星が降りそうな港町

Yonekoto8484

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突然の便り

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それから数ヶ月は,何もなかった。私は,もう連絡しないと心に決めていたし,縁を切ったつもりだった。久しぶりに歌子のことをほとんど考えずに過ごし,解放感すら感じた。

そこへ,ある日、いきなり歌子から連絡があった。歌子の名前が画面上に出るのを見ただけで,気分がムカムカして来て,吐きそうになった。

歌子に見習って,メールを開けずに削除してもよかったが,出来なかった。やっぱり,いつまでも,歌子に対する気持ちは変わらない。もう信じていなくても,関わりたくないと思っていても,好きだという気持ちは,揺るぎなく残っている。嫌いになれない。自分のこの気持ちを変えられないのは,自分でももどかしくてたまらなかった。

連絡の内容は,娘さんが無事に赤ちゃんを出産したという報告と,娘のことを心配してくれてありがとうというお礼だけだった。娘さんが懐妊したことも,この時期に出産予定だということも,まだ奏のお家に通っている時に,聞いていたので,一応知っていた。しかし,報告がもらえるとは,思っていなかった。特に,縁を切ったつもりだったから。

出産報告は,めでたいことだから,さすがに無視できずに,「おめでとう!」と返事した。

すると、またメールが来た。短いやりとりをして,私が縁を切るつもりで送ったメールを読んだかどうか確認した上で,最後に,私が言った。
「今はまだ難しいと思うけど,もし,将来的に切磋琢磨で良い関係が築けそうなら,私は歓迎するよ。」

縁を切るつもりで連絡した時も,この一言を入れるかどうか,実は,迷ったのだった。しかし,可能性を残すような言い方をすると,中途半端になり、良くないと思い,やめた。

この一言が言えて,前よりも,解放感を感じた。たとえ,これが最後の連絡になっても,この終わり方なら後味がいいと思った。私は,ずっと歌子と別れるなら,いい感じで終わりたいと願っていたから,これでその願いが叶って,満足した。

しかし,歌子のことがまだ好きだとはいえ,また付き合うつもりは毛頭なかった。もう付き合わないという判断は,半年熟慮した上でのものだったし,もう後へ引かない。もう懲りた。そう思った。
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