Catastrophe

アタラクシア

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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)

5話「鮮血の雨」

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「そういやよ。ヤツらはどうやって俺らを感知してるんだろうな」

高校に向かって歩いていた時。藤木さんが問いかけてきた。

「普通に嗅覚じゃねぇか?ヤツらの外見からしておそらくゾンビの類だ。ゾンビは嗅覚で人間を判断している設定だぞ」
「アニメの見すぎだクソ金髪。もし嗅覚で感知できてるならもっと俺らの所にヤツらが来てもおかしくねぇ」
「なら視覚か?」
「その可能性はあるな」
「うーん、なんか引っかかるけどまぁそういう気がしますね」

前に交差点を進んだ時は警官が倒れた時の音に反応していたからおそらく聴覚もあるだろう。ヤツらについては全然わかっていない。何かしらの情報があればいいが自衛隊の人達も来てはいない。何とかして自力で生き抜けと言うことだろうか。

「それよりさ。そろそろヤツらにも名前をつけてやろうぜ。ずっとヤツらって言うのはなんか違和感があるだろ」
「それもそうだな。まぁ適当にゾンビでいいだろう」
「ほんとに適当ですね……」
「いいじゃねぇか。柏木がさっきゾンビみたいって言ってたしよ」
「クソ金髪の提案なのが気に食わないけど、まぁしっくりくるので別にいいです」

なんか横から舌打ちの音がしたが無視をした。




















中学校から出た俺らは3人で俺の通っている高校に向かって歩いていた。途中でゾンビに襲われたりもしたがなんとか切り抜けていった。そうして今はこの市と県庁所在地を繋ぐ橋の前に来ている。大鳴橋おおなきばし。ここの橋を抜ければ僕の通っている高校に着く。普段なら車通りが多く、下の川も綺麗で気持ちのいい所だが、今はそこら辺にまだ新しい廃車が転がっている。川に関しては皮肉なことに前よりも綺麗に感じた。

「何回か通ったことはあるが……やはり静かだな」
「僕は毎日通ってましたけどね」

辺りにゾンビがいないことを確認してゆっくり進む。静かだ。いつもは車の音で聞こえないが、今は波の綺麗な音が耳に入ってくる。とても美しく、儚い音。自転車で進んでいる時には気がつかなかったが風も心地が良い。優しい風が体を包んでいる。ゾンビさえいなかったらこの世界は良かったのかもしれない。
ただ気持ちよさと同時に不安も感じる。静かで心地が良すぎる。まるで嵐の前のような静けさだ。明らかにここだけ異質だ。とゆうかゾンビがいなさすぎる。あのチェーンソーゴリラの周りにもゾンビはいたのだが。今考えてみると校内にはゾンビがいなかったのに襲撃してきた時にはゾンビが大量に発生していた。もしかしたらゾンビとかとコミュニケーションしているのかもしれない。知能があるのかは分からないが。もし、ここにも意思疎通ができる化け物がいたとしたら……あまり考えたくはない。頭の中の不安を振り払って前に進む。藤木さんとクソ金髪もこの違和感に気がついたのか全く喋らずに移動している。赤、青、白、黒。様々な色の車の横を静かに通る。まだこの状況になって数日しか経っていないが、すでにこの世界は崩壊してしまっているようだ。車はまだある程度新しいが、謎の虚無感がそれを決定づけている。まだ夏なのだが空気が冷たい。

カララと何かが地面を擦る音が聞こえた。全細胞が急停止する。音のした方に神経が集中する。息が止まりそうになる。立ち止まってゆっくりと後ろを振り向く。脳が止まるな、後ろを振り返ってはいけないと何度も指令を出すが見ずにはいられなかった。音のした方向に顔が向く。何も無かった。いつも通っていた時と同じように。変わらない景色がそこにあった。

「……どうかしたのか?」

藤木さんが俺が振り返ったのを見て不安そうに聞いてくる。

「……なんでもないです。勘違いでした」
「おいやめろよ、この状況でそんなことされると洒落にならねぇんだよ」
「ビビってんのか?怖くないよ、って言ってくれるのがママ以外いなくて残念だな」
「なんだてめぇ……」
「お前らいい加減にしろ。黙って歩けねぇのか」

