! 今日からエルディはラーメンの町だ!」
「賛成! 賢者の書にはスープのことがあまり書かれていないから、その辺はラッセルさんに頼んでレシピを教えてもらお!」
その数日後、ラーメンは町民に披露され、瞬く間にヒットした。
この世界には存在しない麺料理はクチコミで拡散され、町に訪れる観光客の数は増加。ラーメンを目当てに若い世代もたくさん来るようになった。
そして移住者はさらに増え、平均年齢は低下し、町がますます活気づくのだった。
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