お前に『幸福』は似合わない

アタラクシア

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後章 終わらぬ雨なら止めてやる

第62話 地獄の底まで叩き落としてやる

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「「「「「――――音?」」」」」

3時間ほど前。5人の困惑の声によって作戦会議は始まった。

「そう。雨宮を倒すカギはにこそある」
「音?なんで?」

単純な疑問を投げかける。

「まず雨宮は俺たちと会話することができる。言い換えると、俺たちの声が聞こえるということだ。そして猫に反応した。つまり他の音も聞くことができる。ここまではオーケー?」
「それは分かるけど……」
「じゃあ弦之介。幽霊ってどこに出るイメージがある?」
「は?それは……暗いとことか?廃墟とか」
「うるさい場所に出るイメージはあるか?例えば――ライブハウスとか」
「……ないな」
「結局、何が言いたいんですか?」

制限時間はそう長くない。回りくどい言い方をする八重を石蕗が急かした。

「幽霊は触れない。そうでしょ貴大さん?」
「そうですね」
「じゃあ武力行使はダメだ。かと言って俺たちに除霊の技術はないし、貴大さんも1人じゃ雨宮を倒せない。もう打つ手はなしだ――違うんだなこれが。あるんだよ、俺たちが使える武器が。それこそなんだ」
「……ん?で?どういうこと?」

まだ分かっていなさそうな5人。

「お前らさ。もし耳元で爆音を鳴らされたらどうなる?」
「そりゃ『うるさい』ってな――あ」
「――気がついたか光。奴は音が聞こえる。なら超至近距離でを鳴らすことができたら?」

――ようやく気がついた。もし八重の仮説が本当ならば、雨宮にもダメージを与えることができるはずだ。

「あ、え、でも……なんだろう……疑問が沢山あるんだが、まず最初に。――どうやってやるんだ?」
「お前だよ」
「……は?」

指を指された弦之介は頭を傾げる。

「ライブハウスにおあつらえ向きなのがあるじゃねぇか。それをお前が借りてきてくれ」
「――スピーカーか」

音を増強させて流す科学の結晶。今回使おうとしているのはそれだ。ライブハウス用のどでかいヤツを何個も置けば、耳の一つや二つくらいは壊すことができる。

もし壊せなかったとしても――スピーカーが何個もあればどうなる。連続で爆音を鳴らされたなら確実にダメージを受けるだろう。受けてくれなくては困る。

「いいか?まず俺が時雨を抱えて雨宮をおびき出す。そしたらいいタイミングで俺が合図を出すから、お前は最大音量のスピーカーをぶちかましてくれ」
「でも……それお前らも喰らうんじゃ?」
「耳栓かなんかを付けとくよ。何もしないよりは絶対にダメージは減るはずだ」

八重の作戦はとても正気じゃ思いつかないものだった。誰も考えつかない。だから全員がポカンと口を開けている。

「どうだ?俺の作戦は――――」





『――――八重!!聞こえるか!?』

電話の奥から叫び声が聞こえる。――聞こえる。音は聞こえる。八重も時雨も鼓膜は無事だ。

「――――聞こえる!!雨宮はどうか知らんがな!!」
『効いてはいるんだな!?』
「効いてるよ!!面白いくらいに苦しんでるぞ!!」
『よっし!!いいか?あと3だ!場所は俺が指示する!死ぬ気で誘導しろ!!』
「任せろ!!そっちも頼んだぞ!!」
『――応!!』


深く。深く深呼吸する。体は万全。時雨もちゃんといる。完璧だ。これ以上なく完璧なシナリオだ。

「――聞こえてるか分からないが、言ってやる」

運はこちらに味方している。調子づいている。調子に乗る――それもある。真の目的は誘導――これもちょっと違う。

怒っていた。ずっと思っていたこと。ずっと考えていたこと。思いの丈。それらを全て。目の前にいる悪霊に向けて発散した。

「これから起こることは全てお前の責任だ。お前が引き起こしたごうだ。お前が引き寄せた恨みだ。お前が作り出した罪だ」

雨宮が時雨をあおった時。八重は動くことができなかった。自分が反論すべきなのに。光に反論させてしまった。それがずっと心残りだった。

「自分が上位存在にでもなったと思ったのか?――違うね。お前は単なるクズだ。お前は単なる身勝手で最低な人間……今は人間以下か」

――今度は言える。今度は言う。他でもない自分が。

「お義父さん――義久よしひささんの仇だ。海琴みことさんの仇だ。官寺かんじさんの仇だ。すみれさんの仇だ。りくさんの仇だ。萩花しゅうかさんの仇だ。村雨むらさめさんの仇だ」

雨宮はにらむ。時雨――そして八重を。強く。強くにらみつけた。

「苦しめると言ったな?地獄ですら生ぬるいと思えるほどに、そう言ったな?」

そんな雨宮に――八重は中指を立てた。

「――――やってみろ!!俺たちが地獄の底の底まで叩き落としてやる!!お前に本物の苦しみってやつを教えてやるよ!!」
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