藤木さんにキレられて黙る。さっきの音は勘違いだったのか。勘違いだと嬉しいのだが。周りに目をやる。特に変わったところはない。しかし自然と銃を持つ手が強くなる。何か得体の知れないものに見られている感じがするのだ。前に進んでいる足がだんだんと重くなってくる。恐怖だろうか、不安だろうか。とにかくこんな場所にはいたくなかった。さっさとこの場所から離れたかった。











ガルルッ……
聞こえた。今度は確実に聞こえた。獣のような唸り声。さっきはゆっくりと音の方向に向いたが、今度は一瞬で振り向く。全細胞が速く、銃を構えろと言ってくる。俺が目にしたのは柱に左手のみの力で捕まり、涎を垂らしている化け物だった。見た瞬間分かった。前に小学校を襲撃してきた時の化け物だ。鉄の仮面を被り、長い鉄の尾を鞭のように振り回し、鋼鉄の爪をカリカリと鳴らしている。その鋼鉄の爪と尾には血がベッタリと着いており、他の所でも生存者を殺害しているのだろうと認識できた。
化け物が白い柱を蹴りあげてこちらの方に飛んでくる。視界に入って認識はできた。しかし体が追いつかない。化け物が一瞬でこちらに近づいてきた。殺される。そう思う暇すらもなく化け物は俺の横を通り過ぎた。何が起こったのか分からなかった。ズキリと右肩が傷んだ。右肩に目をやる。何か銀色の針のようなものが飛び出していた。どこかで見たことがある。それがあの化け物の尾だと気づくのには0.1秒もかからなかった。針の刺さっている右肩が強烈な力で後ろに引っ張られる。刺されたところが熱い。鉄板で焼かれているようだ。釣られている魚の気分になった。猛スピードで後ろに引き寄せられ続ける。痛みで頭がおかしくなりそうになる。突風が体全体を覆ってくる。呼吸ができない。
体感では1時間だろうか。実際には1秒ほどだろう。唐突に肩の針が抜けて放り出される。肩から出た血が辺りに飛び散る。スピードがそのままの状態で飛び出たためかとんでもない速度で空中を飛んでいた。体は地面ではなく、黒い軽自動車の側面部にめり込んだ。車がおもいきり軋む音が聞こえた。猛スピードで突っ込んだためか車に貼ってあったガラスが粉々に砕けて雨のように降ってくる。車の側面部はへこみ、元々廃車のようなものだったのが完全に廃車となってしまった。

「坊主!!」

藤木さんが叫ぶ声が聞こえる。体が痛い。特に背中。背骨が折れただろうか。体がうごいてくれない。視界もぼんやりしている。銃はどこにいったのだろうか。手の感覚がないので分からない。自分が息をしているのかさえも分からない。心臓は動いているのだろうか。瞼が重い。脳が働かない。もう何も出来な……。




























目が覚めた。体を思いきり起こす。頭はまだ痛い。手や足を動かす。体には異常が無いようだ。肩からは血が出ているがまぁ問題ない。背中のバッグは横に飛んでおり、駆け寄って中身を見た。……これも問題ないようだ。少しホッとしたが、藤木さんとクソ金髪がいない。少し周りを見てみるがいない。逃げたのか、はたまた殺されたのか。ふと手元を見てみる。銃がない。まずい。ただでさえやばい状況なのに銃がないとほぼ詰んでいる。警官の銃は落としたやつを拾った2発しかない。地面を見て回るがない。横には川。落ちたのかもしれない。それだけはまずい。地面に這いずって見渡す。あった。白のポルシェみたいな車の下に落ちていた。そのまま這いずって進む。呼吸の音が直に聞こえてくる。心臓の音が直接耳に入ってくる。もし今あの化け物が襲ってきたとしたら。……嫌な想像をしてしまった。車の前まで来た。手を伸ばす。
車の下は薄暗い。寒気がしてくる。銃に手が届く。取れた。体を引き起こして立ち上がる。人から借りている物なのだ無くすわけにはいかない。銃弾にも問題はないようだ。次は藤木さんを探さないといけない。そう思い歩き出そうとした時。

