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週末家族の結成
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毎週末,歌子と私と私の交際相手と奏が奏の家で集まり、一緒に過ごすようになった。奏は,とてもおおらかで,ノリが良くて,のんびりとした性格の持ち主だから,いつでもなんでも受け入れてくれるのだった。「今日行っていい?」と訊いて,断られた試しがほとんどない。ダンスの集まりだの,国際交流組織のイベントだの,会議だの,監査会だの,どの理由であろうと,歌子に快く自宅を会場として使わせていた。
私たちは,ダンス練習で出会い,そのままお弁当を一緒に買って,お茶や音楽をしながら夕方まで過ごしたり、みんなで近場へ出かけるついでに外食をしてから,奏のお宅に移動しお茶をしたりと,のんびりとまるで自分の家みたいに過ごさせてもらった。歌子がご飯を作ってくれることもあったし,二人がいつも練習している歌を披露してくれることもあったし,何でもアリだった。
どんな天気でも,集まった。一度警報が出るくらいの大雪が降り,奏のところから徒歩で四十分も離れたところに住む歌子が,「これでは流石に来れないなあ。」と言っていたら,大雪の中を歩き,雪女になって玄関に現れたこともあった。
奏が何でも受け入れ,みんなを笑わせたり癒やしたりするおじいさん役で,歌子がみんなの世話をするお母さん役で,私と交際相手が子供役で,この集まりのことを「週末家族」と呼んでいた。
それぞれの誕生会をやったり、互いに相談に乗ったり,言い合ったりして,本当に家族みたいだった。
歌子がパエリアを作ると言っといてサフランを入れ忘れたり,みんなで一時間ほど離れた旦那さんの実家に歌子のお家の雛人形を取りに行っては,組み立てようとして組み立て方がわからなくて,説明図をみんなで見たり,町の一大祭りをみんなで見回ってから,「飲み直そう!」と言っては,奏に導かれて,横断歩道など使わずに,奏の自宅までなんとか無事に帰り,夜中まで飲み会をやったりと、愉快なひとときを数え切れないくらいたくさん奏のお家で過ごさせてもらった。
みんなでお祭りに行った時の夜空は,月も星も出ていて,星は,もう雨のように降ってきそうなくらい近く見えた。その時,夜空を見上げていたのは,私だけだったかもしれないけれど…。
しかし,家長は奏ではなく,紛れもなく歌子だった。みんなでお酒を飲みながら世間話をしていると,歌子はすぐにいつも肌身離さずに持ち歩いているノートを出し,書いてあるリストの中から一個ずつ仕事を片付けていこうとするのだった。「仕事」と言うのは,ダンスや国際交流関連の事務作業や,私に聞きたい中国語についての質問などだった。リストを読み上げ,私たち三人に仕事が分担されていく。つまり,せっかく会話が盛り上がり,最高潮に入ろうとしているところを,いきなり仕事モードに引き戻され,働かされる訳だった。しかし,これについて,私たちは文句を言うことはなかった。一応,本人には,言ったことがない。
しかし,歌子と奏は,夫婦ではない。歌子によると,奏は彼女にとって,「彼氏のような存在」で,奏は,「男女関係はない」と言いながら,歌子て手を繋いだり背中や腰を触ったりとボディタッチを控えている様子はないし,歌子を特別可愛く思っていることが伝わるような場面は沢山あった。
歌子は,旦那さんとは,会話がなく,これ以上ならないくらいギクシャクしていたそうだ。私は,一度だけ,歌子の旦那さんと言う人に出会ったことがある。忘れることはない。
交流広場は,最初昼間に開催していたのだが,毎回同じメンバーで固定してしまい,いろんな年齢層の人は集まらないから,いつからか,週一回だけ夜間に開催することにした。夜道は一人で歩くのは危ないと言うことで,歌子がいつも迎えにきてくれたのだった。
ある時,車に乗ると,喧嘩をした覚えはないのに,歌子はものすごく暗くて,硬い表情をしていた。思わず,「大丈夫?」と聞いてしまった。歌子は,すぐに頷いたが,何も言わなかった。あまりにも暗い顔をしていたので,もう少し追求したいところだったが,空気を読んで,今は,歌子に話しかけない方がいいと判断した。気まずい沈黙に包まれて,交流広場の会場へ向かっていると,突然後部座席から声がした。
私は,飛び上がりそうになるくらい,驚き,「びっくりした!」と大きな声で言ってしまった。
すると,初めて歌子が口を開けた。「五階で飲み会をやるから,送っていくことになった。」
車の後ろの席に座っているのは,旦那さんだとは言わなかったが,すぐにそうだと状況を察した。「こんばんは。」と言ったら,「こんばんは。」と挨拶を返してくれた。
駐車場で車を停め,着いたと思いきや,歌子の旦那さんは,何も言わずに先に車を降り,ショッピングセンターに向かって歩き出していた。
