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渦中
しおりを挟むしばらく行くと,遠くに小さな灯りが見えて来た。近づいて,灯りの正体を確かめてみたくなったが,油断しない方がいいと自分を戒めた。
ところが,こちらから近寄ろうとしなくても,灯りがどんどん前方から近づいて来る。
とうとう,10メートルほどの距離まで,不気味な灯りが近づいて来て,ただの灯りではないことがはっきりとわかって,ハッとした。
チョウチンアンコウのような怪獣だった。しかし,チョウチンアンコウより,何倍も大きくて,巨大なものだった。
浪子は,また構えた。怪獣の方も,浪子に気付いたようで,まっしぐらにこちらへ迫って来る。
怪獣の口の中は,鋭い歯が何列も並んでいて,一本一本の歯は,怪獣が口を閉じても,隠し切れないくらいの長さだった。目は,爛々と光っていた。
浪子は,いよいよ怪獣と衝突した。怪獣がものすごくガッチリとしていて,驚いた。怪獣の体に当たるだけで,剣が折れそうになる。それでも,浪子は果敢に戦った。
怪獣を傷つけられるくらい,近づいた時のことだった。剣が怪獣のお腹を軽くかすめ,傷付けたと思いきや,怪獣は,急に膨らみ始めた。フグのように段々と膨らみ,暗がりで見えてもいなかった身体中を覆うトゲを立てた。
ただでさえ,巨大で凶暴だった怪獣が,これで2倍ぐらいの大きさに膨張してしまった。浪子は思わず,数歩退き,まごついた。
「黒海」の怪獣たちは,みんな何か秘密武器を持っているようだ。ちょうど相手が攻撃に出た時に,突然,秘密武器を出し,相手を圧倒させ,困惑させる。相手がまごまごしている隙にやっつけるという作戦なのだろうか…?
浪子には,よくわからなかったが,自分には,秘密武器のようなものは何もない。自分にあるのは,ランタンと折れそうな剣一本だけだ。
ふとした思いつきで,ランタンを持ち上げ,辺りを見回した。どんな場所にいるのか,怪獣が突然攻めて来たので,確認する暇はなかったのだ。今,見てみると,沈没船の墓場のようだ。
沈没船の中へ入れば,逃げられるかもしれない。膨らみ,棘を立てている今の怪獣の大きさなら,船の中までついて来れないに違いない。そして,この辺に,真珠が隠されているとしたら,そこしかない。
浪子は,心を決めて,怪獣に背を向け,沈没船へ向かって,一目散に,泳ぎ出した。怪獣は,やっぱり船の中へ入るには,体が大き過ぎたようで,船の外で,唸り続けた。命からがら、逃げ切れたようだった。
沈没船の中を隅々まで探したが,真珠らしいものは,見当たらなかった。先に進むしかなさそうだった。
ところが,船の外へ出た途端に,不思議な音が聞こえて来た。嵐のような音だった。浪子は,ランタンを持ち上げ,音の正体を確かめようとしたが,その動作すらも出来ずにいるうちに、渦に飲み込まれてしまった。
渦の中で,ぐるぐると,嵐の風で吹き回される船の帆のように,激しく振り回され続けた。真っ暗闇の中,ただ,ぐるぐると回り続けた。怪獣との戦いで,体力を消耗し,疲弊し切っていた浪子には,どうすることも,出来なかった。渦の激しい揺れがいつしか気持ちよく感じて来て,意識がどんどん遠くなり,眠った。
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