ドスッ。腹に何か違和感を感じた。口から何かが垂れてしまう。腹を見てみる。銀色の鉄のようなものが腹から出ている。後ろから涎を垂らしながら唸る、狼のような声が聞こえた。後ろに目をやる。車の上に乗った化け物がこちらを見てニヤついている。

「また腹か……クソっタレめ」

銃を握りしめる。前よりも威力の高い銃だ。今度は1人でも抜け出せる。しかし方向が悪い。前へならえの時みたいな状態になっている。この状態だと、あまり正確に狙えないうえに、撃ったときに肩への負担が大きい。足が宙に浮く。体は重力に従って重くなる。腹の所に負担がかかりとんでもなく痛い。血が口から溢れ出る。ここで前みたいに振り回されるとまずい。下は川。橋から川までかなり高い。確か5mの場所で頭から水に落ちた時の生存確率は50%と聞いたことがある。ここからは川までの高さは明らかに5mよりも高い。流石に死ぬ。頭から落ちなければ死ぬことは無いかもしれないがそれでもまずい。
体の向きが変わる。運が良いのかこの化け物が馬鹿なのか。化け物と向かい合わせになった。化け物は涎を垂らしながら歯を鳴らしている。とても汚いやつだ。赤ちゃんでもここまで涎を垂らさない。化け物が大きく口を開ける。口の中はそこまで汚くなく、普通の人間のようだった。体が口の方向に寄ってくる。寄せている部位からして頭を先に喰うようだ。なぜ抵抗しないと思ったのだろうか。知能は著しく低いようだ。銃を構える。腹は痛いが、耐えられる。銃口を化け物の口の中に入れる。銃の持ち手の底の部分を肩につける。反動を抑えるためだ。息を大きく吸う。撃ち方を教えてはもらったが実際に撃つのは初めてだ。緊張すると思ったが今はとんでもなく冷静だ。チェーンソーゴリラと戦った時のように。頭は冴えてる。

「腹が空いてんならご飯をやるよ!」

引き金を引いた。反動が大きいく、刺さっている腹がむちゃくちゃ傷んだ。しかし化け物は怯んだようで俺を少し投げ飛ばした。体が地面に叩き落とされる。呼吸をする。いつものように。いつものペースで。化け物は口から血を吐き地面のコンクリートに倒れた。これで倒れてくれたら嬉しいのだが、もちろんこの程度では死なない。化け物はゆっくりと体を起こし、こちらを向いてきた。目元が分からないため表情は読み取れないが、こちらを睨みつけているのだとなんとなく分かった。血がついている鉄の尾を振り回す。求愛行動でもしているのだろうか。笑えてくる。
持っていた銃のレバーを思いきり前に押す。撃鉄が顔の横を通り過ぎる。レバーを元の位置に戻す。これをコッキングと言うようだ。腰をあげて立ち上がる。目の前の化け物を見る。体は動く。目は見える。戦える。やることはチェーンソーゴリラの時と一緒だ。攻撃を避けて撃つ。とても簡単なことだ。化け物はゆっくりとこちらの方向に向きながら周りを歩いている。鉄の尾はさっきよりも速いスピードで振り回されている。こちらを殺す気のようだ。どうやらこちらをではなくと認識したらしい。上等だ。こちらは最初ハナからお前を殺すことだけを考えている。そう簡単には殺されない。

