うちのメイドは、只者ではありません。

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閑話

ミューゼン・ルーベルト

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「ノーデン、御挨拶をなさい」

 ミシェルの声がするまで、その場にいた誰もが、息をする事さへ忘れてしまった様な、静寂の時間が流れた。

 その静寂の時を作った人物こそが、ミューゼン・ルーベルト。
 彼が会いたくてたまらなかった、ルーベルト公爵の息子だ。

   彼の愛称であるノーディではなく、  ノーデンと母が呼ぶと言う事は、これはなのだ。
 いや、母がそう呼ばなかったとしても、ミューゼンがその場の雰囲気全てを攫ったのだから、そういう場であることは明白だった。

「初めまして、アティス・ノーデンです」

 ミューゼンと全く同じ挨拶で返してしまうほど、彼はミューゼンに魅せられていた。
 もちろんそれはミシェルも含めて、他の招待客も同じであった。

「ミューゼン、あちらでアティス伯爵領のお話でも聞かせてもらったら?」

 ミューゼンに魅入ってしまっている招待客も、ルーベルト公爵夫人の言葉を待っていたかの様に、各々会話を再開させている。
 その穏やかでいて凛とした声が、彼が忘れられない思い出の一つになることを、彼自身気付いてはいない。
 それぐらい自然に、人々に影響を与える人柄こそが、ルーベルト公爵家なのだ。

「母からも許しの言葉を頂きましたし、もし宜しければ庭でお話を聞かせてくれませんか?」

 そのキラキラと光を浴びたシルバーヘアに、甘く輝く蜂蜜色の瞳を少し垂れさせて笑みを作ったミューゼンの顔に、彼がまた固まってしまったのは言うまでもない。

 ちなみ美しい顔という点で言うのなら、彼だって美しい顔のはずなのに、それでもミューゼンを前に自分の顔を美しいと思うことは、彼でなくても到底無理だろう。
 綺麗な顔だけではなく、ミューゼンから滲み出る全てが、とても五歳とは思えない美しさを纏っていた。

「ルーベルト公爵様の領についても、ぜひ教えてください」

 彼がなんとか発した言葉は、彼が思うよりもはるかに弱々しい声だったが、彼がそれに気付くはずもなかった。

「もしよければ、私達は同じ年だし、名前で呼び合うのはどうでしょうか?」

 控え目に問うミューゼンは、本来ならば彼の許可など得なくても、名前で呼ぶことはもちろん砕けて話してもいいのは明白だ。
 それでも彼に問うたのは、彼もまたミューゼンに対して同じ様に接することができる様に。
そんな考えがあった事を、この時の彼はまだ知らない。

「そ、それでは何とお呼びしたら良いですか?」
「ミューゼン、もしくはミューと気軽に呼んでください」
「で、ではノーデンもしくはノーディとお呼び下さい」
「では、ノーディと呼ばせてもらいますね」

 ミューゼンの柔らかな笑顔が、自然と彼を黙らせたのは言うまでもない。

「名前で呼び合うのなら、もう少し砕けて話すのも許してもらえますか?ノーディ」

 そう言って笑った顔は、年相応の幼さを見せる笑顔だ。

 思った以上に色々な表情をするミューゼンに、彼は自分が夢中になるのがわかった。

「もちろんです、ミュー」
「それじゃあノーディ、庭にある僕のお気に入りの場所に行こう!」

 ミューゼン・ルーベルトの魅力を知るのに、時間など必要なかった。
 なぜなら人を魅了するオーラが、五歳にして備わっているのだから。

 彼はもう少し成長した時に知る事になるが、人を魅了するオーラと言うものをもつミューゼンが、後に陛下となる殿下にとっては邪魔になるのだ。
 公爵家と言うのは、それ程にまで力を持つものなのだ。

 現国王陛下とルーベルト公爵の関係は良好で、それが続く事を誰もが疑わなかった。
 それは当人達も含めた事で、どこで何を掛け違えたのかが分かるのは随分と先の話になる。

 ミューゼンがもしもルーベルト公爵家の生まれでなければ、それは幾度となく繰り返される言葉となり、いつしかミューゼンにとっての呪いとなる。
 そんな残酷な運命の歯車に、どうしたら幼き彼らが気づけただろうか。

 この日ミューゼン・ルーベルトという美しい少年は、彼にとって唯一無二の友となった。
 それがお互いにとっての事であるのは、誰が見ていても明白だった。
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