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今にも雨が降りそうな空だ。教室の窓から見える空は、どんよりと垂れ下がっているかのようだ。ここのところ、雨が多い。
『部活、行く?』
軽音部のグループLINEが鳴った。
『私今日帰る。傘持ってきてない』
ホームルーム中、担任の目を盗んで私はコッソリと返信した。
『出たぁ珠理のマイペース』
『濡れるの嫌じゃん。週末練習する予定でしょ?だからアタシ今日はかえります』
『りょ』
どうせ集まったって練習しないでお菓子食べてるだけなんだし。それなら濡れないうちに帰るさ。マイペースっていうか、合理的と言っていただきたい。
私は廊下を小走りに、下駄箱へ急いでいた。
ホームルームが終わったらすぐ帰るつもりだったのに、世界史の提出物を職員室に持って行かなくてはいけないことを思い出したのだ。やばい、タイムロスだ。
うわ。降ってきた。
雨粒がパラパラと、廊下の窓を叩く。私は窓から空を見上げて軽く舌打ちした。あーあ。こんなことなら休み時間にレポート書いときゃ良かった。
傘は持って来てないし、ママも仕事だし。こりゃ、駅まで走って帰るしかないか…。
「だから置き傘しときなさいよって言ったじゃないの!」って、ママが怒る声が聞こえてきそうだ。でもさ、置き傘って、雨降ってさして帰るじゃん。そしたら家に持って帰るじゃん。晴れの日は傘持ってかないじゃん。そしたら置き傘ってしなくなるじゃん。折り畳み傘って嫌いなんだよね。折り畳みすぎだろあれ。
仕方ない。
下駄箱から靴を出し、履く。スカートのポケットからハンカチを取り出し、頭に被せた。
多分これ、何の意味もないだろうけど。気持ちの問題というか。少しは濡れるの気にしてますよ感の演出だ。
よし、走るか。
…と、その時、後ろの方から声がした。
「待って!」
ピクッとなる。
まぁ、いいや。とにかく走らなければ。
昇降口を出たところで、グイッと肩を掴まれた。
「待って、って、言ってるのに」
え…?私?
呼ばれてたのは私だったのか。
その声の主を見て、私は驚いた。
「あの、これ、貸したげるよ」
ひとつ上の学年の、沙絵先輩だ。話したこともないけど、知ってる。ってか、この学校の人なら、みんな知ってる。
「えっ?」
あまりに驚いて、声がひっくり返った。
なんで、沙絵先輩が、私に傘を?
「ははっ。えっ?じゃないし」
そう言って沙絵先輩はケラケラと笑う。
「えっ?」
だって、訳がわからないんだもの。なんで、沙絵先輩が私に傘を貸してくれようとしてるのか、わからないんだもの。
「貸してあげる。
傘、持ってないんでしょ?」
「え、でも…」
ろくに言葉が出てこない。知ってはいたが、近くで見るとこれがめちゃくちゃ美人なのだ。目の前の人が美人すぎて言葉が出ないなんて経験、これまでにない。
「いいからいいから。はい。持ってって。
明日にでも返してくれたらいいから。
傘立てに置いといて」
そう言って沙絵先輩は、強引に私の手に傘を握らせた。
「えぇ…!?ちょっと待ってくださいよぉ」
やっと声が出たと思ったら、なんと情けない感じの私。
「待たないよー!3-Bの森本沙絵です!
まったねー!」
そう言って佐絵先輩はブンブン手を振ると、雨の中を走って行ってしまった。
「名前とか、知ってるっつーの…」
そう呟いて、私は沙絵先輩の後ろ姿を見送るしかできなかった。
『部活、行く?』
軽音部のグループLINEが鳴った。
『私今日帰る。傘持ってきてない』
ホームルーム中、担任の目を盗んで私はコッソリと返信した。
『出たぁ珠理のマイペース』
『濡れるの嫌じゃん。週末練習する予定でしょ?だからアタシ今日はかえります』
『りょ』
どうせ集まったって練習しないでお菓子食べてるだけなんだし。それなら濡れないうちに帰るさ。マイペースっていうか、合理的と言っていただきたい。
私は廊下を小走りに、下駄箱へ急いでいた。
ホームルームが終わったらすぐ帰るつもりだったのに、世界史の提出物を職員室に持って行かなくてはいけないことを思い出したのだ。やばい、タイムロスだ。
うわ。降ってきた。
雨粒がパラパラと、廊下の窓を叩く。私は窓から空を見上げて軽く舌打ちした。あーあ。こんなことなら休み時間にレポート書いときゃ良かった。
傘は持って来てないし、ママも仕事だし。こりゃ、駅まで走って帰るしかないか…。
「だから置き傘しときなさいよって言ったじゃないの!」って、ママが怒る声が聞こえてきそうだ。でもさ、置き傘って、雨降ってさして帰るじゃん。そしたら家に持って帰るじゃん。晴れの日は傘持ってかないじゃん。そしたら置き傘ってしなくなるじゃん。折り畳み傘って嫌いなんだよね。折り畳みすぎだろあれ。
仕方ない。
下駄箱から靴を出し、履く。スカートのポケットからハンカチを取り出し、頭に被せた。
多分これ、何の意味もないだろうけど。気持ちの問題というか。少しは濡れるの気にしてますよ感の演出だ。
よし、走るか。
…と、その時、後ろの方から声がした。
「待って!」
ピクッとなる。
まぁ、いいや。とにかく走らなければ。
昇降口を出たところで、グイッと肩を掴まれた。
「待って、って、言ってるのに」
え…?私?
呼ばれてたのは私だったのか。
その声の主を見て、私は驚いた。
「あの、これ、貸したげるよ」
ひとつ上の学年の、沙絵先輩だ。話したこともないけど、知ってる。ってか、この学校の人なら、みんな知ってる。
「えっ?」
あまりに驚いて、声がひっくり返った。
なんで、沙絵先輩が、私に傘を?
「ははっ。えっ?じゃないし」
そう言って沙絵先輩はケラケラと笑う。
「えっ?」
だって、訳がわからないんだもの。なんで、沙絵先輩が私に傘を貸してくれようとしてるのか、わからないんだもの。
「貸してあげる。
傘、持ってないんでしょ?」
「え、でも…」
ろくに言葉が出てこない。知ってはいたが、近くで見るとこれがめちゃくちゃ美人なのだ。目の前の人が美人すぎて言葉が出ないなんて経験、これまでにない。
「いいからいいから。はい。持ってって。
明日にでも返してくれたらいいから。
傘立てに置いといて」
そう言って沙絵先輩は、強引に私の手に傘を握らせた。
「えぇ…!?ちょっと待ってくださいよぉ」
やっと声が出たと思ったら、なんと情けない感じの私。
「待たないよー!3-Bの森本沙絵です!
まったねー!」
そう言って佐絵先輩はブンブン手を振ると、雨の中を走って行ってしまった。
「名前とか、知ってるっつーの…」
そう呟いて、私は沙絵先輩の後ろ姿を見送るしかできなかった。
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