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1章 血塗れになったエルフ

第31話 雷の裁定者は睨みつける!

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「――」

一通り話したクエッテは少しやつれているように見えた。

「……」

カエデは黙っている。擁護はする気はない。そして責める要素は数え切れないほどある。しかしこの現状となったのは同情しかない。

「――その話が本当なら、なおさらザッシュを助けには行けない」
「な……ぅ……」
「それは家族の問題だ。外部からの干渉もあるとはいえ、それには変わらない。他がさらに介入するのも野暮ってやつだ。――俺じゃなく、クエッテであってもだ」
「……」
「確かに俺が行けばその場の問題は解決する。でも……その後は。実害があった以上、元の関係には戻れない。ケジメは自分でつける。それは人間としても、エルフとしても、変わらない大切なことだ」
「……ワかった」

涙を堪えてこくりと頷く。

「さて――こんな大層なこと言っちゃったからヘキオン助けに行くの気まずいな」
「キにしなくてもいいよ。ヘキオンはタスけてあげて」
「そりゃ危なくなったら助けるが……」

――カエデは自分の言ったことを思い出した。格上と戦えば、それだけいい経験になる。この世界の常識的なことだ。

「……まぁちょうどいい。麒麟はヘキオンの踏み台にでもなってもらうか――」





轟く雷。弾ける水滴。
植物焦がす雷。波打つ水。


不規則に並ぶ木々をすり抜けながら高圧噴射で空を飛ぶヘキオン。撃たれる雷をスラスラと避け、アクアスプラッシュで反撃する。

麒麟は器用に木々を避けながらヘキオンを追う。青白い眼光が布を縫う1本の糸のようにくねりくねりと漂い続ける。


「――だりゃぁ!!」

水を拳の形にして麒麟にぶつける。鉄線のような雷がぶつけてきた水を一瞬で蒸発させた。

「だ、ダメか……」

倒れる木を避け、水を地面に叩きつけて木の葉を撒き散らせる。麒麟はそんな目隠しなどお構いなく突っ込んできた。

バシュ。

木の葉を電熱で溶かしながらヘキオンに向かって走る。色を変えて角を消せば、競走馬のようにも見えるだろう。それほどまでに美しいフォーム、美しい走り方であった。


作られる雷の刃。作るのとほとんど同時に発射される。

ウォータースプラッシュ水放出!!」

刹那、右手からなぞるように水を放出した。撃ち落とされる雷の刃たち。


空中に投げ出された純水。水は一点に集中し、それは球体の形へと変貌する。

「からの――ウォーターボール水球!!」

指の動きと連動するように水球が動く。高速で動き回る水球が辺りの木々を薙ぎ倒し、走っていく麒麟に向かって木を倒した。

木を倒した程度で麒麟にダメージが入ることは無い。降ってくる木が麒麟の上空で弾けとんだ。弾けた木片が雨のように上から降り注いでゆく。


振り回した水球を拳の形に変化させる。

ウォーターグラップ水の拳――」

その拳はミサイルのように麒麟へと向かっていった。撃墜しようと蒼雷を放出する。

雷が水を蒸発させる。それでも近く。近くへ水の拳が接近していく。


超接近。全ての水を蒸発させようと雷が水の拳に向かって走ってくる。当たれば全て蒸発させられるだろう。

その瞬間。水の拳は一気に収縮する。形も球体へと変転し、まるでビー玉のようにテカテカと光っていた。


金網のように敷き詰められている雷をすり抜け、麒麟の右頬に到達する。

「――ウォーターボム水撃!!」

その時。その瞬間。その刹那。


収縮した水球が爆発的に膨張する。ビー玉からバランスボール、大岩の如き大きさへと。衝撃が麒麟の頬に直撃した。

体勢が崩れて近くにあった木に衝突する。

「――よっしゃ!!」

ヘキオンの声と共に地面に滑るように倒れる。弾けた雷が辺りを掘り起こしていった。



グラりと起きる麒麟。ダメージは見られない。しかしその顔には怒りが混じっていた。

ただの人間に攻撃を喰らう。自分が最強と疑わなかったプライドにヒビが入っているのは当然。

『ちょこまかちょこまかと……』

体内から溢れ出る雷。蒼く眩い光が麒麟を包み込んだ。
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