孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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3章

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「んもう!!ビックリさせないでよぉ!!」

自宮へ繋がる回廊を歩きながら、半分泣きそうな声になった雛恋に詰め寄られて、宇麗は肩を竦める。

「ごめんなさい。あんまりにも農民を馬鹿にする言い草だったからつい腹が立っちゃって。」

本当は、あの場で喧嘩を買うつもりなどなかったのだ、しかし農村で育った宇麗にはその生活がいかに大変でありながらも、尊いものだという教えが根付いていて、、、。


決して楽な仕事ではないし、裕福な暮らしはできない。それでも自分たちが作るものを食べて、命をつないでいく人たちがいて、その人たちの働きで人々の生活が豊かになっていく。
農民と言うのは国の基盤を支える重要な歯車の一つで、絶対になくては人々の生活は回っていかない。
だから俺たちのやっている仕事は、とても誇り高い事なんだぞ。といつも村長が子供たちに話して聞かせてくれた。

彼らは自分たちの仕事に誇りをもって、そして自分たちの作ったものを食べてくれる人達のために日々働いている。

それを、ただ宮廷で着飾るだけして、人を見下しているような連中にあざ笑う資格などない。

同じ敵意を向けられるのでも、明芽のような得体の知れない理由での敵意とは違う。

理不尽で謂れがなくて、あまりにも愚かな敵意に、黙っている事はできなかった。そうでなかったら、村のみんなに申し訳が立たないような気がしたのだ。

しかし

「言い過ぎたかもしれないわ。変に敵を作っちゃったかな?」

もっと賢いやり方があったのではないかとも反省する気持ちもあるのだ。
そう思えたのは、きっと、周のあのなんとも言えない、静かに怒るような眼を見たからなのかもしれない。

あの距離に居たのであれば、彼の耳には宇麗達の会話は聞こえただろう。

無駄に敵を作るな、、、そう言っているような目だった。

「まさか言い返すなんて思わなかったわ!まぁ、スッとはしたけどねぇ」

未だ胸を押さえている雛恋は、弱々しく微笑んだ。

「もっと年上のねぇ様達がいた時には、こんなこと無かったのだけど、やっぱり私一人になった途端ね、、、あんな寄ってたかられたら怖くて反論もできないから無視していたの。」

確かに宇麗が来るまでしばらく雛恋は一人でこの境遇に置かれていたのだ。どこかふわふわとした雰囲気の彼女が一人であんな連中に対峙するなど無理な話だろう。


「ごめんなさい。怖かったよね?」

彼女の顔を覗き込んで謝る。
結果、一緒にいた雛恋まで巻き込んでしまったのだ。彼らにとっては宇麗も雛恋も一緒だろう。

きっと二人とも目を付けられたに違いない。
自分の考えなしの行動にわずかに落ち込みながらも、でも間違った事はしていない!とも思っているのだ。

そんな宇麗の手を、雛恋はぎゅうっと握る。
「まぁ確かに怖かったけど、、、でも毅然と言い返して黙らせたところは、かっこ良かったわ」

そう言っていつもの様子を取り戻したように笑った。

「これできっとしばらくは、彼女達も大人しくなると思うし、、、ああいう子たちって、自分達がいじめても反撃してくるような相手には手を出そうとしないの、基本的に弱い者いじめが後宮のやり方だから!」

「そう、なの?」

唖然として聞けば、雛恋は苦笑する。

「それに彼ら、私達庶子は得体がしれないって思ってるのよ、まぁそれは、にぃ様のおかげなんだけどね。今頃宇麗はにぃ様の再来とか思われているかもね!」

「にぃさま?」

初めて聞く人物の存在に宇麗は首を傾ける。

「そうよ!今は遠征に出かけてて宮にはいないけど、ここって実はにぃ様がお父様に下賜された宮なの。これから増えるであろう庶子が後宮で暮らさなくていいようにって。にぃ様は庶子第一号だったから」

「そうなの!?」

驚いて聞けば、雛恋はなんのこだわりもなく「そうよっ!」と笑った。

「あの人はなかなかの怪物だからね。後宮の人間にしてみたら庶子にはまだ他にあんなのがいるのかって怖いみたい」

あんな狂人そんなにいてたまるものですか!と呆れたように雛恋は息をついた。

どうやら、同じ庶子の唯一の男である兄は、相当な人らしい。

「まぁそのうち帰ってくるから、楽しみにしてて!」
と無邪気に言われて、宇麗は少しだけ、本能的に嫌な予感を覚えた。
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