「糸部さんと花蓮ちゃんの仇だゴキブリ野郎。今度はてめぇの頭を食いちぎってやる!!」



引き金を強く引いた。銃弾は化け物の頭に命中し、激しい音がなる。頭を撃ったせいか、化け物の上半身が大きく後ろに傾く。しかし強靭な足腰で持ちこたえられた。しなっていた体を元に戻し、化け物が爪をこちらの方に向けて走ってきた。素早くコッキングをして、化け物の頭に銃口を向ける。息を大きく吸ってもう一度引き金を引く。また銃弾は化け物の頭に命中した。金属と金属の鳴る激しい爆音が辺りに響き渡る。化け物は大きく仰け反り、仰向けに倒れた。素早くコッキングをして、倒れている化け物の腹の所を狙い引き金を引く。化け物は少し体がビクッとするが、そのまま地面に倒れている。コッキングをして次の攻撃をしようと狙いを定める。しかし右から鉄の尾が迫ってきた。癖で右目を開けていたのが幸いして気づくことができた。体を屈めて横振りの攻撃を避ける。チェーンソーの攻撃よりも速いが避けられない速度ではない。体を起こしてもう一度銃口を向けようとした瞬間。
みぞおちの部分を何かが刺した。目の前を見てみる。あの化け物がすぐそこにいた。速すぎる。ほんの一瞬屈んだ隙にこちらに攻撃してくるとは。倒れこんでいたので油断した。左手の鋭利な爪が体のみぞおち部分に三本突き刺さっている。口から血が出る。最近は口からよく血が出ている気がする。化け物が右腕をあげた。爪先の方向を見るに顔を突き刺す気だ。爪の強度は知らないがまずいことは確かだ。しかし体を刺されていて動くことができない。咄嗟に左手で顔をガードする。左腕に3本爪が突き刺さってくる。顔を右に寄せて即死を回避しようともがく。3本の爪は俺の頬と耳を掠り、奥に進んでいった。目の前の化け物は両手が塞がれている。これを隙と言わずしてなんというか。ここまでの近距離だと跳弾して自分自身に当たる可能性がある。そのため頭ではなくみぞおちを刺している左手を銃口で狙う。片手撃ちのため自分へのダメージもあるだろうが、相手の方がダメージがでかいはずだ。ならリターンはでかい。躊躇いなく引き金を引いた。
化け物が大きく吹っ飛び3m程先に倒れた。流石に散弾銃の反動を片手で受け止めることはできず、銃は後方へ飛んでいってしまった。左手を確認する。血がぼたぼたと流れ落ちているがかろうじて問題は無い。みぞおちの爪は取れることはなくそのまま刺さっていた。刺さったままだと動きにくいのでゆっくりと引き抜く。体の内部が擦れる感じがして死ぬほど痛い。止血のためにも抜かない方が逆にいいのかもしれないが気持ち悪いのでとにかく抜きたい。長い爪がようやく抜けた。血が溢れ出ている。見た感じの爪の長さは1m位はある。血まみれの腕をそこら辺に捨てて化け物の方を見る。すでに立ち上がって戦闘態勢に入っている。銃が飛んで行った方向を見る。銃は川に落ちてはおらず、歩道の所に落ちているようだ。走れば取りに行けるだろうが流石に体がきつい。腹を2回刺され、左腕も負傷している。前回の負傷や疲労が溜まって体がすでに限界に近い。しかし倒れたら目の前の化け物に必ず殺される。死んだふりで乗り切れるかは気になるがここで倒さないと糸部さんと花蓮ちゃんみたいな被害者がでる可能性がある。それは避けなければ。今の武装は警官の銃(弾数2発)とポケットナイフ。ポケットナイフは持ってきたはいいものの使う機会があまりない。前回は通常の拳銃で攻撃しても効いている様子がなかった。4発でもひるまなかったのだ。2発でどうこうできるはずがない。単純にダメージを与えるのなら散弾銃だ。散弾銃ならばこいつを倒せる。銃との距離は約4mほど。届かない距離ではない。だがこいつの素早さを見ると、普通に走って行くのは無理そうだ。辺りを見渡して使えそうな物を探す。何か時間稼ぎになるようなもの。願うなら大ダメージを与えるもの。……忘れていた。あるじゃないか。1番近くにあって、時間稼ぎどころか場合によっては大ダメージを与えられるものが。迷っている暇はない。覚悟を決めた。

拳銃を腰から取り出し、銃口を化け物ではなく横の車に向ける。化け物はすでに飛びかかろうと体制をととのえている。狙うはガソリン部分。引火して爆発が起こればかなりのダメージを期待できる。引き金を引いた。弾は確かにガソリンの部分に入った。ガソリンスタンドで母がガソリンを入れているのを何回も見ている。ガソリンを入れる場所はだいたい同じのはずだ。しかし何も起こらない。大爆発が起こると予想していたため体を少しすくめる。だが何も起こらない。驚く暇もなく化け物が飛びかかってくる。完全に無防備だったので為す術なく馬乗りにされてしまった。化け物が舌なめずりをしている。爪をカチカチ鳴らしてこちらをどう殺そうか考えているようだ。まずい。マウントポジションを取られたら抜け出せない。ただのゾンビでさえ筋力量に差がある。それなのにこのゾンビの上位互換みたいなやつに馬乗りにされたら抜ける術がない。必死に頭を回転させて考える。体は全く動かない。手は動かせるので何かを狙うことはできる。ふと横を見ると車の下にチューブが見えた。車には詳しくないので名称などは分からないが、本能がそれを狙えと言ってくる。本能のままに標準を合わせる。片手なので震えてしまう。化け物は殺し方を決めたのか右手を振りかざしている。まずい。速くしないと殺される。心の中で落ち着けという言葉がびっしりと並べられる。化け物は振りかざした手を思いきり振り下ろしてきた。