歌子に言った。「暗いし,後ろに誰かが乗っているのを知らなかったから,本当にびっくりした。」
すると歌子が謝った。「ごめん,言えばよかったの。紹介しようかなと思ったけど,もういいから…。」
これが最初で最後の歌子の旦那さんと言う人との出会いだった。
私たちは,ダンス練習で出会い,そのままお弁当を一緒に買って,お茶や音楽をしながら夕方まで過ごしたり、みんなで近場へ出かけるついでに外食をしてから,奏のお宅に移動しお茶をしたりと,のんびりとまるで自分の家みたいに過ごさせてもらった。歌子がご飯を作ってくれることもあったし,二人がいつも練習している歌を披露してくれることもあったし,何でもアリだった。
どんな天気でも,集まった。一度警報が出るくらいの大雪が降り,奏のところから徒歩で四十分も離れたところに住む歌子が,「これでは流石に来れないなあ。」と言っていたら,大雪の中を歩き,雪女になって玄関に現れたこともあった。
奏が何でも受け入れ,みんなを笑わせたり癒やしたりするおじいさん役で,歌子がみんなの世話をするお母さん役で,私と交際相手が子供役で,この集まりのことを「週末家族」と呼んでいた。
それぞれの誕生会をやったり、互いに相談に乗ったり,言い合ったりして,本当に家族みたいだった。
歌子がパエリアを作ると言っといてサフランを入れ忘れたり,みんなで一時間ほど離れた旦那さんの実家に歌子のお家の雛人形を取りに行っては,組み立てようとして組み立て方がわからなくて,説明図をみんなで見たり,町の一大祭りをみんなで見回ってから,「飲み直そう!」と言っては,奏に導かれて,横断歩道など使わずに,奏の自宅までなんとか無事に帰り,夜中まで飲み会をやったりと、愉快なひとときを数え切れないくらいたくさん奏のお家で過ごさせてもらった。
みんなでお祭りに行った時の夜空は,月も星も出ていて,星は,もう雨のように降ってきそうなくらい近く見えた。その時,夜空を見上げていたのは,私だけだったかもしれないけれど…。
しかし,家長は奏ではなく,紛れもなく歌子だった。みんなでお酒を飲みながら世間話をしていると,歌子はすぐにいつも肌身離さずに持ち歩いているノートを出し,書いてあるリストの中から一個ずつ仕事を片付けていこうとするのだった。「仕事」と言うのは,ダンスや国際交流関連の事務作業や,私に聞きたい中国語についての質問などだった。リストを読み上げ,私たち三人に仕事が分担されていく。つまり,せっかく会話が盛り上がり,最高潮に入ろうとしているところを,いきなり仕事モードに引き戻され,働かされる訳だった。しかし,これについて,私たちは文句を言うことはなかった。一応,本人には,言ったことがない。
しかし,歌子と奏は,夫婦ではない。歌子によると,奏は彼女にとって,「彼氏のような存在」で,奏は,「男女関係はない」と言いながら,歌子て手を繋いだり背中や腰を触ったりとボディタッチを控えている様子はないし,歌子を特別可愛く思っていることが伝わるような場面は沢山あった。
歌子は,旦那さんとは,会話がなく,これ以上ならないくらいギクシャクしていたそうだ。私は,一度だけ,歌子の旦那さんと言う人に出会ったことがある。忘れることはない。
交流広場は,最初昼間に開催していたのだが,毎回同じメンバーで固定してしまい,いろんな年齢層の人は集まらないから,いつからか,週一回だけ夜間に開催することにした。夜道は一人で歩くのは危ないと言うことで,歌子がいつも迎えにきてくれたのだった。
ある時,車に乗ると,喧嘩をした覚えはないのに,歌子はものすごく暗くて,硬い表情をしていた。思わず,「大丈夫?」と聞いてしまった。歌子は,すぐに頷いたが,何も言わなかった。あまりにも暗い顔をしていたので,もう少し追求したいところだったが,空気を読んで,今は,歌子に話しかけない方がいいと判断した。気まずい沈黙に包まれて,交流広場の会場へ向かっていると,突然後部座席から声がした。
私は,飛び上がりそうになるくらい,驚き,「びっくりした!」と大きな声で言ってしまった。
すると,初めて歌子が口を開けた。「五階で飲み会をやるから,送っていくことになった。」
車の後ろの席に座っているのは,旦那さんだとは言わなかったが,すぐにそうだと状況を察した。「こんばんは。」と言ったら,「こんばんは。」と挨拶を返してくれた。
駐車場で車を停め,着いたと思いきや,歌子の旦那さんは,何も言わずに先に車を降り,ショッピングセンターに向かって歩き出していた。
歌子に言った。「暗いし,後ろに誰かが乗っているのを知らなかったから,本当にびっくりした。」
すると歌子が謝った。「ごめん,言えばよかったの。紹介しようかなと思ったけど,もういいから…。」
これが最初で最後の歌子の旦那さんと言う人との出会いだった。
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