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番外編ー清劉戦ー
夜明け②
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「さぁて、帰ろうか?」
一通り空と城下を見ていた翠玉が、なにかを吹っ切ったかのように、微笑んで剣を肩にかける。
その顔を見て冬隼は安堵の息を吐く。
ずっと翠玉が葛藤を抱えてここまで来たことは冬隼も理解していた。
母や兄弟の仇である皇帝と皇太后を討ち、祖国の民と兄のために、やらねばならぬという使命感と……
面識が無いとはいえ、惺にとっては祖母であり叔父であるのだ。
彼からまた肉親を奪うことになってしまう事……いくら心を非情にしていても、罪悪感に苛まれるのは仕方がないことだ。
しかし皇太后に相対して、冬隼はこの結果でいいと、思った。
あのように害しか産まない者であるならば、いっそ惺は知らない方がいい。
自分の祖母が。大好きな翠玉の家族を殺したなどと知れば、あの子は傷つき、そして翠玉のそばにすら存在してはいけないと、自身を追い詰めるだろう。
いずれは知るかもしれないが、それは当分先でいい話だ。
「あぁ」
頷いてやれば、翠玉は「んー!眠たいわぁ」と伸びをして、欠伸をひとつすると、先程の梯子の方へ歩いていく。
それについて踵を返そうと思った時、不意に城壁の下に何か光るものを見とめて、冬隼は足を止める。
冬隼の後ろについていた華南と隆蒼も冬隼の反応に気づき、同時に城壁の下……木の生い茂った茂みの中頃に視線を向けた。
ガサリガサリと、茂みが揺れて、耳をすませば、パキパキと枝を踏み締める音もする。
どうやら複数だが、禁軍が何かを探しているのだろうか?
そう首を傾けかけて、冬隼は次の瞬間、眼に入ったものに、「なるほど……」と理解をして目を背けた。
同様に後ろについていた華南と隆蒼も、視線を背けたようで3人揃って視線を合わせると……頷き合う。
見なかった事にしよう。
そうしましょう。
そうですね。
「先に降りていいー?」
何も知らない翠玉が、すでに梯子に手をかけて、こちらに呼びかけてくる。
「あぁ!待ってください!念のため私が先に!!」
弾かれたように華南が走り出し、翠玉の元まで走る背中を目で追って、冬隼は息を吐く。
「碧相の御仁……でしたよね……」
ボソリと問うてきた隆蒼に、冬隼は頷いて、遠い目をする。
茂みから出てきた者……見覚えのある細身の黒尽くめの男……。
間違いなく碧相の第三皇子の碧凰訝と、その部下達だ。
城壁の上からでも、凰訝の持つ太刀が真っ赤に染まっているのが見て取れるだけでなく……
6人の部下の内、4人が肩に担いでいる麻袋はドス黒く変色しており、染み出した赤い液体が、地面を汚していた。
あれはきっと……。
目の前に凄惨なものを並べられて、引き攣る義兄の姿が思い浮かぶ。
おそらく、董伯央は戦いのどさくさに紛れて行方知れずになり、そのまま出てこない……という筋書きを立てたのだろう。
あの袋の中身は……想像したくないが、きっと原型を留めてはいないだろう。
なにより、茂みの中から出てきた碧凰訝がひどく満足そうな、よい笑みを称えていた。
「我が国は、何も知らんし、見てもいない……そういう事にしておこう……忘れろ」
そう簡単に忘れられるものでも無いが、冬隼は首を横に振ってこの瞬間から忘れる事にした。
言われた隆蒼も「はい……」と悟ったように頷くと、無表情になって後をついてきた。
一通り空と城下を見ていた翠玉が、なにかを吹っ切ったかのように、微笑んで剣を肩にかける。
その顔を見て冬隼は安堵の息を吐く。
ずっと翠玉が葛藤を抱えてここまで来たことは冬隼も理解していた。
母や兄弟の仇である皇帝と皇太后を討ち、祖国の民と兄のために、やらねばならぬという使命感と……
面識が無いとはいえ、惺にとっては祖母であり叔父であるのだ。
彼からまた肉親を奪うことになってしまう事……いくら心を非情にしていても、罪悪感に苛まれるのは仕方がないことだ。
しかし皇太后に相対して、冬隼はこの結果でいいと、思った。
あのように害しか産まない者であるならば、いっそ惺は知らない方がいい。
自分の祖母が。大好きな翠玉の家族を殺したなどと知れば、あの子は傷つき、そして翠玉のそばにすら存在してはいけないと、自身を追い詰めるだろう。
いずれは知るかもしれないが、それは当分先でいい話だ。
「あぁ」
頷いてやれば、翠玉は「んー!眠たいわぁ」と伸びをして、欠伸をひとつすると、先程の梯子の方へ歩いていく。
それについて踵を返そうと思った時、不意に城壁の下に何か光るものを見とめて、冬隼は足を止める。
冬隼の後ろについていた華南と隆蒼も冬隼の反応に気づき、同時に城壁の下……木の生い茂った茂みの中頃に視線を向けた。
ガサリガサリと、茂みが揺れて、耳をすませば、パキパキと枝を踏み締める音もする。
どうやら複数だが、禁軍が何かを探しているのだろうか?
そう首を傾けかけて、冬隼は次の瞬間、眼に入ったものに、「なるほど……」と理解をして目を背けた。
同様に後ろについていた華南と隆蒼も、視線を背けたようで3人揃って視線を合わせると……頷き合う。
見なかった事にしよう。
そうしましょう。
そうですね。
「先に降りていいー?」
何も知らない翠玉が、すでに梯子に手をかけて、こちらに呼びかけてくる。
「あぁ!待ってください!念のため私が先に!!」
弾かれたように華南が走り出し、翠玉の元まで走る背中を目で追って、冬隼は息を吐く。
「碧相の御仁……でしたよね……」
ボソリと問うてきた隆蒼に、冬隼は頷いて、遠い目をする。
茂みから出てきた者……見覚えのある細身の黒尽くめの男……。
間違いなく碧相の第三皇子の碧凰訝と、その部下達だ。
城壁の上からでも、凰訝の持つ太刀が真っ赤に染まっているのが見て取れるだけでなく……
6人の部下の内、4人が肩に担いでいる麻袋はドス黒く変色しており、染み出した赤い液体が、地面を汚していた。
あれはきっと……。
目の前に凄惨なものを並べられて、引き攣る義兄の姿が思い浮かぶ。
おそらく、董伯央は戦いのどさくさに紛れて行方知れずになり、そのまま出てこない……という筋書きを立てたのだろう。
あの袋の中身は……想像したくないが、きっと原型を留めてはいないだろう。
なにより、茂みの中から出てきた碧凰訝がひどく満足そうな、よい笑みを称えていた。
「我が国は、何も知らんし、見てもいない……そういう事にしておこう……忘れろ」
そう簡単に忘れられるものでも無いが、冬隼は首を横に振ってこの瞬間から忘れる事にした。
言われた隆蒼も「はい……」と悟ったように頷くと、無表情になって後をついてきた。
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