時間がゆっくりとなる。過去の思い出が蘇ってくる。物心着いた時のこと。幼稚園で母から離れたくないと駄々をこねたこと。小学校で友達と喧嘩したこと。中学校で母と喧嘩したこと。色々なことが頭をよぎった。母に恩返しはできただろうか。そんなことを思い浮かべる。母をこの手で殺してしまった時の感覚は今でも手に残っている。今でも夢に出てくる。今でも心の中で思い出す。これが走馬灯と言うものなのだろうか。
ふと好きな女の子を思い浮かべた。最後に会ったのは母を殺す前日の夜だったか。この感じだとあの子もゾンビ化しているか死んでいるかだろう。ならこちらも死んでみるのもありかもしれない。もう疲れた。傷だらけになったのに何も得てない。ほんの数日の内に全て失った。もう何も残っていない。

……それでも。それでも。それでもあの子は生きているかもしれない。どこかでゾンビに襲われているかもしれない。どこかに匿ってすすり泣いているのかもしれない。少しでも生きている可能性がある。この世に絶対なんて存在しない。この世に100%なんて存在しない。体はまだ動く。ほんの少し。ほんの少しでもあの子が生きている可能性があるのなら。俺はそれだけでも頑張れる。頑張る価値がある。
糸部さん、花蓮ちゃん、グラミスさん。失った人たちのためでもある。糸部さんと花蓮ちゃんの命を奪ったこいつを殺すために生きたい。グラミスさんが繋いでくれた命を無駄にしないためにも生きたい。桃と一緒に生きたい。生きるのだ。



右目を見開く。すでに手の震えは止まっている。冷静に。この俺が外すことはありえない。ゆっくりと。引き金を引いた。銃弾は見事狙った場所を破壊した。その瞬間目の前が真っ赤に包まれる。だが化け物に刺されたのではない。爆発が起こった。結構な爆発だ。体が吹き飛ぶ。化け物も吹き飛ばされた。連鎖的に爆発が続く。近くにたくさん車があったのだ。当たり前といえば当たり前。かなり吹き飛ばされて何m飛んだか分からない。体がコンクリートに激突する。痛いが特に問題はない。体をすぐさま起こす。落ちている銃の方向を確認する。あの爆発で川の方に飛んでしまったと思っていたが、運良く後ろの柱でつっかえていたようだ。フラフラの体に鞭を打って銃を取りに行く。銃はすでに全発撃っているので再装填が必要。バッグの方向を見る。バッグは橋の端でかろうじて落ちていない。体を無理矢理持ち上げてバッグの方向に歩く。足取りが悪い。まっすぐ歩けない。車に手を当てて、体を支える。飛んで行った化け物の方向を見る。化け物はトラックにめり込んでぐったりとしている。尻尾は少し動いているのでおそらくまだ息がある。完全に息を止めるにはもう何発か必要だろう。歩くスピードを少しあげる。やつはここで殺す。終わらせる。
倒れ込むようにバッグを手に取る。バッグをあさり雑に、だがこぼれないように銃弾を5発手に取った。銃のレバーを前に押す。1発1発丁寧に銃弾を入れていく。化け物の方を少し見る。かなりダメージはあるようだが既にこちらに向かって歩き出している。猫背の状態で歩いており、いつでもこちらに攻撃できるよう爪をたてている。少し入れるスピードをあげかけたが藤木さんのことを思い出す。「銃弾を入れる時は焦るな。焦ると事故の原因を作ってしまう可能性がある。銃弾を入れる時は常に冷静にだ。ゆっくりでいい。きちんと入れるんだ。」ゆっくりと丁寧に入れていく。まだ化け物との距離は離れている。全ての弾を入れた。レバーを2回ほど回してきちんと入ってるか確認する。化け物は体を縮こめてこちらに飛びかかろうとしている。俺はすでに攻撃できる。ならば俺が負ける要素は存在しない。この化け物に勝てる。大きく息を吸った。まだ弾数はあるがこの5発以内で終わらせる。この化け物に弾数を使うわけにはいかない。
化け物がこちらに飛びかかってきた。脳みそが冴えているのか化け物の動きが遅く見える。銃口を化け物の顔に向ける。ゆっくりと化け物が飛んでくる。ゆっくりと。ゆっくりと。化け物が残っている片手の爪をこちらに向けている。しかしこちらの方が速い。引き金を引く。鉄の仮面に当たり、大きく仰け反る。化け物が地面に叩きつけられる。ダメージはある程度あるはずだが、すぐに立ち上がろうとする。立ち上がらせるわけがない。すぐにレバーを回して弾をはじき出し、残っている片腕を根元から吹き飛ばす。また化け物が地面に倒れふす。すぐにレバーを回して、さらに攻撃を与えようと銃口を向ける。しかし鉄の尾を振り回し始め、こちらを攻撃しようとしてくる。その攻撃全てを避けて少し距離を取る。流石に避けながら撃つというのは出来ないが、避けるだけなら容易だ。鉄の尾を近くの軽車に突き刺し、尾の力で車の向こう側に移動した。ガラス越しから化け物の息が途切れ途切れになって焦っているように見える。ここまで追い詰められたのは初めてなのだろう。だがこちらはいたって冷静。問題はない。今は車を挟んで化け物と向かい合わせになっている。化け物は攻撃から逃げたとでも思っているようだがそんなわけが無い。ガラス越しから銃口を化け物の頭に向けて引き金を引く。ガラスを破壊しながら全ての弾丸は化け物の頭に直撃した。攻撃が来ないとでも思っていたのか分からないが、突然の攻撃に体が反応せずに吹き飛ばされる。数m吹き飛び地面に倒れふす。息はまだあるようでさっきよりも遅いスピードで鉄の尾を振り回している。車を乗り越えて化け物の前に立つ。レバーを回して、銃口を化け物の尾の根元に合わせる。引き金を引いた。鉄の尾は根元ごと吹き飛び、折れている手すりから川の方に落ちていった。目の前の化け物にはもう武器がない。両腕が吹き飛び、自慢の鉄の尾もない。レバーを回す。弾丸は俺の頬を通り過ぎていった。化け物は頭と足を器用に使って立ち上がってくる。まだやる気だ。生物的な本能だろうか。化け物は目で見てわかるほどに体力を消耗している。疲れているようだ。だらしがない。
化け物が大きく口を開けてこちらに向かって走ってきた。最後の悪あがきらしい。さっきに比べて力なく走っている。小学生でも勝てそうな速度で走ってくる。
銃を構える。引き金に指を入れて、狙いを定める。左目は閉じて右目を見開く。つま先を狙う方向に平行に並べて構える。体はまっすぐ猫背にならず、そらしすぎずの構えで。弓を撃つ時の姿勢だ。化け物がさらに大きく口を開けてこちらの頭にかぶりついてこようとする。喉の奥がよく見えるほどに大きく開けている。銃口を化け物の口の中に入れた。

「口を開けすぎた。学習をしろ。このマヌケめ」

引き金を引いた。銃弾は化け物の喉の奥を吹き飛ばし、向こう側の川が見えるほど大きな空洞を開けた。化け物は微動だにせずその場に立ち尽くしている。どうやら完全に倒したようだ。

銃口を口の中から出して、化け物から少し離れる。そして地面に座り込んだ。かなり疲れた。出血も多い。攻撃を受けすぎた。後で止血しないといけない。そんなことを考えていると、何かがカチッと外れる音がした。ふと化け物の方を見る。仮面が徐々に外れていく。そして完全に外れて、地面に落ちていった。鉄とコンクリートがぶつかる、高い音が周りに響いた。

































仮面の奥から見たことがある顔が現れた。それは俺がずっと探していた、蒼木桃の顔だった。






続く
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